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34話「硝子心の姫」

「……つまり、衛兵の援軍を呼ぶんだけど、結界があるから無理……だから、信号を送るためにあの結構に衝撃を与える?」


「そうです!ミミちゃん!アルさんの協力が必須になりますけど……おそらく、猫種の衛兵と私の先輩であれば時間稼ぎをした内に到着できるかと。先輩は傷の治り次第ですけど……」


「はぁ……僕に作戦の命令か」


『魔』の権限者とその一行が来る朝よりも前の刻、屋上に立つアルへと作戦の提示をしに来たのはエルダとミミであった。


エルダは自信満々に来たは言いものの、作戦はアルの力量によるものである。


「おそらく、結界は透明なので外部との文字での交流は可能です。私も見に行きましたが、衛兵の一人が既に学園に見回りに来ていました。文字で作戦を伝え、後は最初の一撃を……!アルさん、貴方の一撃であればおそらく結界を一時的に破ることは可能でしょう」


「…………あぁ。もちろん。そうすることで戦力差は縮まると?衛兵は皆弱かった……本当に縮まるのか?」


第二都市で実際にアルは衛兵達を壊滅的まで追い込んでいる。そして、アルの大殺戮により人数も大幅に削れているものだろう。

しかし、アルの懸念点はエルダにはあまり懸念点としては不十分なようで、


「ーーー権限者に立ち向かえるのはわずかです。でも、先輩と、私……それに仲間がいれば絶対越えられます。私にかけてみてください、権限者」


なぜなら胸を張って答える彼女の目は、本物であったから。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


「……誰かと思えば、あん時怪我してた女じゃないかい!傷はすっかり治っているのね!」


「あぁ、こちらも色々手を打ってあったのでな。直に援軍が来るぞ」


エルダ、そしてクロエ救出に来たのはナルミである。エルダの先輩、そして手に持つ輝くレイピアを使う青髪の女性。


その輝くレイピアから解き放たれた一閃を避けたガラは、片手を広げ進軍するアルビア軍を一時的に止め、被害を抑えた。だが、彼女らにとっては謎は深まる。


ーーー結界外の人間が、この結界にいることに。


「ーーーなんでいるのか、そう思ってるでしょうけど……アルさんの一撃は私たちの思ってる以上です」


「……なるほどね。でも、ここまではかなりの距離がある。私たちが攻撃を開始したのはそんなに時間は経っていないはず」


「ーーー特異種、そしてあなた達のワープゲートの原理を利用しました」


ここに揃っているのは、衛兵と言っても猫種の者ばかり。速度に特化した者達であり、ナルミはその猫種に引き連れてもらったもの。


そして、それ以上に救援を加速させたものがある。あのアルビアも使用していたワープゲートだ。


「犬種の衛兵の方たちには、総出で一つのワープゲートの作成をしてもらいました。権限者ではなくとも、人がいれば作成は可能」


エルダはワープゲートを一つ作成させ、そこで距離を稼ぐ。しかし、ワープゲートなど作るのは容易いものでは無い。距離にも素人には限界があり、そこで猫種で距離を縮めたのだ。



「なるほどね……ぐっ!あんた達も姑息にやるじゃない……でも、アルビアの姉さんにとっては逆に獲物が増えて好都合なんじゃない?ねぇ姉さん?」


「ふふっ、そう……私は今一人の血しか見ていない。貴方達が総出であの『無』の権限者にかかっても勝てないわ。なら、私の邪魔はしないこと。あとはたっぷり殺して、魂だけ浮かばせて?ガラ」


「はぁい……行くわよ!あんたら!」


ガラは爪を一つ噛みちぎり、その苛立ちを己へぶつけては、アルビアへと質問をかける。


一方アルビアは問題無さそうに屋上に立つ男に目を向けたままだ。どうやってあの獲物を捉えようか、殺そうか、メインディッシュの食べ方に迷うアルビアに、ナルミ達の姿は映っていないのだ。


