21話「罪友」
「ーーーっ!!」
アルはバックステップと共に教会を脱出し、華麗に受身をとりながら着地すれば、そこに広がっていたのは異様な光景だ。
「随分と僕のファンが多いじゃないか。僕は人気者になるのが嫌いでな」
「そうかい?あたしゃね、とあることをやらなきゃならないんだ。あんたを殺すか、生かすかあたしが見定めなきゃならねぇらしい」
そこに広がっているのは、十体、いやそれ以上にもなる『アルビア』の分身だった。
中心核だろうか、真ん中に立つ老婆が話しているが、その他も変わらぬ表情で見つめてくる。
「見定め?僕は、誰のものにもならない。僕はただ邪魔者は殺すだけだ」
「ほぉ……それにしちゃちと情が湧きすぎじゃないかい?あの小娘達と少年が一人。そんな甘い感情は捨てな。あたしが見りゃ簡単に捨てれるさ。ーーー殺せばいい」
「ーーーー」
みすぼらしいはずの老婆はアルに対して切り捨てるような言葉を言うが、それと同時にアルは目を細める。
「怒り、憎しみ、あたしゃ大好物だよ。あんたのその力も気になってしょうがないね!」
アルビアがその瞬間に腕を前に振るえば、杖が手元にワープし、勢いよくこちらに杖を飛ばしてきた。
「……!くっ!」
杖はアルを貫こうとするも、それはアルの『無』の空間によって弾き飛ばされる。
しかし、その手が視界を埋めた瞬間、十体のアルビアは陣形を展開し始め、アルを囲うように走り始める。
「さあ捌いてみよ。『魔』の領域解放!!ジェネレートソーシェルエビル!!」
空間は歪み、亀裂と共に肉体を蝕む黒雲に包まれる。
「『魔』の権限……方周剣撃」
アルを囲う老婆の手に持つ杖が一瞬にして聖剣に変化した。目視で判断できるのはそれまでだ。
「ーーーなるほど」
アルはその瞬間に立ち上がれば、指を一つ弾いた瞬間に静止する。
そのまま、無数のアルビアの聖剣がアルを貫いてーーー
「……はっ、はっははっ!!おもしろいじゃないか!それを見破ったか!」
無数のアルビアの聖剣は、アルの周りにある『無』の空間を越えない。丸く、バリアのようなものに全て剣は静止したのだ。
「『無』の権限、ワールドオブゼータ!!!」
軽く飛び上がったアルは、両手を剣先のように尖らせ、一回転をその場でした。
その瞬間、空間を切り裂く刃がアルビアを分裂させ、囲まれていた窮地を一瞬にして脱出する。
「……分身体、そいつらは一つの権限者が何人もいるのとは訳が違う。そいつらからは殺気が微塵しか感じない。つまり、魔力や力量も一つの核のようなものを分けただけ」
「あたしの手に持ってる聖剣を弾けば、分身体の聖剣も無力化される。わかりやすいが瞬時に判断は難しかろう。やはりエルデ・アナストラル、あんたの力は素晴らしいもんだね」
「何が言いたい?」
アルビアは褒め称えるように拍手すれば、曲がっていた腰も段々と真っ直ぐになってきて、狂人的な笑みが再び浮かんでくる。
そんなアルビアは何を言い出すのかと思えば拍手を止め、一息すれば、
「エルデ・アナストラル、あたしと共に世界を破滅に導かないかい?血に染る世界を、絶望の声を楽しまないかい?」
突然の勧誘が、アルを導こうとしていた。
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「あたしゃあんたの殺したいもの全てを殺してやる。奪いたいものも奪ってやる。あんたは世界を恨んでいる。あんたにとっちゃ悪くない話だろう?」
相手からの要件、それはアルが『魔』の権限者と共に歩むことを誓うこと。
相手はこちらの都合がいいような条件を出してきた。アルはそれに対して一度目を細める。
「何を言い出すのかと思えば、アルビア、お前の目的はそういうことか。僕が仲間に?ふざけるな。僕は僕の目的のために……」
「違うね。あんたを邪魔してるのはあの小娘達だよ。あんたがそれでもあの小娘達を取るなら、その全てを奪ってあたしの配下に置いてやる。その力、あたしゃとても好きでね。その恨みと怒りの籠った権限を、あたしに委ねてみないかい?」
ーーー小佑、明梨、ミミ、エルダ。他にも色んな奴に会ってきた今だが、正直邪魔している理由の一つなのかもしれない。この学園に来る前の自分は、ただ目の前の人間を殺していた。
そんな思考がアルの中でまわる中、アルビアはゆっくりとこちらに歩んできていた。
「人殺しはもう戻らない。あたしゃ何人も仕えてるからわかるんじゃよ。誰も変わらない、ならその道を進み続けるのが一番だろう?さぁ、手を取れエルデ・アナストラル。さぁ、さぁーーー」
アルビアには多くの従えている部下のような者がいる。その言葉は真実なんだろう。
真実と、裏もない言葉と共にその手がゆっくりとアルの手に触れようとしてーーー
「ーーー僕は、自分の進みたいと思う道を進む」
