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30話「風前の灯火」


封印されていた魔物を討伐した私ーーーエルダは、辺りを見渡しては傷がついたノノに駆け寄っていきました。

一気に駆け抜けてきた、入口には衛兵が居たけど、それすらも吹き飛ばす勢いで駆け抜けて、必死に目の前の弟子ーーーノノのために、走ってきたんです。呼吸が追いつかず、今になってゆっくり整えていきます。


「はぁっ……はぁ、なんとか……!ノノ!大丈夫!?」


「エルダ……なんでここに……」


なんとかノノは立ち上がっているようで、心配してた気持ちが一旦穏やかになっていきました。もしなにかあれば、ノノはもう居なくなっていたと考えたら……


「ニュース見てっ、ノノになんかあったらって心配で心配で……」


「そ、そうなんだ……ありがと」


でも、目の前にいるノノは笑顔を向けてくれませんでした。私はその暗そうな、なにか不満のある顔に苦笑いをするしかできません。


救えた、守れた、魔物も討伐した、それの何が不満なんだろう。


「あ、私の事心配してるのかな!?私はね、こう見えて意外と強いから大丈夫!ノノは自分の心配をーーー」


「ーーーお主、そこまでにしておけ。とりあえず助かった、それでいいだろう」


心配する気持ちが再び芽生えた私を止めたのは、もう一人の参加者でした。

肩に乗せられた手に思わずビクッと反応しますが、私は目を白黒させることしかできません。


「え……な、なんでしょうか?私ですか!?私はエルダと言って……この子の師匠です!友達です!なので全然怪しいことなんかーーー」


「お主、今『師匠』と言ったか?ならなおさら何故ここにいる?お主のその立場と、言動がこやつをより苦しめてることになぜ気付かない?」


「苦しめてるって、そんな!私はだって助けて…………」


「じゃあ私の目に見えてる、あの女の表情は偽物か?」


気づけばこのもう一人の参加者に向かって話していた私、後ろを振り返ればそこにはさらに深く苦しそうな顔をするノノがいました。

なにが、違ったのかな。この時になって考え始めても遅かったんです。

私は、この時一番してはいけないことをしていた。


「の……ノノ……ど、どうしたの?私に言いたいことがあるならなんでも言ってよ!ねっ?多分試験は中止だろうから、また練習できるねー!とかさ!考えようよっ」


私はただ、この空気に押しつぶされないように明るく振る舞うことしか出来なかったんです。でも、ノノは唇を震わせるだけで、その美貌を見せてくれることはありませんでした。


「はぁ……じゃあ私が代わりに言ってやろう。お前はやりすぎだ、エルダ。過保護、と言ったらいいのだろうか。お主が考えるべきはあいつのプライドだ」


「ぷ、プライドって……!私助けに来ただけで……」


「助け?たわけ。お主がしたのは『略奪』だ。こやつは少なくともこの魔物を倒すことだけを考えていた、自分にできる全力で」


その言葉を聞いた私は、目が覚めたように見開きました。自分の行いの、悪いところに。


「衛兵に相当なりたかったんだろうな。それを目の前で意図も簡単に仕留められたらどう思うか、夢の略奪に他ならない」


「そ、そんな言い方は!だって私が倒さなきゃノノは死んでた可能性だって!」


「はぁ、お主はほんとにこやつの友達か?師匠か?衛兵になる覚悟を決めた時から死ぬことなどとっくに許容している。命を捨ててでも守りたいものがあるからなるものだ。我々がここで死んでいようが時間稼ぎにはなっただろうな」


「そ、そんな……命を粗末にすること……」


「だがそれが、衛兵になるということ。あの女がお前に死にそうになったら助けてと一回でも言ったのか?私の目が確かなら、あの表情は一回も言っておらん」


私の頭の中で流れるのは、ノノとの修行と、その会話だ。いつもノノを心配する度、ノノは決心がついていました。

でもそんな無責任で、見捨てるなんてことはできない。けど、私がほんとにノノの夢を邪魔したのなら、それが私の罪なんだ。


「お前はその夢のために死ぬ機会すら奪い、彼女に与えたのは自分の無力さだけだと気づけ、くせ者」


相手の睨むような視線と、ノノの冷たい表情に、私は過去のトラウマが蘇りました。なんで自分の力は、こんなにも人を蹴落として……


「ま、まぁ!エルダに助けられたのはほんとだし!もしかしたらまだ試験終わってないかもだし!そんな酷いこと言わないでくださいよ〜!」


はっとした私の後ろからは、さっきの表情は無かったようなノノがいました。でも、心からの笑顔じゃないにしろ、その顔に安心して縋ろうとする自分もまた、そこに居たんです。


