12話「無 VS 魔」
「おい!さっさと起きろよ権限者さんよ!いつまで寝てんだ!俺を殺そうとした時はそんなんじゃなかっただろうが!」
アルビアの大義を全ての魔力消費により抑えた中村少佑の声が、この会場に響いていた。
足は震えて、立つのがやっとの状態。しかし、少佑の前に立つ男ーーーアルビアは、依然として平然とした顔で立っている。
「へぇ……僕の大義を抑えたか。やるじゃん。でも、それが君の限界みたいだね?」
「うっせーな!お前が俺の探してたやつだって対戦相手募集状態の時にわかれば、すぐにでもぶん殴りに行ったのにな!」
「探してた……?それより、私をなぜ助けて……あなたは何者ですか……私は……」
「あん!?お前の後輩!中村小佑、アルの友達!連れてった人!」
小佑は最低限の情報だけを伝えて、目の前の男に集中する。小佑にはわかる、目の前の男の存在、それは今一番の脅威なのだ。
「あなたも生徒なら、早く逃げてください……目の前の男は危険です……私の犠牲だけで済むなら早くっ……」
「先輩一人死んでも、奴はまた歩きだすっす。それに、避難してる生徒は謎の結界で外に出れない。なら、自分のやりたいように生きて、死んだ方がよっぽどいい!でしょ!?」
「…………っ、」
小佑ーーーその目は、自由の瞳。別れる直前の望のような瞳を見て、止まらないことを理解しながらも、同じように連れ出してくれる人を見た明梨ははっと何かに気づくように体を止める。
避難した生徒のほとんどは、アルが飛べなかった時にあった結界によって外に出れずにいた。であれば、小佑の考えは奴を止めることーーーしかし、目の前の脅威は、
「で?僕をどうやって止めるの?その足、手、力、全ては僕の前では無力だ。一人も逃がすつもりはないからね、後ろの女の子も」
「あぁ……俺じゃ厳しいかもな。でも……アル!さっさと起きろって言ってんだよ!女助けるんじゃないのかよ!こんなとこで止まんじゃねーよ!!」
権限者はミミのことも逃がすつもりは無いらしい。
小佑は思いのままに叫び、目の前のさらに奥にいるアルへと声を届ける。
権限者はこんな簡単に負けないこと、衛兵を止めるほどの実力者は、無限の力があり、その空間を凌駕する。
「ーーーだまれ。僕に命令するな」
「来たかーーーっ!!」
その叫びともに、アルビアに唐突に一つの拳が瞬間的に飛んでくる。観客席からの一閃、一瞬にしてアルビアは反応して魔法陣からの拳を当てる。
ーーーしかし、そこへ飛んできた拳はなかった。その現実に思考との違いを感じたアルビアは一瞬思考を止めてしまう。
「ーーーっ!」
アルビアが止めたはずの拳の下、低くしゃがみながら手に『無』の空間を生成したアルが足を一歩前に出す。
アルビアが止めたのは『無』の空間一つであり、先程と少し感覚が変わったことを察知する。
アルビアはもう片方の手で魔法陣を生成、瞬間的にアルの『無』の拳を止めようとする。アルはそのまま勢いと共に拳をぶつけ、稲妻のような衝撃波がアルビアに届き風圧が小佑や明梨にも届いていた。
「君、強いね」
「そりゃ、どうもーーー」
その衝撃波の拳のぶつかり合い、アルの拳が押したことでアルビアは軽くその拳を喰らうことになる。
喰らってよろけた隙を逃さず追撃、アルはアルはもう片手でアルビアに触れてーーー、
「『無』の権限、大技、空式乱無波!!」
無数の『無』の衝撃波がアルビアを襲う。
一つ衝撃波を受けたアルビアは受け身を取り、手を構えて、
「『魔』の権限、武義混沌!!」
両手をクロスさせて、左右から魔法陣を出せば、そこから現れたのは剣や盾、斧や聖剣までもが飛び出してくる。
その武器達を『無』の衝撃波に当てながら、さらにクロスした腕を一直線に伸ばし、
「『魔』の権限!龍星咆哮波!!!」
合わさった手に魔法陣が生成され、そこから焼き尽くす炎の熱線が放出されてアルへ向かう。
一方アルはそれに対し、しゃがみ込んでいた足に力を入れて、追撃するように一気に地面を蹴り、クラウチングスタートのように高速で走り出していた。
アルビアはニヤリと笑い、自身が出した武具を操作していく。アルの目の前にあるのは武具、そして現れた龍の咆哮と熱線。
