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12話「衝突の中で」

才能という言葉が嫌いだ。

努力という言葉は大好きだ。どんな人でもしているし、どんな人でもできる素晴らしいことだからだ。

才能という言葉は人を殺す。才能は全てを無くしてしまう。

それを彼女は1番知っているのだ。



〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


剣のグリップへ、もう片方の腕も乗せる。

強く、今使うべき力を全力でかける。


「私の力を信じてくれた先輩をっ!裏切る訳には行かないんだァァァ!」


「くっーーーーっ!?」


剣は無の壁を貫通し、アルの左肩を貫いた。


龍の牙はアルを飲み込んだ。彼の領域を包む炎は、爆裂する。

炎は空を舞い、この都市の脅威を穿つ。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


爆発後、煙の中から見えたのは、アルの左肩を貫く剣を持つエルダだった。



「ばっ……か……そんな、はずはっ……」


自分の体を見たアルは目を丸くする。止まらぬ汗、震える体は彼の動揺を隠しきれていない。


屋上へ足をつけたエルダは、再び剣を握り直す。


「ーーーーっ!!」


剣を力強く抜いた。

悲鳴か苦声かわからぬ声をアルは上げる。


ふらふらと後ろへ足を引きずり、膝をついた。


「あなたは、こうしないと命がわからないのですか」


問いかけるエルダの顔は鋭い目付きに影がかかっている。


「僕はっ……違う……っ」


「あなたは、どうしてっ!!!」


怒号が鳴り響く。アルは口を動かそうとしたが、彼女の顔を見て止まる。

アルが見た光景、瞳に映る彼女の顔に、涙が少しばかり出ていた。


………………ケラケラ


突然、笑い始めた男がいた。それは上にいた魔法部隊も、本部にいる衛兵も、地上の衛兵にも聞こえる。


戻り始めた空間は再び、ねじれ始める。


「あはははは!!僕の力はこんなにも素晴らしいんだね……ほんとにっ!」

「ーーーーー!」


突然立ち上がったと思った途端、高速でエルダの頭部を狙い、拳を突き出した。

その速度になんとかついていき、剣は拳を平で止める。


「やっと、面白い相手が来たねっ!」


「くっーー!」


拳は剣を離れた途端に次の構えから放たれる。右へ、左へ、最後に蹴りを入れようとする。

これをエルダは剣で抑える。炎を纏う剣を拳に直接当て左右に来る『無』に対応し、蹴りには己の腕を当てた。

剣で拳が切れないのは、彼の拳に纏われる『無』の空間があるためだ。


エルダは拳で蹴りの体勢の足を払う。しかし、払われたアルはバク宙から手を横へ払うと、衝撃波がエルダの横から走る。

これをエルダは体を逸らして回避。そして今度はエルダが足を動かす。

足を踏み入れたと同時にアルの体を左から斜めに切る。

アルは体制を素早く整え、左手を剣に合わせる。

今度はアルが早い。このほぼ互角の戦いに終止符を打とうとするように、右腕を彼女の前へ出し、口を動かす。


「無の権限!ジェネレートボロウアップ!」


「ーーーーーっ!?」



彼女の体は衝撃波と共に空へ舞った。自由落下を始めた体は次第に落下していく。




「っ!ぼくちがエルダを助けるから!他の魔法部隊!攻撃をしかけておいて!ドッグオブエアロドライブ!」


他の魔法部隊は一斉攻撃を仕掛けるも、アルの片手により防がれてしまう。


クロエが魔法を唱えると、エルダの足元へ風が走った。その風は渦を巻き、彼女の落下を止めた。


「ありがとうございますクロエ先輩!」

「いいんだよ。生きてるだけでぼくちは嬉しいからさ!」


地上に立ったエルダは笑顔で屋上のクロエへ振り向いた。

そしてもう一度、彼女は屋上にいる少年を睨む。


「君しか強い子はいないらしい。逆に君さえ倒せば全てが終わるってわけか。弱いものだね衛兵も」


エルダも、エルダ以外も疑問は感じていた。二級兵の増援が来ないのだ。

元々数名ではあったが、何人かはいるはずなのだ。

それは一体どこへーーーー


