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10話「有村 明梨のすゝめ」

「ねぇ、望はなぜそんなに頑張れるのですか?私がするはずの仕事すらこなして……」


私は、『第三都市』ザフリック王と母の有村夏美の間に生まれた『三姉妹』の長女だ。

私は子供の頃から『優秀な人』になるために教育されていた。文字の読み書き、計算、礼儀作法、言葉遣い、態度などもう5歳には全てを詰め込まれていた。


私は街の人々と会話したことがほとんどなかった。笑うことを禁止され、たまに来る交渉のお爺さん達や真顔のメイドの方々と会話することしかなく、街を出歩くことを禁止されていたためである。


菓子を食べることや娯楽をしたこともなかった。テレビなんてつけさせてもらうことはない。全て勉強と、礼儀作法に時間を割かれていた。別のことをしようとすると、父様に怒られた。


私はなかなか結果が出なかった。教育をいくらされても能力向上することなく、怒られてばかりだったのだ。


母上だけは、皆に優しかった。母上は父様が私に暴力を向けていると、全力で止めようとしていたのだ。


「私ですか?私はただ、やらなければならないことを全うしているだけです。姉様だって、頑張ってますよ?」


次女の望も、同じ教育を受けてきた。私より一つ下の望は、私が出来損ないだったためにさらに入念な教育を受けてきた。

私は心から、妹に申し訳ないと思っていた。自分が、出来損ないだったばかりに妹に笑みが浮かぶことはなかった。暗く、本当に子供なのかわからないほど辛い顔をしていた。


ーーー私が、出来損ないだったからだ。私がもっとできる人間だったらよかったのに。



そんな苦しかったはずの、私の生活はがらりと変わることになる。


私が自分の生活がおかしいと気づいたのは、何年も過ぎた頃、母と初めて外に出た時だった。礼儀作法の実践、そして母の優しさだった。


外に住む人間は、私とは違った。一番違うのは『笑っていた』のだ。私には教育しか無かった。娯楽なんて感じたこともない私にはわからなかった。


しかし、私はもう一つ気づいたことがある。

私に向いた皆の顔は、笑顔ではなかった。



ここ、第三都市は王政国家。私の父が国王主権となっていること街には王の命令に逆らうことなどできない。虐殺、過重労働、多額の税、食糧難。この都市が他の都市と交流を禁ずる『鎖国』のような都市だからこそ、この都市で家族が消えることなんてざらなのだ。

王家の私には、それがわからなかった。知らなかった、外の世界を初めて知ったのだから。

そんな国政をしている国王の娘に、笑顔など向くだろうか。


私はある日飛び出した。こんなところに居たくない。ここに居たら父のようになるのかもしれない。なりたくない。初めて見たみんなの笑顔に、混ざりたかった。

望を、こんな場所に居させたくない。解放してあげたかった。


私は、第二都市まで走り抜けた。そこで、色んな人に出会った。一人走る私を入れてみんな笑ってくれた、嬉しかった。私が全てを話すと、快く受け入れてくれた。しかし、そんな時間も、すぐに終わってしまう。

父が、第二都市に来た。私を迎えに来たのだ。


「お前がここに来たせいで、どれだけの人間が死ぬと思う。どれだけお前は俺を失望させればわかるんだ。お前は本当に、望と違って出来損ないのゴミだ」


瞳に怒りを灯していた父様は、私を何度も殴った。何度も何度も、私の体を傷つけた。

私の行動は、結局なにも生まないんだと悟った。


ーーー私の行動が、また周りを不幸にした。もうやめた方がいい。なにも、しない方がいい。


しかし、悪いことだけではなかった。第二都市の衛兵に見つかったようで、第二都市の本部から刺客が来たのだ。第三都市は、他の都市には良いように見せていたため、この姿を見て陰謀があるのではないかと調査に来たのである。父も仕方なく都市に入ることを許可したのだろう。


