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6話「絶望の現実」

「ーーーーーーーー何か、知っていることがあれば話してもらいたい」


ここは警察署、取り調べ室。今顔の影が極限まで染まっている少年、無唯斗はあの駅で保護されたあと、刺し殺された少女ーーー望についての質疑応答を迫られていた。この部屋は4畳ほどの小さな部屋。そして少年が座る椅子、その前にある机、向かい合わせに警官が1人、見張りでもう1人が奥に立っている。


ーーーーどうして死んだ。何で。僕が何をした。


「頼む。事件解決への鍵になるのは君だ。君が犯人の可能性は証拠がないためありえない。」


ーーーー何があった。ただ帰ろうとしただけだ。何が、どうして。どうすれば生き残った。


「……もう一度言う。何があった?君が優ーの鍵なんだ。解決への」


ーーーーなぜ皆刺し殺される。何で自分ばかり生き残る。何で。なんで。なんで。


「ダメか?答えてくれないか?我々に教えてくれないか」


ーーーーなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんで


「我々がわかっているのは、黒服の男がかかわーーーっ!」


「……そいつは……どこだ……」


少年の感情は安定しない。だが、あの男についての話さえ出れば真っ先に感情は怒りという一つの感情に安定化する。

その証拠に彼は今、警官の胸ぐらに掴みかかるほど飛び上がり、掴み、警官を殺人鬼の怒りのような鋭い目つきで睨みつけている。


「どこだ!あいつは……あいつだけは絶対僕がーーーっ!」


大人警官の力によってその腕は強引に離される。強引なため、椅子に押し戻される無唯斗。少年に力など、ないに等しい。少年の瞳に影が戻り始め、その無力な瞳で警官を見つめる。


警官は机を叩きつけながら立ち上がり、無唯斗を見下すように見る。


「はぁ……はぁ……わかってたら!もうすでに衛兵を向かわせているに決まっているだろ!わからないから聞いているんだ!頼んでいるんだ君に!」


少年はその言葉に押されたからかさらに脱力し、肩すら落とし始める。ほぼ椅子に横たわるような斜めの姿勢へと変わる。


「我々だって今すぐにでも解決したいに決まっているだろ。聞かせてくれ、頼む」


少年は体を上げ、座り直した。


「……すいません。何も覚えてないです」


彼の決断は周りの人間の自意によって決まり、そして行動に移される。


ーーーーー被害者の気持ちより、己の気持ちの解決のためにしか動けない人間と解釈してしまったから。


「……わかった。君は、彼女の遺体に会いに行くと良い。交通費に関しては、私が出そう」


遺体ーーーーその言葉を聞いた無唯斗は気持ちの整理などできるはずもなく、改めて絶望の現実を目の当たりにした。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


病院まではそこまで遠くない。バスを降りてすぐにある。彼女の手術は終わり、おそらく傷の修復だけはされているはずだ。


病院の中の望の場所へ向かう途中、無唯斗の感情はほとんど死んでいた。歩きながら彼の心情は混乱を起こす。

元々、どうしてひとりの黒服の男の首を飛ばせたのか。それすら理解できないのに、ついこの間まで自分の隣にいた彼女は目を覚さないのだ。「なぜ」、その言葉が彼の中では無限に等しく回っている。


階段を登る。彼女は4階の階段の登ったすぐ前の病室だ。

傷が治り、もしかしたら生きてるのではないか。そんな期待が少しずつ浮かんでくる。


ーーーーーー少しずつ、上に上がるにつれて泣き声が聞こえる。なんだろう。自分のように悲しんでいるのか。


近づく。それは無唯斗が4階につく直前、とてつもなく大きくなっていてーーーーーーーー



「ーーーーーーっ!?」

「ぅぁぁぁぁぁぁぁああああ゛あ゛あ゛!!!」


階段を上がり、目の前の病室を見た無唯斗は絶句してしまう。

影が多く、暗い病室から来る大きな泣き声の正体、それは永遠の眠りについた少女…望の体に顔を当て、体を震えさせ、叫び声のような、悲鳴のような声で泣き叫ぶ金髪の女性ーーーーーー


