31話「重来する炎」
「み、ミミさん……!あ!これはその……遊んでる訳ではなく、地面にお宝があるかな〜!なんて……思ったり……」
気づけば地面に頭を打ち続けてた自分に羞恥が止まりそうにないエルダは、赤く染めた顔で行き場のない手を振り続けていた。
(今私は自分を振り返って、その行いが罪だとわかって、何度も打ち付けて………うぁぁぁ!)
もう仲間に合わせる顔がない、思考がぐるぐると回り続ける中、出てきた意味のわからない言い訳。
「そ、そうです!温泉でも沸かそうかと!あはは……」
「……エルダ、泣いてる?エルダ、辛い……?」
言葉を並べる中、聞こえてきたのは震える悲しい声だった。
その言葉にハッと目の前を見てみれば、ミミは心配そうにこちらを見つめているではないか。
「いえ!違うんですよほんとに!違くて!私はただっ……」
なんとか保とうとした自分の威厳に、言葉が繋がらなかった。何か言いたいのに、否定する言葉が浮かんでこなかったのだ。
震える唇と声。そして立ち上がろうとすらしない足に、また自分の居るべき場所がわからなくなっていてーーー
「ーーーん、ミミはねーなんでも聞く!でも聞かなくてもわかることある!エルダは、きっといい人!」
「ちょっ、え……」
ゆっくりと歩み寄ってきたミミは、エルダの隣に座ったのだ。そして、肩を預けるようにすれば、励ましの言葉をかけてくれる。
自分よりも小さなミミの肩から、自分の腕に伝わる温もり。ただ硬直することしか出来なかった。
「ミミのお母さんが言ってたんだけどね、ミミは傷ついてる人がいたら、寄り添ってあげるのがいいんだって!どんな理由でも、まずは温かさが肝心!だとか!」
「ミミさん……わ、私は守る側です。こんな所で、情けないことは……」
「ミミ、アルとアカリに助けてもらった。もちろん、アルビアと戦ってくれたのはエルダ。だから、ミミは明日、頑張ってやれることやるー!って決めてる!恩返しとか、どうせ死んじゃうかもしれないならとか……いっぱいあるけどさ!」
エルダに届くのは、なぜか明るく前向きなミミの笑顔だった。言ってることは、死ぬ気で戦う……そういうことと変わらないのに。
「アルビアの幹部達と……だ、だめです!ミミさんが死んでしまっては、きっと悲しむ人が……」
「さっきからエルダは、ずっと強がってる……怖いのに立ち向かってるぞー!って、怯えてないぞー!って」
ーーーそうだ、私は怖いのを押し潰してるだけだ。
失うのも、目の前に現れるだろう恐怖にも、今の自分の行動の結果にも。
全部が、怖いのだ。
「……そんなの、頑張って押し潰して……私がっ」
「ーーー怖がっていいんだよ?エルダ」
「ーーー!」
聞こえたのは、今の自分を肯定するわけでも否定するわけでもない、そんな優しい言葉。
思わず視線をミミの方に向ければ、輝かしい青色の瞳に、心配する顔。
でも、それは怯える自分を撫でるのでは無い。進ませる決意だった。
「怖いって思っていい。弱いとこだって、見せたっていい!傷つけちゃって、怖いのに立ち向かう勇気がなくても……別にいいよ!でも!強い自分を押し潰しちゃうのやめようよ!」
「…………ぁ」
ミミは身長も小さい。はずなのに、大きく聞こえる声はエルダの心を貫いて、言葉と一緒に伸ばした指は、エルダの心を指していた。
「エルダ、ずっと隠してる。ミミ達に会ったときから、自分はダメだ、自分はダメだって。違う!ミミが言ってあげる!エルダは優しくて強い!誰かのために動けるすごい人!わかった!?」
「は、はいっ!……でも私、もう傷つけてしまって……いつも力は、誰かを不幸に……」
「きっと、同じように誰かを幸せにしてると思うよ?お母さんとか!」
ミミの言葉に思わずハッとしてしまう。図星だ。
動けない自分を誤魔化してた、言い訳だったのだ。もしかしたら、これは……呆れられた報告なのかもしれないと、下を向くエルダに、ミミはエルダ両肩に手を添えて、正面に立った。
そして言われた言葉に、流れてきたのは……
(ほんとに!?ノノちゃんも無事で……エルダ!あんたやっぱりすごい子だよ!帰ってきたら衛兵なってるなんて!もう!)
