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19話「フォーリバティ」

「ずいぶんと時間がかかったじゃないか?私の予想ではもう少し早く来ると思っていたが……時間と共にどこか友人が増えたようで?」


「僕はこんな複雑な場所にあるとは聞いていない。時間がかかったのはそれが原因だ。って、そんなことを言いに来たんじゃない!」


突如現れた黒服のガタイのいい男ーーーそれは第二都市での激闘に終止符を打った男だった。

挨拶を軽く交わせば、ミミやエルダは教会を見える範囲で回っているが、残りはこの男の話を聞くため、教会の中心へと歩んだ。


「僕は貴様の名前も知らない。あの第二都市の場で説明がなかった分、僕はここで全てを聞くぞ?」


「名前を言い忘れていたか……私は『ジェノス』。これは失礼したね。聞くのは構わないが、私も答えられる範囲にしてもらおうか」


「……っ!ここまで僕を引きずっておいて何を言って……!」


相手は『ジェノス』という男らしい。年齢も感じるほどの肌と、その髭、黒髪など、色は遠目で見れば一色の黒に見えてしまうほどに老けては見える。


相手はここまでアルを来させておいては、秘密があると言い、またもやアルから距離を取ろうとするのか。

そんなことさせないとばかりにアルは気づけば一歩踏み出していた。


「秘宝はどこだ!?有村望はほんとに生きてるのか!?僕を阻むあの女は誰だ!!」


「まぁ待て。そんなに早く話されても私は口が一つなのものでね。一つづつしか話せないのだよ」


「神無月無唯斗……!一旦落ち着いて下さい……!確かに私も聞きたいですが、ここは一つ一つ聞きましょう!秘宝というのは、どこにあるんですか……!」


アルを落ち着かせるように肩を掴んで、傍にかけよれば、明梨も同じようにジェノスという男に秘宝のありかを聞く。


「君は……まさか、ザフリック王の娘か……こんな所で会うとはそれまた運命は私に出会いを欲しているのかね」


「私はあなたが望が生きてるというデマを流してないか確認に来ただけです。大切な妹の命をバカにされては私も腹が立つので。あと、その国王の名前は二度と聞かせないでください」


「まぁまぁ、一旦落ち着けって!話、聞くんだろ?喧嘩しに来たわけじゃねーって!」


ジェノスの言葉に唇を噛んだ明梨もまた、アルと同じように睨みつける。彼女の脳内で忘れようとしていた国王の名前を、もう一度掘り起こされたのだから。

小佑がなんとか抑えるように、まぁまぁと仲裁しながら、凍りつく空気をゆっくりと動かすようにジェノスは言葉を並べ始める。


「それはすまない。そうだ、そろそろ本題に入ろうか。秘宝は簡単だ。ディスパリティの最深部……あそこにはとある秘密の研究所のようなものがあってね。そこに君の秘宝は置いてある」


