8話「晒しあげ」
学園のコロシアムは戦闘や競技を行うステージを中心に周りが全て席で囲まれている場所。体育祭や、演技発表などで使う他、決闘が稀に行われるのだ。
喧嘩は人の絆のきっかけ。そう思うのもおかしくないだろう。
だが戦闘は代償を払う。その代償に見合う報酬が、本当に手に入るのか。後悔は人を蝕むだろう。
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現在アルと小佑はコロシアムに向かっている。
一つ一つの校舎自体、渡り廊下や道で繋がっている。現在歩いている渡り廊下を進む先に、コロシアムはあるらしい。
もしゲートのようなものが人を連れ去り、その先に教会があるのならば、コロシアムの騒動というのはゲートを見つけるきっかけになるかもしれない。
「コロシアムは普通、決闘が起こってもおかしくない場所だ。そんなところが大騒ぎなんて言ってるなんて、なんかおかしいけどなぁ」
「そこに、今回の騒ぎの犯人がいる可能性を僕は見ている。早く行くんだ」
アルの歩くスピードはどんどんと加速する。アルは図書室で地図を見ているので場所把握はしている。
焦りと、期待。そのふたつが入り交じっているアルの心は安定しない。足早になっていく自身の心を制御するのは難しい。
「コロシアムでゲートがあったとして、その先に俺たちを殺すようなやつがいたらどうすんだよ。アルがやってくれるのか?」
「そのつもりだ。じゃなきゃ、僕の復讐すら果たせないからな。とにかく急ぐぞ」
「ほんとに大丈夫なのかアル。今のお前、欲望に飲み込まれてる気がするぞ」
「どういうことだ?」
アル自身は理解できない。なにが、自分のどこがおかしいというのだ。有村望を救うために自分がここまで焦り、自分を沸き立たせていることのなにがーーー
「ーーー焦りは器を転がす。いずれ転んだ器からこぼれた物ってのは、二度と帰ってこなくなる」
「らしくないことを言うじゃないか。それは小佑、お前自身の経験か?」
「さぁな、俺は言いたくなっただけだよ。噂の権限者様が焦って世界を破壊しないようにな!」
こちらを見て微笑む小佑。
アルが足早になっても付いてくる彼を、どこまで信用していいのだろうか。
ーーー彼を信じて、この先も進んでいいのだろうか。
「チッ。邪魔だけはするなよ」
「はいはい権限者様ー。そろそろ着くぜ、コロシアムに……」
廊下や、階段などを進んできたアル。目の前には2m程のドアがある。このとてつもないデカさの扉の向こうに広がるのがコロシアムらしい。
「ほらほら急げ~!れっつごー!」
小佑が力強く、足を踏ん張らせ、全身を前のめりにしながら開けた先ーーー
そこに広がるのは、中心の戦闘場を三百六十度囲む座席。そして日光一つ通さない、高さある丸い天井。囲まれた座席は六段ほどあり、今も人がそこそこ座っているのが見てわかる。
アル達はその屋上、一番上から入ったらしい。
中心には、戦いやすいよう砂が撒かれた闘技場のようになっているのがわかる。
「コロシアム……ここが……っ!」
「アル!あの中心で決闘してるのが騒動の原因なんじゃねぇか!?西条達、調べすぎて巻き込まれたりしてねぇかな!?」
周りに気を取られていたが、今は驚いてる場合では無い。
中心で決闘してる者達、それはーーー
「血で蝕まれるのはどんな気分なの?僕はあまりそういう経験がないからさぁ。絶望から生まれる喜びはどんなものだろう?」
青髪の男ーーーだが髪は肩まで伸び、優しい目付きに獲物を捕らえたように微笑む顔。
怪しい男にも程がある。相手は一年の生徒らしい。その体からは血が止血できないほど出ており、立っているのがギリギリに見える。
「教えて欲しいんだけどな。これだけ盛り上がっていて、これだけ傍で笑ってくれている人がいるのにね」