ーーーあの時、私は素直に喜べなかった。ノノを踏み台にした私は、喜ぶ資格なんてないと思っていた。でも、ほんとは……
「それに!今からでも変えられること!いーっぱいある!エルダはもっと『勇気』を持って!言いたいことも!やりたいことも全部やろ!」
「勇気……今から、変えられること……」
「うん!辛ければ一緒に!ミミ達いるもん!エルダは間違えてないって言ってあげる!何度でも!勇気を出して向き合えばきっと!エルダいいことある!ミミが保証する!」
ミミの言葉に、自分は揺れてしまう。いや、揺れたんだ。
わからなかったことが、少し開けたように見えた。自分がするべきこと……そこに対して、向き合うこと。
「エルダは……どうしたいの?」
自分はもう一度、向き合う覚悟が必要なんだ。誰かの幸せのために、衛兵になったのなら。
怖がってもいい。でも……ノノや先輩に、笑って欲しいから。
「怖いけど……やってみる。私は怖い。怖いよ……でも……みんなに笑って欲しいから!!!」
向き合っていた顔を下に向けて、声を空に上げた。
これが、覚悟になればいい。背中を押すことがミミなりの励ましだ。
もし、過去に向き合えるチャンスが今ならーーーやるしかない。
「ーーーもう一度、あの笑顔が見たいから」
立ち上がって、進むんだ。
立ち上がったエルダ見上げるミミは、そっと微笑む。微笑み返し、手を繋いで歩き始めた。
どんな物語にも、挫折する場所は必ずある。でもそんな時、手を差し伸べてくれる人がいて、自分の気持ちに素直になれた時、
ーーーこんなにも、人は立ち上がれるんだ。
前向きなエルダにも、『勇気の道標』が、開かれていた。
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広がる青い空、そしてそこに光る星は何事も無かったように日常として人間達を照らしている。
そんな夜空を眺める男ーーーアルは、屋上の端……一歩踏み出せば落ちる場所で立ち、ただ眺めるばかりだ。
ーーー勝つ方法、つまりアルビアを全て捌き、『魔』の権限者を穿つ方法をかんがえなくてはならない。
正面からやり合うのも悪くは無いだろう。もちろん負けるつもりは無い。だが、それ以上に……
「…………なにかが変わってる。ワープゲートとの境目で会話した『あいつ』が理解してから。違和感はなんだ?」
手を開いたり閉じたりしながら、自分の中の違和感を確かめる。
ワープゲートとの境目で現れる声。それが誰なのかも理解できない。
ただ、相手は理解しているようだ。でも、聞き覚えのある声に自分もまたなぜか理解した気分になっている。
「なにもわからないのに、理解した?あいつと話す方法があるのか……」
ーーーおそらく、直接話すことは不可能に近いのだろう。あいつが出てきた瞬間の共通点を考えると、感情ではおそらく無い。
「……入った時と出てきた時では……僕は変わっていた。なら……!」
ーーーもしかして、と目を見開いた瞬間だった。後ろから来た拳……ではなく、指先が背中を押す感覚が伝わる。
とっさに後ろを振り向いては、敵の位置を把握しようとするがーーー
「ーーーなんですかその目は。確かに立てとは言いましたけど、こんなところで立てとは言ってませんよ」
ぎろりとした目つき、それは敵を視認するためだったが、その後ろに居たのは金髪の少女である有村明梨だった。
指でこちらを押しては、呆れたような顔で変わらずこちらを見つめていた。なんだとほっとする反面、その目を見ると悲しい気持ちがまた浮かび上がる。
ーーー自分のために、死んだ者がいることが心を締め付ける。
「………僕は明日のためにここにいる。それに、この学園の生徒でもないから寝袋も食料すら僕の分は備蓄してないだろう」
「だから私があなたの分まで取ってきたのにも関わらず、その食事を取りに来ないことに不満を感じているんです。これ、食べてください」
こちらが口を開けば返される正論に少し言葉が止まってしまうが、そこに突き出されるのは小さな携帯食料、パンのようなものと水だった。
なんとなく、まだ不満そうだがそれと共にどこか恥ずかしさもあるような、下を向いた彼女がいる。
「……早く取ってください。ミミさんはあなたと会うと絶対喧嘩しますから、私が来たんです。ぼーっと立ってるなら私が『無』の権限者を倒しますよ」
「ぁ……あぁ、それは……悪かったな」
でも恥ずかしさを感じるのはこちらも同じだ。なんと言っても対人関係は皆無に近い。戦いのことばかりで、日常会話が上手く回らないのだ。
すぐに二つを受け取れば、明梨は解放された手をすぐにしまって後ろを向いて一つ呼吸を置く。心配そうな視線も、今の彼女には敵かもしれない。
「……ここに、アルビアがピンポイントで来る確証はあるんですか」
「ーーーここの学園は立派に屋上の近くに校長室があるからな」
「いきなり校長室に来るより、あなたを狙う可能性の方が高い気がします。あちらにとっては、あなたを殺せば勝ちのようなものですから」
「それに関しては、少し提案がある」
真面目な話に戻れば、二人は面と向かって話すことが出来る。
相手にとっての勝利条件はアルを殺すか『無』の秘宝を先に手に入れること。どちらも安易だと思っているはずだろう。
だとすれば、その条件を安易じゃなくする方法……
「提案?なんですか」
「……僕と、僕以外の全ての人が戦うことだ」
アルが苦手とする、協力の必要だった。
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