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+++



バギーの後部に設置された機関銃を握りこむスカイブルーの鮮やかなモヒカンを持つタンクトップ男が、野卑やひに仲間を怒鳴りつける。


「おい!! この鈍呆け共!! さっさと足を止めちまわねぇか!! いつまで追いかけっこさせるつもりだ!!」


「駄目っすわぁ!! あの車、オンボロに見えて、ドアもタイヤも防弾になってんすわぁ!!」


「乗り込んでぶっ殺せばいいだろうが頭使え!!! 鈍重ウスノロが!!!」


「でも、前に出た奴皆やられちゃったしぃ……」


淘汰とうたァッ!!」


弱音を吐いた乗員に、機関銃の乱射が喰らわされる。銃弾をくらった男はぼろ雑巾のようになり、残りのバイクの台数は六台になった。

機関銃の射手、スカイブルーのモヒカンの男は、胸を叩くと唐突に叫んだ。


醍御鬼神ダイオキシンの心得ェェェェェッ!! そのいちぃっ!!」


バイクに乗った男たちがエンジン音にも負けない声量で一斉に叫び始めた。


「「奪うは強者! 弱者は淘汰! 奪わぬ者に明日は無し!」」


その後、淘汰! 淘汰! と唱和しょうわが続く。


「てめぇぇぇらは、”民草たみぐさ”か!?」


「”民草”じゃねぇッッッ!!」


ハラワタ見せてみろや……!? 格の違いカマしたらんかいッッ!!」


!?


おうッッ!!!」


男達は何かの器具を口にあてがい、器具から漏れ出る緑色の霧を一気に肺に吸い込んだ。表情が一変し、全身の筋肉が痙攣するように震える。なんか、ヤバいドラッグを吸引したようだ。バイクの乗員達の士気が高まったように見える。

バギーは息を吹き返したようにアクセルをふかし、搭載された機関銃が唸り声を上げ、再び弾丸の雨を降り注ぐ。バンとの距離を縮めながら、バンの前に出ようと起伏の激しい地形を飛び越え、鋭く旋回する。衝撃で車体が軋むたびに、乗員は揺さぶられるが、気にする様子はない。乗員の血走った目は、ただこのバンに釘付けだ。


バンを追っているのはバギーが一台、バイクが六台。バギーの上で機関銃を握っているのが司令塔役のようだ。あいつを倒せば指揮系統は失われるだろう。


俺はバンの割れた窓から身を乗り出し車の天井に設置されている荷物用のバーを掴んだ。スカイブルーモヒカンと視線が合う。奴はマヌケを見つけた、と言わんばかりに黄ばんだ歯をむき出しにすると、機関銃の照準を向ける。


機関銃が火を噴き、俺の左わき腹に銃弾が突き刺さる。いてぇ。

続いて肩、太腿、上腕。身をよじりそうになるほどの痛み。だが、『ダメージはない』と自己暗示を掛けて、痛みを無視して車の天井部分によじ登る。


「こいつ、何考えてんだ…?」


トガリが、驚愕に口を見開きながら俺を見る。「いい考えがあるんだ」と大見得を切った男が、まさか無策で、ただ外に出るだけとは思っていなかったらしい。ノイの呟きが聞こえる。「オイオイオイ、死んだわコイツ」


「馬鹿! 一発でも当たったらお陀仏だぞ!」


さっきから結構当たっているのだが。血が出ないから、傍目はためには当たってないように見えるのだろうか。


「おい、外したな!?」


バギーの運転手が後ろの機関銃の射手に文句を付ける。スカイブルーモヒカンの射手は不審げな表情で言い返す。


「いや! 当てたぞ!?」


「当たってあんなピンピンしてるわけないだろうが!」


下からもトガリの「おい、生きてるか!?」と声が聞こえる。天井を叩いて無事を知らせる。


砂埃まみれの風が俺の顔を叩く。口の中に砂が入り、歯がキシキシと音を立てる。機関銃とガソリンと硝煙の臭いだ。そして皆の汗と

生の実感。


ギャング達は俺に目線が釘付けになっている。変わらず機関銃の射手は俺に弾を喰らわせようとしており、バイクに乗っている連中も器用に片手で天井に居る俺を狙ってくる。時たま体に銃弾が当たる。痛い。バイクに乗って銃を撃つなんて大した技量だ。

