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13話「魔界路の渦」


「な……そ、そんなっ……」


アルは今、非常にまずい事態に陥っていた。アルが出した大技は、相手の大技と結合し、中和されたのだ。ただその威力は確かなもので、周りの衝撃波、そして相手が出した魔法陣からの熱波を一気に消し飛ばした。

だが、それは消し飛ばしただけに過ぎない。アルビアはその衝撃から一瞬立ちくらむものの、片手にすぐさま王剣を取り出し、アルが体制を立て直す前に動き出す。


ーーーまずい、想定外だ。確かに、貫通できるほどの威力を持ったはずだが、相手がこの戦闘が始まった瞬間にどこかで溜めていたのだろう。

やはり、これを貫通し、相手を仕留めるに至るには確実に『あの技』を当てるしかない。魔法陣ではなく、アルビア本人に。


アルはできる限りの抵抗、腕に『無』の空間を生成し、防御の構えをとる。これならば、自分が貫通されることは避けられる。相手が、『無』の空間を超えなければ。


「なんで君はさ、そんなに必死にあの少女一人を守っているんだい?」


「……理由なんて、考えてる暇がない」


「では僕が……いや、私が剣を振る前に教えて?君は命を奪う『権限者』なのに、世界を『無』にする男なのに、どうして守っているの?思い出してみて?あなたが、歩く理由を!」


アルビアは剣を構えれば、こちらに話しかけてきた。そこにあるのは、勝ちを確信した笑みだった。


アル自身が歩く理由、それは有村望の救出、そしてーーー


「ーーー世界を、『無』にする……」


「そう。あなたは、守る側ではない。もう既に、あなたの手は血に染ってるわ。思い出して。あの日の怒り、悲しみ、辛さ、絶望を」


あの夜、『無』の権限者へと変貌した日、アルが感じたものはなんだったのか。


ーーー自分はなぜ、体を乗り出してまでミミを守っているのか。


「ーーーそれが、今のあなたの答えよ。エルデ・アナストラル……」


アルビアはこちらに剣先を向ければ、その剣を勢いよくこちらに突き刺す。


考えてる隙が、『無』を一瞬無くす。その瞬間を、アルビアは狙ったのだ。


突き刺されれば、再生にも時間がかかる。それに、命が奪われる可能性だって無くはない。


終わる、その瞬間に声が響いた。


「ーーー無邪気の石!!!」


何かが、謎の衝撃波がアルビアを襲う。

片手が、吹き飛んだのだ。アルビアの関節からは血が噴き出し、必死に穴を埋めようとする。


「ーーーは?わ、私の腕がっ……やはり、天敵ってことなの?クロウエア家の、末っ子さん?」


「うるさい!ミミはミミ!動けなかった分……今は友達がいてくれるから!強いミミが頑張る!」


「はっ、泣き虫で弱くて何も出来ないあなたが?今もこの状況で守られてるあなたが?何ができるというの?あなたの力は無力!出来損ない!それを理解した日を思い出しなさい!」


アルビアは片腕がないのにも関わらず、その狂人的な笑みと、相手を見下すように見開く目付きが、ミミを突き刺していく。


ミミは一歩踏み出したが、相手の言葉に息を飲んでその場に留まってしまってるらしい。図星だ。ミミのこの状況まで持ってきたのはアルや明梨、小佑の力があってのもので、たしかにミミがしたことは一つもない。


だが、その状況を作り出すためにしたことは本当に無駄なのか?ミミしたことは、この戦いより前にアルに教えてくれた『温もり』だ。


「ミミ、助かった。後は僕に任せろ」


「……アル……ミミは……」


「強いんじゃ、なかったのか?」


「ーーーむぅ」


アルは立ち上がって、その状況を変化させるべく進む。もちろん、吸引力が増してきている『ワープゲート』へと、突入するため。そして目の前の脅威を去るため。


ミミはハッと気づけば、頬を膨らませていて、またアルは怒らせてしまったらしい。


その解決も、こいつを潰してから全て解決してみせる。


「ーーー神無月無唯斗、お前が僕に求めてるのはそういうことだろ」


「私を殺すつもり?無力!無理!私はヒヒハハあたし私あなたのためにぜーんぶ尽くす、変わらないあなたの背中を押すわ。そしてこの世界フフヒヒ全部」


相手は狂人の笑みのまま、身体を震わせて頭に残った片手を付ければ、顔が歪みそうなくらい引っ張っていて。


ここで全て終わらせて、『ワープゲート』へ入れば……


「おい!アル!やるならやれ!こっちが耐えるのも限界だっ!」


小佑と明梨の方を見れば、限界そうな様子で、なんとか吸い込まれないようにしていて、ミミはあの『謎の石』のせいか、全く揺らぐことなく立っているが、それもいつまで続くかわからない。


