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35話「花咲く明日へ」


「でね!明梨ちゃんにも聞いて欲しいんだけどね!」


屋上で二人、過ごす日々。

弁当を並べては、そこから一つ一つの具材を美味しくいただきながら、隣に座る唯一の友人、典子に笑いかける。

熱心に話しかけてくれる典子に、感謝で胸がいっぱいで、ついつい笑みが溢れてしまうのだ。


「……明梨ちゃん?」


「あ、いえ!そのまま話してください!どうぞ遠慮なく!」


「なにそれ〜!もぉ〜ちゃんと聞いててね?私はね〜喧嘩するとついついムスッとしちゃってさ〜」


ついつい自分の心と会話するばかりで、典子の話に耳を傾けるのを忘れてしまっていた。

眼鏡をかけていてもわかる、その輝かしい瞳に目を合わせながら、頷いて話を聞く。


「私と明梨ちゃんが喧嘩とかしちゃったら、きっと長引いちゃうな〜私の悪いとこっ」


「そんなっ!では私がたくさん謝りますよ!典子さんと仲が悪くなるなんて、嫌ですから!」


「明梨ちゃん……!」


喧嘩、人間関係が充実しては必ず起こるだろう問題。実際、明梨は仲良くなる人間などいなかった。それもあり、喧嘩というのを実際になったことはない。

でも、それだとしても典子と離れることは、この感謝が伝わるまではしたくないものだ。


だからこそ、その気持ちを伝えるために、明梨は典子の手を握ってまでも熱心に謝ると伝えている。

それを聞いた典子は目を見開き、ぱっと明るい顔になっては、


「……私も、変わるように頑張るねっ!二人で、謝ろっ!」


「……はい!」


お互いの、手を握り、その誓いを立てた。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


ーーー典子は、持っていた。

これしかないと信じた叫びが、硝子の花を咲かせ、大事な少女ーーー典子の命を守ったのだ。


でもこれは、彼女が私に気づいて、それに合わせて硝子の花を持っていなければできなかったこと。


長い期間、典子は大切に持っていたのだ。明梨が気づかせずに入れた硝子の花を、しかも首から下げていた。


「ーーー!典子さん!」


そんなことを考えている暇は無い。魔物は今にもまた典子を襲おうとしている。しかし、先程とは状態が違う。


今は自由に動ける。


勢いよく飛びかかってくる魔物に、手に持つ硝子の剣を投げつけ、その殺傷を阻止すると、さらにもう二本もの剣を生成、左右に散らばる魔物すらも消し炭にしていく。


走り抜け、足をくじいて動けない典子の元へとようやく到着。傷は深くないか、まだ歩けるかも確認しなくてはいけない。


「明梨ちゃんっ!なんとか、歩けるとは思うっ……」


「無理せずに!私の肩を掴んでください!さぁーーー」


「明梨ちゃんっ!!!」


肩に手をかけさせ、ゆっくり立ち上がろうとした時だった。


後ろから伸びてくる爪、それは明梨の肩を貫こうとする。しかも、夢中で気づかなかった至近距離。避けようにも不可能な位置、完璧に当たってしまう。


「ーーー!」


「行けっ!運ぶのは任せる!我々がここは!」


しかし、その爪は明梨にはギリギリ届くことは無かった。さらにその後ろから、衛兵が魔物を叩き潰したのだ。

頭を下げては、「ありがとうございます!」とお礼を返し、典子を持ち上げ、二人で廊下へと歩いていく。


このまま、階段を降りてはなるべく正門から遠くに行かなくてはいけない。


「大丈夫ですから、このまま遠くに行きましょう。硝子の花、持っててくれてよかったです……」


「明梨ちゃんっ、私はっ……あの日、明梨ちゃんを、疑っちゃって……」


「…………っ」


二人で廊下を歩いていく中、ふと言われたあの日。

足は通常よりも遅く、引きずりながらも歩く典子に、心配をしながらも、あの日の話をされては言葉が出なかった。


