7話「ニチジョウ」
「……ぁ」
目覚めた男は「:×〆・÷|→$°\×」。ごくごく普通の高校1年生だった男だ。
朝日で目覚めた彼は上半身を起こすと部屋であった場所を見渡す。
ボコボコの家具、ひび割れた地面と壁、電球など壊れ落ちていた。拳は壊れ、血が固まり、動かない。
「……はぁ」
ため息。それと同時に固まった血が跡形もなく消えていく。拳は再生され、傷口は塞がっていく。
動作確認の開閉を両手でする。そして確認後に立ち上がった。
………………ケラケラ
洗面台に向かった。顔も血まみれではないか。涙のせいか腫れ上がった目と、頭から首にかけて血が爛れている。髪型ももはや原型を留めていない。
「…………はぁ」
傷口は塞がる。血は引いていく。赤く染っていた髪すら元に戻っていき、白髪は目立つ。
黒服に垂れる血も、どんどん引いていく。
黒い目は元通りに戻った男を映し出している。しかし、もうかつての男の姿はどこにも映らない。影は増え続け、彼の心を蝕む。そして全てを飲み込み、思うように動かしていく。
………………ケラケラ
黒服など合わない。過去など消え去れ。
そんな考えの彼に1つプレゼントが置いてある。白色、金、全てを覆う。完璧ではないか。
彼は着ていた服を脱ぎ、新たに彼女が作った服を着ていく。
血が少しついている。
しかし、その血ですら気づかれないまま消え去っていくのだった。
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学校に向かう。家を出ると、無くなったはずのゴミが積まれていた。そんなことを気にしてはすぐに忘れ、また歩き出す。
制服を着た人々が周りを歩く中、白髪で瞳は暗い男は一際目立っている。
「…………ぁ?」
通学路の途中、同じく学校へ向かう2人組の女性にぶつかってしまった。前向かずに下向きで歩いているデメリットがここで出てしまった。
「あんた、陰キャのくせしてなに派手にぶつかってきてるわけ?って、この前ぶつかったあんたじゃん!」
「陰キャのくせに、しかももう一度当たるなんて。もしかしてバカッ?」
この前とは違い、小馬鹿にするような目線や態度。こんな場はさっさと引いておくのがーーーーーー
「ーーー僕を侮るなよゴミが」
その瞳は暗く、闇を見る目。変わり果てた彼には逃げるなんてありえないのだ。
2人を睨みつけ、同時に恐怖を与える。
「え、こわいこわい笑、行こ行こもう!」
片方がもう1人の手を握り、走り始める。
2人は立ち去ってしまった。去っていく彼女らの背中を見てーーーーー
ーーーーーー2人の首は同時に跳ね飛んだ。血しぶきが上がり、首から上が無くなった体は行方を眩ませ、その場に倒れてしまう。そしてその死体すら、灰になっていくのだった。
周りには偶然にも誰もいない。
そう。偶然にもなのだ。
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ーーーーゴミ虫。消えろよ。
消えたはずの机に書いてある文字は元に戻るどころか悪化していた。クラスにとって彼の存在は遊び道具でしかない。自分の机の前で文字一つ一つを確認する。
周りは笑う。絶望の目を。そしてどん底に落として彼自身の存在を奪おうとする。
ーーー死んでしまえ、消えろ、うざい、気持ち悪い、来るな、裸のまま突っ立ってろ、あたおかが、生きてる価値ないよ、臭いよ、邪魔ーーー
少年はニヤリと笑みを出すとそのまま席に座る。机の中はゴミだらけ。彼の心を崩壊させる凶器。担任すら何も言わない。
周りの声も届く、
「あいつ変な服着てるぜおい」
「ださ、似合ってないしルール守れよ」
「また晒そうぜ、クスクス」
「なにあの髪、イメチェンにもなってないんだけど笑」
「笑い方きっしょ」
そんな声が周りから聞こえる。届いてしまう。彼は人間なのだから。
「おーい席つけーって、神無月、なんだその服と髪」
近づいてくる担任。そして座る彼の胸ぐらを掴んで引き上げる。
「なんだと言っているんだ!お前のようなやつがさらに罪を重ねてどうする!」
クラスメイトは何も言わない。そして担任は力を込めて離すとそのまま何も無いようにHRを進めていく。
かつての彼ならどうであっただろう。だが今の彼は笑みを再び浮かばせていた。
そして机の中のゴミがひとつ残らず消えていることも、誰も知らないのだった。
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授業が終われば、昼休み。机の中のゴミに1つ手紙が入っていた。
(いつもの場所に。金を用意してくるんだな)
あの春からだ。いつものように向かう。向かわなくても見つかりさらに怒られてしまうのだから。
例の5人が揃っている。春、太瀬、曲尾、久住、くづなの5人。当然睨みつけられる。
「イメチェン?似合ってないよほんとにっ」
久住とくづなの2人が服装を侮辱する。
「白い髪とか老人かよ!というかその服ださ、作った人ボケてんじゃないの?」
