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ダンプヘイヴン。なんとも奇妙な名前の町だ。
夜だというのに、この町は活気に満ちていた。戦争の災禍か、所々に破壊の跡を背負いながらも、生命力が満ち溢れている。ストリートには商人たちが並べた露店が所狭しと並び、人々で賑わっていた。ガラクタやスクラップから作られた即席のテントが頭上を覆い、そこに吊るされた様々な物品が電灯に照らされている。
「新鮮な肉だよ!」「ここらじゃ手に入らないガソリンだ!」と商人たちの声が飛び交い、人々は雑多な品々に手を伸ばしている。油まみれの機械部品、手垢のついた武器、そして変色した保存食……、それらは行き交う誰かの手によって次々と取引されていく。
通りの反対の方を見れば、夜の帳が降りても工場の煙突からは黒煙が絶えず、赤々と燃える炉の光が辺りを照らし出している。町の路地では、怪しげな連中が暗い眼差しで表通りの活気を眺めている。まるで彼らは掏摸か強盗で、今日の獲物を探しているかのようだ。町全体には不穏でありながらもエネルギーに満ちた独特の空気が満ち溢れている。
「おう」
不意にトガリの声が背後から聞こえた。振り返ると、彼女が病院のドアをくぐり、俺に向かって歩いてくるのが見えた。
「50:50だとよ。あの藪、タンコブくらいでそう簡単にくたばるかってんだ」
俺は思わず顔をしかめた。50:50って、半々ってことだろ? まるで安心できる数字じゃない。
「はん」とトガリが笑い声を上げる。
「あの藪医者どもは、いつも大げさに言うのさ。ただのタンコブでノイの儲けがごっそり減っちまった。お前も気をつけろよ、ここの医者は患者より財布の中身をよく見てる」
そういうものなのか……? タンコブにしては大きかったと思ったが。
「何はともあれ、お疲れさんだな」トガリがそう言うと、急に明るい調子で俺に手を招いた。
「来いよ。オレも町は久しぶりなんだ。キンキンに冷えたビールを飲みに行こうぜ」
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「意識不明のオルガン使いに! ギャング連中の墓場行きに! 乾杯!」
不謹慎だな。
右手に持った瓶を打ち鳴らすと、俺は冷えた琥珀色の液体を、一気に喉へと流し込んだ。
冷たい液体が喉を通るたび、炭酸が弾けるように広がっていく。ゴクゴクと音を立てて飲み干すと、喉が喜びの声をあげているようだった。
トガリは「ッ、かぁー!」と、中年男性のように息をつくと、「オヤジ! もう一本!」と次のビールを要求した。
「おい、お前も飲めよ。今日はガンガン飲んでいいぞ。オレのおごりだ」
「ありがとう」
トガリが俺の宿を借りた。シャワーを浴びて服を着た後、俺は宿の酒場に連れ出された。
酒場は活気に満ちていた。数人の客が集まって、騒がしい笑い声を上げている。
カウンターに座る連中は、誰かの武勇伝やゾンビ退治の話で盛り上がり、時折テーブルをドンと叩いてグラスを掲げる音が響く。古びたジュークボックスからは、小洒落たジャズが流れている。客たちがそれに合わせて足をリズムよく鳴らしていた。酒の匂いとタバコの煙が混ざり合い、店内の熱気とともにどんどん濃くなっていく。
気になるのは、この店にいる客は全員、銃やナイフを腰やジャケットに身に着けているということだ。そして、皆同じように首から二片の金属片をぶら下げている。……あれは元の世界で言うところの、認識票(IDタグ)だ。
「ッ、カァーーッ!」
トガリが2本目の瓶を空にする。
「いい飲みっぷりだな」
「坊さんでもないのに1カ月禁酒してたんだ。1カ月分の酒が俺を待ってるんだ。飲まなきゃバチが当たるだろ?」
「一か月も我慢したんなら、そのまま坊さんになればいいのに」
「冗談だろ。車を直したらまたすぐ輸送の仕事が入ってるんだ。またしばらく酒とはおさらばの生活だ。干からびちまうぜ。……そういうお前は全然飲んでねぇじゃねぇか。今は飲めないノイの分まで飲んでやれよ。下戸じゃねえだろ?」
俺の飲み物があまり飲まれていないのを見て彼女は言った。
冷たい飲料が喉を通るのは非常に美味だが、どうもこの体にはアルコールが効かないみたいだ。酔わない体で医薬品としても使えるアルコールを消費するのもなんだか勿体ない気がする。
「ちびちび飲むのが一番美味いんでね」
そう言うと俺はまた瓶を傾けた。