まさしく、冤罪ではあった。塗り付けられた罪に、亀裂が入った仲。大切なものは、奪ったわけではなかった。

それでも、典子へのいじめの原因は私にあったこと。そして、それを見つけられなかった私の視野の狭さ。


「…………っ、ご……ごめんなさい、私は……典子さんのいじめを……見つけられませんでした」


二人傷つき、歩く廊下に、二人だけでは無いはずの空間に、二人だけの会話が生まれる。

それは、硝子の花を入れた時に言いたかった言葉。


なんでも自分でやろうとする明梨が、唯一できずに後悔していたことだ。そして、諦めてたものでもあった。


でも今は、仲間がいる。自分の背中を少しでも押してくれた仲間と、妹だって生きている。そう、信じている。


死と直面している今だからこそ、伝えなきゃいけない思いなのだ。


「私の責任も、たくさんあるんです。だから、本当にごめんなさい」


「…………明梨ちゃん、疑ってごめんなさいっ。私はっ、明梨ちゃんを疑った自分を恨んだ。もう近づく権利すらないこともっ、わかってたっ……!」


「典子さんっ……」


自分の、伝えたかった思いに答えてくれてるかのように、典子が、話してくれた。

涙ぐんだその震えた声は、典子が苦手だった自分自身を見つめることを、悩んでいるようだった。


疑ってしまった過去と、自分自身の罪を認めていた。


足を一歩一歩進めながらも、典子に顔を合わせる明梨。二人がまた、見つめ合うことが出来た。


「……ごめんなさいっ!私っ、明梨ちゃんに苦しい思いさせてっ……ごめんなさい!!!」


思いを込めた、典子の大きな声は、明梨の心に響いた。そっと、涙が溢れるほどに。


「私こそっ……ごめんなさい!あなたともっと……仲良くしたいっ!簡単に話しかけられずにっ、逃げてばかりでした……ごめんなさいっ」


涙が止まらないが、それでも想いを伝えなきゃいけない。今が、その時なのだから。

二人、謝り合い、ずっと想ってきた言葉を紡ぐ。


やっと、この時が来たんだとほっとする気持ちが、今の惨劇すらも浄化していくようだった。


「……約束、果たせたねっ!」


「はいっ!もう……一人じゃないですから。二人で、このまま行きましょう!」


ゆっくりと、ゆっくりと進めてく足。近づく魔物は、自然と開いた『向日葵』に阻まれ、『硝子』に溶かされていく。


その足が向かう先は、避難所だ。でも、今の二人には少し違う。


「お花を作る能力……!典子さん凄いですよっ!」


「明梨ちゃんのガラスも綺麗だよっ!二人でアートとか作ったらさ〜すっごい良いのができると思うんだ〜」


笑顔が生まれた二人が向かう先は、これからの未来だ。もう一人じゃない、少女の明日だ。


今ここに、二つの華が、満開に咲いた。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


地上が、揺れていた。


ここ、コロシアムは生徒が避難所として利用していた。もちろん多くは瓦礫などがあるのもあり、教室や体育館に避難する者が多かったものの、人数の関係上こちらに避難するしかない者たちが、ここに集まっている。


そして、ミミ・クロウエアもその一人だ。


彼女は小さい身長と、その特殊な特異種であることから、人から軽蔑されることも少なくない。


人というのは、自分が未知のものに対して嫌悪感や、触れたくないという思いが強く出てしまう。故に、実際にミミに対して暴力を振るう者も少なくないのだ。


「……揺れてる。ミミ……色んな人に……嫌いって言われるけど、みんな真面目なんだよね。ダメな人なんていないはずだもん……」


コロシアムの観客席だった部分は、あのワープゲートの吸い込みがあったがために、過半数がコンクリートがめり上げて、ただの大きな階段のようになってしまっている。一部はさらに、砕けてしまっているものもあった。


