1章幕間「望の中で」
私はある日、不思議な人に出会った。
それは他の人とは違う、謎の力の持ち主。だけど、その力は使っていないらしい。
私は憧れた。そして、その男の子と会話を弾ませた。
その人に、救われたこともある。
一方私は彼に嘘をついていたけど、彼は本心で話しているのがわかった。
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何度も話す内に、私の本音も見られるようになった。
悲しそうな顔をしていると、気にかけてくれる彼がいた。話しかけたことも、覚えてないかもしれなかったけど、今があることが嬉しかった。
時に彼は、狙われていたこともある。みんなから嫌われていたかもしれない。けど、私は優しい彼に『恋』していた。
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ある日、私は刺されてこの世を去った。彼を庇った。私に出来ることをしたと思った。でも、伝えられなかった言葉もある。もう少し話したかった。もう少しだけ、猶予が欲しかった。
今、眠っている私はどこへ行くのだろう。まだ人間の知らない、天国とか地獄とかに連れてかれるのか。けど、静かに吸い込まれる気分がしている。これが着いたら、きっとそれがあの世ーーーーー
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「…………っぁ」
金髪の彼女は、1つのある場所で目覚めた。静かに起き上がった彼女は、仰向けに寝ていた体を起こし、座りながらも周囲を見渡した。
「ここって……あの世!?」
それは、雲ひとつない青空の下。無限大に広がる草原の真ん中であった。目の前は少し丘のようにはなっているものの、やはり地面は緑1色だ。左側には謎の少し大きい水溜まりのような物がある。
木もなければ、水もそこにしかない。その他は緑一色だ。
風が彼女の髪を揺らす。
「私が知ってるあの世ってこんな所じゃないんだけど!え!?というか私、ワンピースのままで……」
その時彼女は思い出した。
彼女は現世から去ったのだ。刺され、命を奪われた。それを思い出すと、少し息が震える。
しかし、彼女は後悔はしていない。良くはないが、悪くは無いと思っている。
彼女のためにも、彼のためにも良かったと少し思ってしまっている自分がいるのをまた思い詰めてしまいそうになるが、今はそんな複雑なことを考えている暇はない。
この地はどこなのか。それを理解しなくてはならない。
「……ここまで来たんだから、頑張れ私」
体を少しづつ起こし、立ち上がった。
とりあえず水の方へ向かった。歩いていてもやはり草原の上を歩いていることが感じられる。
水の傍にしゃがんで水面を眺めてみる。
「……?」
しかし、反射で映るはずの彼女の姿は見えない。現世とはまた原理が違う可能性も少しづつ見えてきた。
「ーーーそこのお姉さん。ようこそ、私の楽園へ」
幼く、高い声呼ばれた。それはこの場には金髪の彼女以外誰もいなかったことからわかる。
水面を見つめていた彼女はハッと気づいたように声の方へ向く。
声は丘の上の少女からだ。少女はとても幼い声からわかるように身長は小さく、145センチほどだろうか。水色のワンピースのような服と、そのスカートは子供サイズと言っていいだろう。
手を広げながら、こちらを見下ろしていた。
怪しい少女の登場に、金髪の女性は警戒を緩められない。
「あなたは……誰なの……?」
目の前の少女に目を見開きながら、問いかける。
すると目の前の少女はニコッと柔らかい笑顔になり、
「私はレイ。ここーーーゼロポイントの住人なの」
「ゼロポイント……」
「お姉さんにはわかると思うんだけどなぁ……有村 望さん」
金髪の女性ーーー有村望はここ、ゼロポイントへと到着していた。
ゼロポイントは世界の中心と呼ばれている場所だ。それは望も理解していた。そしてここが魂の終着点とも聞いていたが、それは噂程度であった。
自分がここに来た以上、それはほんとだったことになる。
「……えぇ。聞いたことはあるけど、噂くらいにしか知らないわよ」
「とぼけないでよ、知ってるくせにさ。私からの話はかーんたん。お姉さんは現実を荒らしちゃうお兄さんを止めるのを手伝って欲しいの」
「荒らす……?誰が、どんなことを……」
「ーーー神無月無唯斗。わかる?」
突然目の前の少女ーーーレイは、空気を重くし、声のトーンを一つ下げて言った。
彼女の顔の笑顔は消え、突然すぎる行動に望も汗を一滴垂らす。
「お姉さんだったらわかるよねー?一番近くに居たって、魂が言ってたもの。教えて欲しいの。彼の弱点とか、あなたの力の使い方を」
「ーーーー私は、無唯斗くんが世界を荒らすなんて思わない。信じない」
