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第3話 疑念

『第五百二十四紀百八十二周期。第四ブロック仮想干渉失踪事案に関する神経解析報告。担当、技術情報開発局神経構造解析班、技術補佐官代理、桐生真司』


「ちょっと、忙しいんだから後にしてくれない?」


指令伝達統制室よりVORXを通して早速、今回の失踪事件の報告書が届く。

しかし、今は確認に時間を割いている暇はない。

何故なら、立て続けに第四ブロックで同様の事件が起きているからだ。

親しい人間がいなくなった、人を殺めてしまった等、そのどれもが記憶コードの異常によるものである。

日が暮れ始めているというのに終わりが見えない。


『今、そちらで起きている事件に関係があるかもしれません。報告を続けます』


「待って。一旦作業を切り上げるから。瑠璃、車に戻るわよ!」


「あ、はい!」


TRACEを使い集合住宅の全体を調査する瑠璃に声をかけ、車内へと戻る。


「それじゃあ、早く報告してちょうだい」


『調査対象、ササキ・カズサ。本日、失踪事件調査対象に訪れた第五電脳犯罪調査課、朝霧芙蓉らと接触後、意識を失う。その後、治安省へと搬入、神経構造解析班により脳スキャン実施』


ああ、彼は無事に届いたようだ。


『MNS規格人工脳内における複数の不正アクセスログを検出。SILENTを経由した仮想空間アクセス中における異常な接続履歴を確認。不正コードの発信元は特定不能。ログは断続的に欠損。R領域に対しV領域からの逆流的コードの書き込みを確認。通常の仮想記憶生成プロセスとは乖離した構造を形成。V側の記憶が現実の記録として重複登録されていた形跡あり。人工脳の物理損傷・デグレード兆候は確認されず。技術的介入による直接的損壊は否定。倫理規定により、PNV領域への解析は未実施』


これは。


『結論。本件は外部より送信された違法神経干渉コードによって、対象の人工脳内記憶構造が一時的に攪乱されたものと判断。それにより一部の記憶コードがR領域に定着、削除され、架空の家族の失踪へと至った模様。現時点では、未知の干渉技術によるR/V領域の錯綜状態が原因とされるが、第三者の介入については調査継続とする。以上』


おかしい。

私が見たコードの羅列は決してV領域からの逆流ではない。

人工脳を頭に入れた時から既にバグの一つもなく二つの領域の記憶コードは整列するようにできていた。

そして、第三者の介入により、それを崩されていた。

どういうことかしら。

開発局は無能ではない、余程のヘマをしていなければ、あとは意図的に何かを隠しているということだ。


「センパイ、これ、読み終わったんですけど、PNVって何でしたっけ」


「……はぁ」


タブレット端末を操作する瑠璃の能天気さに思わず気が抜けてしまう。


「このくらい知っておきなさい。プライベート記憶領域、PNV(Private Neural Vault)。法制度上、国家機関すらアクセスを禁じられた人格の根幹とも言える場所ね。このおかげで皆の人権が守られていると言っても過言ではないわ」


「あ、ああ、プライベートなんちゃら。私、略称とか横文字は苦手なんですよね。で、ここは調査しなかったと」


「そう。アクセスしようと試みるだけでも重大な人権侵害となり、治安省の人間でも手を出せないの。まぁ、RNVは完全暗号化と生体共鳴キーによって守られていて、例外なく本人以外のアクセスは技術的に不可能なんだけど。もし、それが出来るなら国家を揺るがす大事になるわよ」


「はぁ、なるほど」


第三者の介入は間違いないとして、この異常事態と同一犯なのか、どう対処すべきか。

そう頭を悩ませていると、再び着信音が鳴る。


「はい、こちら第五電脳犯罪調査課、朝霧」


『──朝霧、聞こえるか』


この声は。


「玖堂局長……」


『久しぶりだな。連絡したのは他でもない。今、そこで起きている事件についてだ。一度、治安省に戻ってきてくれ。大事な話がある』


「しかし、放っておけるような状況では……」


『問題ない。他のブロックに影響が出ないように機動部隊が動いた。大事にはならんだろう。そういう訳で、すぐに戻るように』


通信が切れる。

事態の沈静化のために武力を投入するなんて、普段は反論するところだが、そう言ってはいられない状況だ。

それに、玖堂局長が自ら動き私に連絡したのだ、余程のことがあるに違いない。


「瑠璃、切り上げるわよ」


「いいんですか?」


「玖堂局長直々の命令よ」


「それって、あの……」


玖堂鷹臣、中央治安省第二監査局の局長。

発展途上で混迷を極めていた前時代に前線で電脳戦を指揮していた名捜査官であり、現在は管理職に就いている。

切れ者であり様々な組織に人脈があるため、治安省の一部の者に疎まれているほどの存在だ。


「センパイ、知り合いなんですか?」


「昔、一緒に仕事をしていたの。それより、彼が動くということは、この事態がそれだけ重大だということ。久々に忙しくなりそうね」


開発局の虚偽と思われる報告、玖堂局長の連絡。

瑠璃には軽口を叩きながらも嫌な予感が背中を這う。

一人なら問題ないが、今は守るべき後輩がいるのだ。

焦る気持ちを抑えながら私は車を走らせた。

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