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7話「上級学園」

ーーー何かに襲われた。それだけは覚えている。

少年の瞳に写っているのは、暗闇の中の炎。

そこには赤い液体も混ざり、淡々と燃えている。


それを見て少年が感じることは暖かさか、苦しさなのか、それ以外のなにかなのか。


「弱い子の味は美味しいの。だからあなたの命と血を分けてくれないかしら?答えて欲しいのだけど」


何も無くなった。家族は皆殺しに、全て何もーーー


「少年。遅くなった」


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


アルはたった今、中村小佑という男の案内の元、『上級学園ディスパリティ』に侵入しているところだ。

もちろん学内に入るのは困難を極めるはずだったのだが、警備があまりにも甘すぎるところから意図も簡単に入れてしまった。


疑いの目に、悩むように顎に手をつけながら歩いているアルは疑問しかない。


「おかしくないか。いくら想定外にしても甘すぎる」


「そうか?この学園ってのは不親切だからなぁ。『階級制度』っての取り入れてて、弱ければ死ぬ強ければ生きるって感じだから、弱いやつを守る制度ってのがあんま存在しないんだよ」


ーーー恐らく、自分の身は自分で守れということなのだろう。

実際、有村明梨は戦闘能力を手にしている。あの幼稚なミミですら謎の『石』で攻撃してくるのだ。隣でニコニコしながら歩く小佑の言うこともあながち間違ってはいないのだろう。


「さぁ!ここが図書室だ!ここで俺の知ってることを教えてやる!」


そうこう考えてるうちに、目の前に広がったのは無数の本たちと広い部屋だ。


図書室自体は教室一つ半と言ったところの広さ。そして窓がいくつかついている。読む人用の椅子とテーブルが五つほどあり、これまた充実していそうな図書室である。


「ーーーー!」


と横を向いたところ、アルの目に写った物、


「地図か。これで学園の周りの情報も把握できる」


学園の周りの地図だ。敷地はもちろん広いのはわかっているが、改めて見ると広すぎるだろと言いたくなる。


「地図に載ってたらもうそれで終わりなんだけどなー。これまた載ってないと思うんだよ。俺も見たことない」


確かに目を凝らし、地図を細かく探していくが教会など一つも見つからないどころかかすりもしていない。


ーーーもし無ければ、アルが目指す地はどこにも無いことになる。そして、有村望の決定的な『死』が決まってしまうのだ。


「ーーーそれだけは、僕が絶対……」


「あ!いたいた!小佑っちじゃん!お久だよー!」




……なんだ、ここに居るはずのない女性の声がした。


アルの周りに女性などいなかったはずだ。有村明梨とミミは門で別れた。それ以外の者、つまりーーーバレた。


「ーーーっ!」


アルは一瞬にして飛び上がり、体をうねらせ空気中を舞う。

それを見ていた小佑も、謎の人物も、自分をおそらく追えない。


そのまま後ろへ着地し、その声の正体を確認してーーー


「はっ、アルっ!お前ビビりすぎだって〜!俺の友達だよ」


ーーー友達?

唖然とした顔のまま声の人物を確認する。


一人は小柄な少女だ。制服は変わらずだが、眼鏡をかけた女性だ。髪はロングと言ったところか、身長も少し低めである。目の下のほくろが特徴的だ。


もう一人、その後ろに付いてきているのは、


「小佑君の友達は変な人が多いね……凄い身体能力だけど、小佑君の友達?初めまして。私は『佐藤 翼』です。横にいるのが、」


「私は『西条さいじょう 言葉ことは』だよー!よろしくっ!ないすとぅーみーちゅー!」


後ろから本を一つ抱え、話しかけてくる茶髪の男。がたいが良い訳でもなく、ごくごく普通の高校生と言ったところだ。


なお手前に元気よく手を挙げた挙句に親指を上げながらグッド、とやっている少女もまた、普通にいるだろう高校生に見える。


馴れ馴れしいとは思うが、アル自身あまり知られてはいけないのに話していいのだろうか。


ーーーそう考えても、もう既にこの学園にもう3人も自分を知る者がいるではないか。


「僕に話しかけるな。触れれば殺す。直ちに消えろ」


常人なら震えるだろう冷たい目で二人を見つめ、消す準備すら手の中でしていた。

あまり存在を知られてしまっては、問題を起こしかねない。なるべく密かに行動するのが鉄則だと思っている。


「ーーー教会の場所、こいつらなら知ってるかもしれねーぜ?なっ?」


「それはなぜだ?地図にすらないんだぞ」


「私達、最近の不思議な現象について調べていて、意気投合して仲良くなったんですよ」


「俺と翼は元から仲良かったけどな!」


どうやらこの3人はこの学園で最近頻発している不思議な現象についての調査グループらしい。ごく稀にいる気になったことは調べて解決するタイプと言ったところだ。


地図にすらない場所の特定についてのヒント、そんなものがあるのか。


「地図にないんだぞ?僕には気配すら感じられない」


「地図にない教会ですよね。行方不明になった人の友人によると、不思議な『円』の様な物に入って行ったという証言があるんです。」


「円……?」


翼の考える素振りから出された一つの原因。

円ーーー言わば『ワープゲート』ということだ。その円が起こした行方不明、


「その先にあるのが、教会の可能性……」


「そういうこと!まあ、私たちが実際の現場に行ってみたものの、円自体消滅してたから次を待つしかないんだけどねー!きっとワープゲートみたいなものだから、『魔術師』みたいなのがいると思うんだけどさー!」


