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5話「有無の代償」

空は青い。だが今日だけはいつも以上に青く感じた。

無唯斗は今、今回自分を呼び出した望を集合場所である駅で待っている。自分たちがよく使う駅はそこまで広くはなく、周りに出店などが広がっているものの駅自体は改札とホームだけといういたってシンプルな構造だ。

今無唯斗は改札の前で彼女を待っている。


正直緊張が止まらない。今にも心臓が爆発しても仕方ないくらい鼓動がなっている。前日の夜は寝るまでにかなり時間がかかった。初めての経験で何して良いのかすらわからない。



ーーーーーやばい。これは逃げ出したくなるくらいやばい。どうしよう。これってそもそもデートなのか?いや、友達だしデート判定にはならないだろう。いやでも女の子と2人きりで遊園地へ?世の中的にはデート判定じゃないのか?いやしかし相手はそんなこと気にしないし、あいつのことだから普通に友達とお出かけくらいの気持ちのはず。いや俺はそんなこと思ってないし。絶対思ってないし。初めてだから緊張してるだけだし。いやデートだからとかも絶対ない!違う!焦ってないし!違います。違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う


「あ!無唯斗くん!おはよう!」


違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う


「ねー!お!は!よ!」


違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う


「ちょっと!ねー!」


違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う…


「違う違う違うちが……うぎゅ」

「デートの相手が来たのに無視なんてどういうわけ!?」


焦る無唯斗の頬を望が右腕の人差し指で押す。目が覚めた無唯斗はあたふたと焦りながら、


「あ……のじょみしゃん……しょの……おふぁよう……」


抑えられているので上手く言葉がでない。ははは…と引き気味のおはよう。その理由は目の前の少女の私服の綺麗さもある。白色の服。特にこの季節は夏だったので、ワンピースのような服と、麦わら帽子を被った金髪の彼女。赤い口紅などのメイクもしっかりしたからか、いつも綺麗なのに、さらに綺麗さが増している。

しかし引き笑いの理由は一つではない。目の前の彼女はお怒りだ。左腕は腰につけ、顔はぷくっと膨れて怒りを表している。


「ったく、次はやめてよね!あと、他の女子だったら一発アウトだから!」

指を離して腕を組みながら、師匠が弟子に教え込むようにそう言った。


「はい……すいません……あと服似合ってますね」


「……今のでチャラにしてあげる」


彼女は頬を少し赤くしながら歩き始めた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


電車は不安なく、いつも通り会話が弾んだ。この間の彼女の暗い顔はさっぱり消え、むしろさらに笑顔が増えている気がする。


「そ、そんなことないよ!いつもと同じ笑ってます!」


聞いてもこの反応なので深くは聞かないことにしていた。



降りる駅についた。この駅は遊園地があるためだけに作られたらしい駅だ。そのためかなりボロボロかつ、ホームも上り下りの1つしかない。 自分たちのよく使う駅から出店を除いたような駅だ。


「ううー!ついたねー!もう目の前だし!楽しもうね今日は!」

「は、はい……そうですね」


無唯斗は落ち着かない様子でいた。手が震えている。緊張しているのだ。

これが無唯斗にとってはこれが初の一日中二人の日なのだ。男子でも色々考えるのに、よりにもよってこのスーパーガール。よって彼はいつも以上の緊張を強いられている。


「もー!楽しもうよ!ほら!行くよぉぉぉ!」


「え?あ、ちょ、待ってくださいよぉ!」


駅から飛び出していく彼女はもちろん緊張などお構い無しに走っていくのだった。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


「あの……望さん?これって……」

「さぁさぁ気にしない気にしない!この時間を楽しみましょ!」


現在、神無月無唯斗はとてつもない高さからハイスピードで駆け回るジェットコースターというの乗り物に『乗らされて』いる。

どう考えても人間が落ちれば死ぬだろう高さに連れていかれ、ぐるぐる回るなど考えるだけで地獄だ。


「いやこれ絶対まずいですよね!引き返しましょうこれ!無理です絶対!」


「と言っても、もう進んじゃってるし?見て!景色綺麗だよ!ほら横横!!」


横を見れば遊園地が見渡せて綺麗ーーーどころかまずい高さまで来ていることに驚きは隠せない。


「落ちるよ!来るよ来るよ来るよぉぉぉ!」

「うぐぅ……誰か……助けてぇぇぇぇぇ!!!」


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜



その日はもちろん想像以上の楽しさが待っていた。

デザートをカップルを偽って割引で食べ、少し罪悪感が出ていたり、結局美味しさで忘れていたり。

お化け屋敷に入り怯える無唯斗とへっちゃらでむしろ笑っている望。驚かせてくるお化けに更に発狂しまくる彼に更に笑いが作られる。

コーヒーカップに乗り、大回りさせる望に振り回される無唯斗。

笑い合い、幸せの空間を二人はつくりあげていた。同時にその二人は同じ空間で、同じ気持ちで歩んでいた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「ねぇー!見て!すっごい綺麗な景色!夜だと全然違うねー!」


「そうですね。高いところってあんまり行かないですから、こうやって見てみると凄い新鮮で感動しますね」


二人は観覧車に乗る。すっかり外は暗くなり、都市やこの遊園地も光を作り出している。そしてその光は二人の乗る観覧車へと映されている。


「ねぇ?今日すっごい楽しかった!こんなに楽しい日、生まれて初めてだよー!」


観覧車で大はしゃぎする彼女。両腕を上にのばし、座っている座席から少し跳ねている。


「僕も凄く楽しかったです。ありがとうございました。こんな美しい場所に連れて行ってくださって。」


「感謝は私もしてるー!ありがと!そしてこれからも...いてくれる?」


はしゃいでいる体を止め、彼女は落ち着いて無唯斗に質問をする。


「当たり前ですよ。逆にこちらからお願いします」


無唯斗は満月のような微笑み、それを見た彼女もまた太陽のように微笑む。月の下、二人の空間はまた希望を作る。二人の出会いは奇跡を作っている。互いが感謝し、互いが支える関係が作られていた。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「楽しかったぁー!あとは帰るだけ!学校もあるのか〜」