街の人々を見れば歴然だった。誰も出てこないのだ。王に逆らうことができないのだから。

第三都市に定期的な検察が入ることになり、そこに一人の少年を連れた男がやってくる。


このことをきっかけに、私は大きく変化した。

妹が、笑うことが増えた。望に光が生まれたのだ。私は嬉しかった。こんなに笑う妹が見れるなんて夢にも思わなかった。もちろん、父様やメイドの前ではいつもと変わらなかったが、私の前では違ったのだ。


私は、学園に通うことが許された。世間で言う中学生からの入学となるが、私にとっては外の世界を見れるだけで嬉しかった。


数年後、私は学園に通っていた。私に向けられたのは『いじめ』というものだった。

第二都市に限りなく近くしたが、こんな所まで噂は広がっていたのだ。


「お前さぁ、最悪な王様の娘なんだろ?」

「ちょっと近づきたくないな、というか来ないで欲しい」

「まじでどんな神経で立ってんだろ、虐殺とかしてる家で、なんでこんなところいれるの?」


苦しかった。父の汚面をなんで私が被らないといけないのかわからなかった。

私は何度も殴られた。父にも、学園の人達にも。遊ばれた。汚いあだ名から、落書き、暴力、色々傷つけられた。


ーーーあぁ、私がここに来たからだ。また、行動したからだ。ここに居ると、みんなから笑顔が消える。


それを理解しているはずなのに、私はまたもや、自分を止めることができなかった。


「私だって、みんなと仲良くなりたいです。私も、仲間に入れてくれませんか」


勇気をだして、クラスに言ってみたことがある。望に聞いた時に貰った「心から話したら?私もそれで、いい事あったから!」というアドバイスと共に、少し本音を伝えてみた。


「ねぇ、明梨ちゃんだよね?お昼一緒にいい?」


大半の人は変わらなかったが、一ついい事があった。


「私、典子って言います。明梨ちゃんと!仲良くなりたい!です……」


私がいつものように屋上に一人でお昼を食べていると、眼鏡をかけた小柄で茶髪の髪の長い女性が話しかけてきてくれた。


「……いいんですか、私なんかで……その……仲良くなりたいですけど、私……」


「いじめられてるのも、知ってる。明梨ちゃんのお父さんが酷い人なのも知ってるよ。でも、それは明梨ちゃんがしたわけじゃないんでしょ?私、明梨ちゃんのこと知りたいよ!」


「……ぁっ」


「え、わ、わ、明梨ちゃん!?泣かないで……?酷いこと言った?」


ーーー違う。心が暖かくなった、嬉しかった。なんでだろう、なんでこんなに嬉しいんだろう。

初めての、優しさに触れたんだ。母親以外に貰えなかった優しさと温もりが、私を包んでいるんだ。


「……ありがとうございます。私も、あなたと仲良くなりたいです!典子さん!」


「その笑顔素敵!明梨さんって美人だよね!」


この時、私の行動で、私自身は初めて光に照らされた。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


「私ね、今度コンクールに出るんだ〜!」


一年と数ヶ月間、典子と何度も話して仲良くなった。何回もお昼や、放課後や勉強を共にして、帰るのが遅くなり父様に怒られるほど、典子と過ごす時間は幸せだった。

話していてわかったことの一つで典子は、とても絵が上手い。美術部でも画力は頭一つ抜けていて、私が見てもわかるほどの画力の持ち主だった。


「この絵、凄すぎます……これだったらコンクールでも賞が取れますよ……うちに飾りたいくらいです……」


「そうかな、えへへ。明梨ちゃん褒めるの上手だし優しいから、みんながどう思うかわからないな〜」


「いや、ほんとです!上手ですよ!感動すら覚えるほど、この絵は……」


典子が書いた絵は、一人の少女が真ん中に立っていて、周りに様々な感情を表現している物や表現がされている。背景には、暗さの中に光が集まってきて、一つの輝きが生まれているような表現でーーー