「どうじで……どうぢて私の娘がぁぁぁぁ……」


娘ーーー彼女の母親なのだ。声と身長から50代ほどとわかる。その声は未だ信じられていない人間の声。大切なものを二度と手に入れられなくなったかのように泣き叫ぶ。近くには大学生だろうか。もう1人金髪の若く、背が少し高い美女が暗い顔をしている。

無唯斗は少しずつ、白い布を被せられ、ベットで眠る彼女に近づく。現実は、希望などくれない。世の中は常に絶望を無唯斗に与える。

指を伸ばし、彼女の体に当たるーーーー

直前で金髪の泣き叫ぶ女性。望の母親に腕を強く払われてしまう。


「ーーー触らないで……私の娘に!」


何も言えない。少し当たった望の体は信じられないほど冷たかった。


「あなたは……娘のそばにいた男の人?」


「……はい、近くにいましーーーーっ!」

「ーーー!なんで!なんで守らなかったの!」


母親らしき人は突然無唯斗の胸ぐらを掴み、信じられない力で壁に押し付ける。いくら栄養が不足している無唯斗でも、ここまで押されるのには驚く。その目は涙で腫れていて、同時に怒りが見える。


「男なのに!あの子の方がよっぽど弱いのに……なんで……どうして守ってくれなかったの!!!」


「ーーーーーーーーーーー」


何も言い返せない。彼はいつもあの彼女に守られてばかりだった。あの夜だって、庇ったのは自分ではない。彼女だ。

無唯斗の力は自然と抜けていく。何も言葉にできない。何も発せない。


「なんで娘を……助けてくれなかったの!なんで見ず知らずのあなたが生き残って……!」


「お母さん、そこら辺にしてください」


近くの大学生ほどの女性が、母親らしき人の肩に手を当て、少しずつ離していく。

無唯斗の瞳には影しかない。体も自然に脱力していく。立つ力だけは自然に残っている。だけは。


「明梨……私の……娘が……ぁぁぁ……」


離れた母親は、その大学生ほどの女性ーー明梨(あかり)という女性に抱きつく。そして、悲しみの声を上げる。泣き叫ぶ。彼女の胸の中で。

ーーー悲惨、だった。もはや言葉になどできない。悲しみと、永遠に眠る少女。その周りすら、無唯斗の精神を削っていく。


「すいません。うちの母も、もちろん私も気がおかしくなってしまっていて。今日のところは、お引き取り願えますか?」


「……わかりました」


明梨の気がおかしいのは、全く感じないが、母親は見ての通り。ならば、とりあえず無唯斗がいるだけでもおかしくなりそうなのでここは一度家に帰ってーーーーーーー


「すいません、ひとつだけ」


無唯斗はそれを聞き、振り返る。振り返る先には、


「ーーーーーー人殺し、妹をよくも」


それは殺意の目。怒りを抑えられなかった結果生まれる狂気の目。鋭い目線が無唯斗に突き刺さる。


「……本当に、すいませんでした」


一礼して歩き始める。階段を降りる。泣き叫ぶ声は聞こえないはずなのに、心の中で響き続ける。辛い、苦しい。だが自分よりも苦しい人がいるのだ。我慢が一番ーーーーなのか。


「わからないよ、望。僕はどうすれば…………どうすればいいんだよ!!!!」


気づけば階段の壁を殴っていた。もちろん傷などできるはずもない。怒り、悲しみ、辛さ、苦しさ、全てが彼を襲う。

再び歩き始める。自分の居場所へ。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


今回はとりあえずの帰宅を許された。すっかりあたりは夜に。月は綺麗に出ている。


アパート。扉の前に袋が一つ置いてあった。警察署から。その中身はーーーーーー


「被害者の女性の鞄の中に入っていた物だ。君宛であることがわかった上、事件の鍵になるような物じゃなかったため、持ち主の君へ送っておく。」

そう書いてあった。中に入っていたのは、





外であったが中身を確認してしまう。血で染まってしまった白い服。その服には金色の糸でラインが引かれているほか、下半身まで伸びており、足元は動きやすくするためか8つに分かれるように切れている。あとは下に着る黒い布のシンプルなズボン。これでセットなのかーーーーーと一つ手紙が入っていた。奇跡的に血に染まっていない。その手紙を開くと、