「知らないですよ……っ、誰なのか……」
「じゃあ盛り上げを最高潮にしていいねーーー」
この男が話していることの意味が理解できない。文脈そのものがおかしいのもあるが、彼自身の思想から来ているだろう言葉は聞いた者を困惑させる。
「ぁぁ"ぁ"ぁあ"…………」
一年の男の体に一閃ーーー光の矢のようなものが刺さった。その光の矢の速度は一瞬。視認するのは不可能に近かった。身近で死を見ることにアルは慣れているが、小佑は驚きを隠せずにいる。
「ーーーーーーー」
周りの観客ももちろん、驚きのあまり叫ぶ者、動揺する者が混ざっている。
「ーーーやっぱりまずいや。もっと絶望しないと」
男は亡くなった男の死体に近づき、指で血を取るとペロりと舐めとった。
あまりにも人の思考とは思えない行動、誰が見てもおかしい。アルから見ても、他と一味違うことが見てわかってしまう。
「人の苦しむ顔を見るのは救済だなー!さて、僕に勝ったら一生の幸せをあげるよー?誰か来ないのー?」
ルンルン、といったようにステップを踏みながら笑顔で話している男ーーおそらくサイコパスというやつだ。
コロシアムの場には複数の死体が転がっている。おそらく先生らしきものや、生徒もいくつかいる。幸福のために挑んだのか、何かを守るためにーーー
「ほらー早くー僕に勝つだけだよー」
教員も止められない。警官も止められない。この災い者を止められるのは通常ならいなかったということ。その男の雰囲気はあまりにも狂気じみているのをアルも感じ取っている。
「アル……どうするんだよこれ、今までの事件の原因ってあいつなんじゃないのか?あいつが元凶なら……ワープゲートも!」
「かもな、奴だけ異様に雰囲気が違う」
狂気すら感じる雰囲気に、一生の幸せだろうと名乗り出る者は存在するわけがない。
ざわつく会場が変化するのは、同様の残虐が起こる場合のみだ。
「ちょっとっ!待ってぇ!うぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁー!!」
唐突に会場に響き渡る高い声ーーーそして、コロシアムの中心に体を落とされ、うつ伏せになっている人間が現れた。
ーーーなにをやっている、力では勝てないことを目の前で散々見せられてきたんじゃないのか。また死人を増やすのーーー
「ーーーーー!」
そこにうつ伏せになっている少女ーーーそれはどこかで見たことがあって、
「あれー?その耳は獣族?特異種か。珍しいのも紛れてるものだね!衛兵にでもなるのかな?力も人間より出るだろうしね!」
「うぐっ……ミミが……なんでっ」
そこにうつ伏せになっている少女は『ミミ・クロウエア』だった。
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視線を観客席に向けて見れば、3人の人間の少女がニヤリと笑い、狂気の目をミミへと送っていた。恐らく原因はその3人がミミを飛ばしたこと。理由は絞られるだろう。
体を立て直さなければ始まらない、何をやっている。攻撃の姿勢を狂気の男はもう立てている。アルにすら見えるかわからない光線が、ミミを貫くだろうその瞬間が迫っているのは火を見るより明らかだ。
「アル!あれって俺が校門にいた時に居たアルの友達じゃねーのか!?」
観客席の1番上、柵を片手でガッシリ掴みながら身を乗り出し、指を指す小佑と、目を見開いたまま汗を流すアル。
観客席に座る生徒たちも動揺し、ざわつきが目立つようになっている。
「アル!おいアル!あれまずいんじゃないのかよ!」
ーーー早く動け……早く動け……お前が動かなきゃ相手の攻撃が当たって体はミミから自由を奪う早くしろ早く動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け
