5話「偽装家族」
学園の警備はそこそこ大変である。
一人の警官が守るべき場所が多すぎるためだ。『手の届く範囲で頑張る』と言う人がいるが、この『上級学園ディスパリティ』の警備をするならば家一つ分は手が伸びなければ無理だろう。
今日もいつもと変わらぬ警備の時間が過ぎていく。もちろん警戒はしているが、変わらぬ森の景色には飽きが来ていた。
「おはようございまーす!」
一人の生徒が挨拶をすれば、後ろに登校してくる学生達も挨拶してくる。
警官ではあるが、「おはよう」と返すのは常識である。挨拶というのは、学園で学ぶべきことの一つだ。
教師じゃなくともそれくらいは返さなくては大人として恥ずかしい。
制服を着て、ゾロゾロと学園の門をくぐって行く学生達。
この学園の校門は、鉄格子でできていると言っても過言ではないほど牢屋のような門である。レンガが端に積まれ、鉄格子は学園を一周囲んでいる。
校門は対の位置に二つある。そのうちの一つを担当するのが仕事だ。
歩いていく生徒を眺めていると、一つ『違和感』を感じる生徒がいる。
この学園の制服は真っ白と言っていいほど白いが、形はその学園に合う制服だ。しかし、『その男』が着ているのは白いだけで、どこもうちの制服ではない。
怪しい、というより行事もないのにこの時間に入ってくる関係者がいるだろうか。
「ーーーー君、ちょっと話をいいかな?」
「ーーーなんでしょう。このぼ……わ、我になんかようか」
一人称の呼び方、それに動揺からも怪しさが増している。こういう不審者には一言ガツンと言ってやらなくては。
「君、ここの生徒じゃないよな?学園には関係者以外立ち入り禁止だ。直ちにお帰り願おう」
そう、こう言えば大抵の人は帰ってくれーー
「いえ、我はこの『ミミ・クロウエア』の実の兄です。どう見てもわかるでしょう」
「わかるだろー!見たらわかるだろー!!」
「……コホン。一応証人も私がします……」
ーーー大抵の人は、だ。
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「偽装家族なんて無理に決まってます。却下、というか勝手に家族にされるなんて無理です。気持ち悪い」
偽装ーーー偽りという意味もあり、その上で演じることを指す。家族としてなんとか偽装できれば、ここの門は突破可能であるだろう。
しかしそれも、目の前の二人ーーー有村明梨とミミ・クロウエアが乗ってくれればの話だが。
「家族ごっこってことー?そんなのすぐバレちゃうよ!ミミ達って全然似てないどころか距離感あるし!」
「そうだが、僕が入るにはこれしかない。最悪言い合いになれば力を使えばいい。頼む、妹を救う気持ちと、さっきの借りでなんとかしてくれないか」
止まり、少し頭を下げて頼む。これしか、アルが思いつく『頼む』という行為はわからない。
そのまま進めば最悪の場合、言い合いどころか殺し合いをすることになる。復讐の内に入るのなら加減は全くしないのだが、ここで殺すのは関わりすら持たない人間だ。
世界を『無』にする、その目的に『上級学園ディスパリティ』の人々の殺傷が必要なのか。アル自身も『怒り』以外の感情では殴り合いは避けたいところだ。
それに、教会の場所すらも聞けていない。殺してしまっては、何もわからず進むことになってしまう。
「ーーーわかり、ました。ミミさんも、少しだけ協力してあげましょう」
「え!アカリいい子になった!どしたの惚れた?」
ーーーやけにあっさり、と言ったところか。
これにはアルも驚きは隠せない。
正直有村明梨が一番の問題であった。ミミに関しては、なんとなく付いてきてくれるイメージがあるため頼めばなんとかなると思っていたが、有村明梨に関しては違う。
森での会話からわかるが、彼女は冷静に目の前の情報を整理する力はある。もちろん焦りもするが、今この状況では冷静だろう。
それに、アルの評価は上がっても百点中一点だろう。彼女にとっては教会という存在はなく、亡くなった妹を使い嘘をついた犯罪者である。ここまで酷いことは早々ない。
だからこそ、有村明梨は問題であったのだが、
「借りがあるのは事実です。救われなくては、もしかしたら命はなかったかもしれないので。それに生徒の私が証人すれば、私の信頼度というのも上がる可能性もありますしね」
「惚れた!?惚れた惚れた!?」
「そんなことは一生ないと思っていいですよミミさん。恋愛より私にはやるべき事が多すぎますからね」
明梨は軽くミミの頭を撫で、真面目な表情に戻る。
「やるなら、ちゃんとあなたも言葉遣いとか行動一つ一つに責任を持たないとすぐにバレますよほんとに」
「わかってる。僕も少しはできるところを見せなくてはね」
「その、あの学園は上級学園です。階級が重要視されてる学園で、一人称が『僕』は見た目より幼く見えて非常に危険だと思います」
あの学園の特徴らしいもの、『階級』。
その言葉から推測するに、ランクのようなものが彼女達の成績や日々の対応を決めているのだろう。
「じゃあどういえばいいんだ。俺とか?」
「こういう時はですねーーーー男性でも『私』を主語に使ってみましょう」
