最強のコスプレ
全裸の男は、堂々と竜介の前に立ち、丁寧な口調で尋ねた。
「すいません。コスプレコンテストの受付会場はどちらでしょうか?」
竜介は目を疑いながらも、反射的に答える。
「えっと…まっすぐ行って、右手の看板のとこですけど…! ですけど…!」
全裸の男は礼儀正しく頭を下げた。
「お忙しい中、教えて頂きありがとうございます。それでは行ってまいります。」
そのままコンテスト会場へ歩き出そうとする。
「いや、ちょっと待って待って待って…!」
竜介は慌てて呼び止めた。頭が追いつかない。この状況は仕事の範疇を超えてるぞ。
全裸の男は振り返り、怪訝そうな顔で竜介を見た。
「…どうかなされたのでしょうか?」
竜介は率直に疑問をぶつける。
「それ、何のコスプレ!?」
全裸の男は一瞬驚いたように目を瞬かせ、答えた。
「『ヌーディスト・キラー』ですよ。ご存知ありませんか…?」
竜介の声が裏返る。
「知らないっ…!」
もう竜介は止まらない。
「それ、どんな映画なの!?」
全裸の男は少し戸惑いながらも、淡々と説明した。
「いや、だから、タイトルの通りですよ。全裸の殺人鬼が街中の人間を皆殺しにして、街を恐怖の渦に叩き込むんですよ。」
竜介の頭はまだ整理しきれていない。
「それ、どうやって殺すの!? さっきのマイケルみたいに包丁とか使わないの!?」
男は平然と続ける。
「はい、全部、素手ごろです。」
竜介の目が丸くなる。
「…素手ごろ!?」
全裸の男は握った拳を掲げ、誇らしげに見せつけた。
「はい。一作目の最初の女性はサミングで目を潰して殺害しますね。」
よく見ると、全裸の男の拳は人差し指と中指の間に親指を挟み、サミングの構えだ。
「サミングでやるのか!?」
竜介の声がさらに高くなる。
全裸の男は今度は右掌を開いて見せ、左手で小刻みに殴るジェスチャーをした。
「二人目の男性はアイアンクローで顔面を掴んで持ち上げ、左手でひたすらボディを打ち込みます。」
竜介は思わず叫ぶ。
「武闘派すぎるだろ!?」
ヌーディスト・キラー……ヤバすぎる。
全裸の男は淡々と続ける。
「三人目の女性にはひたすらカーフキックの連打ですね。カーフキックの連打でふくらはぎを完全に破壊します。」
竜介の声はもはや悲鳴に近い。
「女相手にそんなえげつないことするのか!? とんでもねぇな、ソイツ!?」
全裸の男は満面の笑みを浮かべ、楽しげに笑った。
「ハッハッハ! そのえげつなさが人気なんですよ!」