「ーーー綺麗です。とっても」


「その絵はね、明梨ちゃんを思って書いたの。私、明梨ちゃんと仲良くなれてよかった!」


「典子さん……ありがとうございます……」


典子だけは、私の中身を見てくれた。私と仲良くしてくれたのは、典子だけだった。

いじめも、なぜかわからないけど少なくなっていった。確かに友達は増えてないけど、周りが私に害を加えることが減った。

全部、典子のおかげだった。典子と関わってからこの生活がようやく楽しくなったのだ。


「ねぇ……明梨ちゃん?今度さ、明梨ちゃんの家……遊びに行きたいな」


典子は、私がそんなことを考えてる間にぼそっと、とんでもないことを言った。

私の家ーーーつまり、王国の中心。


「ーーーそれは、無理です……典子さんが悪いのではなく、私の父親が全ての原因です。ごめんなさい……」


「そ、そっか……そうだよね……」


典子は暗い顔になって、明らかにしょんぼりとした顔をする。典子は定期的に、この暗い顔をしている。私は気にしていたが、本人は何も話してくれなかった。


「本当に、すいません……」


「ううん!どうしても、だめかな……」


「どうしてそこまで……」


私の家系が普通でないこと、そして普通どころか異常で、入ればどうなるかわからない国だとわかっているのに、なぜなのかこの時の私には理解できなかった。


「私はね、明梨ちゃんを……助けたい。こんな悲しい顔……させたくない」


典子は、優しすぎる。

絵を見ながら典子は、感情に浸るように嘆く。


「私、もしコンクールで金賞取れたら……明梨ちゃんと、お出かけしたい!」


典子は輝く瞳で、私に訴えかけてくる。私はこんなにも、困った顔をしているのに。

そんなに見つめないで欲しいと思うほどに、典子は私を見てーーー


「金賞じゃなくとも、私からお願いしますよ!是非、遊びましょう!」


「ーーー!嬉しい!ありがとう明梨ちゃん!コンクール……成功するといいな」


典子は、笑顔で私に返してーーーゆっくり望みをかけるように、絵を見つめていた。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


私はいつも、放課後は遅くなる。

王家の仕事も、周りの人から押し付けられる仕事も、第三都市の人々に対応しなくてはいけない。

この日も、遅くなってしまった。日が暮れてきた。


「はぁ……これで、一段落です……」


私は優秀ではないので、いつも仕事が片付かない。けれど、今日は典子の顔を思い出せば腕が自然と働いた。


「はは!これいーじゃん!最高だよ!僕の思う通りだ!」


「…………?」


私が教室を出て、数分歩いた頃か。

空き教室から、人の声がした。おかしい、この時間は残る人が少ないのに、おかしかった。


走って、空き教室の扉を開ければーーー


「ーーーあ?お前……王家の女だ!あのひでぇ父親の娘の!」

「やっべっ!逃げないと!俺らも殺られる!ひひっ!」


「こんなところで、たむろなんてなにをしてるんですか。悪口を並べるくらいならさっさと帰ったらどうです?」


彼らはバカにしたように私を見て、走り去っていく。こんなの日常茶飯事だ。慣れている。

彼らは一体なにをしてーーー


「ーーーー!」


典子の、絵が。

典子の絵が、ボロボロになっていた。私の存在には彼らは気づいてなかった。典子にいじめ?なぜ、私じゃなくて典子に、なんで、なにがあってーーー


「ひひっ!ほんとにざまぁねぇな!」


あの男達の声が、聞こえてくる。

これでは、コンクールが。なんとか修復できないか、集めないと、ダメだ、あまりにもボロボロになりすぎてーーー


「ーーー明梨ちゃん?」


必死に、ボロボロになった絵に触れる私の後ろーーー扉に立つ典子の声が聞こえた。


「……の、典子さん……ちがっ……なんで……」


ゆっくりと、衝撃で口が開いたまま、目を見開く私は扉の方へ顔を向けると、


「ーーーあ……あ……明梨ちゃん……?なに……やってるの……?」


私のことを、今までなかった冷酷な目で見つめてくる典子が、拭かない涙を流しながら見つめていた。

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