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13話「ゼロへの道」

孤独というのは寂しいものだ。

人間であれば一度は感じるであろう恐怖。世の中の負の感情の象徴と言っても過言ではないだろう。

なるべくそばに置いておきたくない。離れたい、やめたい、そんな言葉がお似合いの事柄のようなものだ。


笑う少女を見た者は少ない。いつも泣いていた。辛く苦しかった。

そんな思い出に、一つ『出来事』を添えよう。


春が来た。風が背中を押していた。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


「ゼロ……ポイント……」


彼の耳に入ったのは、どこと都市にも無いような場所、または場所ですら無いのかもしれない地形だ。


「『ゼロポイント』は、世界の中心。魂の根源であり、星で言うなら北極星と言ったところだ」


北極星は真北で輝く星。中心と言われるが、ほとんど聞いたことがない。

目の前の灰色の服を着た男は余裕を持っているように、目をぱっちりと開け、常に空気を変化させるように怪しく笑っている。


「場所はこの第二都市からかなり離れているが、第五都市と第六都市の中心だ。そこである”物”を持っていかなくてはならない。」


男は手の平を上に向け、手を差し伸べてるかのようにこちらへ手を差し出した。


「……なんだ、何を持っていけと……」


「やけにすぐ信じるではないか。君から見たら私はかなりの不審人物だと思うんだがね」


アルの頬には汗が流れている。驚きは隠せることはもちろんない。


ーーーー彼女が生きている。そんな話は正直あるとは思っていない。しかし彼の話以外に、自分の進む道というのはこの先どこにあるのか。目の前の兵士を全て殺戮の限りを尽くし、この世の人間を滅ぼせばいいのか。人間がいなくなれば生物を。生物がいなくなれば星を。星が無くなれば全てを無くす。

そんなことを、この大地で、自分の周りだけではなく他の地ですらするのか。


『神無月 無唯斗』は、そのような復讐を望んでいたのか。彼が望むのは、一人の少女だけだ。そう、あの記憶を見て感じた。


「僕は……彼女がいるのなら、希望がそこに少しでもあるのなら、行こうと思う」


「それでは君が歩む理由にはならない。私を信じる理由にもならない。そこに深い理由でもあるのかね」


「ーーーー自分の信じる道を進めと、彼女に言われたからだ」


灰色の服を着た男を、再度睨む。覚悟を決めたように目を細くする。

彼女という1つの希望のために、少しは進もうと感じた。復讐も、その過程ですればいい。


「ーーーーゼロポイントは、『秘宝』を集めることで開く。秘宝という物は各『権限者』が持っているものだ。それを君には集めてもらい、自らでゼロポイントを開いてもらう」


「権限者が持つって、僕はそんな物受け取った覚えはないぞ」


彼自身、目覚めてから高校へ向かったため、その間に何があったのかは覚えはない。それにそんな『秘宝』など聞いた覚えもない。


「君の秘宝は簡単さ。この都市最大の学園である『上級学園ディスパリティ』という場所にある」


「学園……?なんでそんな所にある」


「それはーーーー学園にある教会で話そう。とりあえず、君の最初の道は第2都市の最も北の方角にある上級学園ディスパリティだ」


「ーーーーー」


灰色の服を着た男は目をつぶり、秘密のような態度をした後、アルとは逆の方を向いた。

彼の態度の変化といい、彼の話し方といい、謎の部分が多すぎる。

ただ、向かうべき場所というのは学園ーーー上級学園ディスパリティという場所らしい。


「教会で会おう『無』の権限者よ。来る前に死んでしまうことはないだろう。ーーーー私が期待しているんだからね」


「どういうことだ……」


「ーーーーそれは、君が作る創世の世界。君が勝ち取るのか。それとも他の英雄が取るのか。真実は、君の目で見るんだ。争え。抗え。略奪の戦争の始まりをここに誓おう」


「何を言ってる…………お前は何を知ってる!」


叫ぶ声を無視するように前に歩き始め、ある地点で止まり、こちらへ向いた。


彼の「〇〇」のために。


「第二次魔界戦争の開始をここに宣言する!!!


