8話「超越者」
ーーー少年は1人走っていた。校舎の中、職員室へ向かう。階段を上る足は焦りの為か引っかかり、転倒しそうになるも止まる訳にはいかない。走って、二階にある職員室へ。
「……っ!父さん!出たんだ!あいつの権限が!」
勢いよく扉を開けると力いっぱいこめた声で頼れる父へと言葉を送る。
ーー春は今、焦りを隠せない。走ったからか、汗は止まらない。息も切れそうだ。
黒いスーツに40代ほどの顔つき、しかし少し優しい目つきをする父、または息子の担任である正野正人はこの現状を重く受け止めていた。
周りにいる先生たちは戸惑う。声がざわつく中、正人だけは他の人と違い焦りへの変換が早かった。汗ばむ、1適1滴の重みが重みが増す。
立ち上がり、息子の春の元へ向かう。息子の顔、それはこの世の化け物でも見たかのような顔つきであった。
息子の肩を掴む。
「……それは、本当なのか。昼間のこの時間、あまりにも早すぎる。なにが……あったんだ」
「父さん、本当なんだ。あいつはやばい。にげよう!父さんが昔言った意味がわかったよ!早くあっちに...…」
顔と体、そして指を指すその先。階段を登り、職員室へ体を向けた少年がいる。その手元にはーーーーー
ーーーーー動かない曲尾の手足のない体と頭を手に持っていた。
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名を名乗った彼を見る4人ーーーー春、曲尾、久住、くずなは、驚愕を隠しきれていない。
「さて、誰から僕のお楽しみになってくれるんだい?」
白服の少年ーーーアルことエルデ・アナストラルは目の前の4人を獲物を見つけた目で見つめている。
広げた手を元に戻し、再び笑みを作る。
「春、これって言ってた……」
「……ああ、おそらく、権限だ……」
混乱する陽キャグループ一同は焦りを隠せない。
「じゃあ僕が行くよ?誰にしようかな……」
悩むように顎に手を当て、考える仕草。余裕の態度だ。
「……!春!行って!私がなんとか止めれるだけでも、3秒でも作るから早く!お父さんに伝えな!」
久住は前に出て手を広げる。勇気をふりしぼり、自らの希望を春に託す。
「でもお前!命が!」
「行ってって言ってるでしょ!最後の願いくらい聞いてよ!」
涙目の久住は顔だけをこちらに向け、全力で春を助けようとする。春はゆっくりと足を後ろに動かし、それに伴って曲尾、くずみも後ろに走っていく。
「……すまん、」
春は走っていく。後ろを振り向かない。足を止める訳にはいかない。彼女の思いを無駄にしないために。
「おぉ、実に感動的な話だね。僕も少しばかり殺すのに手が鈍るよ。君の勇気は見事だ」
考える仕草から目を丸くして驚くように手を元に戻し、再び笑み。
「……あんたには、ゴミが1番似合うのよ!」
「……それは残念だ」
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残りのふたりはどこへ行ったのかはわからない。ただ、運動神経が低いのは確かであった。くずみは消え、曲尾はーーーーーーー
「僕一人置いていくなんて酷いと思わない?悲しいよ僕は……っっっ?」
アルが持つ手の中で息を引き取っている。逃げ遅れ、目の前の少年の餌食になってしまったのだろう。足の震えが加速する。
しかし、春の父親はそんなことはない。
父親は一瞬でアルの前へ。そして殴りかかろうと拳を当てる。しかし、その拳というのは、
見えない壁により、防がれる。光のような速さで殴りかかろうとも、これでは攻撃が通るすべが無い。
「怖いねぇ。僕の力を知らずにこんなことしてくるなんて、無礼者にも程がないかい?」
そしてその目は一瞬で鋭くなり、手に持つ死体を捨て、回し蹴りで正人を蹴り飛ばした。ただの回し蹴りではなく、飛び上がり蹴る、飛び回し蹴りである。斜め上の敵だろうと足を斜めにあげて蹴る。人間にできる業ではない。
綺麗な着地、そして狂人の笑み。蹴り飛ばされた体は宙を舞い、壁に激突する。
「僕の壁は人間では越えられないよ。特質者じゃなきゃね。特に君みたいなギアを上げただけの人間では到底不可能なのだ。だから、君のようなやつははやくーーーーー」
自分にも分からなかった。目の前で起きている世界が、まるで別世界に来たかのような感覚だった。
炎を纏う人間が春の後ろの壁を破り、少年にぶつかる。少年の体はは壁を砕き、校庭へと投げ出された。
教室にいた生徒も皆、怯えていた。
「君たち……はやく……逃げるんだ……」
正人は先生としての役目を最後に果たそうとする。苦しい声は現状の重大さを伝える。
