表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
19/50

4話「三者の繋がり」

夢を見ていた。

なにかが呼んでいた気がする。私の名前、『ミミ・クロウエア』の名を。


いつか夢見た希望が呼んでいたのか、いつも通り変わらない日常の地獄か。どちらが呼んでいてもおかしくは無い。


諦めきれない。諦めたくないのに、いつも膝は折れてしまうのだ。


「英雄は必ず、あなたのような子をお迎えに来るわ。だからミミ?諦める前に、希望を信じてみて。必ずーーーー」


何を言ってーーー


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


「ミミの……おまぁんじゅうはぁ……?……おまぁ……!?」


「神無月無唯斗。あなたの力はなんなのですか。確かに先程までナイフが彼女の体を貫いていたはずです」


この場において、ナイフが突然消えるマジックを起こしたアルは明らかに怪しい人間に見えてしまう。

だが、この少女はあのままでは死んでいただろう。それならばと思っていたものの、後先考えない性格が現状を悪化させている。


「僕にも呼ばれ方はよく分からないが、『権限者』とやららしい。そのおかげで僕の力は無限大と言っても過言ではなくなっている。僕の権限は『無』だ」


無ーーーそれこそなにもない、という意味が1番使われているだろう。今まで起こしてきた事件も、戦いも全てがこの力により乗り越えられた。


「『無』と言われましても、それの使い道というか、具体的にもっとーーー」


「お姉さんとお兄さん?ミミを助けてくれたの?」


聞かれると思っていた質問は、少し幼稚な少女の声に中断されてしまう。


「あ、起きたんですね。遅くなってごめんなさい。そう、一応助けました」


「ミミ、感謝する!ありがとう!ミミ死んでたかもしれない!傷も……あれ?」


体をこれでもかと触っている彼女だが、傷は完全に消えていた。


「傷は、この怖そうな男の人が治してくれました。痛いのをよく我慢しましたね。偉いです」


「え?ミミ偉い?やったぁ!わーいわーーい!」


明梨は少女ーーーおそらく、ミミという少女の頭を撫でると体全体で喜ぶ姿が見れる。

どうも、制服を着た高校生には見えない。口調から体の大きさまでもがもはや中学生もあるのかという程だ。


「ミミ、と言ったか。何歳だ君は。幼稚園か?小学生?」


「む、ミミのことバカにしたな!ミミは正真正銘十六歳です!見たらわかるでしょ見たらー!」


「いや、見えないだろどう考えても!」


怒号混じりに大声を出すアル。


ミミは指をこちらに指しながら、「もう!」といった様子で不貞腐れている。


どう考えても十六歳には見えない。まだ言葉使いが整っているのなら見えなくはないが、小学生よりも怪しい言葉使いに低身長、見えるはずがないのだ。


「あー!またミミのことバカにしたなぁ!ミミの力見たらびっくりなんだぞ!弱そうな体つきなのに!」


「なんだと!僕の力で救われたことを忘れるなよ!僕の力すら見ていないのによく言うさ!」


もはや対立の雷が出てもおかしくないほどに「ぐぬぬ、」と睨み合う二人である。これではどちらが小学生かも謎である。



「ちょっと二人とも、少しは落ち着いてください。一旦冷静に現状を整理しないとーー」


「「できるかぁぁぁ!!!」」


二人とも明梨に向いたと同時に叫ぶ。

例え小さい子供でもここまでバカにされるとアルもさすがに言葉使いに腹が立つ。


「いいさ見せてやろう!僕の力をほんの少しだけな!『無』の権限ーーーー」


「ミミの、『無邪気の石』!!!」


「石?そんなものっーーーーーぐはッ!?!?」


ーーー突然体は宙を舞い、地上にがっしりついていた足も空へ投げ出される。

