14話「異世界放浪記」
「ーーーこれは……なんだ……まさか、あの権限者がワープゲートで送った先はここか」
つまり、報告にも挙がっていたワープゲートに入っていた生徒達は、見るも無惨な姿になってしまっているということ。
もう顔なのかすら判別できず、ただ串刺しに吊るされているもの……それが、この森のいくつかの木に何人も刺さっているのだ。
全てでは無いだけまし、と言わざる負えない。この道にのみ、人が刺さっているのだ。
「……ちっ、この僕でも少し不快になるぞ。早く、ミミや明梨を見つけてーーー」
(ーーーどうして、ミミって子のこと守ったのかな)
「ーーー僕も、なにか変わっているのか……?」
意識が朦朧としている時に聞こえた声に、自分を見つめ直す。
そうだ、今すべきことはもう一つある。
『教会を見つけ出すこと』、それが本来のアルの目的であったはずだ。
「とりあえず歩こう。なにかわからないと、進む道が無くなるぞ……」
今ある目的の全ては、動かなくては始まらない。アルは拳を握って、ゆっくりと歩き始めた。
上の方を見れば、教会らしき建物の屋根も見える。
ーーーあそこに行けば、全てがわかるかもしれない。
その意思で、歩いて、歩いて、歩いて、ただその道を進み続ければ、
「皆さん!大丈夫です!私が必ずお守りしますっ!って言っても、あんまり力は戻ってないんだけどね!あはは!」
「ねぇアカリ、なんでこの人こんなに笑ってるの?あと、なんで明梨は目隠しずっとするの〜?」
「ミミさん、これをするといい事あります……さすがに見せる訳にはいかないですよ……あなたも、そのおかしなテンションやめてください……」
奥から声が聞こえてくる。女性の声、しかし、視線には男性もさらに奥に写っている。
みんな、無事だったようだ。それにほっとする自分に、再び違和感を感じながらも、ゆっくりとみんなの元へ歩いていく。
「ーーーお!アル〜!いたぞ!おい!お前どこまで飛ばされるんだよ軽すぎだろ〜!」
「黙れ。生き残ってるだけ感謝しろ。集める手間が省けて僕は満足だ」
奥から手を振って、こちらに駆け足で歩いてくる小佑は、アルの元へ着くと息をあげながら肩を掴んできて。
「相変わらず冷たいなぁ〜!ここ、多分……ワープゲートの先……だよな」
「あぁ、おそらく。ワープゲートに入った人間はほとんどこうなっていたということだろう。現実は優しくない」
そう冷たく言いながら、小佑の手を払って、ゆっくりまた道を進めば、アルが目指している少女とほぼ同じーーー少女の姉が、アルを見つめていた。
「なんだ?僕になにか付いてるか?どうしてコロシアムの乱闘に乱入した?死んでもおかしくない」
「はい、それは……すいませんでした。私は、あなたのように強くないです。なのに……」
明梨は暗く、下を向きながら反省しているような顔をしている。
でも、アルが言いたいのはただ責めるだけではない。
「でも、いなかったらミミは死んでた。それに、僕だって一人じゃ捌けなかっただろう。そこは……感謝しなくもない」
恥ずかしそうに目を逸らしながら、声を少し震わせつつ、感謝を述べるアル。同時に、それを聞いて少しこちらに顔を向け始めた明梨は、なにか迷うような顔をしていて。
「いえ、私にも……制御できないもので……コロシアムの時といい、貴方は自身が悪逆非道なことを理解しながらどうして進み続けられるのですか……」
「ーーー他者に否定されようと、それを肯定してくれる人間は必ずどこかにいる。だから自分の道を進んでいいと、有村望はそんなことも教えてくれた。僕はーーーー
ーーー自分を一度くらい信じてみようと、その時思ったんだ。自分を見つめて」
「自分を…………肯定してくれる人……」
それは過去に見た、自分自身ーーー神無月無唯斗が写した彼女のその行動と言動、そして間違えていると思っていたことの肯定が教えてくれた。そしてその教えがアルの今の「行動力」に繋がっているものだ。
有村明梨は、悔しそうに一度唇を噛み締めた後、明るく照らされた瞳でアルを見つめ直すと、
「私も、同じです。望が教えてくれました。私は自由すぎて、きっと、また動いてしまう。望の言葉を胸に」
「あぁ、知ってる。でもそれで、ミミも、僕のことも助けようとしたんだろ?もう止まらないことを理解したよ。妹も同じ感じだったこと、記憶が言ってるからな」
明梨は、アルの言葉を聞いてはっと気づくものがあった。
ーーー自分の行動は、間違っていないと信じてくれる人間がいること。どんな行動にもリスクはある。それでも、何かをすることが誰かを救えること、それを理解してくれる人がいる。それが妹と、ミミ、そしてーーー
明梨はそんなことを思いながら、目の前の少年の目を見る。
「……はい。妹もそうです。ただ、あなたと、あの少年に少し救われました。もう少し、前に進んでみようと思います。諦めたら、終わりですからね」
明梨は意味のわからないことを言っているが、どこか表情が迷いと共に、思い出したような顔つきになっていて、こちらに初めて笑いかけてきた。
「諦めなくて、後先を考えるより前に誰かのために行動できる、そして止まらないのが君のいいところなんだろ、きっと」