「かと言って、真剣に戦ったお主の気持ちはいいのか?確かに足でまといはしたが……私にも情はあるぞ」


「ならその情は、エルダを傷つけていい理由にしないでよ!ねっ?エルダがチャンスをくれたんだから、私、こっから頑張るからさ!」


「……ふむ。すまなかった、私も言いすぎただろう。心から謝罪する」


「い、いえ……」


私にとっては、そのノノの庇いも傷になりかけた。淡白な返ししかできないまま、ノノももう一人の人も上にあがる方法を考えている。



「上まで遠いなぁ……頑張って氷山登るしかない?」


「そうかもな、私は構わぬ。とにかく登れば……と、これは気が利く」


そうして考えていれば、その空洞の天井から降りてきたのは無数の綱だ。

ロープが降りてくれば、外の殲滅が終わったのか、合わせて急いで衛兵の隊員達が降りてきました。


ーーー結局、私の判断は正しかったのだろうか。焦って動いてしまった自分は、本当に彼女を思っての行動だったのだろうか?


わからないことばかり、でも実際、あの魔物を殺していなければ命を落としていました。

でもそれは、彼女を笑顔にできることではなかったんです。力が、いつも周りを不幸にする。

それは、今も同じでした。


でもその不幸は、いつも私の見てない所から私を突き刺してきます。


「君が、この魔物を倒したのかね。試験生たちよ」


「あ……!隊長!いえ!あの魔物を倒したのは私の友人というか、我々は足止めで精一杯で!」


ノノの前に降りてきたのはおじさんーーーだが、その風格は他の人とは一味違うものでした。金色の、特殊な装備のようなものを着ています。


そしてノノの発言、そこからあの人が衛兵の隊長ということ。ちょっと抜けてる私でもなんとなくわかりました。


「二人以外の者は?試験生八名の生存者は二名か?」


「少なくとも、私が見た中では五人は死んでいるだろう。一人は行方がわからん。地下に降りた時に魔法を放ったっきり行方がわからん」


もう一人の試験生の人とも会話を交わして、私にはもしかしたらここで聞いたことはばらさないように、などと言われるかと思っていましたが、そこに返ってきたのは『悪魔』の囁きでした。


「なるほど。焼き跡を見るに……試験生二人の能力ではないだろう。事前の情報ではここまでの焼き跡、そしてあの硬い触手をここまで切り裂く力は、その友人が使ったものかね」


「……あ!はい!私です!でも、私は試験生でもなくて!純粋に友達を助けたくて……来ただけです。試験の邪魔をするつもりはなくて……すいません」


私は、目の前に歩いてきた隊長に頭を下げた。本当に、申し訳ないことをしたなとわかっています。実力を測る試験で、何の関係もない突拍子に現れた見知らぬ少女が、どんな危機的状況であっても倒してしまったこと。これはさっきも怒られたことだと、この時の私は深く反省してーーー


「ーーー君に是非、衛兵になってもらいたい」


「え…………」


その場にいた衛兵の人たちも、ノノも、もう一人も驚愕の内容でした。

私ももちろん驚きで、下げていた頭が一瞬にして上がってしまうほどに、その口は開いたままで、


「危機的状況からの脱出、そして力量、行動力、人を思いやる心まであるとは、君は適任だろう。このような人材を求めていたんだ、私は」


「ちょ、ちょっと待ってください!私は試験を受けに来た訳でもないですし!それに私よりなりたい人間が二人もいるんですよ!?命をかけて時間を稼いだ二人も、衛兵になるべきです!」


「ーーー私は、人だよ。わかるかね」


なんでなのかわからなかった。褒めてもらった後半なんて、私が注意されたとこばかり。それに、身勝手な行動だということも事実なんです。


第一、そもそも私よりもなりたいと夢見た女性が、隊長の後ろにいるというのにどうしてなのか私には理解が追いつきませんでした。


「人……?」


「もちろんだとも。私は少なくとも部下に死ねと命令しているわけではない。大事なのは命の尊重だ。誰かを思い、誰かのために動ける者が集まった時、互いに支え合い守り合うものが生まれる。必ず守れるものでなく、犠牲を伴うことも多いだろう。だが、それは誰かに繋ぐものでなく、誰かを支える死なのだ」


つまり……死ぬ気で戦った二人への否定なのだ。死んだら意味が無い、そう捉えてもおかしくない。


「無論、あの水色の髪の少女の能力は、氷の形状を見るに誰かを陥れてしまった。試験的には『不合格』となるだろう。もう一人に関しては、別途の試験を用意してもいいと見る」



