4話「有無の結合」
「ーーーーえ?」
魔法?まほう?マジック?そんなもの、現実ではありえないと思っていた。
だが彼女のわかりやすい表情からや、傷の跡がほんとに無いのを見るに、本当のことらしい。
「私はさ、昔から魔法というか...異能が使えるんです!それで治したはい!おしまい!別の話しましょ!」
そう言って手を1つ叩くと、とんでもない切り替えの速さで別の話に切り替えてしまう。無唯斗の表情は疑問のままだが、望はそのまま話を変えて別の話をし始めてしまう。
結局、この後もこの話題が出ることはなかった。
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それからの日々というものの、幸せの他なかった。いじめというものは、彼女がそばにいる事で完全に消えた。
春は通る度睨んでくるが、彼女がそばにいる事で打ち消されてしまう。机の落書きを消したのも、彼女ということも本人から聞いた。
ある日はカフェに2人で行き、話を盛り上げた。
ある日は屋上でご飯を2人で食べた。彼女は特盛の弁当を無唯斗に作り、食べきれずに困ってしまう日だった。
ある日は帰り道、遠かった肩の距離が縮んでいる日もあった。
ある休日は無唯斗の家に勝手に入ってきて、部屋の家事をほぼやってくれたりした日もあった。
ある日は公園で遊び、ある日は初めての映画にビビり散らかした無唯斗を帰り道に望が半ば強制的に連れて行ったりした。
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その夜、2人は夕焼け色に染まった空の下、住宅街を歩く。
「映画!どうだった!?楽しかったよね!ね!」
こちらをキラキラとした目で見つめてくる。相変わらずのテンションで無唯斗も慣れ始めた。
「はい!あんなデカいテレビ初めて見たんですごい楽しかったです!」
「テレビじゃないんだけどな……」
キラキラした目つきから、苦笑いして呆れる彼女。
「ありがとうござい……」
「……?」
彼女は首をかしげる。途中で止まり、悩む無唯斗。そして何か覚悟を決めたようにこちらに体を向けた。
「……ありがとう、映画誘ってくれて」
それは、この2週間ほどで初めて彼から敬語を外して話した。
彼女はパッと明るい笑顔に変わり、体を少しぴょんぴょん跳ねさせる。
「え!うんうん!今度も絶対誘う!絶対絶対!やった!やったよー!!!」
そう言って両手を上に広げてさらに跳ねる。
クスッと無唯斗もその歓喜に笑ってしまう。
幸せなのだ。これが人として生きるということを、彼女から教わった。こんなにも、彼女から教わってしまった。いつか、恩返しをすると心に決めた無唯斗もまた、その場にいた。
「じゃあさ!今度遊園地でも行かない!?お金は私が誘ったから、私で何とかするからさ!」
彼女の家はものすごい金持ちらしく、毎回のように奢ってもらってしまっている。正直情けないのだが、仕方ないのだ。いつも否定しても、既に払ったと終わってしまっているのだから。
「いや、お金とかほんとに申し訳ないし……」
「大丈夫!あなたはそれくらい頑張ったんだから!」
そう言われると、言い返せなくなりそうになる。自分をほんとに知っている彼女だから言えるのだ。だが、同時にもうひとつ疑問が生まれる。
「というかなんでそんなに、お金があるの?」
「…………」
突然、望は黙り込んでしまう。いつもの明るい表情から、暗い空気が突如流れ込んできている。それは彼すらも覆っている。
「え……なんか悪いこと言いました……?」
無唯斗は慌てふためく。まずいことを言ったなら必ず謝らなくては。
「無唯斗くん。地位が高い人間って……嫌い?」
暗い表情のまま彼女は質問を下す。そこには彼女もまた、苦労をして生きてきたかのように。そして謎を振り、自分の中で解決しようとするように。
「え?そんなことあるわけないじゃないですか!」
「…………!」
望は驚いた表情を見せる。そして慌てて止まり、片手に持っていた鞄の中から何かを取り出す。
「これ、見ても言える?」
そうして彼女が見せてきたのは小さく丸い、10cmほどの金色のバッチであった。それは人間が星を書くように三角形が5つ違う方向を指している。星と違うところと言えば真ん中に太陽のような記号が書かれているところ。
彼女はそれを無唯斗の顔の近くに堂々と見せつけた。
「…………」
無唯斗は驚く表情のまま何も言わない。それを見た望は「はぁ……」とため息をついて、
「ごめんなさい。あなたを騙すつもりは無かったの。ごめんね、私みたいな人……とっとと離れるから……」
そう言うと、鞄にバッチをしまおうとする。
そして彼女は早歩きで無唯斗から離れーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「…………え?何がダメなんですか?」
驚くように望が振り返る。突然見せられても何が起こったのか分からない無唯斗は疑問を浮かべている。
「え?だってあの王家なのよ!王家の人間が……あなた達と生きることなんて……」
彼女は見たことも無い暗い顔を見せる。だが、それは悲しみだと無唯斗はすぐに気づく。
「僕は注意力がないので、その王家とかはよくわからないですけど…………同じ人間なんですから。一緒に暮らしていいに決まっているじゃないですか!」
王家というものがなんだ。彼女は人権すら危うい自分に生きて良いと言ったではないか。みんなと笑って良いと、言ったではないか。それなら彼女だって同じように生きていい理由が必ずあるのだ。
「誰だって人間なんですから。笑いたいし、泣きたい時もある。その中に話したいっていうこともある。同じなんです。元が同じなんですから、話しちゃダメなんて理不尽すぎません?」
いいではないか。友達ならば、王様と友達になってはいけないなど、おかしすぎる。
「私は……!あなたを騙して……!」
「僕は騙されたと思ってませんし、あなたと笑い合いたいですよ?いつまでも」
望の目に涙が浮かび始める。それはまるで呪いから解き放たれそうな姫様のように。檻から開放される囚人のように。
彼女がこちらに向いている。その後ろには夕焼けが彼女を照らし、未来を照らすように光を出している。そして彼女もまた、同じように……
「……あなたって、不思議な人なのね。ありがとう!」
出会ってから一番の笑顔を彼に見せたのだった。
「で?私のデートのお誘いにはもちろんOKよね!」
「やっぱりお金が……」
「い・く・よ・ね!」
彼女は半強制的に彼を誘う。
「う……うん、わかったよ。行こう」
決まる。運命もまた、動き出す。
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「……有機A、無機Aとの接触、そしてテーマパークへの計画を確認。既にステップ八までは進んでいる様子ですが、どうされますか隊長」
黒いメガネ、黒い制服を着た女性が隣に立つ常人の二倍ほどの巨大な胴体、黒いスーツ同じくメガネをかけている男に話す。二人が暗い部屋、鉄製で囲まれていてそれほど広くない部屋で、無唯斗と望が話しながら帰る様子を映すモニターを見ている。
「……第二段階へ移行、私が許そう」
ニヤリと笑いながら巨大な胴体の男は言う。
運命の歯車は動き出す。
重たい話になってくるので、覚悟のほど、よろしくお願いします!
なるべく軽くできるよう努力します...
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