アルビアが命令したことに従順な部下達はそれぞれが反応し、その意見は一致している。


それはもちろん、この学園の人間たちを殺すことに違いない。


ガラの掛け声と共に足を再び動かしたアルビア軍は、一気にその正門に向けてぶつかってくる。


「エルダ!来るぞ!」


「わかってます先輩!あのガラという女性の相手、私に任せてください」


「……今度こそ、できるのか?エルダ」


ナルミ達もまた、正門から後方に広がっていき、ナルミ本人はエルダの傍へと駆け寄った。

ナルミから聞こえてきたのは、あの時の心配の声だ。確かに衛兵本部が襲撃された時、ナルミの前ではまた動けなかった。


でも、今は背中に居てくれる者ーーー自分を肯定し、その上でやりたいことも、これからの道筋も、そして恐怖すらも温もりと共に支えてくれる仲間が増えた。


ナルミがそうでなかった訳では無い。でも、過去を語らずとも理解してくれる仲間と、失いたくないものが背中に居るから。


「ーーー今の私は、前よりずっと強くなりましたから」


それは、自分を動かす理由にならないわけが無い。


「ひひっ!あんたとはまた会ったね!!弱虫の女!」


「ぐぅ!もう負けない!!かかってこぉぉぉぉい!!!」


エルダが自信に満ち溢れた目つきと共に刺していた剣を引き抜き、自分の背中に構えるようにすれば、ガラがそこに一直線に突撃してくる。


ガラが持つのは鎌だ。先端から鉄の部分が紫色に輝き、どこか重い空気を滲みだしたものは、その刃をエルダに振り下ろし、重い一撃を繰り出す。


しかし、もちろん構えていたエルダはそれを構えた剣を横向きにし、縦に振り下ろされた鎌を受け止める。だが、それだけでは重い一撃は受けきれない。

衝撃とともに、後ろ方向に身体ごと吹き飛んでいけば、ガラもまた直線に飛び込んでいき、鎌と剣を境に向き合うように後ろの校舎へと吹き飛んで行った。


壁は崩れ、校舎内へとガラとエルダが突入して行ったのを確認したナルミは、一つため息をついて、


「はぁ……私も過保護なところが出たな。後輩を甘く見ていた。さぁ来い、矛先はお前たちを穿つ!」


「では僕らも行きますかぁ!散らばれオラァ!お前たち!」


また一人出てくるのは、あの衛兵本部を襲った際に戦闘をしたカルという男。猫種であるが、目元に傷があり、白髪に薄気味悪い顔つきに目元は細い。レイピアの先端をアルビア軍へ向けるナルミと対峙すると共に、軍は一気に進行する。


「ーーー戦争開始」


ナルミが呟くともに、ここに上級学園での決戦が始まったのだった。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


