14. リオさんの、暴走質問タイム
「でさ、君の本当の名前は?」
リオさんが、興味津々とばかりに、目をくりくりっと動かしながら聞いてくる。
「えっ、あ……高野みつきです」
「へぇ〜みつきね! 可愛い名前!」
この世界の人たちには耳慣れない響きなのか、リオさんは「みつき」「みつき」と何度もぶつぶつ。
「歳は?」
「十七歳……」
「お、シャルロットと同い年じゃん! 奇遇〜!」
(テ、テンポが早すぎる……!)
圧倒されている私をよそに、リオさんはわくわくした子どもみたいな目でさらに畳み掛けてくる。
「どこの国から来たの?」
「えっと……日本っていう国で──」
「にほん? 知らない名前だなぁ……え? この世界にない国なの?」
「……う、うん」
「マジで!? すごっ! え、魔法ないの? じゃあどうやって生活してるの?」
「えっと、電気があるから……スマホとかも」
「デ、デンキ? スマホ? なにそれ、めっちゃ面白そう!」
身を乗り出す勢いが止まらないリオさん。気づけばテーブル越しにぐいっと顔を近づけてきた。
「ちょ、ちょっと近い近い近いっ!!」
私は背中を椅子の背もたれに思いっきり押し付けて、じりじりと仰け反る。なのにリオさんの青い瞳は、さらにキラキラを増して追撃してくるもんだからたまったもんじゃない。
(ちょ! あなたの顔面破壊力、災害級だからっ! 視界いっぱいにイケメンとか、心臓壊れる!!)
ドキドキが限界を迎えそうになったとき、
「……リオ、少し黙れ」
低い声と共にレオンさんの手がすっと伸びて──猫の首根っこでも捕まえるみたいに、ガシッとリオさんを掴んで席に戻した。
「え〜、だってさ! 異世界人と話せるなんて滅多にないじゃん?」
全く悪気のない笑顔で言い返すリオさんに、私はぐったりと全身の力が抜けた。
(いやそんな「UMA発見しました!」みたいな顔されても……)
私の心情なんてお構いなしに、リオさんはまだまだ楽しそうに続ける。
「ねぇねぇ、ところでさ、公爵邸のみんなって、君が中身別人だって知ってるの?」
「……伝えてないよ」
「マジかぁ!! ナチュラルに異世界人を受け入れてる公爵邸メンバーすげぇぇぇ!!」
ゲラゲラ笑いながら、隣に座るレオンさんの肩をバシバシ叩きだす始末。
(ねえ……この人ほんとに王太子なの? レオンさん完全に引いちゃってるけど!?)
「あ、最後に一つだけいい?」
笑いすぎて目尻をぐしぐし拭いながら、リオさんが聞いてきた。
「今はみつきがレオンの婚約者でしょ? ねえねえ、レオンのことはどう思う!? 婚約者としてどう? カッコよくない?」
そこへレオンさんがボソッと口を挟んだ。
「……お前、最初からそれが聞きたかっただけだろ」
「ばれた?」
また大笑いするリオさんに、私はさらに力が抜けて、椅子から落っこちそうになった。
(……リオさんって、掴みどころないけど、悪い人じゃないんだよね、きっと)
そんな賑やかな質問タイムは、リオさんの「じゃ、俺はそろそろ戻るよ〜」という軽い一言で、あっさりと幕を閉じたのだった。
「じゃあね〜、みつき! レオンのこと、よろしくね〜!」
「おい、なんで俺がよろしくされるんだよ。逆だろ」
「細かいこと気にすんなって! じゃな」
リオさんとレオンさんの漫才のような掛け合いに、私は思わず苦笑いするしかなかった。
(……レオンさんの周りって、マジでクセ強メンバーばっかりじゃん)
*
日がすっかり高くなった頃、公爵邸の庭を歩くリオの姿があった。
足取りは軽く、さきほどまでの賑やかなやり取りを思い出したのか、ククッと小さく笑い声を漏らす。
けれどふと足を止めると、次の瞬間、その顔からはすっと笑みが消え、わずかに視線を遠くへ投げた。
庭を渡る風が木々の葉をさらりと揺らし、かすかなざわめきが静けさに溶けていく。
リオはただ静かにじっと、澄みきった青空を仰いでいた。