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6話「別の者」


学園の周りを走るアルと、『中村小佑』という男は現在一キロほど、先程の警官の場所から走っていた。


しかしこの学園の敷地は異常に広く、やっと端まで走ってきたというところである。


走ってる最中もアルは中村小佑へと言葉をかけるが、


「まあまあ、とりあえず付いてきてくれ」


と返されたまま足を動かすだけだ。


もちろん危機的状況から救われたのはあるかもしれない。しかし、それにしても突然すぎる。


「ーーーーーっ!」


走る最中、アルは無理やり足を止めさせ手を振り払う。


「ーーーさすがに、限界ってところか。俺も悪かったよ」


「君は何者なのかと何度も聞いていたが僕もさすがにイライラする。殺されたいのか」


質疑応答すらできない目の前の男に対してどう対応していくべきか考える中、振り返る小佑に聞くべきこと、


「何が目的で僕に近づいた?そこだけははっきりしろ」


「さっきの俺?お前の顔見て、朝の新聞に載ってたのと同じだって気づいたんだよーーー権限者ってやつだろ、あんた」


その言葉を聞いたアルの目は世界の脅威へと変化する。

昨夜に都市の中心で大暴れした男だ。新聞などの情報機関が黙っているはずもない。

その発言から、アルの命を狙う可能性も出てきた。逆にそれ以外になぜその話を持ちかけるのか、目の前で「人殺しさん」と言っているのと同じなのに。


「そうだが、なんだ。僕とやり合うならさっきの場でもいいだろう。何が目的なんだと聞いている」


「まあまあそう怒るなって。ちょっと試してみたくてな」


「試す?」


試すーーーーその言葉を聞いたアルはさらに目を鋭くさせ、疑いを強くした。



「すまねぇ、俺はーーーー権限者を、ころさなきゃいけなぇんだ。ここに連れてくれば、誰も邪魔しねぇ!俺が……やらなきゃいけねぇんだよ!!」


ーーー刹那、突然小佑は飛び上がった上にこちらの頭目掛けて拳を突き出した。


「ーーーー全てが突然すぎる。来るなら来いーーー」


しかし、アルの反応速度は権限者そのもの。手のひらで拳を止めて見せる。

止めた衝撃が地上に広がっていく。


小佑は歯を食いしばって後ろへバックステップ。そして、


「ーーー!有人盾展開!盾舞!」


「それは、盾か」


小佑の両腕に展開されるのは薄い黄色に染まった『盾』。

両腕を合わせ、そのまま空手のような構えに変わった。


「ーーー僕にかかってこいよ」


「言われなくたって!うぉぉおおああ!!」


今度は蹴りからアルに向けて飛び込む。

蹴ろうとした足はもちろんアルが体を逸らしたことにより外れる。しかし、それでは終わらない。


一瞬で着地をさせ、体めがけ足を踏み込み、両腕から力強いパンチを二発繰り出す。

それでもなお、アルは避け続ける。


「ーーっ!どうして俺が攻撃しても攻撃し返さない!」


「ーーー一撃で殺すのは申し訳なくてね」


何度も当てようとする拳は巧みに体を使いこなすアルにかすりすらしない。


「くそっ!俺が殺らなきゃいけねぇのに!」


「ーーー遅い、遅すぎるだよッ!」


小佑が再び足を踏み込もうとする直前、戦況は変わる。


「ーーーー再盾!戦擊!!!」


小佑は足を踏み込むと、そこから地面に向けて盾を突き出す。


「ふっ、なるほどな」


地面が割れて、そこから衝撃波のような光が飛んでくる。その衝撃波をなんとか体を回し、かすり傷で済ませる。


「俺の連撃は!ここだぁぁ!!ーーーーっうぐ!?」