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


拝啓。神無月 無唯斗殿。

こんにちは。さっそくですがお元気ですか?私は今、やっと完成した服をプレゼントした君の反応が楽しみで仕方がない気持ちでこの手紙を書いています。

伝えた通り、好きです。君のことがものすごく好きです。最初はそんな気持ちなかったの。けれど、いつに間にか。そしてこの間の、少し暗い話をしちゃった時に、確信したの。

おそらく未来の私は、恥ずかしくて結果も聞かずにこの服だけ渡して逃げてしまっていると思います。お願いします。OKでも、断っても、話しかけてください。未来の私はすごく喜びます。どちらの結果でも、あなたという友達を持ったことが嬉しいのです。

孤独で、1人で、友達なんていない私に希望をくれました。知らなかったと思うけど、ぼっちなんだよ?私。

とにかく、伝えたい。ありがとう無唯斗くん。私に希望をくれて。助けてくれて。

愛しています、君のことを。断ったとしても、これからも仲良くしてください。

                         君の親友、有村 望より

                                     敬具

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


ーーーーーーーー彼女は……彼女の未来は、



静かに扉を開く。望が整理や掃除をしてくれたおかげでとても綺麗だ。彼女が…………してくれたのだ。


(お邪魔しまーす!って汚すぎ!嘘でしょ!?掃除苦手なの……?)


望との記憶のフラッシュバックが無唯斗に起こる。

ーーーーーーーあの日は確か、突然やってきたんだよな。あの日はとても張り切って掃除し始めてたな。


(仕方ないなぁ!私の腕の見せ所!やってやりますよ!)


ーーーーーーーいくら止めても張り切ったまま掃除しだしたんだよな。気づいたらすごく綺麗になっててびっくりしたな。


(ね!映画観に行かない!?めっちゃ見たいのあってさ!面白そーなの!)


ーーーーーーーあの日は確か、無理矢理映画に連れてかれたっけ。初映画だったな。広くて感動したな。感想とか、たくさん話したな。


(ここのカフェすごく美味しい飲みものがあるの!ね!行こ行こ!)


ーーーーーーーあそこのカフェ、いつかもう一度行こうってあの後話してたな。美味しい……飲みものあったなぁ……


(もう、無理しなくていいの。なにも、与えなくても生きていいの。笑っていいの。泣いていいの。友達と、家族と、色んな人と話していいの。そうやって、幸せになっていいの。ね?)

(……あなたって、不思議な人なのね。ありがとう!)

(お、笑った笑った〜!!)

(あなたはもう...ひとりじゃないんだから)

(すご……く……だい……すき……)


ーーーーーーーいろいろ……あったなぁ……


気づけば彼の瞳には、涙が出ていた。玄関で崩れ落ちる。手を床につけ、泣き叫ぶ。泣いて泣いて、それでも止まらない。


ーーーーーーなんで、彼女のような優しい人ばかり不幸になるのだろう。自分と関わるから?こんな自分が、弱いから?何も話さないから?みんなが言う通りにしてきたのに?何が、どうして、こんな自分だからだ。こんな惨めで弱くてボロボロの自分だからだ。親の時も、彼女の時も全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部ーーーー


荷物など放り捨て、部屋へ。綺麗だった家具などを殴るつける。頭を思いっきり当てる。荒らす。全てを。彼の感情は制御不能。全てが闇に染まる。


(ゴミにゴミ投げても一緒だよね〜)

(うちら悪いことしてないしてない〜友達としてご飯代くらい当たり前〜)

(悪いことした人には罰を与えるっす!)

(虫みたいっすネ!A・T・Mくん?ギャハハハハ!)