草原へ吹き飛ばされたがなんとか腕を巧みに使って受け身をとり、ミミを見るが、


ーーー何をした。何が起こった。


もちろん驚きは無の空間へと飛び出る。

ミミは黒く、そこら辺にでも落ちていそうな形の石をこちらへ向けただけである。


「へへーん!ミミの勝ちー!やっぱり弱いじゃん〜!」


「ちょっとミミさん?何を使ったんですかそれは。それを持っていればさっきの男だって簡単に倒せたのでは?」


先程までミミを苦しめていた男ーーグラゼに対してはそんなものを使った気配がなかった。石を使う間も無かった可能性もあるが、さすがに抵抗する術くらいは出せるだろう。


ならなぜ今使ったのか、


「ミミの石、お母さんから貰ったの。ミミの家族が使わなきゃいけない人に使う石なんだって!まさにミミをバカにしたあの男の人だぁ!」


ミミに睨まれて、明梨からは好感度がゼロに等しい。第二都市では指名手配者と言われてもおかしくないアルにとっては地獄の局面である。


少女が敵に回ってしまえば『無』ですら無きものにできない謎の攻撃に殺されかねない。

それに今受けた傷は『無』になっていない、むしろできないのだ。ミミはどうもおかしい。


「ーーーーちっ」


「えーっと……とりあえず、ミミさんで大丈夫なんですよね?」


「そうです!私の名前は『ミミ・クロウエア』と言います!よく耳の穴かっぽじって覚えとけそこの弱者!」


指をこちらに向けて、明らかなドヤ顔と共にニヤリ。

負けた事実と同時に、悔しいからかどうしてもミミを睨んでしまう。


「私達、学園へ向かってたんです。あなたも学園へ向かうなら……その……」


「……ミミに着いてこいと?仕方ないなぁ!特別だよほんとに〜!」


「…………どの口が言ってんだかっ」


アルのボソッっとつぶやく声にミミも「なにっ!」と言うが、言い合いになる前に知らん顔をして避けておく。


「そういう二人の名前はなんなのさ!ミミだけ言うなんて損しかしてない!」


「ごめんなさいね、私は有村明梨。この学園の二級生です。あなたの胸に着いている物を見させてもらうと……私が二つ年上ですね!」


明梨は膝を曲げ、姿勢を低くしながら有村というアルにとっては重要である名前を伝える。

ミミの胸には銅で作られた城のような柄のバッチが着いている。ミミは胸のバッチを確認し、再度明梨を見て驚きを隠せないでいる。


「……エルデ・アナストラル。アルでいい。というか呼ばれることすら不快ーーー」


「ーーーアル?アル……アル!アルとアカリ!そして完璧なミミ!覚えた!さっきはありがとうアル!アカリ!」


ミミは一瞬悩む動作をしたものの、どうやらイメージと合ったようだ。ミミはここ一番の笑顔で名前とキラキラとした目で、こちらの心に残る言葉を残した。


それだけを見れば、性格が少し乱れている少女には全く見えないのだ。

いつしかアルの心には暖かい気持ちが溢れた結果、


「…………ぉう」


と空気と変わらないような声量で話したことによりミミに笑われるのもまた、一つの新たな思い出となった。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


このミミの謎は主に二つ、あの体つきもあるがなぜ追われていたのか。それとあの言い合いの末にミミが使用した『無邪気の石』という『無』にできない謎の効果を持つ石だ。



現在広い草原から脱出し、学園への潜入のため道を歩いているところである。


「というか私とミミさんは入れますけど、あなたは入れないじゃないですか。学園を囲むフェンスには多少の結界もあります。教会だってありませんし、入ったところでどうするんですか……」


この潜入ミッションの1つ目の関門だ。制服を着用してる彼女達はもちろん門をくぐるのは容易い事だ。しかし、アルの服というのは目覚めた時に来ていた服のままである。入れる可能性は少ないだろう。


