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『死にたいの?』とは、つまり『車に乗ったらトラブルに巻き込まれるよ』と忠告してくれた訳だ。始めは脅されたのだと思った。
色々と訳アリなのだろうか。だが、多少のトラブルは構いはしない。無理を言い、車に乗せてもらうことができた。
どれくらいぶりの人との邂逅だろうか。
荒れ果てた道路を車が猛スピードで疾走する。瓦礫や古タイヤが散乱する路面に、車体が激しく揺さぶられる。
「いて」
予期せぬ揺れに思わず舌を噛んだ。後部座席に設置されたロールバーにしがみつく。トガリは運転席でハンドルを握りしめ、黒髪の女性――名前はノイというらしい――は助手席から後方を警戒している。
「おい! アンタ銃は使えるか!」
運転席からどなり声が響く。……銃なんか使ったこともない。そう伝えると、トガリから拳銃を投げ渡された。それを見たノイが抗議の声を上げた。
「おいおい、勘弁してよ。素性のわからない素人に銃を渡さないでよ。子供のおもちゃに手榴弾渡すようなものだよ」
「弾は入ってねえ。賑やかしになるだろ!」
賑やかし……? 弾が入っていなくても銃を構えていれば、敵からは威圧になるということか。慣れていない銃を手に取り、その構造をまじまじと観察した。
重量感のある金属製の本体。黒く塗装された表面は所々擦れ、使い込まれた跡が見える。摩耗した銀色のトリガー。スライドには刻印と微細な溝。マガジンは取り外されている。銃口から中を覗き込むと、内部に何か等間隔の溝のようなものが見える。……これがライフリングというやつだろうか? 玩具や、模造品などではない。人を殺すための道具。エアガンくらいしか握ったことがないが……これ本物の銃か。
「うわぁ、この素人さん銃口覗いてるよ……見てほら」
「うるっせぇな」
助手席からノイが、引き気味に呟いていた。そうか。銃口を覗くのは非常識なのか。
「当てにしてないから、邪魔はしないでよね」
窓の外に目をやれば、直角から30°ほど傾いた巨大なタワーが天を突いていた。一見すれば今にも倒れそうで、不安感を煽る。空は見えず、虚ろな気配が漂う。この奇妙な光景を眺め、ノイが楽観的に声を上げた。
「……”2時タワー”まで来たのか。もう連中の縄張りから出れるんじゃないか? 意外と追いつかれずに済むかもね」
トガリは不機嫌そうにサイドミラーを睨んだ。
「Jinxをしらねーのか? そういう事言うと、大体悪いことが起きるんだ」
「ボクは迷信に興味ないんだよね」
フラグってやつか?
その言葉とともに、俺たちが乗るバン以外のエンジンの音が響き渡る。先程までなんの姿も写っていなかったサイドミラーには、轟音を響かせながら迫り来る追手の姿があった。改造バイクとバギーの群れだ。
「ほら見ろ!」
ノイは肩をすくめてみせた。