「はぁっ……はぁっ……」


開戦してから数分、魔物達の進軍を止める衛兵達だが、それを突破してしまう者もいた。

屋上より少し下から見下ろす有村明梨は、その光景に急いで下に階段を使い降りて行く。


もちろん、魔物の対処はこの学園に居る者なら可能な者が多い。しかし、精神的な問題や経験での問題は別だ。

有村明梨は実際、アルビアとの交戦においてかなり弱体化しているアルビアを仕留めている。一回目の殺傷よりも、躊躇いは他人より少ないだろう。


だが、それよりも明梨が走る理由には、別の訳がある。


「………典子さんっ」


エルダの先輩による救出劇と、援軍。それを見た明梨の記憶には、思い浮かぶ景色があった。


小佑のためになにかしたい、だがそれはアルでしかできないものと言っても過言では無い。

ならば自分にしかできないこと、それを考えれば一目散にその『誰か』に入るのは典子だ。


「まだ感謝もっ……お別れだって、私は逃げたっ……」


ーーー一番に守りたいのは、その優しさ。


孤立無援だった明梨に手を差し伸べてくれた、その優しさに甘えていた自分。

たとえ勘違いでも、亀裂が生まれてしまい、別れることになったあの日。


自分を犠牲にするのなら、このままもう接点は無くてもいい。


「でもっ、優しさと……あの輝く絵を描く手だけは、汚したくないっ……守りたいっ!……はぁっ」


「生徒の場所に入れさせるなっ!来るぞ!」


「ーーーー!」


勢いよく走り降りた先には、もう既に壁に爪を刺し、よじ登ってまで獲物を仕留めようとる悪魔のような魔物が窓を破り、乗り込んでいた。


教員達も二人ほどだが、それぞれ戦闘態勢に入り、槍や剣を構えているが、相手の量は多数だ。


このままでは、典子の居る教室……自分のクラスメイトまでも、魔物が接近する可能性がある。


「教室内に入らないうちに……ミラーサファイアレンス、百合の銀華……!」


手のひらを正面の廊下へと伸ばしていけば、力強く硝子の華の生成へと己の意識を向ける。震える指先からゆっくり広がるのは、一つの白い硝子の華。


大きく、縦に伸びる華が四枚繋がっていれば、その中心を魔物に見せつけるように咲いていき、中心からは黄色く輝く種子が広がっていく。

その種子達は一気に廊下の両壁へと繋がっていけば、一気にその無数の種子が花咲いていき、小さな百合の華が一気に展開された。


「君!君も生徒だろう!教室に入るんだ!」


「いえ!私は……有村家の長女!第三都市皇女!有村明梨!これでわかりますか!私は他の生徒より能力という点では優れてます!やらせてください!」


「まさかっ……君が、噂の『悪魔の皇帝』の娘……」


もちろん、教員だろうと名前を伝えれば怯えるだろう。でも、知名度はある。


ーーー第三都市に住めば命は無い。だが、金のないもの達や逆に富豪は皆あの街に住む。労働者と、出れなくなった者が無数にいるのだから。


そんな悪魔のような都市の皇女を、知らない者はいない。自分で言うのも、嫌なくらいだ。


でも、今しなくてはいけないことは、自分を守ることじゃない。


早くしなければ、魔物は今にもドアを破壊しようと叩き、目の前の獲物を喰らおうとしている。


「魔物は色んな方向から来ます!二人も気をつけて!ドゥード!!」


叫んだ明梨の声とともに、無数に広がった華達が魔物の頭目掛けて一気に発射されていく。華が命中した魔物達は、頭を貫かれれば、その体の機能は停止し、一気に倒れていく。

魔物はあくまでアルビアが生成したものだろう。灰や塵になり、消滅するものが多かった。


しかし命中するも、貫かない華も多くあった。


「やっぱり、小さい分火力が足りない……」


弾数は多い。しかし、それを貫けるのは限られている。貫くことが出来なければ、足止めにしかならない。

百合の大きな花は再び種子を広げながら、弾を補充するように硝子を散りばめていく。しかし、再び発射しても同じこと。


「なら……!私自身が手を汚せばいいこと……!」


硝子を縦に伸ばしていけば、そこにはコロシアムでアルビアを切ろうとした剣を生成、横からキャッチするように取れば、回すようにして構え直し、その剣先を魔物へと向ける。


己の手は、既に汚れている。勘違いだとしても、父の濡れ衣を着ていたとしても、


この手は、汚れてる。


「でも、他の人の手は汚させない!もう一度!!ドゥード!!!」


叫び、その声は教員の二人にも聞こえるほどの声量。

一気にかけ上がれば、再び種子が発射され、硝子が魔物を貫く。

しかし、これも同じこと。貫けない魔物は立ち上がって、教室のドアを叩き壊そうとする。


そこに来るのは明梨だ。走り抜けて来た明梨は、その速度を乗せて一気に残った魔物達の首を剥いでいく。

まずは二匹、そしてその後ろに立つ魔物が爪を伸ばせば、体を逸らして避け、その剣先を首を狩るように横に振り下ろす。


「はぁぁぁ!」


そのまま加速していけば、教員達が手こずっている魔物達まで速度を上げて何体も首をとる。


戦闘技術は子供の頃から勉強として学んできた。そこらの生徒たちとは技量の差は生まれるだろう。


「くぅぅ……!これで…………!?」


廊下の端まで駆け抜けては、足を伸ばして自身の勢いを止めるため、摩擦を発生。その廊下の端で止まれば、自分が倒した魔物達の方へと振り返る。


しかし、明梨が目にしたのは、ただの魔物の大群では無い。


「……数は減った……でも、明らかに増える量が変わってる……」


