2話「変化」
ーーーーーえ?
少年は驚きから目が離せない。人間違いか、たまたま当たっただけで、別の人に話しかけたのかもしれない。
「その顔、人違いをしたのか!みたいな顔してるね〜」
少女は無唯斗の肩に手をかけ、笑顔で話しかけてくる。
「違います〜!正真正銘あ・な・たに話しかけて、友達になろうとしてるんです〜!」
なんだ、なぜだ。こんな自分だ。見た目も悪くて、暗くていじめにもあっている。そんなやつと友達?こいつはなんなんだ。
「……ふふっ。なにその驚いた顔〜!面白いんだけど〜!」
手を離し、自分の顔とお腹に手を当て、大声で笑っている。何が面白いのか全然わからない。
「……僕に、近寄らない方が...安全だと思うので……だから……その……」
「どういうこと?」
伝えたいことがはっきりしない。ただ、自分に近寄ることで、この太陽のような笑顔が傷ついてしまう可能性がある。少女はもちろん疑問の顔だ。
「すいません、僕はお友達には...なれません。失礼します!」
そう言った無唯斗は早速と校門を出て行ってしまった。少女は少しため息をつくと、
「はぁ……これはかなり難しそうだね」
その声が無唯斗にも、その他の人にも聞こえることはなかった。
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「……なんで、いるんですか」
朝の起床から日常のルーティーンをして扉を開けると、金髪の女性がこちらに手を振っている。
元々、こんな美人が自分に近寄ることがおかしい。スタイルもかなり良く、身長は平均よりすこし下くらいだろうか。金髪は長く、髪は肩までかかるほどロングである。しかし前髪が顔にかかっている訳では無い。なので美人が十分に発揮されている。顔は少しハーフ顔に近い。
制服から見るに高校2年生。先輩であるのだ。どう考えてもレベルが違うこの人が、ボロボロ自分に話しかけるなどおかしすぎるのだ。
「えぇーいいじゃーん、友達への1歩として一緒に行くぐらい〜」
小走りでこちらに向かいながら話けてくる。
隣へ来た彼女を見た瞬間、笑顔を向けてくる。おかしい。おかしすぎる。
「というか、家どうやって知ったんですか」
それ以前に家がなぜバレているのかを知らなくてはならない。
「え、普通に君足遅いから後ろからついて行ったけど...ダメだった?」
「平然と人の運動スキルをバカにしないでくださいよ...」
それを聞いてクスクスと笑っている。その可愛さに少しだけ無唯斗も笑ってしまった。
「お、笑った笑った〜!!」
まるで珍しい動物でも見ているかのようにキラキラした目で見てきた。
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会話をしながらの通学など、いつぶりなのだろう。会話の中でこの女性についてわかったことはたった一つ。ただただ友達になりたいだけということ。
「学校ついちゃうけどさ、楽しかったよ〜!今日の帰りもいいよね!?というかご飯も一緒に食べない!?」
グイグイこちらに近づいてくる。相変わらずキラキラした目付き。そして無唯斗の両手を平然と握り、動物かのように見てくる。
「いや、お昼は……一緒には……食べられないんです……すいません……」
そう、どうせまた呼び出されるんだ。昨日夜に福祉センターで借りてきたお金でまたどうにかするしかない。
「んーそっかぁ……じゃ!一緒に食べようね!」
ーーーーん?あれ?伝わってない?
「え、いやだから……一緒に食べられなくて……」
「絶対食べます!約束!じゃまたお昼、下駄箱のとこ集合!じゃあね!」
そう笑顔で言うと、こちらに手を振りながら走り去ってしまった。全然意味がわからない。早めになんとかしないと、またあいつらにバレたら……
「…………!」
後ろから蹴られた。うつ伏せにになり、立ち上がろうとする自分の体を踏みつける男がいる。
「誰だよあの美人。お前みたいなゴミが一緒にいていい訳ないだろ。なぁ?」
もちろん、春だ。バレてしまった。これはかなり暴力を受けそうだ。
「今日はみっちりやってやんねーとわかんねーらしいな。なあ?絶対に来いよ昼は。金持ってな!」
最後の大声と共に無唯斗の体を蹴り飛ばす。栄養不足で体がも貧弱なので、直ぐに立てなくなってしまう。周りはもちろん、恐怖からか助けようとなどしない。
春は、鋭い目付きで笑いながら歩いて行った。
まずい、彼女まで巻き込むのだけはほんとにしてはならない。とりあえず、教室に向かい、いつもの机で授業を受けつつ考えーーー
ーーーーん?