「また頑張りましょ。笑えばなんでも乗り越えられますよ」


「わ、凄い良いこと言うね!」


二人は電柱が一本しかない、駅で電車を待つ。周りに人は全くと言っていいほどいなかった。なので電柱の下、二人のみで電車を待つ。


「私ね、無唯斗くんとここまで仲良くなれるなんて思ってなかった。これからもたくさんね、話したいことあるんだ。話したことない秘密とかも……話したいんだよね」


「……?」


無唯斗は突然振り返り始める望に少し驚きと疑問を持つ。


「だから……私は……その…………っ」

「……え?あ、え?」


なんと望は無唯斗の手を握っていた。そしてそれに驚く無唯斗と少し強く握る望。驚きは必然的に回避できない。


「私は……あなたの事が……す……すす……」


言いかけたところ、無唯斗側から足音がして、止まってしまう。同時に掴んでいた手も、離れてしまった。


「今、なんて言おうとしたのか教えて貰ってもーーーー」


「いたぜ。ターゲットだ」


無唯斗側から来た男たちの声がする。その声の先に二人は顔を振り向かせる。

そこに居たのは二人。両方とも黒服のスーツを着ている。だが、体格が全く違う。片方はとてつもなくガタイがでかい。常人の二倍はあるだろう体格。顔は狂人のような笑みを浮かべている。逆にもう一人はメガネをかけたガリガリの男。同じく不安を煽る笑顔である。


「悪いんだが……少し用があってな」


ガタイが大きい方の男が二人に声をかける。



「え?はい。なんですーーーー」


「ーーーーー死んでくれ」


それを言った直後、大きい男はナイフを取りだし、猛接近する。とてつもない速さ。足も早く、陸上選手程の速さ。

これは刺される。それを肌で感じた。彼女がいるのに、これからもと約束したのに、ここでおわーーーーーーーーーーーー


「ーーーっ!」


その時、望が素早く無唯斗を後ろに飛ばし、前に出る。無唯斗は後ろに押し込まれ、地面に座り込んでしまう。


だが、彼女はどうか。


「へっ、まずは女か!」

「うぐっ…………っ」


腹部を刺されたと同時、素早く引き抜かれ、服が血で染る。腹部を抑えたまま、彼女はうつ伏せに、目の前に倒れてしまう。

巨大な胴体の男は彼女の上に立ち、その場で座る。

そして、彼女の胸部を何度も突き刺す。それは地獄。彼女は声にならない悲鳴を上げる。絶叫とは裏腹に男は何度も刺す。何度も。何度も。


ーーーーーなにが、起こっているのか。どうして自分たちが、というか、どうして自分は動かないのだ。足が震える。動かない。


彼女を何度も刺す。刺して、刺して、刺して、刺して、刺して、刺して、刺して


「…………ゃめて………………ゃめろ……やめろ……」


刺して刺して刺して刺して刺して刺して


「……っ!やめろぉぉぉぉぁぁぁぁあああ!」


ーーーー無唯斗が叫んだその瞬間、奥にいた細い男の首が飛んで行った。


「あん?聞いていた話とちげーぞ!もう権能が……くそ!」


そう言った男は立ち上がり、逃げるように去っていってしまった。


「はぁ……はぁ…………ぁ!」


立ち上がり、彼女の元へ向かう。綺麗だった服は、無数の傷に埋められ、その下には大量の血が広がっている。

彼女の体を、反対側へと起こす。顔にすら、血は広がり、もはや修正などできない。

終わりが、近づいていた。


彼女の頭を腕で上げる。そして、無唯斗は涙をうかべる。


「ごめん……僕が……なんで……」

「……む……い……と…………く……ん」


涙を堪えながら、なんとか彼女の顔を見た。彼女が言葉を発した。辛いはずの顔に、笑みを浮かべ始める。


「い……き……て…………」

「望さん!喋ったら……傷が……」


「……わ……ら……て……い……き……て……」


彼女の瞳にも涙が浮かぶ。そして最後の力を振り絞るように、彼女は力を込め、


「すご……く……だい……すき……」


そしてその言葉と共に、何もなくなったかのように力は抜けていく。瞳も、閉じてしまう。



ーーーなにが、どうして、なんで、なぜ、どいうこと、意味わからない、どうして、なんで、なんでなんでなんでなんでなんでーーー


無唯斗の手の中で永遠の傷を入れられ、永遠の眠りに入った望。それはあまりにも突然で、あまりに辛い現実。


無唯斗は泣く。泣いて泣いて、何度も泣く。泣き叫び、手の中の少女との永遠の別れを受け止めきれない。


(わたしの……分まで……いきて……つよい子に……なって……だいすきな…………わたしのむすこ……)


無唯斗の記憶に、フラッシュバックが起こる。

それは、亡き母の記憶。目の前で体から血を出し、最後の力で、無唯斗に言葉を残し亡くなった母親。

同じようにまた、大切な人を亡くした。


「ぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


叫ぶ。何度も泣き叫ぶ。そして、彼は突然力が無くなったかのように、手の中に彼女を抱えながら動かなくなる。瞳に影を残して。


乗るはずだった電車が、到着した。

駅には生首と、無数の傷を負い、永遠の眠りについた少女。そして、全てを失った男が地面に座り込む。

電車の扉が開き、降りる女性が歩こうとーーーーー


「きゃぁぁぁぁぁ!」


悲鳴をあげた。

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