1話「日常」
「……ぁ」
目覚めた男の名は神無月 無唯斗。ごくごく普通の高校一年生、黒髪の少年だ。
髪は少し長く、前髪が目にかかりそうなほどだ。身長は169センチ。少年は布団からから起き、学校の支度を始める。
一人暮らしをしている彼の部屋は一部屋に等しい。一部屋が少し広い分、キッチンやら洗濯機やらが詰め込まれている、木製で作られたいわゆるハズレ物件。また、お風呂もないため銭湯に行く生活だ。
彼は寝巻きから制服に着替え、無料で貰えるパンの耳を食べて学校へ向かうためドアを開ける。髪など整えない。この後どうせ全てが無意味になるのだから。
アパートの上階、ドアの前には大量のゴミが置かれている。もちろん自分で出したゴミではない。友達(仮)とやらの定めらしい。このゴミを捨てつつ学校に向かう。
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「…………ぁ」
通学路の途中、同じく学校へ向かう二人組の女性にぶつかってしまった。前向かずに下向きで歩いているデメリットがここで出てしまった。
「あんた、陰キャのくせしてなに派手にぶつかってきてるわけ?」
「陰キャのくせに、もちろんタダで帰すと思ってる?もしかしてバカ?笑」
彼女たちの視線はとてつもなく鋭い。これはかなりのお怒りだ。
「すいません……次は気をつけます……」
少年は早歩きで横を通り抜けていく。逃げて逃げて逃げていくーーーーー
ーーーーーゴミが、死んじゃえ
学校についてから机に書かれている言葉だ。もちろんその他の落書きも机にはびっしりだ。
少年の瞳にすこし影が増える。
なぜ、こうなんだろう。
そのまま机に座る。もちろん机の中に自分の教科書を入れるスペースなどなく、ゴミ箱と化している。はぁ、とため息をついて授業を受ける準備をする。
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時は昼休み。校舎裏にあり、ゴミ捨て場となっている一本道の路地がある。ゴミ捨て場なのでそこまで広くはない。そこに自分は呼び出される。ここがいつもの地獄だ。
「てめぇ!一体どんな顔してぶつかったのになんにもせずにノロノロ学校に行けるんだよ!」
クラスの中でも陽キャラのグループのリーダーである春という男が無唯斗の胸ぐらを掴んでこれでもかと叫んでいる。グループの奴らは全員で5人、男子が三人、女子が2人の陽キャラグループだ。そして、先ほどぶつかってしまった女子組の二人も追加されている。
「何とか言えよおい。なぁ!」
胸ぐらを掴んでいた手で自分を突き飛ばす。そして男子の二人目であり、相撲部所属の太瀬がうつ伏せになった自分の体を踏んで踏んで踏みまくる。そして春もゴミをこちらに投げ、顔すら傷つく。
「ぁ……ぅ……ぅぐ」
痛い、痛いが感情が変わることは無い。もう慣れてしまった。痛みこそ変わることは無いが心は既にボロボロだ。
「泣きだしましたっセ春さん!泣き虫がで初めて惨めでやんすネ〜」
男子3人目である曲尾。こいつが今まで自分に危害を加えたことはないが、こうしてうしろから煽る言葉で責めてきて、精神的に追い詰めてくる。
辛いと感じなくなり、慣れているようでも、体は悲鳴を上げ、涙を流している。
「惨めね。ほんとに弱虫。死んじゃえばいいのに〜」
女性1人目の久住、そして後ろで後ろで同じように笑っている「くずな」という女性。こうして惨めな姿を写真に収め、クラスの人々に拡散、おもちゃにされている原因の2人だ。
「ところでさ、また昼飯買ってくれね?金ないんだわ〜」
「おいらも、飯たらふく食いたいっす!友達としてお金をもらうっす!な!A・T・M!」
春がお金の話題を出すと、太瀬もそれに乗っかり、自分からお金を取ろうとする。そしてATMというあだ名に全員が爆笑の嵐。誰も否定しない。バックを漁られ、お金を抜き取られーーーー
「おイ!こいつお金ないっすヨ!小銭が少ししかないっス!」
今月は、バイトをクビにされたので金欠だった。
「……ごめん……バイト……クビになっちゃって、お金ないからご飯はかってあげーーーぅぐ!」
られない、そう言おうとした途端に春が自分の顔を蹴り飛ばす。顔がどんどんボロボロになり、腫れ始めている。今まで話してはいなかったが、こんなことを繰り返していくうちに顔の腫れやかさぶたは日に日に増え始め、顔には絆創膏がそこらじゅうに貼られている。
「お前さ、俺らの友達(仮)なんだからさ無理でも貯めとけよな。今日は特別に許してやるよ。明日には必ず用意しとけよ。」
グループの全員が自分を睨む。まるでお金でしか生存価値がないかのように。
陽キャラグループの人々は買いに行ったため、自分一人がこの場に残されていた。涙が出る。だがこれが自分が生きる道なのだ。こうでしか自分の価値はないのだ。だから、せめて価値があるだけ全力で応えたい。
なぜ、こうなんだろう。
なぜ、こうなってしまったのだろう。
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「先生、僕いじめられてるかもしれないんです」
先生に頼ってみる。自分が世の中的にはいじめに入るなら、直せるかもしれない。
「……そんなこと、あるわけないだろ」
根拠もない言葉が無唯斗の耳に届く。これで三回目。どんな先生に頼ったとしても、うちの担任はあの春の親なのだ。息子に罰を与えたい親なんて、存在しない。これも、自分が悪いのか。
なぜ、こうなんだろう。
なぜ、こうなってしまったのだろう。
なんで、なにがだめなんだろう。
彼の瞳に光はない。姿勢も少し曲がり、ボロボロの顔で校門を出るために校舎を出る。もう夕暮れだ。授業もないのでとっとと帰ろう。
終われるなら、終わりたい。でもそれを許してはいけない。
ーーーこの世にはいない、母の願いを簡単に踏みにじってはいけない。
すると突然、後ろから肩を叩かれる。
「ねぇ、君。私の友達になってくれない?」
太陽のような笑みを浮かべる金髪の女性が、こちらに微笑みかけていた。
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