「つまりお前は僕にまたあの学園に行き、その最深部とやらを探せというのか?ふざけるな。何度も何度もそう頷いて行くほど僕もバカじゃない」


相手はまたもやアルに命令して、この教会と同じように探せと言う。しかし、もう既に痺れを切らしているアルはそう簡単にはもう頷かない。

目を細めて、その疑いの目を続けていく。


「わかっているとも。最深部はあの学園の校長室から入れる。非常に簡単だとも、校長を脅しでもして通してもらうといい。簡単だろう?」


相手の説明を聞けば、学園の校長室から入れる地下室に秘宝があるという。ルートさえ分かれば確かに簡単だ。

しかし、その学園には今、アルを阻む者がいる。


「簡単では無い。あの魔術師の女は誰だ?僕をまるで知っているような口調、そして僕と被る能力が多すぎる。それに人数もだ。あいつは一体なんなんだ?」


「ーーー魔術師の女、なるほど。君は『アルビア』に会ったようだ。彼女もまた、君と同じ権限者だ。秘宝を求めてこの地に降り立ったのだろう」


「やっぱり権限者だったのかよ〜……俺もみんなもめっちゃ苦労したんだぜ?あいつ、なんか変な事ばっかしてくるし……」


つまり、アルの秘宝を狙ってやってきた権限者だということ。


ーーーなぜ位置がバレている?そもそも学園に来たのにすぐに秘宝を取らない理由は、奴も秘宝の位置を知らないからだろう。簡単な位置でも確かに言われなくてはわからない。


「きっと学園に居た理由も、君が有名だからだろう。権限者の中でも、エルデ・アナストラル……君は少し特殊なんだ」


「僕が特殊だと……?他の権限と違う部分でもあるのか?」


「あぁ。君は本来なるべき権限者では無い。それに、『無』というのは本来この世界にはありえない属性だ。言わば特例の権限者というわけだ。それに釣られてアルビアも訪れたのだろう」


アルが権限者になった時、それは確かに自分が感覚的になったものではなかった。

泣き叫び、怒り、この世の全てを嫌う心が、目覚めたアルを呼び覚ました。


色んな人間の属性、能力を見てきたが『無』は確かに一つも存在しない。そこからも、アルが特殊というのを実感させられる。


「それに、特殊ゆえに君はまだ完全体ではない。アルビアと対峙したのならわかるだろう。この世の全てを『無』にできる力は、そんなものでは無いことを」


「それは……確かにそうかもしれない。僕とアルビアには確かに技量の差が少しあった。それにアルビアはあれでもまだ全力じゃない……余裕の表情が続いていたからな。どうすれば僕は完全な力を得ることができる?」


「それは私にもわからない。ただ、一つずつ鍵を外すように解放してくものだろう。


ーーー能力は『人の本心』が現実世界に現れたものだ。君の本心と、君自身の戦う理由というのが違うのではないかね?」


「本心……だと……僕は世界への復讐と、有村望の救出のために、この世界を『無』にするために……」


「もしかすれば、君では無い『君』は、理解していないのかもしれないね」


このワープゲートを通った時、会話した『何か』。それを理解しなくてはいけないのか。

はたまた、自分の怒りというのは全てにではないのか?


自分自身を理解しなくてはいけないという、その自分の本心を、核心を感じなくてはならないのか。


その思考が回った時、どうすればいいのかわからない自分に腹が立つように、拳をぎゅっと握りしめる。


「そんで、おじさんよ?アルビアってのは何人もいるぜ?アルももしかして何人もいたりすんのかよ?」


アルの表情を軽く察した小佑は、代わりをするようにジェノスに質問する。


「アルビアの能力かね?アルビアは『魔術』の権限者だ。人体複製も容易いだろう。それに彼女の領域解放は人の憎しみ、後悔を引き出す力がある。エルデ・アナストラルなら無効化できるだろうが、一般人の君たちには到底勝てる相手では無いだろう」


アルが最初に攻撃する時に見た有村望、絶望の有村明梨、過去を思い出した小佑。そして、後悔した日を考えてしまうエルダ。

その全てが、アルビアの力だと言うのだ。


その力を聞いた時、一同は驚愕の視線をジェノスに向ける。


「つまり、あいつを倒すにはアル一人が頑張らねーと……無理ってことかよ……複数人いるんだぜ!?そんな無茶振りあるかよ!」


「ーーーただ一つ、ヒントをあげるとすれば…………どんな人間にも、『無限の魔力』というのは絶対にないだろう」


「どういうことだ?なぜ隠す?」


「私もこの戦争を楽しみたいのだよ。それに、全て私が理解している訳でもない。あくまで私の推測だ。それ以上は己で考えてみるといい」


相手が言うに、アルビアにも限界はあるというのだ。

隠すように、ただニヤけることしか返さないジェノスに、アルは怒りを覚えるほどだが、それは握りしめる拳になんとか流していく。


「…………わかった。最後に一つ、本当に、この世界には『ゼロポイント』があって、世界の中心に行けば有村望を救えるんだな?」


「もちろんだとも……この世界にいる権限者一人につき一つのものを全て集めてくれば、ゼロポイントは開かれる。簡単、とは言えないだろう。権限者の底力を引き出し、且つ権限者の証明書のようなものだ。容易に貰えるものでもないが…………それ相応の報酬もあるだろう」