ーーーあれ……待って、違う。そうじゃないのに……あれ……


隊長の言葉に、目を見開いてしまった。自分の行いの、結末に。


「ま、待ってください!不合格って!あの人は一生懸命戦って!」


「過程も大切だが、その上での結果だ。君が来るとわかっていての、能力であったのか?未来予知があるとは聞いていなかったが」


「そんなの……おかしいに決まってるのに……」


なんで、なんでなんでなんで……なんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんで……


「なんで……ノノは一生懸命で、衛兵になるために毎日勉強して、努力して、諦めないで死ぬことすら受けいれたのに……」


「でも、倒したのは君だ。私はその勇気と力ある君を、衛兵に迎え入れたい。現実とは、そのようなものなのだよ」


「そんなのっ、なるわけ……」


「ーーーやめてエルダ。ありがとう、私を庇ってくれて」


なるわけない、そう言葉を紡ごうとした時でした。私の肩に手を添えて、止めてきたのは……ノノ本人だったんです。

私は、その『笑み』に、唇を震わせることしかできませんでした。


「違う……ノノ、私はそんなつもりじゃっ」


「いいの。私は、衛兵になりたかったけど……なれなかった。私の力が、もう一人のあの子を殺そうとしてしまったのもほんと。倒したのは……エルダだよ」


「私はそんなつもりじゃなかったの、ノノを助けたかった……友達を失いたくなかったのに……!」


「その力が、きっと衛兵には必要なんだと思う。なんとなく、わかってた。エルダの優しい心も、実力も、私より……ずっと衛兵に向いてる」


ノノの笑みは、喜びが抜けた笑顔でした。口元も微笑みきらずに、瞳は影を落として、ただ満足だけが残る笑み。


なんでそんな笑顔で私を見つめるの。どうして、嫌なことなのに嫌だって言わないの。

わからない、わからないよ。ノノの気持ちが、わからないよ。


「君に関しては、大変申し訳ないが……試験生への妨害、そして命を奪う行為として、一時的に試験への参加を禁じさせてもらいたい。生存したのに、申し訳ない」


「いえ……わかりました。エルダ。そういう事だから、後は頼んだよっ」


ノノに言い渡された言葉、試験への参加を禁じること。

つまり、もう二度と衛兵にはなれないということなんです。でも、ノノはそれを知っていたような顔をしていました。


私は回らない頭を無理やり回しました。震える声を張り上げようとしても、震えました。

どうすればいいのか、どうしたらノノのためになるのか、どうすれば夢を追いかけてもらえるか、どうすれば、どうすれば、どうすれば、どうすれば、どうすれば、どうしたらこの場を、どうしたらノノを、どうしたら説得を、どうしたらこの子の夢を、


「なれなかった私の分もさ、誰かを救って欲しいの。お願い、エルダにしかできないこと……任せた」


「待ってよ……違うっ……違うの……」


どうしたらわかってもらえるの、どうしたらその笑みが戻るの、どうしたらよかったの、どうしたら夢を守れたの、どうしたらこの力は誰かを不幸にしないの、どうしたらあなたのためになれたの、どうしたらその心の傷が癒えるの、どうしたら衛兵になってもらえるの、


「誰かのところにすぐ駆けつけて、困ってる人が照らされて安心できるような、笑顔溢れる衛兵になりたかった。その夢も、全部エルダに任せました!」


「なんでっ、ノノ!」



どうしたら



「だからさ、一つだけ……頼んだから、私にあなたを『妬む』権利を……ください」



心から笑ってくれるの



〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜



「はぁっ!はぁっ!はぁ……!」


気づけば息切れしていた、夜空を見る余裕もなく、そこに居たのはただ地面にひれ伏し、手をついて息を荒くする自分だけでした。


変わりたい、でも……今の自分は、ノノの代わりでしかない。

責務も全うできない、愚かな自分は力を使えばまた有村望さんも、ミミさんも、そして権限者にまで迷惑をかけるのではないかと思ってしまう。


それでも、変わらなきゃ前に進めないのなら、自分はどうするべきか?


「わからないっ、傷つけない方法も!自分の生き方も!この仕事を続ける意味も!全部わかんないっ……なんにもっ、わかんない……」


本当にいるべきだったのは、ノノだったはずなのに、振り返ればノノは笑ってくれなくなっていた。


私は、自分の髪を掴んでは引き裂こうとするけど、そこには痛みしか残りません。でも、何度も頭を殴って、何度も叩きつけて、思い出したのは自己嫌悪の気持ちのみでした。


いっそいなくなるべきなのか、誰かのために戦うことは出来ない人間なのか。

誰かを傷つける恐怖がいつも、私についていました。


ただ、そこに居たのは自虐しか出来なくなった、哀れな少女。

でももし、そんな少女が立ち上がれる日が来たのなら、


「ーーーエルダ?ミミとご飯たべよー……って、頭痛くない?その遊び」


ーーーそんな素敵な話、あったら嬉しいですよね。


長文ご覧いただきありがとうございました!よろしければブックマーク、評価、感想の方モチベーションになりますのでよろしくお願いします!

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