いつもの文字が全て消えていた。暴言も、酷いあだ名もだ。そして、教室の人達がこちらを見て笑うことも無い。机の中のゴミも空っぽだ。
なんだ、なにがあったんだ。
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授業にも問題はなく、昼休みになる。
「よくのうのうと来たなゴミ虫」
鋭い目線が無唯斗に刺さる。それはまるで世界の敵を見ているかのような目。
「今日は昨日の昼飯代、今日の昼飯代、そして、女連れて歩いた罰だ」
春は何を言ってるのだろう。お金の問題はなんとかなるが、連れて歩くのも自分には似合わないしだめなんだろう。
また無唯斗の瞳に影が増える。暗くなり、もはや影同然の空気を出している。
「おいらが罰を与えるっす!どすこい!」
細い体が、相撲部の張り手に強く飛ばされる。壁にぶつかり、床に倒れる。
「自分の地位を理解しろ、友達(仮)なんだからさ!」
頭を春が踏み付ける。痛く苦しい。周りの女子、曲尾もゴミを投げてきている。そしていつもと違うのは、硬い部品や石すら投げてきているのだ。
「ぁ……ぅ…………ゃ……めて……」
こんな現実が嫌いだ。苦しい。久しぶりに感じるこの辛さ。だがそんな声と裏腹に周りの歓声は変わらない。
「ゴミにゴミ投げても一緒だよね〜」
「うちら悪いことしてないしてない〜友達としてご飯代くらい当たり前〜」
「悪いことした人には罰を与えるっす!」
「虫みたいっすネ!A・T・Mくん?ギャハハハハ!」
「お前みたいなゴミ、金さえ渡せばいいんだよ。希望なんてねーんだから」
太瀬と春が、踏みつけるだけではなく蹴り飛ばしてくる。周りは笑う。骨が折れる痛みが来る。
苦しい。苦しい。痛い。痛い痛い痛い。痛いよ。痛い。痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い...
「……ご……めん……な……さ……」
「あなた達、私の友達に何してるの?」
金髪の女性は、グループのメンバーを睨みつけていた。
よく見えない。唯一見える金色の髪……思いつく人は一人しかいない。
まずい、巻き込んでしまう。あの人まで自分のような惨めな姿にはさせたくない。
「あ?朝の女じゃねーか。文句あんのか?なぁ……!?」
高校2年生のバッチを見て、春は驚いている。他のメンバーも同様、驚きを隠せない。
「せ、先輩じゃないっすか〜なんか用なんすか?」
声が震えている。それもそのはず、こんな場を見られてしまったのだから。
「だから、あなた達は私の友達に何をしているの?」
「……っ!」
彼らは何も言えない。もちろん女性の2人もだ。金髪の女性は近づいてくる。グループの人々は後ずさりして行っている。
「報告されたくなきゃ、こんなこと二度としないで。私の友人にも、近づかないで」
春を睨みつけている。その視線は王が奴隷に命令するかのような鋭い目線。その視線に、春以外はみな逃げていく。春以外は。
金髪の女性は無惨な姿になった無唯斗を心配するように近づき、傷を確認している。
「……だ……めで……すよ……」
「心配しないの、こんな傷になっておいて。だからいつも絆創膏ばっか貼ってあったのね」
傷はかなり深刻。蹴られ続けた腕からもわかる。あざになっているところ、腫れているところ、血が出ているところ、骨すらも折れている場所もあった。
「よく、頑張ったわね」
無唯斗の頭を撫でる。彼はそれ相当の頑張りを、この学校に来てからしてきたのだろう。
だが、後ろにいる男は何も変わっていない。
「……先輩面して、調子乗ってんじゃ...ねぇ!」
金髪の女性を後ろから殴りつけようとする。危機を察知した金髪の女性も、後ろを振り向くが間に合わない。殴られてしまう。傷をつけられーーーーーその時、異変が起こる。
「……!?」
腕が殴ろうとして、構えてる姿から動かないのだ。
「……だ……め……」
傷ついた目は、春を睨んでいる。
「ど……どうなってんだよおい……動け……動けよ!」
動揺を隠しきれない。当たり前だ、動かないのだから。自分の腕が動かないと知った動揺
など、計り知れない。
金髪の女性も、驚いているのか、春から目が離せない。
「……クソ!覚えとけよ!女にしか助けて貰えない男の恥が!」
そう言うと、動く足で逃げて行った。目からもわかる動揺。しばらくは、関わってこないだろう。
「……あなた、もう能力を……じゃなくて、傷を!治さないと!」
意識が遠のいていく。死んでしまうのか。やっと、ここまで解決できたの言うのに。もう終わってしまうのか...
遠く、遠くなっていく。それは、心配する金髪の女性の声すら薄れていくくらいに。
目は閉じていく……
「……治癒領域解放。ジェネレートシーファ!」
光に包まれる感覚と、その言葉のみを最後に、意識は途絶える。
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