狂気の男の前に無数に、数え切れないほどの小さな魔法陣が空中展開される。
「……さーん………に……」
カウントダウンは恐らく死を意味する。ミミは何とか立ち上がるが、足はふらつき、腕から傷だらけの肌が見える。
光線を避けれるのか、ミミ自体にそこまで戦闘能力は無いはずだ。
絶望を目にしたミミーーーその顔は青ざめ、傷による震えから恐怖の震えへと変化していた。
「ちょっとは抵抗してくれる子が来て欲しいね〜でも君の絶望する顔はすごく好きだよ!いい血の味がしそう!じゃあバイバイ」
指をパチンと鳴らし、その魔法陣が光り始める。動く魔法陣から出る光線はミミの心臓を貫きーーーー
「ーーーーごめん、ママ」
「おいアル!何してんだよ!」
「ーーーー『無』の領域解放!!ジェネレートオブナッシングネス!!」
「ーーーーミラーサファイアレンス!秋桜の銀華!ドゥード!」
アルは身を乗り出し、観客席の1番上から中央へと飛び出した。
自分でも、なぜ嫌いなミミの為に乗り出したのかわからない。もちろん人間など嫌いだ。人間が有村望を奪い、復讐の対象でもあることだ。人間を考えることなど、アルにとっては地べたを這いずる虫を考えることと変わらなかった。
しかし、何かを感じたのだ。他の人間とは違うものを、自分の知らない感情を、アルの手を繋いだあの笑顔に。
アルだけが感じる、『偽装家族』に。
その男の前に空間は無に帰り、絶望すら越えられぬ壁を生み出す。
「ーーー『魔』の権限、光撃周波」
魔法陣から数発の光弾がミミへと放たれた。観客席に届かず、ミミだけへとホーミングされ、地面を抉りとる勢いのまま絶望するミミを狩り取ろうとする。
「ーーーーっ!」
光弾がミミに当たる直前ーーーアルは光の速度よりも先に生み出した壁状の『無』をミミの正面へと向ける。
ミミへ当たるはずの光弾達は、『無』の空間を貫通することが出来ていない。しかし、遠距離の空間はいずれ貫通される。それほどの数を、男はミミに放っていた。
「貫通されるその前に!着地してやる!『無』の権限!無魔の障壁!」
アルは受け身を取りながらできる限りの移動をし、ミミの前へと足を広げ着地した。
着地した瞬間に地面に手をつけ、展開された障壁は、貫通されそうな壁状の『無』の空間を補い、光弾を消滅させていく。
恐らく半分以上はアルが消滅させている。しかし、そこから抜ける光弾も存在する、それをーーー
「ーーーっ!ミミさん!大丈夫ですか!?」
多数のガラスの華が勢いをそのままに反射ささせていき、一つ一つを打ち消しで消す。
一瞬横に視線を送ってみれば、アルの横に立っているのは『有村 明梨』だった。
「神無月 無唯斗...!入れたのですね」
「ありがたいことにな。そんな話をしてる場合じゃなさそうだがーーー」
「おっ!2人も増えたぁ!僕の聖なる犠牲になって、魔術養分となってくれる分にはどれだけいても嬉しいから大歓迎だよ!」
「その意味わからん魔術なんとかにはなるつもりは無い。僕は復讐をこの命でしないといけないもんでね」
有村明梨はガラスを上手く使い、素早く反射させ別の光弾に命中させつつミミを気遣っている。
目の前の男は単純、ルンルンのままこの無限の魔法陣を生成し続けているのだ。
的が目の前にあるのに進めないこのフィールド、地面に限界が来るのも近いだろう。
「この速さの光弾を捌くには無理があるか……僕なら……」
「神無月無唯斗!一人で行くにはあまりにも無理があります!先程の森林での男とはレベルが違います!」
「それでも!僕の盾が効力を発揮して、この地が崩れ落ちるその前に止めなければ殺される!僕には空中戦での機動力は自信が無い!地上戦で落とせなきゃホーミングに叩かれるぞ!」