(お前みたいなゴミ、金さえ渡せばいいんだよ。希望なんてねーんだから)


そうだ。ゴミで弱い。希望なんてない。希望なんてありえない。


部屋は変わり果て始める。机も、ベッドも、荒らす家具がなくなれば壁を、床を打ち続ける。


(わからないから聞いているんだ!頼んでいるんだ君に!)


話も聞けないバカだ。


(男なのに!あの子の方がよっぽど弱いのに…なんで…どうして守ってくれなかったの!!!)


弱く、守る力もない雑魚だ。こんなやつ、消えてしまえ。


(ーーーーーーーーーー人殺し、妹をよくも)


自分はーーーーーーーーー人殺しだ。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


雲ひとつない夜空が広がっていた。

星は淡々と光を街に見せている。そして街もまた光を見せ、これほどにもない美しい景色を作り上げていた。

夜空に輝く星が昨夜より1つ増えていた。それと同時に、1つの星が闇に染る。

その星の下、黒い服に、灰色の長ズボンを履いた黒髪の少年は1人泣き叫ぶ。木製の暗闇の部屋。その部屋は荒らされ、家具はほぼ使い物にならないほど凹凸が目立ち、ある物はヒビが入っており、崩れ始めている。 その部屋の唯一の大きい窓。 そこの前に少年は立ち崩れており、その窓からは美しい景色が広がる。 そしてその光は少年を写している。 少年の瞳に、光など届きもしないのに。

ーーーまるで地獄を見ているかのようだった。


苦しい。消えたい。呼吸できない。辛い。終わりたい。崩壊したい。生涯を終えたい。死にたい。死にたい。死にたい。死にたい、死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいじにたいじにだいじにだいじにだいじにだいじにだいじにだいじにだいじにだいじにだいじにだいじにだいじにだいじに…………?


彼は血塗れになった自分の顔、頭を打ちながら手で床を叩いていた。しかし、その手は突然止まる。考えが変わったように。黒服の男が、彼の頭をよぎったのだ。

本当に、自分だけがいけないのか。自分が全て償わなくてはいけないのか。

おかしくないか。おかしい。おかしいのだ。


彼の見る世界は美しいものから次第に変化し、憎しみが生まれ、恨み、怒りが次第に溢れ出す。



ーーーーーー違う。自分が全て悪いわけではない。周りの人間全ては自分の罪逃れのために自分を利用していたのではないか。どいつもこいつも、みな自分の罪を理解しない。反省すらせず自分の考えのみで他人を罵り、周りなど考えずに人という感情ある生き物を殺していく。世界が、この世界が母親も、彼女すら殺していったのだ。それだけではない。善意ある人間全てを殺して行ったのは今生きている世界の住民なのだ。許せない。絶対に、許せない。許せるわけがない。消えてしまえ。死んでしまえ。こんな世界、無にしてしまえ。



無唯斗の髪の色が、次第に白髪へと染まっていく。そしてかつての神無月無唯斗が、崩壊していく。変わる。世界の脅威へと。そして彼はひらめいた。この問題を解決する方法を。


ひらめいたと思えば、立ち上がる。


(笑顔は幸福の元!これ!覚えておいてね!)


絶望し、光が届かないはずの顔に笑顔が浮かび始めた。それは人生を幸福に包んで、楽しみ、全てが明るい世界で過ごしている者のような満面の笑み。世界を飲み込む究極の闇を持つ笑み。


ーーーーーしかしその笑みには1番大切な「幸福」は存在しなかった。立ち上がり、空を見上げて腕を広げ...笑う。


ケラケラと笑う声。ケラケラケラケラケラケラケラケラケラケラケラケラケラケラケラケラケラケラケラケラケラケケラケラケラケケラケララケラケラケケラケララケラケケラケ...










「……この世界を無へと導く」


ここに、狂人が1人誕生した。

ご覧頂きありがとうございました!よろしければブックマーク、評価、感想の方よろしくお願いします!

次回からバリバリ戦闘やグロテスク表現入るので注意!とおまたせしました。ようやく本編、開始です。

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