ーーー威力は五分、生身で受ければ死ぬか傷が付き不利が確定する。ならば、ここで一つ添えるのはどうか。
「『無』の権限!……ワールドオブゼータ」
囁くように、吐息混じりに放つその言葉と共に、手を横に一閃し、衝撃波と共に目の前の熱線を切り裂く。
切り裂かれた熱線は分離、いくつかはアルビアが操作できるが、残りは地面、そして観客席になんかに当たれば、崩れ落ちるものもある。操作されたものは『無』の空間に当たり、相殺させて消滅させた。
そんな風に炎に包まれていきながらも、アルは走り出した足を止めずに進み続けて一気に詰めていく。
ーーー勝つためには、距離を詰めるしかない。遠距離は奴に部がありすぎる。
アル自身も、『無』の空間自体を操作し、武具を避けていきながらも分離された熱線に当てたり、自身へ飛んでくる熱線は体を巧みに使い、時には片手でバク宙をして避けながら進み続ける。
「こいよ!もっと来てよ!僕と!共に全てをこんな風に壊そうじゃないか!!なぁ!?エルデ・アナストラル!!」
「くっ……『無』の権限!大技!!」
拳を握りながら、アルビアがアルの正面に生成した魔法陣からの大きな黒い拳に勢いをそのままにぶつかり、アルの拳に『無』を生成させれば、黒い拳を貫通し、そのまま走り出していく。
このまま行けばぶつかれるが、最後の鉄壁と言わんばかりに三つほどに魔法陣が増加。
周囲の爆発共にアルはスライディングし、その勢いをそのままに、『無』の空間を地面にぶつければ弾けるように拡散させ、三方向から来る拳を一斉に壊していく。
「エルデ・アナストラル!これは……僕が……いや私が……あなたに想像していたものを超える!もっとできるわ!もっと!血で染めて!私に幸福をちょうだい!!」
アルビアは男なのに主語が変化し、女性のような高い声に変化した。アルは違和感を感じつつもそのままの体制で突き進み、
「無空裁波動!!!」
アルは人差し指と中指を突き出して、親指を立てると、指を銃のようにして、その先端から黒く、丸い空間を生成していく。
「ひひっ!『魔』の権限!!大技!!魔幸移……相殺!!!」
ーーー相手も合わせてきた。しかし、僕の生成の方が一歩早い。この距離と、そして学園を吹き飛ばす程ではなく、一人の人間を殺せればいい。
相手は権限者、もう僕の速度に追いついてくるのはそうとしか考えられない。詠唱方法、そして力量で確信した。
どうせ殺すなら今殺すべきだ。自分と同じように、『秘宝』を狙う可能性も無くはない。
アルビアは目の前に魔法陣を生成ーーーしかし、今までのとはサイズも色も違い、黄色のものから赤く変化した。
その魔法陣は瞬きすれば無数に広がり、アルの大技を相殺するようにアルビアを庇う。
この量は明らかに、『こちらの動きを読んで、備えていた量』だった。
ぶつかる。なるべくできる限りの大技をぶつける。溜めた全てを放出するようにーーー
「うぉぉぉぁぁぁぁああああ゛あ゛!!」
アルは、叫んだ。
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お互いの大技が衝突するより少し前、小佑の前に広がっていたのは未知の領域の戦いだった。
「くっ……な、なんだよこれ……」
「…………権限者同士の戦い、ってやつなのでしょうね……」
後ろからの有村明梨の声に体が跳ねて反応し、後ろに素早く振り向けば、何とか立ち上がる明梨の姿があった。
「……人生辛いぜ。俺が探してたーーー目の敵にしてた相手が、あんな異次元とはな……」
「あなたは……アルビアとどんな関係が……」
「……家族を殺された。魔術と、女の声……忘れられない、あの口調……今の炎で確信したぜ。殺したくても、足が動かねぇ……」
明梨は、その言葉に自分を照らし合わせてしまう。
ーーー人には、人の人生があるんだ。一瞬でも、諦めようとしていた自分がいたこと。同じように望を失ったアルは、諦めるどころか、一ミリでも可能性があるなら進み続けると、『ゼロポイント』のために、権限者と戦っている。
もし、自分の後悔を少しでも、その可能性が晴らしてくれるなら、