ワープゲートを開く能力を持つ魔術師の存在。実際に、森の中で遭遇したグラゼですら『デーモンハンド』と言った手を出現させることをしている。


「で、我々の秘密の情報ですが……そのゲートの先にはとある建物があったと。僕らは小佑君の探していた権限者に近いと予測してます」


「つまり!俺らはその建物がどんな建物かってのが知りたいわけなんだが……まぁワープゲートなんて、魔法使いのイメージしかないからな〜」


つまり、小佑が探している権限者に通ずるということだ。だから、アルの力が必要だと言っていたのだ。


「それを僕に協力して欲しいから、あそこで機転を利かせて連れてきたのか」


「まぁ、危うく死んでてもおかしくなかったがな……」


アルが権限を発動していればもう死んでいた。この小佑は戦い方といい機転が利くことが多いのかもしれない。


「はぁ……というか、そんな話があるなら小佑も知っていたんじゃないのか。なぜ話さなかった?」


「……だって、俺馬鹿だし?あんまり覚えてなかったから、とりあえず知ってる二人がいるところまで連れてきたかったんだよ〜」



彼の理解度から、彼はおそらくこの二人に説明を投げ出したってことである。説明が完結な方が実際にはとても助かる。

アルは、教会へなるべく早く行って、真実を掴みたいのが本音であるからだ。


それに、権限者にはいずれ会わなくてはならない。

視野を広げてゲートを見つける。そのための協力、なのか。


「ーーーチッ、僕の邪魔だけはするなよ」


「こいつらは協力だって〜」


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


その後もこの図書館で教会やワープゲートについて調べてみたが、やはり情報としては不足しているというのが現状だ。


「どうして僕にそんな協力するんだ。僕はお前が嫌いな権限者じゃないのか?」


アルは本を読み漁りながら、ふと小佑に問いかける。


「俺だって、探したいやつがいんだよ。もちろん権限者ってのは許せねぇけど、警官や俺を殺すことを少しでも躊躇ったアルはちょっと悪くないって思ったんだよ」


「……僕が殺さなかったのはたまたまだ。実際第二都市で僕が殺したことを知っているだろ」


「でも、それは過去のお前だろ?あの女子二人組に会って、今の俺の友人に会って、俺に会って。人ってのは出会いで変わるもんだぞ?逆に俺を殺さなかったじゃん?」


ーーー変わることは無い。殺す。ただ、邪魔をする者と復讐しなくてはいけない者、その全てを。

あの時も、また心の中の『何か』が疼いた。手元が狂ったのだ。一度ではなく何度も起こるこの現象にはアルももうこりごりだった。


「ーーー僕が変わることは無い。あの時も、『何か』が疼かなければ殺せてた」


「でも殺さなかった。それがもう結果だぞ〜」


「黙れ。僕の気を揺るがせれば命はないとーーー」


「はいはいわかってますよ権限者さん」


そんなことを話し、考えながら図書室でひたすら調べているが、結局見つかったことといえばーーー


「ゲートなんて適当に回ってりゃ当たるんじゃね?本ばっか飽きたぜアル〜」


と、小佑が床に座りながら口をこぼすくらいには詰まっている。小佑の友人二人は調査に日々出ており、今日もあの会話の後出ていってしまったが、見つかるはずはないだろう。


「なぁ〜退屈だって〜!学校探検的なのしないのかよアルは〜!」


「しない。僕自身は自分のやるべきことの為に動く。過去の形跡を全て調べて、この学園などさっさと離れたい」


ほんとであれば、こんな所で立ち止まるわけにはいかない。第二都市で会った灰色の服の男の話がほんとならば、今も彼女ーーー有村望は、魂の終着点をさまよっていることになる。


「僕が、やらなきゃいけない……そうなんだろ……」


「おい!コロシアムでなんか物騒なことが起きてるぞ!」


深く考えているアルの元へ、廊下から大きな声が響いた。それは、眠たそうな小佑ですら飛び起きるほどに。


「ーーー!アル!これが不可解な事件だとしたら……」


「あぁ、行くぞ」


そんな空間に、もう1つの声が鳴り響いていた。その声は、届かぬうちに空気とともに消え去る。


「ええ、あなたのために……エルデ・アナストラル」


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