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第二のじいじ・その名もおじじ

すみません、遅くなりました。

 ヴァンの表情がスンッと抜け落ちているのとは対照的に、ゲイルはヴァンを見て大喜びしていた。

 この場にうちわがあったら「こっち向いて!」とか「ワシの孫!」とか両手に持って振ってそうな勢いである。


「父様、あの人なんだかヴィントに似てませんか?」


「確かに……」


「あ~……父上とお爺殿はそれはそれは仲良しでございますぞ……」


「だろうな」


 あきれ顔のロヴェルとヴァンの背後でひょっこりエレンが顔を出すと、エレンにも「姫さ~ん!」と、こちらにも声援を送ってくる。


「ヴァン君のじいじってなかなか激しい人ですね……」


 ヴィントはまだ控えめな方だったんだなぁとエレンが呟いていると、アウストルが「ケッ」と吐き捨てた。


「姫さん、こんなクソ親父はクソじじいで十分だ」


「そうですぞ。お爺殿はじじいで充分ですぞ」


「辛辣っ!」


 エレンは思わず突っ込まずにはいられなかったが、ヴァンのゲイルの呼び方が気になった。


「お爺殿……」


「姫さんもワシの事をお爺殿と呼んで良いですぞ~! ほれっほれっ」


 ゲイルに催促されて、エレンも思わず復唱してしまった。


「おじじ?」


 ロヴェルの背後からひょっこり顔だけ出したエレンからそんな風に呼ばれたゲイルは固まってエレンをガン見した。そして、はわわ…みたいな声を出してぷるぷると震えている。

 エレンからおじじと言われて感極まっていた。


「ダメだダメだ! エレンが言ったら全部可愛くなる!」


 こんな奴を喜ばせてやる必要はないとロヴェルはエレンを止める。

 一方で、ロヴェルから可愛いくなるという発言が飛び出したせいか、オリジンまで「おじじ?」と言いだした。どうやらロヴェルに可愛いと言われたいらしい。


「分かったわ! あなたおじじって言うのね!」


「止めようにも母様が真似しだしました……」


「うぐ……」


「我らの母からおじじと呼ばれる日が来ようとは! 良いぞ良いぞ~!」


 大喜びしているゲイルと、ロヴェルに何やら期待しているオリジンとで場は混沌と化している。


「あ~~もう! 話が進まん!」


 一向に進まない事態に焦れたロヴェルが叫ぶ。

 それを見てエレンも同意だったが、元々話なんて進んでいなかったとも思ってしまった。


「でも父様、ヴェントスから聞ける話はもう無いようですので、別の場所に移動した方が良くないですか?」


「……それもそうだな。次はどこに行くか……」


「移動するのか? ならばワシの所はどうだ? お前さん達が何をしにここに来たのか知らんがな!」


 ガハハ! と豪快に笑うゲイルに、アウストルとヴァンが溜息を吐く。


「さっき説明しただろうがクソ親父! 風の竜がいなくなったと聞いた途端、ここに殴り込みやがって!」


「あちらの巣に行くのは遠慮したいですぞ……」


 げんなりしているヴァンに、エレンは苦笑しながらも少し同情してしまった。


「あ、でも私はおじじに話が聞きたいです」


「エレン?」


「以前風の竜を管理をしていたのは白虎の一族なんでしょう? 暴れる前……と言いますか、管理していた頃のお話が聞きたいです」


「なるほど」


 風の竜の性格が分かれば、少しは捜索の手がかりになるかもしれない。

 何も話す気がないヴェントスが口を割るのを待つよりも、よほど効率的だろう。


(それに……)


 エレンは少し考え込んだ後、ヴァンに念話で話し始めた。


「そうと決まればワシの所に行くぞ!」


「次はおじじの所に行くのね!」


 予想外にオリジンが「おじじ」と連呼しているのに気付いたロヴェルが「気に入ったの?」と聞いていた。

 それに笑顔で返すオリジンの態度に疑問を持ったらしいロヴェルが首を捻っている。それに気付いたエレンが、ロヴェルの腕をつんつんと突いた。オリジンにバレないよう、念話でこっそりと話す。