先程よりも、魔物が再発生、壁をよじ登ってくる量が変化したのだ。

減った、それは諦めたのならいい。しかし、方向が変化する可能性を明梨は見ていた。


「どこから来る……どこから……」


「きゃああああああああああ!!!」


「どうした!?まさか中の強化ガラスを!」


悲鳴と共に、戦っていた教員達は一斉にドアを開ける。

明梨もまた教室のドアを開ければ、そこに広がっていたのは悲劇だ。


教室内のガラスを破り、侵入してきた魔物達は叫びながらも、教室内の生徒一人の首を噛みちぎり、血を教室内へと撒き散らしていた。


「ーーー!まずい……!」


「逃げろ!お前ら逃げろ!」


教室内に広がる悲鳴の中に、希望を見出すように足を動かす指示を出す生徒がいた。


人間というのは、どうすればいいのかわからなくなった瞬間、自分が安静できる方向へと進んでしまう。


しかし、今においては全く逆なのに、


「い゛た゛い゛!だずげっ!」

「やだっ死にたくない!!」

「まだ来るぞ!うああああああ!」


教室内で、また一人、魔物の爪に貫かれ死んだ。

また一人、頭を飛ばされた。

また一人、頭ごと食い破られた。

また一人、心臓を貫かれた。

また一人、自殺を図って魔物に突撃した。


また一人、と殺られる内にドアを開けた先ーーー信じられない光景に目を見開く明梨の後ろには、まだ魔物が広がる。


ここは、完全に魔物に包囲されているのだ。

上の階なら魔物が来る速度は遅い。でも、ここは下から数える方が早い。


ドアを開いた生徒は叫び、後ろに倒れれば足を震わせ、なんとか逃げようとする。しかし、開いたのは明梨のいない方向。魔物の、野獣としての叫びと共に爪がその男子生徒の足を貫いていた。


「お前たち!早く生徒を逃がせ!早くだ!」

「は、はい!皆!衛兵について行け!」


遅れたタイミングで衛兵数名が駆け上がってきた。ここの廊下は大惨事である。

衛兵には猫種が多い。速度は上がっていて、一気に魔物の殲滅にかかるが、手馴れているとは言えど魔物の数が多すぎた。


「だめっ……ここじゃ……!」


明梨は現状を廊下、そして教室を見て把握した。猫種の特技である速度も、生徒が一斉に教室から飛び出し、それも四つもクラスがあっては、人が多すぎて速度を上手く利用できないのだ。


走り抜けることも出来なければ、なんとか近くにいる魔物を倒していくしかない。


「でもそれじゃ……間に合わない!向日葵の銀華!ドゥード!」


廊下に出た生徒達の中にも、立ち向かう者もいれば、食われて、貫かれて、魂が消える者もいる。


血が溢れた廊下に、硝子の華を咲かせては、魔物と生徒を切り離すために一気に正面に向日葵の花が伸びて行った。


これで、廊下は時間を稼げる。しかし、教室内から出るのが難しい生徒達は、未だその惨劇に巻き込まれたまま。


下の階からは着々と戦闘の音が響いてくる。皆、反撃しなければ死ぬことを理解し始めている。


明梨一人が立ち向かうより、皆でやる方が死なないことは確かだ。


「ーーー皆さん!戦ってください!戦わなければ死にます!お願いします!!」


できるだけの声量で叫んだ。こんなのキャラじゃないのになと羞恥心に襲われながらも、そんなことを考えている暇はない。


叫びを聞いて立ち向かう生徒は増えていく。ここも、衛兵と協力体制に入って行ったのだ。

やっぱり、先日のエルダの願いは無駄では無い。それを、ここが証明してーーー



「ーーー典子さん!!いやっだめだよ!」

「私たちも死んじゃうよ!!逃げなきゃっ!」


叫び声の中に、なぜか世界が静まった気がした。


聞きたかった、会いたかった、謝りたかった人の名前。

誰かの叫び声が聞こえては、争いと逃走で混雑する廊下を駆け抜けていく。

はやく、早く、速くしなければいけない。


その為に、今の自分がいるのだから。


「どいてください!どいて!!!ーーーー!」


自分が走るのは、皆が教室から出てくる方向とは逆方向だ。教室の前までは流れは同じだったが、ここからは違う。


声を荒らげて、逃げ惑う者達を退けて、向かう先ーーー





手を伸ばした





「ーーーー!」





きっと、美術部の彼女だから、運動はあんまりだったのだろう。


優しさで、一番後ろだったのかもしれない。



前のめりに、足を挫いた典子の姿。



時間が止まって見えた。流れる生徒も、自分が手を伸ばした先の彼女も。




目が、合った。





後ろから、魔物の爪先が伸びてると言うのに、その眼鏡の先の、つぶらな瞳が明梨を見つめたのだ。





ゆっくり流れる時間の中で、必死に伸ばす手は逃げる生徒に阻まれ、届かない。



伸ばして、伸ばして、伸ばしーーー



「ーーー久しぶりっ」





涙目の彼女の顔は、向日葵のように咲いた。






「ーーー!ドゥード!!!」






手を伸ばし、人混みを抜け、叫んだ明梨の先にはーーー







ーーーいつかの時、彼女に渡した硝子の華が、貫こうと向かう爪先から彼女の背中を守るのだった。

長文ご覧頂きありがとうございました!よろしければブックマーク、評価、感想の方よろしくお願いします!

期間が空いて申し訳ないです!コロナになってたり作業があったり、ばたばたしてました!

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