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それは恋なんかじゃなくて ⑫

 私は次の日も純也の家へ行った。”お見舞い”とはなんていい口実なんだろう。スナック菓子などのやらコーラやらプリン、ゼリー、そしてスイカなどをたくさんお見舞いの品を準備した。スイカなんてもう何年も食べていないけど純也と食べると思うとワクワクした。

 

 純也は玄関で私の買ったものを見ると

「何だか遠足みたいだね、1週間家に籠ってもお菓子にこまらない」

 とあきれ気味に、でも喜んでくれた。


 純也のお母さんも顔を見せた。175センチもある高身長の女性と聞いていたので、私は勝手に女子プロレスラーのような人をイメージしていたが違った。スラリとした美人で若い頃はパリコレのランウェイを歩いたと言われても信じたかもしれない。目が大きく、そこは親子のせいか純也と顔の感じがよく似ている。


 明るく優しい雰囲気で、部屋に入るなり歓迎の態度満載で私に「いらっしゃい。いろいろ気を使わせたみたいでごめんなさいね。タクシー代も立て替えてくれたみたいでありがとう」と言ってくれた。

 そしてふざけて純也の首を絞めながら

「女の子を連れてくれるなんて母さん嬉しいわ」

 と言った。純也は苦しそうにグッグと声をあげ振りほどこうとする。やることが親子でよく似ている。


 笑っている私にお母さんは「ゆっくりしてね、何なら夕飯を食べても言ってもいいのよ」と言う。

 私はなんて気さくなんだ、初対面のコに夕飯を進めるなんて、と驚く。私はもちろん

「いえ、とんでもない。純也君が疲れると思うし長くならないうち失礼します」

 と遠慮する。


そして

「あっ、でも台所お借りしていいですか? スイカを買ってきたので」

 と聞いてみる。

「もちろんいいわよ。自由に台所使ってね。私は仕事場の方にいるからなんかあったら呼んで」

 と私と純也を見た。

「うん、ありがと。ほかのみんな、仕事でこまっていることがあるかもしれないからもう行って」

 と純也。お母さんは「いつもはそんなこと言わないのに変ねー」と笑いながら部屋を出て行った。

 お母さんを早めに追い出した純也を嬉しく思う私。


純也は

「ごめんね、急に。うちの母さんちょっと変わっているから驚いたでしょ」

「ううん、ご挨拶しなきゃと思っていたけど、お仕事中に悪いしちょうどよかった。でも仲のいい親子なんだね。

「いきなり首絞めたり膝カックンする親なんてあまりいないよね。でも今はこの程度だけど小さい頃はプロレスの技かけられたりしたな」

 やっぱりモデルさんじゃなくて、女子プロタイプ? と私はおかしくなって吹き出した。


 私は抱っこされた記憶もない。

 私の両親は私が夏休みに入ってからもずっと仕事にプライベートに忙しいみたいだ。私が英語の夏期講習を迷っているうちに面倒になり、に行くのをやめても何も言わない。たぶん進路についても何も言わないだろう。自由でいいさ、と自分にいい聞かせる。


「スイカ冷やさないとね、キッチン借りようかな」

 と私は床の上にあった大きなクッションから立ち上がった。純也は今日はベッドの上で足を投げ出している。昨日よりもくだけた感じの私たち。


 キッチンのシンクを借りてスイカを冷やすことにした。大きなボールに氷を入れて水を張った中に入れるとスイカは浮いてきた。不思議な感じだ。そして私が純也の家のキッチンンにいるのがもっと不思議な気がした。彼女とかお嫁さんになったことを妄想してみる。

 めっちゃ恥ずかしい。


 私の動きと水の音だけが響く家の中は静かだ。下に降りてきた方が純也と家の中に二人きりだと実感する。ベッドに押し倒したらどうだろう(私が純也を)。

 こちらも恥ずかし過ぎる。


 純也の部屋に戻ろうとしたとき、部屋の中から純也が電話で話している声が聞こえた。

 入っていいのかな? もうちょっとキッチンにいるべきか? また階段を下りていくのもわざとらしい気がしたので部屋に入ることにする。

 何となくの忍び足。考えてみたら気配を消す必要なんてないんだよね。


 電話の相手は予想通り野口のようだ。

「うん、ぜんぜん平気。合宿に行くかどうか迷ったくらいだから」

「そうだけど、みんなに気を使わせて雰囲気下げるのも悪いと思ったし」

「それは残念だけど、2泊の旅行ならいつでも行けるって」

「そうそう、受験とか終わって落ち着いたらだよな」

「悪い、サブキャプテンの代わりさせて」

「よかった。のんびりしてるし、篠田さんも来てくれて結構楽しくやってる」

「帰ってきたらすぐ連絡くれよ」

「そうじゃなくて、夜の電話?もちろんいいよ」


 笑顔で答える純也。なんて幸せそうなんだろう。ぞの笑顔には信頼と絆も滲み出ているようで、、、、

 例えば私と電話で話すときもそんな笑顔はしないような気がする。羨ましい。それは嫉妬を超えた羨ましい気持ちだ。


 やっぱり純也も野口を好きなんだよねぇ。嫉妬というより今度は悲しくなった。私の入る隙間なんてどこにもない気がした。そうだな、みんなで花火大会に行くのもつらいかも。


 スイカなんて買って来なければよかった。


 私に気づいた純也は「じゃ、また」と言って電話を切った。そして

「そうそう花火大会なんだけど、野口から聞いているよね。由利さんも誘ってみんなで行くのはどうかなって」

 と改めて誘ってくる。私は反射的に

「ごめん、用事とぶつかりそうなんだ。無理かも」

と言っていた。そしてすぐ後悔する。純也は

「そうなんだ。野口は篠田さん、大丈夫みたいなこと言っていたんだけどな。用事なら仕方ないね、残念だけど」

 と優しく言う。そこは優しく納得するとこじゃないでしょ。もっと強引に誘ってくれたらいいのに、と思うが、行けないと言った私が悪かったのだ。


 それにしても、怪我だと聞いて病院に飛んで行ったし、タクシーで家にも送ってあげたし(タクシー代のほとんどは後で返してくれたけど)、純也の痛そうなとこ見て泣いてしまったし、スイカ持ってお見舞いにも来たのに、純也は私の気持ちをどう思っているんだろう。


 野口の「純也は誰でも拒否しない」という言葉を思い出す。もし特別な感情がないんだったら好意を拒否してくれたらわかりやすいのに思った。スターの推し活をするような、好きな人に尽くすだけで幸せ、みたいな人も世の中にいると思うけど、私はそのタイプではないと思った。そばにいると余計につらくなる。


 特に予定がない夏休み。純也と野口、由利と4人で行く花火大会はとても魅力的だ。でも行ったら行ったでつらくなりそうな気もする。でもきっぱりあきらめきれず

「用事とぶつからなかったら行けるけどね」

 と言った自分が情けない。純也は

「間近になってもいいからさ、都合がついたら行こうよ」

 と型通りのことを言うのだった。


 

 

 


 



 

 


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