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32話「協力要請」


「………もしかして、あなたがお願いするんですか?」


屋上、二人で会話をするアルと有村明梨はこれから来る対アルビアの作戦会議のようなものをしていた。

アルビア軍をアル一人で捌くのは正直言えば不可能に近い。簡単に言ってできることではないのだ。


そこで考えたのはアルの周囲の協力の必要性だった。

そんな話を聞いた明梨は思わず口を開いてしまう。皆殺しをした事のあるアルが、そんなことを言い出したをびっくりしたのだろう。


「それしかないだろ、ただでさえ戦力不足だ」


「それはわかりますけど……あなたがお願いをして、それに頷いてくれる人が何人居るんでしょう……」


「おい……!」


でも確かにそうだ。有村明梨を守る、この学園の人間も一応は守る側であるアルだが、その前に一人の殺戮者である。

第二都市での戦闘の結果は報道され、生徒たちに回っているだろう。そうなっては、そもそも表に出ることすら危険行為、または空気を乱す可能性もある。


「でも、そうするしかないのも事実です。私が出ても、睨まれるだけですから……それにミミさんでは幼すぎてきっとまとまりません」


「あとはあの衛兵だけか……あいつが前に出るだけの心意気を持っているといいけどな」


明梨の嫌われ具合はアルにはわからないが、本人の暗い顔を見るにおそらく相当なものなのだろう。しかし、ミミが出たところで説得力は皆無、説得できてもまとまりがない。


残るはエルダだけ。彼女の爆発力にかける価値は十分にあるだろう。しかし、その全ては弱点を克服したら、の話である。


「エルダさんのところにはミミさんが向かってます。彼女も、食料を取りに来ませんでしたから。きっとあの同級生の話が原因でしょう」


「とりあえずあいつらのところに向かいながら、説得の方法を考えるしかないか……」


「はい、エルダさんのことを考えながらとりあえず、避難所へと向かいましょう」


エルダも取りに来なかった、それだけの悩みは確かにある。エルダの言っていた同級生の話、それが原因だろう。


立ち上がるアルは思考を回し、エルダが前に出る方法を考えるのだった。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


「任せてください!私にできないことはないです!私がやりたいこと、やってみせましょー!」


「おおー!いいぞー!エルダー!おおー!」


「あの……何があったんですか、これは」


心配しながら歩いていく先、ちょうどアル達とエルダ達が合流できる場所には、ルンルンでステップを踏むエルダとミミがいた。

明らかにテンションが違う二人に困惑する明梨と、ため息を一つつくアル。

アルが思っているより元気な姿に、心配をしすぎたとすこし後悔するほどだ。


「ミミちゃんのおかげです!とりあえず……自分のやりたいこと、やってみようって思えたんです」


「そうなんですか……元気になれたなら、良かったです。本題なんですけど、エルダさんにしか頼めないことがありまして……」


元気になったエルダは、ミミに救われたという。きっと、二人にしかわからないなにかがあったのだろう。それは置いて、エルダに頼み事があると、明梨は言葉の途中で視線をこちらに送ってきた。


おそらく、説明は自分でしろということだろう。


「はぁ……おそらく、僕らだけではアルビア軍は弾けない。魔物くらい殺せる……少なくとも教員は全員だ。戦うように説明して欲しい」


「えぇ!?いきなり大役……!でも任せてください!私今が一番やる気あります!とにかく説得と、説明をすればいいんですよね?」


「あ、あぁ……そうだが……」


「任せてください!衛兵ですから、信頼度抜群でしょう!」


正直驚いている。目を見開くほど、そして言葉が出ないほどに。

前までとは違い、なにかが背中を押してくれたんだろう。それが刺さっているのならばいい事だが、変わりように追いつかない。


しかし、エルダは一歩踏み出して拳を前で握りしめながら、やる気があると目つきでも伝えてきていた。これなら安心してもいいかもしれないと、思える。


「へ、変なことばかり言ってはダメですよ!?しっかりと真面目な言葉ではっきりと……」


「わかってますわかってます!衛兵エルダ、二級兵として……真面目にやります。私も変わったところを見せないといけない人がいるので」


明梨が心配するその言葉遣いなどは、エルダの自信には関係ないらしい。


エルダの覚悟の目付き、そして何かを思うような心が、そこにはあったのだった。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