そう言うと、レイはあからさまなため息と、がっかりした様子で頭を抱えた。
「はぁ……あなたはこれを見ても言えるの?markELEVEN。現世を見せて」
そう言うと、一つの透明の球体が飛んできた。最初は小さかった球体が、次第に大きくなり、空にある映像を映す。
それは、
「ーーーー!」
「わかる?あなたが行った学園を今、大惨事にしているのよ?血が少しは見えるでしょ?」
映されたのは、白髪の、目元に傷をつけた少年。後ろから来るのは衛兵か、学園はボロボロになり、彼は少し涙を見せているような気もした。
「これを荒らしと言わずなんて言うの?このお兄さんはろくな人生も歩まなかったのね。力はあっても、お兄さんの心は弱すぎる。だからこんなことしかできなかったのかな。それとも計算通りなのお姉さん?」
片目を瞑りながら、空に映る映像を指さして言う。
もちろん、これは神無月無唯斗だと望にもわかった。これを起こして、死者すら出してしまったのが彼だというのも理解した。
でもなぜか、彼を庇いたくなる。すぐにでも、助けてあげたくなる。そして目の前の、彼を侮辱しようとする彼女を許せなくなってしまう。
気づけば少女を睨んでいた。どんな感情より、怒りが湧いていた。
「なんで、そんな顔するの?ひどいなぁ。私にできるお兄さんを止めるのはせいぜい足止め程度なんだよね。だから、あなたをここへ呼んだの」
「私は、なにも手伝ったりしない。彼は止まるような人ではない!わかるでしょ!」
「じゃあ弱いお兄さんを少し止めてみよっか」
「……っ!何をする気!?」
少女は丸い球体に手を伸ばし、広げる。
その次、彼女の言葉は時空を干渉しようとしていた。
「スペースリリース『零』、大義、現世干渉!」
「ーーー!?」
このゼロポイントには、変化はない。しかし、球体に映る彼に異変が起こった。
ーーー頭を抱え、膝を着いてしまった。こちら側のなんらかの技でも受けたように、突然だった。
「だめ!お願いだからやめて!彼を傷つけないで!」
「なら、お兄さんを殺すのに協力するの?お兄さんへなんらかの希望を抱くのなら無駄だよ。お兄さんという存在が!現世を壊すんだ!殺さなくちゃいけないの!」
「誰もそんなこと望んでない!私は彼を信じる!彼が進む道を信じる!」
望は、叫んだ。彼女という思いは頑なに少女を止めた。
「お姉さんは何を考えてるの!?少しの間しか関わってないお兄さんにどんな期待を?なんでそんなこと言えるの!?」
「無唯斗くんは!私が望む未来を作ってる!彼はきっと!私の夢を叶えられる!」
「それはどういうことなの……」
腕を下ろした彼女と同時に、次第に彼の苦しい顔は薄れていく。自分が叫ぶ理由は、自分でもわかっている。他者に話すようなことではないと、彼女は思っていた。
下ろした腕が楽になる時、望は何かと繋がっている気がした。それは、彼が苦しみ始めてからも感じていたが、それが今、一瞬の強さを表す。
「ーーーー!お願い!無唯斗くん!あなたを信じてる!」
その言葉と共にまた、彼は立ち上がった。望は深呼吸を1度して、再びレイの方へ向いた。
「お姉さん、嘘ついているわね。夢ってなに?あなたは何を見て、知ってるの」
レイの目は明らかな疑いの目。目をここまでかと開き、睨む。
望はそれを見ても怯えない。むしろ睨み返すまで。
アニメだとイナズマが出るような場面は、望の一言で一変する。
「私の夢は、争いーーー魔界戦争に終止符を打つことよ。あなた達のような現世の者には言いたくなかったけど、これだけは伝えておく」
魔界戦争は過去に起きた後も、起きるかもしれないという、冷戦のようなことが多々あった。しかしそれは結局起こらずだったが、二次は今始まろうとしているのを理解している。
「なんでお姉さんが。なんで?なんでなにをどうしてどこでどうやってだれからいつどんなとこからどんなひとからなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんで」
レイの表情ーーー睨むその姿は変わらない。
「もしかしてお姉さんも、こっち側の人間なの?ーーー有村望」
「あなたの考えは間違えてないかもね」
少し微笑みながら望は余裕を見せる。その姿にレイは少し微笑んだ。目は変わらず睨み、口は微笑む。
「よかったここへ呼んで。ーーーお姉さんは私と協力できそう。お話しましょ?あなたと私の知ってる全てを並べて」
レイは望の方へ歩んでくる。1歩1歩に謎の重みを感じながらも、望は引いたりしなかった。
「ようこそ、ゼロポイントへ」
「歓迎どうも、仲良くできたらいいのだけどね」
望は少し汗を出しながらも、目の前の少女と向き合おうとする。
ゼロポイントの中で一つ、失われたと思われた希望がまた動き出す。
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