連中は無防備な姿を晒しているのに、まだ五体満足なのが不思議なようだ。


注意がすべて集まった。今だ。二回強く天井を掌で叩く。トガリへの合図。


バンは強くブレーキをかけ、その勢いを急速に減らす。タイヤが悲鳴を上げ、進行方向への強いGをかけながらアスファルトに黒い跡を残した。

意表をつかれたバギーの運転手はよけきれず、バンとバギーの距離が目と鼻の先まで近くなる。


再び、急加速。Gの勢いが前方から後方に切り替わった瞬間、俺は車上からバギーへと身を躍らせる。目指すはスカイブルーのモヒカンである。


「行ったっ!」


ドッドッドッドッドッド。


機関銃の射撃音が、まるで地獄の鼓笛隊のようだった。スカイブルーモヒカンの放つ弾丸が容赦なく襲い掛かる。しかし関係ない。時間が止まったかのような感覚。弾丸が体に当たる度、体勢が崩れるが、空中で体をひねり両腕を前に伸ばす。バギーのフロントフレームに触れた瞬間、筋肉を動員して必死に手繰り寄せる。


バギーの先頭部分へうまい具合に着地できた。


「何でこの距離で外すんだよ!!!」


「いや、当てた!! 今当たってたぞ!!」


エンジンの熱気と振動が体を包む。目の前で地面が猛スピードで流れる。運転手の荒い息遣いが耳元で聞こえ、その不潔な体臭まで感じられるほどだ。ここに逃げ場はない。動きは制限され、身をかわす場所など何処にもない。この距離なら赤ん坊ですら照準を外すまい。必中の距離である。


機関銃のトリガーを握るスカイブルーモヒカンと、俺は刹那せつなの間、見つめあう。


「死ねッ!」


スカイブルーモヒカンの叫びと共に、至近距離で機関銃の乱射を顔面に喰らう。当たる度に俺の頭が『ガクガクガク』と揺れる。だが、無駄である。俺は車体のフレームを必死に掴みこむ。宇宙空間の疲労試験にも耐えきった、大気圏突入にも耐えきったこの俺の無敵さを舐めてもらっては困る。


肉を抉るような衝撃と痛みにも、歯を食いしばって耐える。フレームに固執し、決して振り落とされまい。ここで振り落とされては、彼女らに迷惑がかかる。


「嘘だろ!?」


射手の悲鳴じみた声が響く。銃弾が眼球に当たってすら「痛って」で済むこの無敵さである。信じられないのも無理はないだろう。


「うぎゃあっ!」


俺の顔面で弾かれた跳弾が、運転手の腹に当たった。運転手の腹から血が噴水のように吹き出る。


「畜生、撃つなッっ!! 俺に当たるッっ!!」


まぁ今の状況は遊んでいる余裕もない。銃撃の嵐の中、フレームを伝いスカイブルーのモヒカン目掛けて、一足ずつ這い寄る。


「何だこいつはぁっ!?」


「撃つなっつってんだろォっ、いてぇくそッ くそッ!!!」


運転手は傷口をかばいながらもナイフを抜き、俺の太腿や腹を執拗に刺した。しかしどれだけ刺しても、何度刺しても血の一滴も出ない。


「ちゃんと当てろぉぉぉぉぉおお!!!」


「当たってんだよぉおおお!!」


漫画か何かで読んだのだが。

高速で移動する車から手榴弾を投げると、車の速度や風の影響を受けて、球形ではない手榴弾は不規則に挙動するため、思わぬ方向に飛んでいく危険性が有るのだそうだ。先のギャングやトガリの投げる手榴弾が予期せぬ場所で爆発したり、自爆したりするのはそういったことも要因になるのだろう。

それを踏まえて俺は思った。予測不能で制御できないなら、転がらない位置でピンを抜けば全部解決ではないかと。


つまり、0距離爆破である。


顔面に銃撃を受けながら、ナイフで服を裂かれながら、ポケットから手榴弾を取り出す。


「あ”あ”あ”あ”あ”あ”!!!!」


「う”お”お”お”お”お”お”おおおおおおお」


銃撃と絶叫の中にありながら、手榴弾のピンを抜く甲高い音は不思議とよく聞こえた。


よし。


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