「…………ほう」
手は触れようとした瞬間に破裂するように飛んでいき、アルビアは後ろに一歩下がって行った。
「あんたはどうしても気に食わない。理由はわからないが、僕は歩みたいとは思わない」
「だが間違いは無い。よく考えてみるがいいさ。もう現実世界はもうすぐ日が暮れる。明日の朝、あたしゃ数体のアルビアと共に学園の生徒の命を引き換えに『無』の秘宝を無理やり錬成するさ。あの人数いれば十分」
「ほう?魔術でってわけか。それをなぜ僕に言う?秘宝を取られたくなきゃってことか」
「そうさ、簡単だろ?なにもなくあたしらの軍に入れば、誰も殺しも壊しもしないさ。あんたの秘宝も、あんたの大切なお仲間もね」
アルビアは、明日の朝『魔』の軍勢を引連れて学園を襲うというのだ。それは、アルにとっては関係ない話だ。
しかし、その後が重要だ。その多数の命と引き換えにアルの秘宝を無理やり錬成するという。たしかに、命の価値はもの凄いものだ。それが多数あれば可能だろう。
アルには、重大な責任が乗った。その重みに潰される間もなく、アルビアは手を魔術で修復し始めたと同時に教会の門へと歩き始めた。
「ここに来た理由は、僕を見定めるためと、僕の勧誘か?」
「元々はあんたの位置と何個錬成できるかだったんじゃが、あたしよりも先にあんたが居たもんでね、エルデ・アナストラル、決断は明日ちゃんと聞いてちゃんと向かい入れてやる。はやく諦めることだね」
不敵な笑みと共に、門の外へ歩いていく老婆。そこには、権限者としての風格も空気も感じない。
ただ話を聞かされれば、反論の余地もなくアルビアは去っていくわけだがーーー
「ーーーそう、教会にもあたしがいるから……お仲間が先に逝っていたらわるいねぇ」
「なっ、アルビア……僕は自分の道は自分で決めるぞ!勝手に決めつけるな!」
アルがはっと気づけば、とりあえずの反論と言いたいところだが、聞いているのかわからないようにそのまま歩いて行って、森の奥へと去ってしまった。
アルに今かかったのは、重大な責任。それは、望の妹も、学園でできた友人も、うざくて目障りなチビも、あの衛兵の命も天秤にかけられた。
アルが抵抗すれば、あのアルビアに勝てるのか?複数体に抵抗するならまだしもーーー
「ーーー僕は、何のために戦ってるんだ……僕はなんで迷ってる……?秘宝を集めるのと、僕が殺す理由は……なんなんだ」
そのまま膝をついて目を見開くアルは、汗を落とす間に思考を加速させていた。
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「はぁぁぁ!!」
教会の中、エルダは一度に四体ものアルビアと戦っていた。
エルダは勢いそのままに一人のアルビアに剣を振りかぶれば、それは相手の杖によって凌がれる。
魔法陣による杖のワープにより、常人の速度ではなおさら、衛兵ですら追いつけるか分からない速度で防御が繰り出される。
ーーーアルさんは容易くワープ前に追いついていましたが、そんな簡単では無い。あくまで権限者の速度、そして練度があってのもの。
防がれたと分かれば追撃として腹に一発蹴りをお見舞い、アルビアが吹き飛ぶがーーー
「くぅっ!」
「まだあたしゃ何人もいるんでなっ!」
奥からさらにもう一人が飛んでくれば、何とか剣の平で防御、しかし後ろを振り向けば更なるアルビアが、杖を肩に突き刺してきた。
血とともに貫通した杖が視界に映る。気持ち悪さと痛みがエルダを襲うが、それが増幅する前に手を打つ。
「何人もいるなんて卑怯ですからっっ!!」
逆に刺さった杖に炎を纏わせれば、傷口が塞がり始めるのを利用し相手を固定すれば、後ろ蹴りを入れ後方の安全を確保。
あとは正面、そしてもう一人が私の頭めがけて飛んできている。
「全て捌けるかい嬢ちゃん!あんたの最後の不幸なその絶望をあたしにくれ!!」
「意味わからないこと言われるのは、嫌いです!!」
剣を振り上げればその剣の先ーーー光が段々と広がり、目の前のアルビアを覆い尽くせば、その先端の光は炎龍へと変化する。
その龍は同時に頭上のアルビアへと向かい、その牙がアルビアの肉体を貫く。
「はぁっ……はぁっ……っ!」
二体の相手ができた。しかし後ろ蹴りを入れただけのアルビアと、最初のアルビア、その二人は既に体制を整えているらしい。
息が上がり、汗を拭きつつも思考をなんとか回さなくてはならない。勝つ方法を考えなきゃ。
ーーー勝たなくては、クロエ先輩は救えない。
「限界かい?まだあたしゃぴんぴんしてるけどねぇ……」
「限界は超えるもの、らしいですよ……っ!」
何とか剣を構え、その先端から広がる炎の龍と共に、再びアルビアと対峙する。
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