やるしかない、ここで、決着をーーー


「わかってる!『無』の権限ーーー」


「それはダメ。あなたと私は共に歩むのよ?エルデ・アナストラル……『魔』の権限……大技、魔幸移……相殺……」


ーーーなんだ、あいつが詠唱した?この一瞬、壊れてる間に?いや、これは違う。これは、『あいつじゃない』。


「ーーー明梨!ミミ!小佑!離れろぉぉぉぉぁぁ!!!」


詠唱が成功し、魔法陣は回転し始めてその輝きが増した瞬間、その『ワープゲート』の吸引力が一気に上がった。

アルは一瞬にして、地面から離され、宙に浮いた。

それだけではない、コロシアムの観客席までもがどんどん吸い込まれてーーー


「うぁぁぁぁ!?ア、アカリ!!!」


「ぐぅぅっ!ダメですっっ!!ミミさん!来てはダメっ!!」


「くっそ!アル!このまま入るぞ!!」


小佑と明梨は宙に浮き、回るように吸い込まれていく。小佑の声はなんとかアルに届いているが、騒音があまりにも大きい。


アルも体制を保てていない。そして、ミミは明梨の手を掴んだようで、それまた同じように吸い込まれていく。


「また会おうね?エルデ・アナストラル……?」


目の前にいたアルビアは、その笑みのまま、アルと共に吸い込まれた。


片足が浸かる、入っていく……ワープゲートへと。


「ーーーーっっ!!!」


アルはそっと目を閉じた。これからどこへ飛ばされるかわからない。でも、確かにみんなを巻き込んだ。

アルの責任かーーーあの時決め切れなかったアルの、技量の問題か。


わからない。ただ今のアルには、進み続けることしかできなかった。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


「ねぇ…………どうして、ミミって子のこと、守ったのかな?」


ーーーん?それはあれだ……気まぐれってやつだ。なんか、あの時感じた気持ちが、僕を動かしてて……


「じゃあ、あの時感じた気持ちって、なに?君が動く理由って、殺すことじゃないの?」


ーーーあぁ、だから、あんな奴は早く捨てて、虐殺をしに行かなきゃいけない。望を救うために。


「それが本当に、望さんのためになるって思ってる?君は記憶から、何を学んだのかな?あの人の言葉、感情、行動、全てからなにをーーー」


ーーー黙れ。僕は僕の意志を止めることは無い。僕が生まれた理由はそこにあるのに、なぜ止めなきゃいけない。


「……ゆっくり考えてよ、自分が、本当にすべきこと……君がすべきことは、ただの虐殺じゃない……」


ーーーそう、かもな。お前は何が言いたい?


「ーーー本当にするべき戦いは、我儘な虐殺ではなく、君の想う誰かのための戦いだよ。第二都市で、そうしたように」


ーーー僕はまだ、理解できない。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


「ーーーぁっ」


白い服の少年ーーーエルデ・アナストラルはゆっくりと目を開けた。眠りから目を覚ませば、光に目がやられながらもゆっくり開いていく。


飛ばされたアルは、どこかわからない森へ飛ばされていた。周囲を見れば、それはわかってくる。


「……くっ、ここは……あの学園の周り……ではなさそうだな……」


ほかの三人ーーー小佑、明梨、ミミを探さなくてはと思いながら、『魔』の権限者らしき男にも警戒しなくてはならない。


「ぅっ……ったく、僕はどこまで振り回されればいいんだっーーー!?」


アルはゆっくり立ち上がって、その周囲を見る。

アルの正面には、森なのにも関わらず、一本の道が開けており、その道には不思議と木が生えていない。どこか空気が歪み、輝くような空気をしているその森林にはーーー






ーーー血塗れた人だったものが、木に串刺しにされていた。


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