「やつには……だれも……勝てない……」
「……っ!父さん!死んじゃダメだ!いやだ!父さん!」
父親の元へ駆け寄る春。倒れる手を取り、必死に呼びかける。生徒は避難を開始し、外へ出る者も現れ始めていた。
「春...君に苦を与え続けて……すまなかったな……したくもない……いじめなど……ほんとに……すまなかった……」
「父さん!いいんだ!生きてよ……お願いだから……生きてよ!」
手にあった力は抜けてしまう。泣き叫ぶ春は倒れる父親を抱きしめる。すると、春ははっと気づいた。
心臓の鼓動が少し聞こえる。生きているのだ。手に残る父を再度力を込め抱きしめる。
しかし少年が起こす残酷な運命はとどまることは無かった。
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「……っ。痛いんだけどさ、それ以上にムカつくんだけど。」
立ち上がるアルは目の前の男達を見て沸点に到達する。
「悪党め!このファイブテクノロジーズが貴様の体を踏みにじってみせる!」
3人の黒服の男たち。それぞれ赤、青、黄の仮面をつけている。
最初に言葉を発したのは赤の仮面をつけた真ん中の男。右に青、左に黄と並んでいる。
「世界の悪は私たちが止める!この学校を守ってみせる!それが私たちの務めだ!」
青色の仮面の男が指を指しながら言う。それを聞いたアルは心にある記憶が蘇る。
(そのような細かいことは私たちの問題ではない!とっとと帰りなさい!)
「……っ!僕のことは守らなかったくせに!一人の人間すら守らなかったくせに!学校を守るなど口走るなぁぁぁぁ!!!」
衝撃波は3人を吹き飛ばす。そして逃げる生徒にも少しばかり被害が。生徒達は吹き飛んで行った。血を流す者も、骨が折れる者もいた。
しかし黒服3人はすぐさま体勢を立て直し、戦闘態勢へ。
まずは赤。
「吹き飛ばしてやる!ファイアストームビーム!」
謎のポーズから、真ん中に魔法陣を形成。そして、そこから出る炎の光線がアルに直撃する。
「僕に触れるな!罪深き人間がぁぁ!」
無の壁は越えられない。光線など問答無用で突撃して行き、赤の仮面の男の腹を殴る。
だがその横は、
「サンダァァバーストドライブ!」
黄色の仮面の男はイナズマを腕に生成。纏わせ、光の速度でアルを殴ろうとする。
アルはこれを後ろへステップで回避、しかしそこには青い仮面の男。回転蹴りが待ち構える。
「ブルー……ドライブ……!」
蹴りはアルの顔を直撃し、吹き飛ばす。校庭の中心から少し端へ吹き飛んで行った。
「見たか悪党!これが3人のパワー!フォーメーションテクノロジーズだ!」
3人は再び並び、構える。真ん中の赤い仮面の男のみ、指を指している。
砂ぼこりが舞う中、影は再び立ち上がる。
「……僕を舐めるなよ。罪を償え罪人が」
アルは瞬速で赤い仮面の男の顔を手で地面に押し倒した。
黄と青は少し後ろへ行き、技の構えから即座にイナズマと波のような体捌きを見せる。
しかし、それすらも凌駕してしまう。
イナズマの殴りは大きくかわし、足で吹き飛ばす。そして立ち上がり吹き飛ばした体に向け手を前に出し、
「無の権限、ジェネレートボロウアップ」
そして黄の体は宙を舞い、空へ吹き飛ぶ。落ちて落ちて落ちていく。地面に強く叩きつけられた黄の体は原型を留めていない。
「っ!よくも2人をぉぉ!」
蹴りつけようとするが、それ自体は意味をなさない。
「無の権限、空白の壁」
またもや見えない壁によって防がれてしまう。そしてその隙は絶大なもので、
「僕を舐めたことを後悔させてやる……
無の権限!ワールドオブゼータ!」
右腕から一瞬、絶大な青い光が青に向けて飛び出す。
青の体は突然大きく吹き飛び、校舎の2階ほどの壁に激突。即死である。
「……さて、最後は君だが……もういいよね」
赤の仮面から見える目...それは白目を向いていた。意識は消えている。体は段々と灰になっていき、消える。
「ふふっふはははははははははははははは!!」
大きく手を広げ、空を見上げて笑い出す。
学校には泣き叫ぶ声や、絶望から動かない体の者、傷を負った友を救おうとする者、校舎から落ちてくるレンガに、壁の破片に、頭を抱え逃げる者。
絶望。それは彼が作り出してしまった悲しき現実。笑みを浮かべていたはずの声は次第に薄れていく。そして下を向き、影を増やすその顔にはーーー
ーーーー涙が、少しばかり出ていた。
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グロくてごめんね許してください。