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亭午の庭


「お話を聞かせてもらっていいかしら?」


 有無を言わせないオリジンの言葉にヴェントスは頷いた。


「それでは黎明の間へとご案内いたします」


「あ、そうだわ。転移で案内しなくていいわよ。ここが初めての子達がいるから、途中で色々教えてあげて頂戴」


 中に案内する前に転移を止めたオリジンがヴェントスにそう言うと、「畏まりました」と頭を下げた。ヴェントスを筆頭に、そのまま歩いて神殿の中へと案内された。


 神殿の玄関に備え付けられている階段の手前で、柱の装飾などに目が釘付けになるエレンをちらりと見たロヴェルが、エレンをふわりと抱き上げた。


「わっ!」


 少しばかり身長が高くなったとはいえ、まだまだ小柄なエレンを縦抱きにして片腕に座らせる。


「エレンは相変わらずだなぁ。上ばかり見ていると躓いてしまうよ?」


「父様……ありがとうございます」


 まだまだ子供扱いなせいか、ちょっとムスッとむくれてしまうエレンだったが自動で運ばれるとなれば話は別だ。

 学院に行った時も似たように運ばれていた気もするが、これで存分に見回せるとキョロキョロしながら目がキラキラと輝いている。


 そんなエレンを見てロヴェルとオリジンは笑っていた。

 縦抱きにされたエレンを見て、出遅れてしまったと呆然としていたガディエルだったが、急にキリッとした顔をして言った。


「ロヴェル殿、エレンを私に……」


「ふざけんな。節度を守れ!」


 ガルガルと唸るロヴェルにガディエルは広げていた手を下ろし、しゅんと肩を落とす。


「ロヴェルは久しぶりにエレンちゃんに構えるから嬉しいのよ。たまには譲って頂戴な」


 オリジンにそう言われてしまってはガディエルも頷くしかない。


「エレンは建物が好きなのかい?」


「うん!」


 ガディエルの質問にエレンが元気よく答える。


「一番好きなのは城なんだよな~」


「そういえば探検が大好きだと言っていたね」


「そうなんだよな~小さい頃からすーぐ行方不明になって大変だったんだ」


 ガディエルの質問にロヴェルが答えるという妙な図ができあがっているが、エレンは建物を見るのに夢中で聞こえていないようだった。


 それも続くと、次第にロヴェルとガディエルの間でバチバチと火花が散ってくる。

 エレンのことをこんなに知ってますよアピールをするロヴェルに、ガディエルが対抗心を燃やしているようだ。


「んもう、相変わらずなんだから」


 困った子達ねぇ、とオリジンが苦笑している。そんなやりとりもそっちのけで、エレンはあることに気付いた。


(風の竜が暴れたって聞いていたけど……どこも破損してないなぁ)


 空から外観を見た時に引っかかっていたが、どこも破損しているような箇所は見られなかった。

 かといって周囲の木々や地形が半壊しているような場所もない。


 風の竜は別の場所にいて、ここにはいなかったという事だろうか?


(でも地の精霊に頼めばすぐ直してもらえちゃうからあんまり関係ないのかな……?)


 ロヴェルとオリジンもケンカをしては精霊城を半壊させていた時に、その都度地の精霊達が大急ぎで修繕していた。

 最近ではエレンが時の精霊に頼んではどうかと進言すると、双女神から眷属を借りてきて修繕させていたほどだった。


(でも、この人って風の竜が逃げたことを隠してたよね?)


 エレンの中で思考がぐるぐると駆け巡る。


 外から神殿を見かけた時も思っていたが、かなり広い。大体、建物自体は五階建てくらいの建物だろうか?

 横幅だけでも二百メートルほどあるせいか通路がとても広く、そして長く感じた。

 外観はどことなくドイツにあるヴァルハラ神殿に近いように感じる。だが中は全く別物だ。

 この広さはどこかデジャブ感があって、エレンはずっと引っかかっていた。


(思い出した! 東京ドームだあああ!)


 精霊城のように、人が住まう場所と思わしい細かい部屋も等間隔に並べられていた。

 聞けば竜の一族の大部分がこの神殿に住んでいるらしい。


(神殿って岩が組まれただけのものが多いんだけど……何となく精霊城に近い気もするなぁ)


 そんな事を考えていると、暗い通路を抜けた先でロの字型の中庭が現れた。


「ふわぁ~」


 庭の中央には空からの光芒が差し込み、とても幻想的な光景を演出していた。

 島自体の高度が高いせいか、中庭を照らす日の入りがとても短いように感じる。


「こちらは『亭午の庭』と言います。この庭に日が差すことで、大体の時間を把握しているのです」


 ヴィントスが振り返り、エレン達に説明した。


(神殿自体が時計塔みたいな作りになってるんだなぁ~)