小佑は体を回したアルに向けて、追撃を放とうとするが突如として体が止まる。


ーーー小佑の体に向けて回転蹴りを当てた。


蹴りを食らった体は吹き飛んだ。平野へと投げ出された小佑は一瞬にして、体から汗が止まらず、口からなにかを吐くほどに戦闘不能になってしまう。

立とうとするのは見てわかる。だが、アルは小佑へと歩むことを止めない。


「残念だった。僕の勝ちだ。魔力ーーー人に流れるエネルギーを利用して、お前の盾や地面に放出した衝撃波に変化させたか。だが魔力管理不足だ。戦いにすらならなかったな」


相手の動きは硬派と言ってもいい。しかし、硬派すぎる故に速度は衛兵に比べて極めて遅かった。

だからこそ、アルは近接戦闘は一撃も当たることなくこの状況に持ち込めている。

また、能力を持つ人間ーーー特質者の中でも、魔力という体のエネルギーを使った能力者であり、権限者相手でエネルギーを使い果たした結果、体が一時的に止まったのだろう。



アルは小佑の目の前で止まり、手を向けた。


「言い残すことは?」


終わる。突然のことで何も理解できていないが、男がこちらに殺意を向けているのはアルも理解している。


とりあえず、男を殺して中に入りーーーー


「ーーー俺の母ちゃんは、権限者に殺された!その復讐なんだよ!」


「なに?」


もちろんアルには少なくとも彼の母親を殺した記憶はない。

だが、権限者と言われればアルが会ってきた人間の中には自分以外存在しないのだ。


「俺の母ちゃんは…権限者の女に殺されたんだ!復讐のために、自分がどれくらい権限者に太刀打ちできんのか試したかったんだよ…」


荒くなった声で訴えかける小佑に、アルは手を下ろす。

試すとは、彼の復讐のためだったのか。

もし別の権限者に太刀打ちできれば、その殺した張本人にも対抗はできる。そしてその別の権限者というのが、アルになっただけなのである。


「はぁ、なら早く言え。僕も復讐の続きなんだ。同情くらい僕にもできる」


「でも、俺には太刀打ちできなかった」


彼からして見れば惨敗、と言ったところか。

今まで修行してきた結果がこれなのでは、立ち上がらないのも理解出来る。


「俺には、やっぱりダメなのか。勝てねぇのかよ権限者には!俺は!……俺はっ……ッ」


地面を数回叩き、悔しさを全面に出す。それはそうだ。実際の所彼は確かに何も出来なかった。確実に殺されていた。


その姿は過去の記憶で見た、駅のホームで崩れ落ちる『神無月 無唯斗』と姿が重なってしまう。


そんな彼でも残っているもの、


「ーーーお前は!そんな甘い心で復讐を誓ったのか!違うだろうが!」


アルは傷つき、自暴自棄なる男へ向け叫んだ。


「悔しくて誓ったんじゃないのか!だったら負けたとしても立ち上がれ!諦めたらおしまいなんだぞ!」


「ーーーーーっ……」


「勝ちたい気持ちを忘れるな!勝とうとしなきゃ勝てないんだよ!」


すこし道を外してしまい、復讐を誓った過去の自分へと投げかけるようにアルはただ叫んだ。

驚く顔で小佑はこちらをただ見つめていた。


「わかったなら、立てよ」


手を殺すために向けるのではなく、彼が立ち上がるために『差し伸べた』。


「ーーー俺も、権限者に叱られる日が来るとは思わなかったなぁ、」


「僕もキャラじゃないことを言ったさ」


アルが叫ぶ理由。自分の中の少年の叫びにまた、アルは少年を恨みたくなっていた。


手を取り、立ち上がる小佑はなにか救われたように、すこし笑っていた。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