ジェノスがポケットからオーブのような球体を一つ出してきた。それはアルの方へゆっくりと向けば、


「ーーーっ!!」


「望!!!本当に……生きてるんですね……」


そのオーブに写っていたのは、『有村望』が平原にいる姿だった。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


「満足して貰えたかね?権限者よ」


「あぁ……聞きたいこと、あとは……権限者ってのは、一つの属性に一人、なのか?」


オーブをしまうと、アルと明梨、小佑と共にゆっくりと出口へと歩いていく。


「もちろんだとも。そんなにたくさん権限者がいてはゲームマスターも管理できまい」


「…………言ったな?僕は今のでアルビアとやらのシステムをほぼ推測できたぞ?」


「っ!?本当かよ!権限者様の頭の回転はすげぇな〜!!俺も感動感動よ!」


「お前はいちいち僕の前を邪魔するなっ!」


アルの肩をポンと叩けば、にやにやと笑みを浮かべながら肘でつんつんしてくる小佑に、嫌そうな顔をしながらも歩くアル。


アルの中でもある程度考えがまとまったと言って、嫌そうな顔から、段々と真剣な表情になってくる。


ーーーこのワープゲートの中身、そして有限の魔力と一人の権限者。全てを繋げれば奴の攻略方法はわかってくる。


「あ!待ってくださいよ〜!!ミミちゃん!!明梨さんたち行っちゃいます〜!」


「んぇっ?あ!アル!アカリ!待ってぇ!!」


二人ともわいわいと、どうやらこのジェノスの秘書だろうか、緑のショートヘアに細い体。眼鏡からは影で目は見えないような女性と会話していたらしく、こちらに気づけば駆け足で歩いてくる。


ーーーここから早く出て、まずは自分の秘宝を手に取り、同時にあの『アルビア』の秘宝も回収する。重要なものなら、奴を殺してまでも奪う。


「こっからどうやって出るんだよ〜おっちゃんとかなんか知らね?」


「簡単さ。入ってきたことと逆のことをすればいい。誰でも理解出来ることだ」


「って言ってもよ!ワープゲートなんてそんなぽんぽん出ねーだろってーーー」


小佑の話に耳を傾けながら、扉はもうすぐで、すぐにでも扉を開けようとしたその瞬間、一つの音が鳴り響く。


扉が開く音、古く、廃れた扉は聞くには少し耳障りな音を立ててゆっくりと動いていき、


「はて、ここに罪深き食料はあるかい?あたしゃ、歳でね……疲れてしまったわい……」


その扉の先から現れたのは、一人の『老婆』だ。

杖をつきながら、震える足でゆっくりとこちらに歩いてきていた。


アルは一瞬にして目を細める。三人も、そしてエルダとミミも少し困惑したように少しづつ近づいてきているが、アルと同様に空気の変化を感じている。


明らかに怪しい細い目つきの老婆。見た目は白髪と共に、丸く、ひと目でわかる白髪と共に、紫色の衣のようなものを羽織り、中には薄い桃色の洋服を着ていて、これまた不気味だ。

こんな老婆がなぜこんな所にいるのかわからない。ここはワープゲートの中であり、かなりの距離もあるが一体なぜこんなところにいるのか。


「うぇ!?ばあさん!もしかして、ワープゲートに吸い込まれちまったのか!?これは大変だ!さ、椅子に座ってゆっくりーーー」


「…………優しいねぇ。最近の若者は皆そうだねぇ……正しいと信仰し、己の行為の裏腹も理解せず、己の快感のために働く…………





ーーーそれは罪深いと思わないかい?エルデ・アナストラル?んふははははははははははははははははははははははははは!!!!」


鳴り響く笑い声、そしてその不気味な、震える喉から出る老婆の声とその笑顔と共にーーー


「え?ばあさん、何笑ってんだよ?……っ!?」


「ーーーっ!小佑さん!!!」



ーーー小佑の体を、老婆の片腕が、貫いていた。




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