ここは体育館だ。現在は謎の障壁により脱出不可能となった人々が避難する避難所となっている。


何人もの人が、学園に多く備蓄してある食料や水を手にしている。しかしもちろん、突然のことにだれも明るい顔などしていない。

コロシアムでの殺人事件、そして今までの行方不明の原因がもしかすると繋がるということはどの生徒も理解していた。


そして、先生になった私ーーーノノは、みんなの元気づけをすることしかできない。

昔にも味わったこの無力感。でも、教員がどれだけ力を込めても開くことはなかった障壁。

私でもダメだった。それを聞いた生徒の顔は今にも思い出せる。


はやく帰りたい、なんでこうなってるのかがわからない、そう誰もが思っていた時だった。


「……えーこほん。マイクテストー!こんにちは皆さん!下を向いてる方もどうも!エルダと申します!」


体育館に響いた声に、下を向く者たちは皆驚いて顔を上げた。私も、その驚いた一人だった。


エルダが、演台にいるのだ。同級生、そして学園に突如として現れたエルダ。思い出したくない記憶を、もう一度をフラッシュバックさせる。


「あ!突如なんだと思いましたよね!?私、衛兵なので危害とかは加えません!安心してください!」


「衛兵……?」

「おい、衛兵がきた!」

「助かったー!良かったぁ」


ーーー『衛兵』、それはこの都市の一番の信頼度を誇る組織。それを聞いた生徒、そして教員達もまた安堵の声を上げた。


それはそうだ、やっと開放される。この謎の獄中から、ようやくだった。


「えーっと……安心してくれてるとこ悪いんですけど!まだ……この結界からは出れません。私もたまたま中に居ただけなので、みんなと同じです」


「はぁ!?何しに来たわけ?」

「まだ帰れないってこと……」

「衛兵がなんとかしてくれよ!」


演台に立つエルダに向けられた言葉は、罵倒だった。それはそうだ、原因が解明されていないとなれば、またコロシアムのようなことが起こるかもしれない。


「ごめんなさい、でも……みんなに伝えたいことがあって、ここに立っています。これからの脅威と、どうすれば助かるかを」


脅威、その言葉に教員は皆耳を傾ける。もちろん生徒もまた、少し声が小さくなって行った。


「……単刀直入に言います。明日の朝、『魔』の権限者とその軍勢ががこの学園を襲い、我々に危害を加えてきます!」


「権限者って……エルダ……」


生徒たちはもちろん、一瞬にしてざわつき始めた。権限者が殺しにくると言うのだ、みんなが慌てるのも普通の反応だろう。


私も、その現実にどうすればいいのか頭が一瞬回らなかった。


「お、落ち着いてください!なにも今すぐってわけじゃないです!それに話はここから!……私たちを守ってくれる人を、紹介します。『無』の権限者、エルデ・アナストラルです……」


ざわつく人々を、マイクを使い大きな声で鎮めれば、さらに現れたのは権限者だ。横から歩いてきたのは白い服に、目元に傷のある男。少年は白髪で、あれは報道されたものと同じだった。


前の方に座っていた者は皆、後ろへと後ずさりしていく。権限者という驚異に悲鳴をあげる者もいれば、恐ろしくて声が出ない者もいた。


「エルダ……ここからどうするの。あなたは……」


「ーーーこの人は!皆さんの味方です!衛兵の私が保証します!ですが、彼だけでは権限者は返せません!大勢です!一人で守るのには……!」


「おい!権限者だぞ!」

「にげろ!殺される!」

「たすけて!私をたすけて!」


聞いてくれる者はいなかった。ざわつく人々は静まることなく怯え、恐怖を声にあげた。

エルダも苦戦を強いられてる様子だった。私もなんとか抑えようとするけど、同じように怖いのもほんとだ。


権限者、先日皆殺しを行った張本人が前にいるのだから。


「……エルダ、信じることが……信じたいのに、」


できない、難しすぎる、そう思っていた時だった。

エルダも実際、今目の前であたふたして、裏にいるだろう仲間と会話している。焦ってはいるものの、前よりも少し……元気があるように感じる。


だがそんな彼女の頑張りとは裏腹に、体育館にいる生徒たちや先生方の不安は静まることは無かったがーーー


「ーーー皆の者!静粛に!!!」


大地を揺るがすような大きな声、それは演台の横側から向けられた。私も驚いて見れば、そこに立つもう一人の姿ーーーそれは、この学園の校長だ。


老人だが、その轟く声に合う気迫、そして尖った目つき、その声に皆が一瞬にして静まっていく。

地響きが起きそうな声の元である校長は、その風格と共にエルダに「失礼」と言うと、マイクを握った。


「……この男は今朝、私を助けてくれた。この障壁が立つ前のこと。原因である『魔』の権限者を止めようとした私が……やつにやられ、死にかけたところをこの『無』の権限者が助けてくれたのだ」