今まで、森林での騒動、偽装家族、そしてコロシアムと見てわかったことからのあくまで推測だ。
アルにとっても、望との唯一の繋がりなのだ。
不器用な言葉を並べながら、思ったことを伝えていく。
「ええ、それがきっと……私の生き方なんです。信じてくれる人が必ずいる、ですもんね」
「それは、どういう?」
「ーーー内緒です」
どこか恥ずかしそうに後ろを向いた明梨は、こちらに振り向けば、片目を閉じてウインクをしてきていた。
どこかから来る風が、明梨の髪を揺らして、その光景に色を付ける。
見開くアルだったが、明梨はすぐにまた振り向いてしまった。
アルはその表情にどこか内心の自分が疼き、懐かしい感覚がしながら、真剣な眼差しが崩れてしまうのだった。
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「ーーーアカリ、メスの顔」
「ちょ、ミミさん!見てはダメです!あぁ〜もぅ〜!」
目を押えていたはずの明梨は、気づけば緩んでいたようで、ミミに見られていざこざをしている。
「いいですかミミさん、私が好きになることは一生ないですからね〜?わかりましたか〜?」
「アカリ!わかってゃ!わかったからはにゃして〜!」
ミミの頬を引っ張りながら、冷酷な視線と口は笑顔でミミを無理やり説得する明梨に、アルはため息をつき、小佑は笑っている。
残酷な死体がある道のはずなのに、人といるとやはりどこか気が抜けてしまう。アルはそんなことを考えながら
「で?君は誰だ。僕の邪魔なら殺す」
「……ぁっ……ぁっ……あなたはっっ……」
その姿は、どこか見たことがあって、アルは目を細める。
白い騎士服、3つののボタンに青いネクタイ、オレンジ色の髪に、腰に見たことがある剣を持っている。
ワントーン下がったアルの声に、後ろの三人は一斉に一人増えた少女の方へと視線が移る。
「この人は……私たちが眠っていたところにたまたま居た方で、私たちとおそらく同じワープゲートに迷い込んだ方かと……」
「アル!仲良くしなきゃダメ!ミミ達友達になったんだからな〜!」
明梨とミミの話を聞けば、確かに自分たち以外の人間がいてもおかしくは無い。しかし、アルは感じていた。
ーーーこいつから出る異常な殺気と、警戒心がアルへしか向いていない。他の誰でもない、アルへのみ向く矛先に、権限者絡みと見てもいいかもしれない。
「ぁ……あなたはっ……!皆さんっ!」
「なんだ?とりあえず自己紹介くらいはっきりしろ。お前は誰だ?」
「皆さん!今すぐに下がってください!早くっ!この人とは関わってはいけない!この人はとんでもない罪人ですっ!」
突然、動き出せば三人とアルの間に一瞬で動き出し、腰に巻かれた剣を握ってすぐにでも取り出せるように構えれば、大きな声で皆にアルの脅威を伝え始めた。
ーーー奴は何を言っている?奴は、確か……罪人、第二都市……まさか、
「お前、何言ってんだ?さすがに俺も状況が掴めなくてな……こいつに殺されかけた事もあるけど、確かに根は割と悪くないぜ?」
「アルはっ!そんなんじゃなくてっ!ミミの友達!確かに変な人だけど!ねぇ!」
小佑とミミが説得しようとしてるのか怪しいことを言って若干目を細めるが、それでもそうだ。だが、アルは薄々感ずくことがある。アルへの恨み、それは一つしかない。
「皆さんっ……まさかあなた、洗脳とか始めたんですかっ!?違います!この男は、第二都市で大虐殺をした張本人!そして今も衛兵からは最重要警戒されている男です!」
「ーーー貴様、まさかあの時の……っ」
「私は衛兵隊所属、第二級兵『エルダ』っ!皆さんを絶対お守りしますっ!さあ早く!距離をとって!」
目の前にいたのはそのまさかである、第二都市でぶつかった女ーーーエルダが、なぜかワープゲートの先であるこの地に降り立っていた。
「はぁぁぁっ!」
「くっっ!こんなとこで再開とは、それにまだお前の弱さである動き出せないところは変わってないらしいな!」
そう言った瞬間に、エルダはすぐに剣を抜けば、アルに思いっきり振りかぶってくる。もちろん軽々しく避ければ、その剣をどんどんとアルに向けて振りかかっていき、アルはそれに合わせて、なんとかバックステップを踏みながら後ろに下がりつつ回避していく。
ーーーこの女が使う力、技量、剣術は、他の衛兵とはレベルが一つ違う。肝心の一歩目が出れば、こいつに弱いところはない。
「なにがあってここに来たっ!僕は今お前を殺すことになるぞっ!いいから一旦落ち着け!僕は構ってる暇はないんだ!」
「黙ってください!あなたが殺した命も、悲鳴も、バカにするその言動も忘れない!クローズドオン!」
大きく振りかぶり、剣を高く上げた瞬間に詠唱、剣から炎が展開され、周囲を囲うように円型の炎がアルを包み、逃げられなくなる。
力や体の回復をしたいのが本音だ。だが、ここでやらなければ再び殺される可能性も無くはない。
「ーーー『無』の領域解放!ジェネレートオブナッシングネス!!」
その振りかぶった剣に対して片手を上手く添えていき、その手に『無』の空間を生成、空気を一瞬にして無に返して世界を震わせた。
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