腰かける女(ひと)
夕暮れが近づく雨上りの参道の階段に
一人の女性が腰かけていた
雨はやんでいるけれど
またすぐに降り出しそうな空模様の下
その女はただじっと座っている
何をしているのだろう
参詣を終えて町へと一段一段降りていく私は
少しずつ近づくにつれてかすかに不安な気持ちになっていた
つるべ落としのこんな季節にこんなところで何を
少し離れて通り過ぎた方が良いのだろうかとさえ思った
けれど あと数段というところで気が付いた
その女の手にフォトフレームがあることに
階段が続く参道の下方に広がる町に向けて
そのフレームをじっと握りしめていることに
その女と言葉を交わしたわけではない
けれどその姿と まとっている少しさびしげな空気が
私に語りかけた
とても大切な人が愛した夕暮れの景色を
そうやって見せてあげているのだと
参道の下方に広がる町はよく知っている町なのに
ここからはこんな風に美しいのだ
私は何事もない風に静かに階段を踏みしめながら通り過ぎた
行きずりのその女の孤独と優しさの滲んだ姿が
まるで映画のワンシーンのように心に残った