そこに、座り込む人がほとんどである。ミミは中心で、体育座りで丸くしているが、みんな気持ちは同じだろう。


早く出たい、外で何が起きてるか確かめるのも危険である。会話も少し聞こえるが、不安を嘆く者ばかりだ。


「あんたさ、ミミ……外、見てきてよ」


「……えっ?ミミが?」


「当たり前でしょ、あたしら……死にたくないし。こんなに揺れてたら絶対なんかあるでしょ」


座り込むミミの元へやってきたのは、先程コロシアムの裏側でミミを投げ捨てた三人組の女子達だ。


彼女らは、特に高貴な身分にいる且つ、優れた成績を残している。でも、それ故に自分たちの知らない者であるミミが恐ろしいのだろう。


この揺れる大地の原因を調べろと、無理やり手を引っ張られてはこのコロシアムに二つある出入り口の一つへと連れてかれそうになってしまう。


「ちょっとっ、ミミはいーやーだ……!ミミのせいじゃないしっ!」


「でもあんた、あたしらにコロシアムで落とされた時、なんであのバケモノみたいな男に殺されてないの?」


「それはっ!ミミの友達が助けてくれたから!」


「やっぱりいるんだ?バケモノに対抗出来る友達が」


「…………っ!」


引っ張ってくる方向と逆に力を入れながらも、友達がいる、その情報を聞き、出入り口の前に到着した瞬間に力を抜かれ、ミミは後ろに尻もちを着いてしまった。


アル、それは権限者に抵抗できる唯一の存在だ。でも、アルをここに呼ぶことはおそらくできない。


「……アルは、呼べない……アルにも!アルのするべきことあるからっ!」


「よく良く考えれば、さっき問いつめちゃったけど……あんたが原因だったら、もうあたしら死んでるよね。あんたが原因じゃないのはわかったよ。それに、コロシアムで突き落としたのも……悪かったよ。ごめん」


「う、うん……」


突然の謝罪、それはいじめに対することでは無い。

コロシアムでの、突き落とされた時の彼女たちはクスクスと笑っていた。でもそれは、彼女らがあの『魔』の権限者の力を見ていなかったからであろう。


ミミを殺すつもりで落としたのでは無い、後悔の謝罪。ミミは驚きで、ただ頷くことしかできていない。


「だからさっ……あたしらも生き残りたいんだよっ……母さんとかにっ、会いたいから……お願いだよっ、ミミ……その友達呼んでよ……!」


「ーーーー」


ミミの小さな肩に、縋り付くのは惨めな姿になった三人組のリーダー格の少女。そう、少女なのだ。


ミミは、この時感じた。この惨劇、みんな思っていることは同じなのだ。


ーーー生き残りたい、その可能性が広がるのなら、縋る気持ちもわからなくない。


「……もっと、ミミを信頼してっ!ミミもっ、頑張るから……!」


「小さなあんたに何ができるの!?あたしらにもいじめられるあんたが!」


罵倒、後ろの二人も同じような感情を、助かりたいという気持ちだけで、再びミミを罵ってくる。

でも、ミミは信じている。聞こえてくる声は、


アル、それは悪い人間、最初は思っていた。

でも彼は、少なくとも人のために動いている。ミミを殺すことも、しなかった。


アカリ、不思議な人だった。ストイック、でもミミは差別しなかった。


エルダ、最初からミミの種族など気にせずに向き合ってくれた。


「ミミだって、みんなと向き合う……弱くてもできるって、証明!するっ!三人のことも……信じるから!ミミを信じて!」


「そんなの……あたしらは!あんたをいじめた張本人!意味わかんない……やっぱり、あんたが……」


「それは今から、ーーーーー!!!」


微かに、三人の目に、光が入ったその時だった。


後ろから鳴る轟音、地響き、それらが一斉に発生してーーー


「ーーーあぶないっがはぁっ!?」


「当たったのァ……やっぱりお前かァ……なんでこんなァクソガキィと運命様でェ繋がれなきャいけねェんだァ!?」


押し込んだ、後ろにいる二人を蹴り飛ばし、その勢いで目の前のギャル女のこと、吹き飛ばしてやった。


だが、その後に来たのは扉を破って入ってきた闇の手、『デーモンハンド』だ。


ミミはデーモンハンドに吹き飛ばされ、一気にコロシアムの中心へと飛ばされてしまう。体に一気に来る衝撃。

痛さ、全身が震え、視界が朦朧としていて、


でも、耳だけははっきり聞こえてきた。その声の正体ーーーグラゼであることは、悲鳴に一気に包まれたコロシアムの中でもはっきりと、うつ伏せに倒れるミミの元へ伝わってきたのだから。


長文ご覧いただきありがとうございました!よろしければ評価、感想、ブックマークの方よろしくお願いします!

改めまして、更新遅れて申し訳ございません。モチベーションと相談しながら、またこつこつ更新します

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