『母様は父様から可愛いって言われたいんですよ』


『えっ?』


『さっき私がおじじって言ったら可愛くなるって父様が言ったじゃないですか』


『ああ』


『だから、母様もおじじって言ってる姿が可愛いって父様に言われたいみたいですよ』


『あー!』


 ようやくそこで気付いたらしい。ロヴェルがオリジンを向き直り、じっと見つめた。


「オーリ、気付くのが遅くなってごめんね。エレンの真似してどうしたの? 可愛いね」


「わたくし可愛いかしら?」


「うん。とっても」


「うふふ!」


 ロヴェルに可愛いと言われてご満悦になったオリジンが、ロヴェルの腕に縋り付いた。


「エレンちゃんの言い方がとっても可愛いから、一緒に言いたくなっちゃうの。じいじとおじじで誰か分かるのも良いわよね」


「ああ、なるほど」


 幼子が言っている呼び方で親も話すというのはよくある話だ。

 ロヴェル自身、昔からエレンが「とーさま」とつたない言葉で呼びかけてくれるのが嬉しくて、未だに自身の事を「とーさま」と言ってしまうことがある。

 似た心理なのだろうとすぐに理解したロヴェルは、そんなオリジンが可愛くて仕方ないと抱きしめた。


 イチャイチャしはじめた両親を放って、エレンはゲイルに聞いた。


「おじじのお家は、この島のどの辺なんですか?」


「ああ、ここから西の方角だ。案内しよう!」


「あ、その前に……いったん神殿の外へ行きましょうか」


 エレンの言葉で一同は転移して消える。それを見送ったエレンだけは、少しだけその場に残り、ヴェントスに向かってカーテシーをして消えた。



 放置されてその場に残された精霊達は呆然としたままだった。

 わいわいと賑やかだっただけに、エレン達がいなくなった今、この場を静寂が支配する。


 ヴェントスがほの暗い怒りを滲ませた目をしていたのに、後ろにいた精霊達は気付かなかった。


          *


 神殿の外に転移した面々は、ここから白虎の巣へと飛んで行くことにした。


「クソ親父! 今から女王が行くと皆に知らせてきやがれ!」


「あ~れ~!」


 ゲイルがアウストルに蹴られた衝撃で、ポーンと空中で放物線を描いた先で転移して消えた。器用な事をすると妙な感心をしてしまう。恐らく日常茶飯事なのだろう。


 ゲイルを見送った所で、エレンはヴァンに頷いて見せた。するとヴァンも頷いて了承する。


「じゃあ、アウストルお願いします!」


『おうよ!』


 アウストルが獣化した姿を見たガディエルが姿に驚いた。


「す、すごい……」


 ふわっふわの長い毛に埋もれながら、エレンとガディエルはご満悦でアウストルの背に乗る。


「う、うぐぐ……では行って参りますぞ……」


「ヴァン君、無理のない範囲でお願いしますね!」


「御意」


 アウストルの背に乗ったエレン達を見てヴァンは悔しそうな顔をしながら転移で消えた。ヴァンには別の事を念話で頼んであるので、一旦この場でお別れだ。

 ヴァンにはヴェントスの監視をお願いしたのだ。


(恐らくだけど、もう少ししたら行動するはず……)


 口が開かないなら行動させるしかない。

 学院の時に学院長を監視してもらったように、今回も少しの間、泳がせることにしたのだ。


「じゃあ次は白虎の所ですね!」


 次の新しい場所にエレンはワクワクしながら向かうのだった。


          *


 ヴァンは神殿の真上に転移した。真下には亭午の庭が広がっている。思っていたより騒いでいたようで、すでに夕刻に差し掛かり始めていた。

 亭午の庭にヴァンの影が差し込んでいないので、存在がバレる事はないだろう。


「…………」


 西の方向に目を向ければ、遠目に白虎の巣へと向かうアウストルの姿が捉えられた。ヴァンはそれを見送って、目を瞑って神経を研ぎ澄ます。


 風の音で占める情報を拾い集めながら、微かな音にも注意をすると、すんすんと誰かが鼻を啜って泣いている音がした。


(こいつは……先ほどの精霊か?)


 突如、祖父の怒りに触れて放り出された先ほどの精霊の姿を思い出し、ヴァンは眉をひそめる。

 泣いていると思わしき音は、神殿の北の位置にある庭の隅から聞こえている。


 一度、黎明の間が見える庭の死角へと移動する。遠目からまだヴェントスの動きがないのを確認してから、ヴァンは先に北の庭を確認する為に動くのだった。




トトロのメイちゃんがよぎったんだ…(満足)

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