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ヴァリマリアの捕獲

ごめんなさい……閲覧注意です……(唐突)

 白虎の巣へと移動した面々は、白虎の巣の中央にある切り株の上でエレンの指示通りに動く。


「ヴァン君とアウストル、連れてきてもらってもいいですか?」


「御意」


「おうよ」


 ヴァンとアウストルが転移して消えるが、すぐに戻ってくる。

 そこにはアウストルの祖父母と、剣となった友人の祖父母がいた。


『朝っぱらから騒がしいのう』


 ふぉっふぉっふぉと笑う白虎に、エレンは挨拶と共に謝罪した。


「ごめんなさい。どうしても手伝ってもらいたくて」


『何やら姫さんがやりおるとの?』


『我らでできればよいのじゃが』


「大丈夫です! そこに立って貰っているだけでいいんです!」


 エレンの言葉に、四人の白虎は首を捻る。


「ヴァン君、アウストル、準備はいいですか?」


「ああ。ちゃんと念話で合図してやンよ」


 そう、風の精霊の中でも特に白虎は耳が良いので、念話で一斉に耳を塞いで貰うように指示をお願いしたのだ。

 オリジンやロヴェル達も、一応ロヴェルが結界を張っているが念のために耳を塞ぐ。


 エレンもコルクを削って作った耳栓をし、それを見届けてから拡声器のようなものを創り出す。

 これは以前から、オリジンとロヴェルの追いかけっこが始まる時に城で逃げるようにとアナウンスする時に使っているものだった。

 エレンは空に向かって、思いっきり叫んだ。


『出てきなさーい、ヴァリマリアーー!!』


 エレンが発した声が波となり、空中に向かって放たれた。その中で不自然に波を塞ぎ、揺らいだ部分を見逃さず、ヴァンとアウストルは一瞬で空へと飛ぶ。


「そこだ!」


『ッ!?』


「逃がぬ!」


 空中で見えない何かと何やら格闘していたと思いきや、体重をかけるためか白虎姿になったヴァンとアウストルが一気に急降下してくる。

 どしん! という重量と共に土埃が舞った。


「うっ……」


 エレンは思わず身を庇って目をつぶってしまったが、ふと目を開ければ己の周囲にロヴェルの結界があることに気付いた。


「外にいる者には結界を施していて正解だったな……」


 土埃が落ち着くのを待ってヴァン達に近付くと、巨大な竜が一瞬で人型へと変わった。


「我に何をするか!」


 長く、ざんばらな緑の髪を振り乱し、エレンと同い年くらいの少女が上に乗っかっているヴァンに向かって叫んだ。


「間違いねぇ。風の竜だ」


 アウストルの言葉で、周囲の目が一気にヴァリマリアへと注がれた。


「ヴァリちゃん落ち着いて。お久しぶりね」


「は、母上……?」


 オリジンの姿に気付いたヴァリマリアが呆然としている。


「逃げちゃったって聞いて驚いたのよ。一体どうしたの?」


「ぐっ……」


 ヴァリマリアは眉間に皺を寄せ、何やら言いづらそうにしている。


「逃げないと約束してくれるならヴァンをどかせるわ」


「は、母上……」


 ヴァリマリアが返事をしようとした時だった。


「逃げろチビ共!」


 焦ったアウストルがヴァンとヴァリマリアの前に立ち塞がるが、何かに弾かれて飛ばされた。


「グッ!」


「アウストル!?」


「母上!」


 一瞬の出来事だった。エレンとヴァンが飛ばされてしまったアウストルの方向へと目をやっている内に、ロヴェルとガディエルが「エレン逃げろ!」と叫ぶ。


「ぐう……っ!」


「やめよ! ヴェントス!」


 そこには半竜化したヴェントスが怒りの表情を浮かべ、右手で軽々とヴァンの襟首を摑み上げて宙づりにしていた。

 鋭い爪をした左手はヴァリマリアの手を掴み、爪が食い込んで血を滲ませていた。ヴァリマリアはその手から逃げようと藻掻いている。


「音で聞きつけたのか!」


 ヴェントスもまた、ヴァリマリアを追っていたのだから当然と言えば当然だ。

 しかし、エレンはヴァリマリアの名をヴェントスは知らされていないと聞いていたせいで、その名を知っているとは思わなかったのだ。

 それに加えてヴェントスがいた神殿と白虎の巣までの距離はかなりある。それもあって聞こえていないと高をくくってしまっていたエレンの落ち度だった。


(迂闊だった……!)