ーーー君の思う道を進みたまえ、権限者」


手足を大きく広げ、この都市に響く声。それは歩く衛兵も、都市に住む人にも聞こえた。

叫ぶ後は、突然落ち着いた声でこちらを暗い目で視線を送りながら言った。


「魔界……戦争……」


それは過去に起きた歴史上最大の戦争。どの教科書にも乗っているが、資料という資料はあまり残っておらず、経験者の話を聞くばかりだった。

そこで起きたと言われる戦いは人知を超えたものだと、伝えられてきた。


「それでは私は失礼するとしよう。『÷€+÷→+^:』」


彼がなんと言ったのか聞き取ろうとしたその時、彼の目は遅かった。


「ーーーー!?」


それは一瞬。瞬きする間に灰色の服を着た男は姿を消したのだ。


「僕は……進まなくちゃいけない……」


ゆっくりと、ゆっくりと歩き出した。目に見えない先にある『ゼロポイント』へと。それがどれほど先にあるのかはわからない。何があるのかも。


しかし彼はなにを思おうとも、彼の周りに誰がいようとも、

ーーーーただひたすらに、北へ歩むのみであった。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


正直な所、完全なる敗戦であった。

彼女ーーーエルダは本部の救護室でナルミの様子を見ていた。

救護室は広く、この戦いに参加した100名でも収まるほどの大きさだ。四角い部屋だ。しかし壁は白く、窓も2つほど。対角の位置にあるだけだ。正直息苦しい。

ドアは大きいのが1つ。そのドアの対角の位置のベッド2人はいる。


「……先輩……」


もう一度、眠るナルミの手を握りしめる。力強く握れば潰れてしまいそうな、どこにもこの手には力が入っていない。

ただ温かさが、温もりが、生きてることを証明している。


「ーーーっ!」


「てめぇ!そこの嬢ちゃんだ!なんで早くあの力を使わなかっただよ!」


後ろのドアが勢いよく開いた。その音に周りの視線も出てきた男に向かったが、その男はエルダを睨んでいた。


男はガタイがよく、髭が少し生えている。見た目は40代ほどに見えた。白い衛兵の制服を着用している。

次第に、その男はこちらへ歩いてくると、


「っ!なんで使わなかったのかって聞いてるんだよ!答えろよ!」


エルダの胸ぐらを掴んで、顔を近づけ叫ぶ。その男の目には涙と、激しい怒りが感じられる。苦いような気迫が、彼の周りを徘徊する。

その衝撃にまた、エルダの足は震えた。


「あの力があれば!俺の親友は切り刻まれなかった!他の!ここに居る怪我人も傷つかなかった!」


彼の怒号は部屋中に響き、周囲の視線を集めた。

彼自身の、彼の親友はおそらく、帰らなかったのだろう。


「なんで動かなかった!なんで早く剣を抜かなかった!なぜお前はーーー!」


「……そこら辺にしてくれ四級兵さん。エルダもできる限りをしたんだ。それに君以外の人も、我慢してるんだ。頼むよ」


黒い私服に着替えて見回りをしていたクロエは、男の肩に手をかけ、その怒号を止ませる。

ため息が混じっているような声は落ち着いていて、どこか悲しい。視線は訴えかける男をその悲しさを表すように見ていた。



「じゃああんたは!みんなが死んでいく中でぼーっと立ってたこいつを許すってのかよ……!力があんのに立ってたこいつをっっ!!!」


指は、エルダを指していた。

怒号は止まなかった。だが、その声は次第に悲しみを訴えかける声に変わっていた。

あの場所にいた彼女は、二級兵という力がありながらも、動かなかった。彼女からして見れば、正確には『動けなかった』だが、そんなものが通用しそうな場ではなかった。


「なんで……俺には力がなくて……こんなやつに力があるんだよ!!!」


「…………っ」


崩れかけてた体は最後、一番の大きい声で膝をついた。膝をついた体は、クロエへと寄りかかった。

彼の目からは涙が、少しづつ出ていた。


その光景にクロエも、その周りの者も声は出ない。


エルダただ1人は、その光景を見て目は影に包まれ、体に力は入らず、涙を堪えながら、


「……ごめんなさい」