「ほんとにそれな〜!下に履いてるやつとかもダサ。全部がダサいよ君〜!」
作った人…………
そんな思いがありながらも時間は止まらない。
「あの金髪が死んだらしいじゃないっスカ、ざまぁだなほんとニ!守る人がいまちぇんネ〜!」
曲尾が煽る。記憶を辿らせる。
「ほんとに、ATMの方が生き残ってくれてよかったよ。正直あいつ邪魔だったし。気持ち悪かったし、死んでくれて清々したよ!」
ニヤリと笑みを浮かべるのは春。リーダー。
「じゃあまずはこの前からのストレス発散っといこうか!やれ太瀬!」
立つこちらに向けて指を指す。いつものように、治った傷を再び開けようとしてくる。
「了解っす!覚悟するっすよ!いつもよりも強めにーーーどすこい!」
相撲部直伝の張り手。素人、ましては体が栄養不足の彼にはかなりの傷を負わせることができーーーーーー
「ーーありゃ?おいらの張り手は……」
張り手をしようとする片方の手のひらに、白髪の男の手のひらが合わさっていた。
そして合わさった手はどれだけ力を入れようと動かない。離れない。何があろうとも。
「おいらの手、動かないっす!前の春兄の言ってたやつっす!」
「おいてめぇ……腕になにしてんだよおい」
太瀬、春の2人がこちらを睨みつける。それはそうだ。
彼の腕はあの1件以降、その動かなくなる現象について調べていた。しかし、詳しく記載された本など存在せず断念を余儀なくされていた。
鋭い目線。地の底に追いやられる。今回ばかりは殺されるのか。死以上の絶望か……
そんなこと、起きるはずないか。
「僕への用事って、さっさと言ってくれないかな?」
下向きだった顔は、正体を見せる。左のおでこから右目の下まで傷跡が付いている。そしてかつての優しい目は鋭く、少しばかり細くなっていた。
「僕もさ、君たちを無視して言おうだなんてしないんだけど、さすがに遅くない?」
今度は優しい丸めの目。表情はかれの心情を表しているかのよう。
空気は凍りつく。無へと変換される。
「なに急にかっこつけてんだよ、というか早く太瀬の手を離せよおい」
睨みつける目は変わらない。後ろの2人、女性組も口を抑えて笑っている。
太瀬はさらに力を入れて離そうとする。
「離すっす!おいらが倒すのはお前の体っす!どけっす邪魔者!」
離れない、どんなに力を入れようとも。どんなに殺気を溢れさせようとも。
「僕に……勝つ、ねぇ……面白いジョーク、50点くらい?簡単に言うけど難しい話だと思うんだよね」
片手を上げ手を平行に。やれやれといった素振りを見せる。
「おまえなんて、おいらの張り手で1発っすよ!攻撃なんてできないのに意地張るなっす!」
余裕の表情。かつての彼を見ているかのような見下す目。それは全員がしている。余裕で笑う者、スマホを構える者、睨む者。汚れた存在は一人の人間を狂わせるのだ。
「じゃあーーーーー遠慮なく……」
「なにをみせるっすか?全部よゆーーーーーーー」
ーーー刹那の一瞬。それは汚れた存在達が見せつけられた圧倒的な力の差。
周りの目、4人は驚きを隠せない。スマホを持つ女性はスマホを落とし、睨む者は恐怖を感じた。
跳ね飛ぶ。彼の体が。そして倒れた太瀬に意識はない。血が流れ出していた。
それは一瞬だった。白髪の男は張り手を止めた手を振り上げ、軸となる左足を柱のようにし、右足で大きく太瀬の顔へと蹴りを入れた。蹴りを受けた顔は飛び、蹴った足はそのまま回転し左足の前に着地。再び正面を向く。
「……ふっ……ふははははははははははは!」
手を横に広げて笑う男。周りはその瞬間に死と、目の前の男が狂人へと変化したことを悟る。
「ははは!弱者が!図に乗るなゴミ共!今この瞬間に!制裁を与えなきゃわからない馬鹿どもが!」
返り血で染まった白い服、その血は再び消えていく。元通りの白い服へ戻り始める。
「君たちみたいな世論破壊兵器がいるから世の中の善者、平行維持の人間が消えていく!全ての元凶を潰して潰して破壊する!それが君たちへの制裁!僕は復讐しよう。宣戦布告だ」
突然落ち着くように声の調子を下げる。腕を下げ、立ち尽くす4人に向けて新たな制裁を下す。世界の凶器への1歩が踏まれる。
立ち尽くす4人は言葉なんて出ない。恐怖、絶望、後悔、怒り、そんな感情を渦まかせる。
「僕の名前くらいは教えとこう。」
「な、名前なんて……無唯斗だろ……」
1番前の春は震える声でなんとか伝える。他の人間は動きもしない。動かない、動けない。
「無唯斗?誰だか知らないけど、僕の名前はねーーーーーーー
『無』の権限、エルデ・アナストラル。アルとでも呼んでくれたまえ。」
アル。少年の瞳は血に染る。
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めちゃくちゃ名前考えたんですけどいい案が出ないので、主人公アル君にしました。
ついでに、先程から出てきてるエルデ・アナストラルが意味になっています!