 急いでアウストルの祖父母達の方を見ると、ロヴェルの結界に守られていた。

 大きな体を臥せ、お互いの祖父が祖母と思わしき白虎の身を守っているのが分かった。


「エレン、下がって!」


 ガディエルがエレンを守り、ロヴェルがオリジンを守る。


「ヴェントス、その手を放しなさい!」


 オリジンが命令するが、ヴェントスはその命令を無視した。


「放す? ()()は我が管理しているのですぞ」


「ヴェントス……あなた……」


「大変遺憾でございますな……我から逃げようとしてこのような臭い獣の巣に紛れ込むなど」


「ぐ……この虚けがッ! 貴様の支配など我はもううんざりじゃ!」


「…………」


 無表情にヴァリマリアを見下ろしていたヴェントスが、その足でヴァリマリアを蹴り上げた。


「がはっ……」


「きゃあああ!」


「風、上様!」


 エレンとリュトの悲鳴が木霊する。その瞬間、宙づりのヴァンが足を蹴り上げ、ヴェントスの後頭部に渾身の蹴りをお見舞いした。


 ゴスッと鈍い音がするが、あまり衝撃はなかったらしい。

 怒りを滲ませた地を這う声でヴェントスが言った。


「失敗作の分際で生意気な……!」


「グウウ……ッ!」


 ビキビキと閉まる喉にヴァンが苦悶の表情となった瞬間、一瞬で何かがヴェントスとヴァンの間に叩きつけられた。

 ドゴンッ!! と鈍い重低音が響く。アウストルが背中の剣を抜き、ヴェントスに叩きつけていたのだ。

しかしヴェントスの空いた左手が易々と剣を受け止めている。

 ギリギリと拮抗する二人から、不穏な空気がぶわりと周囲に広がっていった。


「ハッ、このなまくら覚えておるぞ。お前等白虎共の慟哭と共にな!」


「てめえええ!!」


 アウストルの怒りと連動して、剣からまたぶわりと風が舞う。

 その風を受けると、徐々にヴェントスの周囲から緑が枯れ、茶色から灰色と、どんどんと色が変わっていった。


「自らの巣すら死せる地に変えようとは……片腹痛い」


「てめえを屠るためなら、アタシのダチも浮かばれるってもんよ!」


「こざかしいわ!」


 勢いよく剣ごとアウストルを放り投げた瞬間、エレンは見逃さずにヴァンを掴むヴェントスの手に向かって、小さいながらも渾身の雷を落とした。


 バシンッ! という激しい音が周囲に響く。


「ぐうう……!」


 さすがに手が痺れたのか、ヴェントスはヴァンを取り落とした。


「ゴホッゴホッ……」


「ヴァン君大丈夫!?」


「やめなさいヴァントス! わたくしの命が聞けないの!?」


「命ですと? 我はこの竜を支配するために生まれてきた存在なのですぞ。それが命であって絶対なのだッ!!」


「なんてこと……」


 自らの存在意義と、補佐をするための根拠すらねじ曲げてしまっている。そのことに気付いたオリジンが呆然とした。

 しかし、それでも立ち上がってヴェントスの前に立つ者がいた。


「か、風上、様は我らがいいように扱って、よいものでは、ございません……!」


 リュトが必死に叫び、ヴァリマリアを庇う。

 リュトの姿を見たヴェントスが忌々しいと吐き捨てた。


「なぜお前がここにいる? やはり我を裏切ってこやつを逃がしたのはお前か……ッ!!」


「逃げよリュト!」


「逃げま、せん……!」


 リュトはぶるぶると震えながらも、なにか魔法を使っている。ふわりと優しい風が周りに立ちこめるが、その力の弱さにヴェントスが鼻で笑った。


「たいした力も持たぬ小娘が。忌々し、い……?」


 そこまで言って、ようやく気付いたらしい。

 アウストルの剣から放たれていた不穏な風が、ヴェントスの周囲にだけ蠢いていることに。


「な……」


「力は、弱くとも……!」


 死を意味する風を持つ力がふわりとヴェントスを包み込み、蝕むように浸透していく。

 自らの肌が土気色に変化し、ひび割れていくのに気付いたヴェントスがリュトを睨み付けた。


「リュトーー!」


「か、は……」


 なにが起きたのか分からなかった。

 パァンとリュトに施されていたロヴェルの結界の残骸が辺りに散る。

 一瞬の間の後、リュトの胸元から血が噴き出し、その身体が傾くのが分かった。


 一気に間合いを詰めたヴェントスがリュトの胸を爪で切り開いたのだ。


「きゃああああああ!」


 エレンの悲鳴と共に、どさりと床に落ちたリュトにヴァリマリアが縋った。


「我は逃げよと言うた! なぜ、なぜ……あの子と同じく我を庇うのだ……!!」


 ぶわりと涙をにじませ、悲痛な声で言う。


「かざ……かみ、さ、ま……」


「ああ、ああ……喋るな! 力が、力が抜けていく……!」


「レーベン、クリーレン……来て! お願い、来てーー!!」


 エレンが生命と治療を司る二人を喚ぶ。慌てて転移でやって来た二人に、エレンは泣きながらリュトを助けてと懇願した。


「一体何が……」


 困惑するレーベンを一瞥したヴェントスがまた鼻で笑った。


「このような失敗作など、治療する価値など()よ」


 ヴェントスが倒れていたリュトを蹴って脇へ飛ばす。絶望の顔をしたヴァリマリアとヴェントスの目が合ったその瞬間、ヴェントスの後ろから声がした。




「それが失敗作? 我からすれば、お前こそが失敗作だな」




 静かな、そして威厳のある声が辺りに満ちる。

 その声を聞いて思わずヴェントスが振り返るが、その頭をガシッと鷲づかみにする者がいた。


「ぐううう……!?」


 パキンパキンとヴェントスの身体を縛る光が走っていく。どういう原理か風が硬化し、棘が付いた縄のような形状に変化していく。

 雁字搦めにされたヴェントスは、光り輝く透明の茨に縛られていた。


「ウィン……」


 オリジンの声がその場に響く。




 そこには五十代くらいの、渋さが際立つ美丈夫が立っていた。



さすがにこの状態のまま年を越すのは大変申し訳ないので明日も更新します…(土下座)

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