「なら、私も戦います!私にできる限りをします!特質者なら私でもやれます!」
「何を言ってる!君では力不足が目に見えてるだろ!どうしてそこまでする?君一人に責任が全てあるわけじゃない!君はそこで捌いてくれればいい!」
有村明梨と目の前の魔術師では明らかに魔法に差がある。量、一つ一つの技量、技の数共に奴の方が圧倒的に上だろう。
有村明梨がそこまでする理由などーーー
「ーーー私は王家の人間。自分でどうにかしなければならない人間なんです。もう生まれた時から、私はこの世界の奴隷ですから」
「チッ、また僕の知らない話か。とりあえずあんたができることはミミに飛んでくる玉を捌くことだ!それ以外僕に干渉するな!死ぬからな!」
アルの知らない背景が、どんな人にもある。そんなことを一つ一つ考えていてはこの場はいずれ崩壊してしまうため、とりあえず頭を働かせる。
アルも必死に考えるが、やはり有村明梨にできることーーーとりあえず玉を捌き、ミミの防御のみに徹底することだけを伝える。それを聞いた有村明梨は、瞳に影を生み出して落ち込むように一言ぽつんと声を出して、
「私に……できること……望……」
アルは有村明梨に対して指示をした途端に大きく前へ出る。アルが出した無の障壁が破れる前に動くが、有村明梨は影に一つ、ガラスの花を生成する。
そんなことも気づかぬまま、アルは巧みに玉を避けていき、体をうねらせた所で足に力を込め、高く上へ上がるとーーーー
『無』の権限ーーーワールドオブゼータ!!!!」
無の壁が数秒、崩れ落ちるその前にアルは自身の地面につけていた手を離し、高速で腕を払う。払われた直後、空間を一閃する『無』が光弾を切り裂いていき、離れた男ごと切断しようとする。
「なにそれっ!意外と面白い技出せるんだね!『魔』の権限……魔界路限滅」
手のひらを広げ、魔法陣を二つほど腕を動かして十字形に操作すると、そこには紫色をした斬撃が展開された。
空間を一閃したその衝撃波を、その斬撃は意図も簡単に相殺したのだ。
「『魔』の……権限……?」
有村明梨は気づいた。これからアルが相手しようとしている男の本性ーーーこれから始まる戦いの規模と、明梨が入ることが出来る可能性の少なさを。
「ーーーーっ!!」
アルは生まれた隙である、魔法陣の数が明らかに減ったこの一瞬に力を込めて、苦手と言っていた空中で自分の足に『無』の空間を生成させ、その空間を足場として魔術を使う男に向かって高速で飛び込む。
飛び込むだけではなく、もう片方の手に作っていた『無』の空間を拳に纏わせて一気に相手に向けて突き出す。『無』の空間を纏わせることで相手が魔術を使用しても相殺して拳が貫通する。
「はははっ!今はっきりしたよ!僕ーーーいや、私が探してた人……エルデ・アナストラル!あなたの絶望を分けて?あなたの心の血をーーーそっとこの世界に湿らせてっ?」
「ーーーアル!!!」
アルが拳を突き出す先ーーー魔法陣が生成された。ここまではアルの計算通りだ。このまま貫通してーーー
アルの空間に響いた声は、ミミだ。後ろから響いた声、その先にあるものはなんだ。魔法陣が『無』に相殺され、先に映る男はーーー
ーーー有村望に、変化していた。
鈍る。その一瞬に映りまっすぐ見つめてくる金髪の女性に、拳の勢いが落ちる。
アルがもう一度瞬きすると、その笑顔は変わっていて、血に染った男の姿があってーーー
下の魔法陣から突き出す、先が尖った細い柱に体が貫かれて、同時にアルの拳に間に合った正面からの魔法陣から突き出される大きな拳に体が飛ばされたアルの血がコロシアムに散った。
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