「この学園の教会を目指す!?世界の中心に行く!?なんだそりゃ!面白そうじゃねーかよ!」


とりあえず、これから目指すべき場所や先程警官と揉めていた経緯を小佑に話した。


学園の端、フェンスの角に座りつつ話しているが、どこを見てもやはり入れそうにない。フェンスの高さもそれなりにあり、もちろん頑丈な結界が張られているんだろう。


「面白くは無い。実際この学園にすら入れていない。この位置なら確かに『無』の力で結界自体を『無』にすることができるかもしれないが、気づかれるのも時間の問題だろう」


「それでも入れるならいいんじゃねーの?中で捜索するには怪しいけどなぁ……」


「ーーーなんだ」


先程からチラチラとこちらを見つめてくる。なにかあるなら言って欲しいが、そうでは無い様子。


会話から推測できること、


「……小佑と言ったか。付いてくれば捜索するのに怪しさは多少が減ると?」


「よくぞ気づいた『無』の権限者よ。頭の回転すら権限者レベルだなおいおい!」


一瞬にして笑顔になりながら、こちらの肩を何度か叩いてくる。

一度拳を交えたとは思えない距離の詰め方に動揺が隠せないアルもそこにいた。


「はぁ、とりあえずどんな事があっても知らないからな。あと目障りになれば殺す。僕は自分のために動く」


「はいはい合点承知之助!学園の案内とかしてやるから命くらい勘弁してくれよー」


確かに殺す、とは言いつつ心の中の少年ーーー神無月無唯斗の復讐にこの人間は入っていない。

それに案内役はどこか見つけなければとは思っていた。入るついでに手に入るなら十分メリットである。


「……好きにしろ」


「了解了解ー!権限者も喋れるんだなー!」


「お前が倒したい権限者というのは言葉も喋れないのか」


「ジョークだって〜!……ただし、俺にも協力してくれ」


「ーーー?協力だと?」


アルにはやらなくてはいけない事がまだあるのに、ここでさらに増やしては埒が明かない。

しかし、こちらにメリットは高いのでここで協力することは悪くは無い。教会の位置の特定が早まれば有村望に繋がる道が開くだろう。


「ーーー俺の仲間とこの学園の謎を解いてくれ。俺の復讐には権限者、お前の力とその権限が必要だ」


「どういうことだ?僕の権限が?」


「中に入って、それは教える!教会があるかもしれない。頼む。」


頭を下げる小佑、それを見てアルは自身の必要性を少し感じる。

もし、その先に教会があるのであれば必要なことなのかもしれない。


「ーーー入ってから、聞かせろ。僕は教会に着けば問題ない」


「……!よっしゃ!とりあえず入ってから聞いてくれよな〜!」


おそらく、学園の周りにある謎の結界、先程森で会った謎の男といい、この学園は何かある。

それに小佑が復讐を誓った相手ーーー女性の権限者というのも気になる。

自分以外にも権限者が存在することは把握している。実際、第二都市の中心で暴れた際に現れ、自分に有村望について情報を提供した『謎の男』が言ったこと、


(ーーーーゼロポイントは、『秘宝』を集めることで開く。秘宝という物は各『権限者』が持っているものだ。それを君には集めてもらい、自らでゼロポイントを開いてもらう。)


各権限者が持つ、これが意味するのは何人もいるということ。また、その権限者と対立する日が来るということ。

そのうちの1人でも多く情報を持って損は無いだろう。


「ただ、お前が会った権限者はなんだ。どんな能力で、どんな見た目だ?」


「俺もあんまりよく覚えてないというか、俺が幼すぎてな……女ってことと、フード被ってたのは覚えてんだけどそれ以外が致命的に覚えてねーんだよなー」


「フードを被った女か……」


「あとは『魔法』使ってたってことと、俺ん家が燃えてた。家族がみんな殺されたってことだけさ」


『魔法』、そして燃えていたーーー炎の使い手か。

そんな憶測が飛びながらもまた、アルは目の前の高いフェンスを見上げる。


「ーーーこの先に、学園のことも、お前のその謎の真実もあるのかもな」


フェンスの奥に見えるのはーーー壁。

おそらく校舎の1つだろう。見えるレンガの壁、その奥の光の先に広がるのはおそらく校庭なのだろう。


「入るぞ。教会探しを手伝ってくれ」


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


「『上級学園ディスパリティ』へようこそってやつだな!」


「ーーここが、上級学園か」


名前の由来などは聞いたら長くなりそうなのでスルーするが、壁沿いに進んだ先に広がっていたのは広い校庭、それに三つの校舎だ。


校舎の端にも建物がいくつかあるが、一つ一つ見た雰囲気では教会には思えない。

驚くべきは校舎一つのサイズだ。

普通の学校の校舎が三つ建っていると言っても過言では無いサイズ。自分の身長が縮んだのかと考えてしまうほどに敷地も、建物一つ一つも大きいのだ。


「教会自体はどんなのか全然わからねぇけど!とりま散策してみれば意外とあるかもしれねぇしな!」


小佑が進む先、それは『弐』の文字が大きく書かれている校舎だ。


「アルだっけか。あんたの周りにいたチビは一年だ。お姉さんチックな人は二年かな。図書室とか情報系は二号館にあるからまずはそこから見てみよって策だぜ」


「ちょっと待て。どう考えてもサクサク進みすぎだろ。なぜ校庭や校舎の外に人気が全くない?」


歩きながらも薄々感じていだが、この学園には人気一つすらない。

バレては探す前に終わってしまう。しかしここまで警備や学生すらいないとなると逆に何かあったのではと警戒する他ない。


ーーーそれとも初めて来る土地に心の中の少年、無唯斗が怯えているのか。



「あぁ、最近は外出控えてくれみたいな。さっきも言ったし、昨夜の事件もそうだけど、ここ最近奇妙な事が何件も起きててな」


「奇妙な?」


「そう。不可解に何人も居なくなったりとか、突然閉めても無いドアに鍵がかかったり、実験で燃やしてもないのに勝手に燃えたりとかなー」


「それって、」


ーーーなにか、背景があるとしか思えない。

実際、この世の人間の中には特殊な能力を使える者や、特異種のような動物に近い存在もいる。

この学園の規模から見るに人数は当然多い。


「この学園の中の誰かが起こしてるんじゃないのか。複数起きてるなら複数人が首謀者の可能性が高いだろ」


「そういう可能性を、今衛兵だの警備隊だのに見てもらってんだけどさー…見つからないらしい。俺も奇妙には思ってるんだよ」


「ーーー頭の片隅にくらい置いておくか」


実際、森の中で遭遇したナイフの男ーーーグラゼのような狂人がこの学園に潜んでいるかもしれない。戦闘になる場合、権限者としてのアルがバレるのだが。


「ほらほら!そんなこと言ってたら着いちゃったぜ!中に入って調べんだろ!レッツゴーレッツゴー!」


なにかうっすらと感じる疑問に答えが返ってくる間もなく、現実は進んでいく。


長文ご覧頂きありがとうございました!よろしければブックマーク、評価、感想の方よろしくお願いします!

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