これの解決策として、上から入れば良いという考えを出していたものの、やはり浮かぶことが『何かの障壁』により阻害されている。


「正直、入る方法は思いついてないよ。こうして歩いて、学園のどこかに入れるところがないか、君たちと離れたら探すよ。教会だって、探す努力くらいするさ」


今このミミを連れて歩いているのは、あの男が再度彼女に襲いかかる可能性を吟味した結果、明梨の頼みにより学園までミミを連れ歩いている。


「逆に僕の心配なんてするとは思わなかったよ。なにかあったのか?」


「いえ。私はあの力を見た時、あなたの力についてもう少し知りたくなっただけです。私の探している人と似ている点がいくつかあるのでそれもありますけどね」


「力に関しては説明したのが全てだ。僕の手には『無』の空間が広がるだけ。それを少し捻らせて使っているだけさ」


「なーんかミミには難しい話してるー。そんな話よりさーーーーー



ーーーーなんで二人ともそんな離れてるの?」


話の話題的になにも触れなかったが、明梨とアルは道の端と端で歩いている。

別に近くで歩く理由も無ければ、ミミの近くを歩くとあちらが距離を置いたのだ。

ミミ相手はどちらかというと苦手なので、明梨に手を繋がせて歩かせた結果、この距離感である。


「それは……神無月無唯斗……じゃなくて、アルさん?が危ない人の可能性もありますし、いくらさっきの怪しい人から守ってくれるにしても一応の距離感というものがーーーー」


「ーーーーアカリ!たしかに弱虫と仲良くするの嫌な人もいるけど!一応は助けてくれたんだからダメ!」



「さっきから危ないだの弱虫だの一応助けられたとか色々聞こえてるんだよな!」



ミミの石は使える人が限られているらしいので、この中で力を使えるのは自分だけだ。


過去の自分ならすぐさま目の前の少女たちを殺していたが、現在では殺戮を尽くすのはやりずらい、というより止める『何か』が多すぎるのだ。

有村望の姉に、こちらの力が通らない少女。


それに記憶を見てから感じる、自分ではないもう1つの自分ーーーー有村望と関わり、アルの心にすらその少女の『希望』を焼き付けた少年の影響も多々受けている。


「ーーーーチッ」


「アルも!アカリも!こうやってーーーーー仲良く!」


「「ーーー!?」」


二人が驚いた目で見つめる先ーーーそこには明梨と手を繋ぎながら駆け寄り、アルの手を握るミミであった。


「ーーーーーー」


この少女の考えはよくわからない。この繋いだ手に意味があるのか。


そう思っているのは明梨も同じだろう。だが、繋がっていると感じるものもある。それは優しさなのか、単なる安心なのか、元々そんなのがあるのかすら、手にある温かさが無くしていく。



「こうやって!繋がれば!きっとみーーんな仲良くなるよ!距離感なんて生きずらーい!」


「そ、そうですねミミさん……私に無いところが、あなたにはあるのですね。仲良く……ですね」


ミミは交互に顔を見て伝え、それに対して明梨は照れくさそうに話していた。

なにか彼女の中で動いたのかもしれない。少しでもなにかあれば、人間というのは変わるものだ。

アルは変化が大きすぎたから、こんな人間になったのだろう。


明梨は最後に、アルに向けて視線を送ってきた。その美貌はまた、有村望と同じく可愛げも持っている。


「あぁ……そうかもな。チビのくせになかなか考えるじゃないか」


「チビじゃない……けどなんか……





…………家族みたいだね。三人で歩いていると!」


少し照れくさそうに言うその言葉は、空気を暖かく、居心地のよいものにしていく。


傍から見れば、少しはそう見えてしまうのだろうか。

家族ーーー基本的には血の繋がりを持った人々の事を指す。ごく稀に繋がりがなくても、家族と言うこともあるが、


「ーーーーっ!そうか!僕が学園に入る方法があった!」


「……?なになに!このミミが聞こうじゃないの!教えろー!」


「この状況から思いつくことなんてあります?私にはどう考えても……あっ、」


この作戦には穴がありすぎるが、可能性はある。その作戦とはそうーーー


「ーーーーそう……『偽装家族大作戦』だ!」

長文ご覧頂きありがとうございました!よろしければブックマーク、評価、感想の方よろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