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「いえ、我はこの『ミミ・クロウエア』の実の兄です。どう見てもわかるでしょう」
「わかるだろー!見たらわかるだろー!!」
「……コホン。一応証人も私がします……」
ーーー完全に間違えた。
目の前にいざ力では変えられない者が来ると焦りが必ず付いてしまう。それが今発動するのは非常にまずい。
「二人は制服からわかるため、登校を許可する。しかし、白服の君は登校の許可は勝手には出せない。ほんとに彼女の兄上様なのか情報を確認次第入場可能とする」
やはり、作戦自体にも無理がありすぎたかもしれない。
相手がバカか天然を期待したが、純粋な警官である。
この場を乗り越えるには、少しばかり相手の警官の脳神経に『無』を加え、アル達が怪しいという『感情』そのものを『無』にする方が早いのかもしれない。
その考えと同時にアルはミミがいない左手の中に『無』の空間を生成する。
「ーーーー!」
その手の力みを見たミミは察する。
ーーーー争い、この学園でさっきの力を使うこと。
「アル!落ち着いて!ちゃんと考えれば!」
「考えれば…?」
ミミ自身もわかる口走った言葉。
警官からは疑いの言葉。
さらに怪しさは増していき、もはや入れる気など力を使う以外に方法は見つからない。
明梨ですら、無謀だったと考える表情をしているくらいだ。
「……ミミ、少し待ってろ。すぐ入るから……」
ミミと繋いでいた手を離し、警官に一歩一歩近づいていく。
近づいて、脳に直接触れればいい。そうすれば簡単に事が片付く。
「アル……ちょっと待って……アル!」
止めようとする言葉の真意はアルに伝わることは無い。
警官に力を使えば学園に伝わるだろう。教会を見つけるまで耐えるしかない。耐えて、ビルに現れた男の言うことが真実なのかを己自身で確かめるしかない。
力を使えば、さらに二人からも疑われるのか。
そう考え、少し心が痛む彼の足は止まらない。
「なんだ?入らせないと言ったはずだ」
「……『無』の権限、脳器干ーーーー」
さぁ、学園で一暴れでもーーー
「ーーーちょっと待ってくれよ。白服の男」
横からの声。アルは素早く踏み出した足は止まり、横を振り向いてその姿を確認する。
笑っている彼、白い制服は明梨と変わらないが、髪の色は完全に茶髪。ツーブロックの髪と、顔に一つ切り傷のようなものが付いている。身長はアルとほぼ変わらない。
「毎度ご苦労様です警官さんよぉ!今回ちっとばかし俺の友達が苦労かけてすまねぇな。あとは俺がこいつに指導しとくから勘弁してくれここはよぉ」
警官の肩に手をかけながらもラフに接している姿はまるで友達。
それにアルと友達と言っていることから、何か助ける意図があるのか。それとも気まぐれなのか。
後ろにいる二人も少し怪しいと疑いの目を向けていながらも、アルの選択よりはましなのかとほっとしている気もする。
「お前の友達か、『中村小佑』。気をつけろよほんとに!」
「ありがとぉな警官のおっちゃん。ほら、行こうぜ男!」
そう言ってアルの左の手首を持つと、門とは左側に歩もうとする。
「おい、僕は君を知らない!ちょっと待て!おい!」
なんとか言葉をかけるが、足を止めようとはしない。後ろにミミや、明梨が居るのにこのまま進んでは何も言わないまま去ることに、
「ーーーっ!ミミのバカも!明梨さんも!すまない!どこかで会えたらいつか!」
後ろに手を振り、できる限りの大声で伝える。聞こえてるか心配だが、今はこの男に引っ張られるしかない。
それに、この男ーーー中村小佑という人物が何者なのか、殺すべき相手なら復讐しなくてはならない。
「アルのバカー!勝手にミミ達置いてくなー!バァァァカァァァ!」
怒鳴るミミの声は距離が空いても聞こえてくる。
あの二人とは、中にどうにか入った時に話さなくては。
今はただ、この場から離れるのが大事だろうと、アルは人のために二度目の行動を余儀なくされたのだった。
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「あーあ。行っちゃいましたね。というか、出会ってすぐどっかに行くなんて怪しいにも程があると思うんですけど」
「アル、入れるのかな。ミミ達なんもできなかった」
ミミの手を握る明梨と、心配しながらアルが走って行った方向を見つめるミミ。
この一瞬で起こったことが多すぎるせいか、明梨は強くミミの手を握りしめる。
「大丈夫ですよ。私たちがするべきことはしました。それにあの人とは、また会う気がします。もし妹の話が本当なら、有村家はアルさんとご縁があるみたいですからね」
「ごえん?」
「妹が命を捨てるほどの価値の男。きっとなにかあるんですよね、望」
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グダグダしてますが、とりあえず「ダークすぎる」という意見の元、序盤はラフめに作ってます。
ダークが好きな方、もう少々お待ちを!