 興味津々にヴェントスの話を聞いているエレンは、ふと庭の二階部分に当たる場所の四方に変わった像が安置されていることに気付いた。振り向けば、先ほど通った通路の上にもある。


「上にある像は何ですか?」


 エレンが指を指した方向を全員が見る。それらは東西南北に配置されているようだった。


「あの像は属性を司る竜達を模して安置されており、この神殿の象徴と申しましょうか……」


 いわば、竜の神殿の象徴として飾り付けられたものらしい。


「ここの神殿もそうだけど、この庭は元々各属性の竜達の住処なの。だからあと三カ所似た神殿があってね、風の竜はとにかくその耳に音として情報が入ってきてしまうから、四方を建物で遮断して音を途切れさせて休ませていたのよ」


「あ、確かにヴァン君も……」


「建物で遮断されると音が聞こえなくなるのですぞ」


「じゃあ、やっぱりここの風の竜がいたんですか?」


「はい」


 ヴェントスの言葉で、ようやくロヴェルとガディエルも気付いたらしい。


「これは……」


「まあ、きな臭いとは思っていたがな」


「あら? どうしたの~?」


 オリジンは何か気付いたロヴェル達に聞きたがっていたが、エレンが右手の人差し指を口元に当てて「シッ」と黙らせた。


「分かったわ。シ~、なのね!?」


 オリジンは楽しそうにきゃっきゃっとはしゃいでいる。


「オリジン様……?」


 背中を向けていたヴェントスが違和感に気付いたようで振り返って聞いてきたが、オリジンは「なんでもないわよぉ~!」と楽しそうに返している。


 水鏡で見ているだけだったオリジンはそれはそれは楽しそうだ。そのことに気付いたエレンとロヴェルはお互いの顔を見合わせて笑った。


『で、エレンさん何か分かったのかい?』


『んん~……まだなんとも言えないですが、あの人が嘘をついているのは分かりますね』


『そうだな。一体何を隠しているんだか……』


『あと、もしかすると風の竜ってとんでもなく大きかったりします……?』


『言われてみれば……』


 念話でロヴェルと会話しながら一通り見回すが特に何もない。満足したので行きましょう~と促してみると、ヴェントスも頷いた。


 ヴェントスの後を付けながら、オリジンはふわふわと浮いたまま「そういえばね~」とエレンに話を振った。


「実を言うと、この神殿の事ってわたくしもあんまり知らないのよぉ~」


「エッ」


 予想外のオリジンの言葉にエレン達は目が点になった。


「だあってぇ~、報告されたのをはーいって聞いてるだけだったもの。あとは水鏡で少し覗いて、こんな風に造ったのね~って見てるだけだったの」


 大精霊達が管理している精霊界については、眷属達に任せてあまり手を出していなかったそうだ。

 それよりも人間界の方が管理が難しく、そちらに集中していたという。


「じゃあ、竜の管理も……」


「任せっきりにしていたのよ~」


「世界を二つも管理するとなると確かに手に余りますね……」


「そうでしょう~?」


 自国だけでも手一杯になるのが分かるだけにガディエルが同意する。

 そんなたわいのない会話をしながらそのまま右手に折れ、ヴェントスの案内するがままエレン達は付いていった。


          *


 ヴェントスに案内されて到着した黎明の間というのは、東に位置する壁が全面ガラス張りの部屋だった。

 外の風景が丸見えになっているが、そこは低い木が植えられており、遠目から雲海も見えるようになっていた。


「黎明の間って言うだけあって、朝焼けが綺麗に見えそうですね」


 足元は絨毯、ソファーとテーブルも常備されていてやはり精霊城の客間に作りが似ている。

 精霊界の建築物は地の大精霊が担当しているので、いつか話を聞いてみたいと思った。


 (そういえばしばらくボーデンに会ってないな~)


 この神殿を担当した者に話を聞けば、また何か分かるかも知れないが、ヴァンクライフトの領地改革を手伝って貰っていたのがすでに懐かしい。

 時折、土産を持って会いに行く程度だったが、最近はエレン自身色々あったので今は会えていない。


(久しぶりにみんなに会いたいな~)


 そんな事を考えていると、ロヴェルからソファに下ろされた。オリジンの隣にロヴェル、エレン、ガディエルの順に座り、ソファーの後ろでヴァンが待機する。

 その向かいにはヴェントスだけが座り、他の大精霊達はその背後に立った。


「それじゃあ話を聞かせて貰おうか」


 エレンにはロヴェルの言葉がまるで、試合開始を告げるゴングの音のように聞こえた。





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