「…………私は、ミミさんの救出に行きます。ここに居てはあの二人の戦いの邪魔にしかならないです。急いで上に上がりましょう!立てますか?」
おそらく、ミミは動き出すことができない。そもそも、この戦いが始まった瞬間からアルビアのターゲットはミミだ。しかし、アルにターゲットが変わったとしても、その戦いの弊害ーーー火球や武器などが飛び交うこの場で動く方が難しいだろう。
「お前急に喋り出すじゃん……おう!俺は魔力が尽きた!動けるくらいには少し回復したけど、あの奥の女だよな!?行くぞ!」
二人は息を合わせて、同時に観客席へと向かう。囲まれている壁にある出口から走り出し、階段を登っていけば、観客席へと出ることが可能だ。
「ミミさん!もう少し耐えてください!私たちがすぐ行きます!!」
観客席へ登れば、明梨は大きな声でミミへと伝える。
そもそもミミさんがなぜ落とされたのか。いじめなのかもしれない。それもそうだ。ミミは人間とはかけ離れた『特異種』だ。それも、通常の特異種ではない、犬種と獣種の混合だろう。
「落とされた理由がいじめと、特異種のさらに混合なことがあるとするなら……私が救わなきゃ」
彼女が、あの森の道を使った理由は、明梨自身と似たようなものなのかもしれない。そんな思考がよぎりながら、観客席を走り抜ける。
「あいつも、なんかあるんじゃねーのか!?その、お前みたいな言えないやつがよ!とりあえずあそこまで行かなきゃ……ってうわっ!?」
アルとアルビアの戦いによる、火球が観客席まで飛んでくる。なんとか一発は回避、しかし、何発もこちらに向かってきており、
「弁慶草の銀花!ドゥード!!」
赤く燃えるようなガラスの花が、火球にぶつかっていく。有村明梨が生成した花達が小佑を守りつつ、道を開いていくと、小佑と明梨は走り出していく。
「もう少し!行くぞこのまま!」
「はい!ミミさん!もうすぐですから!」
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階段を降りていけば、反対側へと到着した。
明梨は安心と、助けたかった者への必死な顔でミミへと駆け寄っていく。
「ミミさん!大丈夫ですか!?ここから逃げましょう!」
「……アカリ、でも……アルは……ミミのために頑張ってるの?」
「そうですよ。ミミさんのため……だと思いたいですね。でもミミさんを守っている時、彼の目と思考は……本気でしたよ」
そう駆け寄って、ミミの腕を掴みながら、目の前の激しい戦いを瞳に写しながら話して。
その言葉に、ミミはなぜか涙目になり、明梨へと体を寄せていく。
ーーー彼女も、必要とされたいのだろう。誰かに、優しさを貰いたかったのだろう。
かつて、自分が典子にそうしてもらったように。
「……大丈夫、あなたはもう一人じゃないです。さぁ、行きましょう。とりあえずここから出ないと……」
明梨はミミをゆっくり抱きしめて、温もりと、友情を分かち合っていく。自分が求められているのなら、こうするのは当たり前だろう。
その時、アルの戦いに変化が起こる。
「ーーーまずい、はやくしろ!抱きしめ合ってる場合かよ!!」
明梨は後ろからの声に、はっと正面を向いた。
アルとアルビアの大技がぶつかったのか、一気に風圧が加速し、髪が解けながら、勢いよく飛ばされそうになる。
「あ、あれは……」
「ーーーワープ……ゲート……」
小佑がそう囁くように、目の前の魔法陣から別世界が見えてくる。
その魔法陣からの吸引が、こちらに風を飛ばしているのだ。
「アル!アル!ミミはっ……アル!」
「だめです!アルさんの所へ行っては!」
咄嗟の出来事に困惑と、思考を停止していると、抱きしめていたはずのミミが走り出した。
明梨は咄嗟に走って追いかけるが、追いつく前に、ミミがポケットから出したもの。
「ーーー無邪気の石!!!」
その石は、隙が出来て防御の姿勢を取ったアルを貫こうとする聖剣を手にしたアルビアの片腕を、一撃で粉砕した。
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