校長が言うに、私たちが来るよりも前、早朝に権限者に遭遇し、傷をつけられたところを助けられたというのだ。

ここで思うのは、確かに身近にいるのにこちらに危害を加えないこと。そして、共通認識として、『魔』の権限者は敵だということ。


「すまなかった。皆が出れなくなってしまったのも、私が『魔』の権限者を止めることができなかったからだ。本当に、申し訳ない……」


深く頭を下げた校長は、生徒と教員全員に謝罪してる、そんなふうに感じた。

そこまでされると、我々も批判を浴びせることはできない。批判したところで、変わることじゃない。


「その上で、この少年を信じて欲しい。この衛兵の少女の言う言葉を、信じて欲しい。責任を負うのは私で構わない。頼む……私からの、最後の頼みだ」


深く謝罪した上で、皆に彼を信用して欲しいと言う。信じるまではいかない、それはみんなそうだろう。


でも、悪者だと非難しようとする生徒は、いなくなった。

これだけでも、きっと……校長の役目は果たせている。すごい人なんだ、あの人。


「……えーっと、校長先生が言ってくれた通りで……彼は、悪い人じゃないです。それに、これから襲われるってすごい怖いことですよね……私も、前に踏み出すのがすごく怖いこと、わかります」


顔を上げた校長に変わり、エルダはゆっくり話し始めた。これから、殺されるかもしれない。権限者の軍団が来る、その恐怖はみんな同じだ。


「大切な人、周りにいますよね。帰りたい場所、あると思います。逃げたい、もうダメだって思う気持ち……わかります」


エルダの言葉には、少し重みがかかっていて、その深く言う言葉になにか悩みがあったことは伝わってくる。


私にも、この仕事をする前に、すごく落ち込んだ。教員すら、できないかもしれないと下を向いた。


「……その上で、もう一度言います。みんなも、戦って欲しいんです。近くに魔物が来たら、自慢の能力で吹き飛ばしてやってください。帰りたいと願う誰かが襲われてたら、その手を差し伸べてください」


そんな下を向いた者たちに、戦えと、エルダは言ったのだ。


どうせ死ぬくらいなら、戦った方がいいかもしれない。少しでも、生きたいと思えるいまだからこそ、


「みんなで戦えば勝てます。権限者本人、そして幹部級は全部任せてください!衛兵が守ります!だから!



ーーー誰かの手をとって、自分と同じ気持ちになってる、そんな誰かのために戦ってくれませんか。踏み出すのが怖い私も、前に進みます!今!みんなで戦うために前に進みませんか!」


声を大きくしたエルダ。再びその声に合わせてざわつく人々だが、先程とは違った。

少しだけ、みんな抗おうかなと、顔を上げたのだ。

私も、彼女が変わってないと思ってた。でも、やっぱり彼女は衛兵に選ばれるだけの実力がある。


「……やっぱり敵わないな、エルダ。妬ましい、けど私も……ちょっと前に進まなきゃね」


「……い、以上です!明日の朝!私や権限者はスタンバイしてます!みんなは来る魔物だけで大丈夫です!それでは良い睡眠を〜!」


焦るように帰る姿のエルダ、言いたいことを言えたらすぐ撤退。ほんとに、わがままだけ押し付けたような少女である。


ずっと目をつぶっていたあの権限者も、同じように歩いて去っていく。再び、生徒と教員だけの空間が、生まれた。


「……でも、気持ちは変わったね。みんな……私も頑張るからさ、みんなも……簡単にやられるくらいなら、みんなのために戦おっか」


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


「朝のおっさん、まさかあんたがな」


「あぁ、とても助かったよ。君の親切心が私を救ったんだ」


アルは演台の裏側で、校長と会話を交えていた。

朝、あのビルの上から降りた時にいたボロボロの老人が、校長であったのだ。


「僕はこの学園を問答無用で壊すつもりで戦う。じゃなきゃ勝てない相手だ」


「ほっほっ、別に構わないよ。生徒の命を奪うことは、きっと今の君にはできないだろう。人殺しに正当化する理由はない、でも償うことは……間違いじゃないよ」


その言葉に、思い出すものがある。


(ーーー全部頼んだぜ、アル)


自分のために、命を捨てた男がいた。権限者の奥義を命をかけて止めた男、その想いは必ず果たさなくてはならない。

果たせと、心の中の少年が叫んでいるから。


「……あぁ、いずれ僕が生徒だって滅ぼす。でも、その順番が変わっただけだ」


今は、前を向かなくてはいけない。


誰かのための戦いに、亡くなった友人の言葉を胸に、そんな運命の戦いを……




「やるぞーーー神無月無唯斗」


勝利のために。『希望』の少女のために。


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