謝ることしか、できなかった。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


彼はその後、彼の友人らしき者と一緒に自分の部屋へ戻って行った。


「大丈夫かエルダ。ぼくちも何も言えなくてごめん。君はよくやったよ……」


クロエはエルダの傍に座り、彼女の背中を揺すりながら励まそうとする。


ーーー私は、よくやったのか。本当に、できたのか。


「……私は……今までも、こんな調子でて何も出来ないまま……衛兵を過ごしてて……」


彼女自身、任務は初では無い。むしろ何度も出動しているものの、動けなかった。

何も出来ないまま、犠牲を出し、あのように怒号を浴びせられてきたのだ。


「私は……二級兵の資格も……何もないんです……結局、今回も変わろうとして、力が出せたのに……また、恐怖心が出てきてしまいました……やっぱり私には2級兵は重すぎるんです……1番下じゃなきゃ、だめなんです……!」


彼女には、力はあっても、勇気はない。それはこの2級兵のバッチからも、体からも感じられる。

下を向いたまま、額に影を作る彼女の影の中には、涙が出ていた。


クロエはゆっくりと、彼女の体を抱きしめる。そしてその体にまたエルダは、体を入れ、涙を流した。


「君は……よくやったんだから……大丈夫。次も期待してるよエルダ。君ならできること。それをすればいいんだよ」


頭を撫でる。

その空間には、幸せも、笑顔もない。後悔と、悔しさだけが残った空間。

涙を流した彼女には、この先があるのかもわからない。さらなる壁が、彼女を待ち受けるのであれば、その先にあるのは彼女自身の『成長』か、『退化』か、それも誰にも分からない。


「ーーーーーー!!」


この涙の先にあるのは、彼女の物語。


「…………っ」


眠りについていたナルミの体もまた、動き出したのだった。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


森を歩くのが好きな人がたまに居るらしい。それは誰もがわかることである。

しかし、ここを歩く彼ーーーーエルデ・アナストラルは森林を歩けば機嫌が悪くなる。

早朝。窮屈な空間に、通路なのかすら怪しい道は、明らかに学園へ繋がる道とはかけ離れている。


「……っ!僕は権限者だぞ!なんでこんな道を歩かなくてはいけない!飛ぼうとしたり歩いていこうとすれば謎の壁が行く手を阻み!裏道などふざけるな!」


独り言が激しい彼は森林の中でただ1人叫んでいた。

彼は最初は飛んでいくつもりだった。しかし、この森林は謎の壁で上から通り抜けられなかった。明らかに謎でしかない。

それに大きな道はあったものの、なぜか通れずに森林からしか入れなかった。


「ーーーーー」

「ぴよぴよ鳴くな鳥達!僕に殺されたいのか!って今度は虫か!くそ!」


鳥の鳴き声パラダイスのこの森はもちろん虫の通路も無限大に存在していた。実際、アルの足元は虫の大名行列があった。


避けようとしたその時、森にはないだろう1つの変化が起こる。


「ーーーーすいません、なんであなたがここに居るんですか」


「ーーーは?」


下を向いて足元に気をつけながら歩いていた最中、謎の女性の声で止められる。

その声に反応し、アルは前を向いた。

目の前に立つのは、金髪の女性。背が少し高く、それはまた美人で、白い制服を着た大学生ほどの見た目だ。それはどこかで見たようでーーーー


「ーーー神無月無唯斗、なんであなたがこんな所にいるんですかと聞いてるんです……人殺し」


それは記憶の中にない、神無月無唯斗を知る女性が、目の前にいた。




第1章はこれにてとりあえず終わりです!長い1章をご覧頂きありがとうございました!ここまで書くのに実は半年以上かかってます……!



次章もモチベーションと共に、ゆっくり書くので是非、ブックマーク、評価、感想などをお願いします!


この後は幕間を1つ、みんなの感想を見て付け足しが必要な場合、幕間をもう1話ほど書くのでお楽しみに…!2章はその後になります!1章よりは長めです笑

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