「ーーーーいきなり卑怯じゃない?その拳は」


立って下にいるエルダを見ていた少年は頭を左に傾け、突然後ろから現れた右腕の拳を避けた。


「不意打ちでも倒せないというのかね。『無』の少年」


後ろの灰色の服の男のガタイは強く、大きい。そして40代ほどの老と引き締まった顔つき、鋭い目をしている。


「失礼した。私もほんとに高校生が権限者なのか疑っていてね。気配を消した攻撃をかけてみたが、本当みたいだね」


腕を元に戻し、後ろへ下がっていく男の空気は一味何かが違う。声は低く、空気から何か力を感じる。


「本部!敵の増援らしき者が現場に出現!作戦は続行しますか!」


「こちら側の被害が大きすぎる。2級兵も足止めをくらっていたらしくてね。引き返すしか無さそうだ...」


クロエは本部へと伝えるが、本部からの返答は撤退だ。

悔しく、苦しく、辛い現実にクロエは少し躊躇いながらも、


「……わかり……ました。…………エルダ!本部へ戻る!これ以上の被害は出せない!」


「クロエ先輩!私がやります!私ならできます!絶対ーーーーー」


胸を張った言葉。それはクロエを傷つける。


「ぼくちを悲しませないでくれ!!!もう失いたくないんだ!!頼むから戻ってくれよ!」


エルダは言葉が出ない。心が徐々に曇り始める。瞳に影が生まれる。


「ーーーわかりました。ナルミ先輩と帰還します」


衛兵は徐々に帰還を始めた。死体は変わらないが、生きている者が足を引きずってでも帰還していく。


「あれは、権限者の君が起こした惨事かね」


「僕とまともに会話しようとしてる?それよりさ、君も僕と戦うなら戦おーーーー」


「ーーーー二級兵を止めていたのは私だ。君を正しい道へ進ませようとしているのも私だ」


「…………理由は?」


アルは目を細める。目の前の男はニヤリと笑った。

暗闇の街に、笑う影は闇そのものに見えるほど彼の存在は暗く、なにか苦しかった。


「もちろんここで話をしたかったからだ。激戦の中に飛び込むのは私もごめんだからね」


男の言葉に疑いの目しかかけないアル。それは必然であり、そのまま彼は話を続けた。



「君は覚えているだろう。大切な彼女の名前を。その彼女と君が進む運命を、説明しようではないか」


「彼女?僕にはそんな人いた記憶はない。僕は生まれながらにして1人だ」


「なら、君の中の少年と話そうーーーーー



ーーーー有村 望についてのだ」


「有村……望?僕の記憶にそんな名前…………っ!?」


アルの脳にイナズマのような刺激が走る。アルは頭を抱え、膝を着いて座り込んでしまう。


「っ!…………っっ、」


(ね、君。私の友達になってくれない?)


「君はっ……誰だっ……」


(君はさ、もう既に人の心配が必要ない領域を超えているよ。君の心は手を伸ばして、助けてって言ってるよ?)


脳内に映る少女は金髪であり、いつも笑いかけていたような気がした。自分に、手を伸ばしてくれたような気もしてーーーー


「君が見ているだろう少女が『有村 望』だ。

ザフリック王が有する有村家の姉妹の次女だ」


「そいつがっ……僕と何の関係があるって言うんだ……っ」


「彼女は君が暴走し、精神の狂いによって眠っていた1週間と2日ほど前に亡くなっている。君を庇ってね」


「僕を……庇うだと?この力があるのに、庇われるなどありえるわけがない!」


徐々に痛みが引いていき、立ち上がろうとするアル。知らぬ話をする男は話を続ける。


「庇われたのは君ではないが君だ。その死を理由に君が目覚めた。思い出せ。君の中の記憶を……!」


手を平をアル方へ向けた男は唱える。


「¥→+÷<→$」


目の前の光景から瞬きした瞬間、見える景色が変わった。

アルの頭に流れたのは、記憶。見たこともない、弱き男の記憶。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


夜の街に、ただ1人泣く男がいた。手の中で永遠の眠りについた少女は、言葉を残して旅立ってしまった。


駅のホーム、端からアルは少年を見る。

叫ぶ声は、この世の終わりのような声をしている。

手の中で眠っているのは、血で染った金髪の少女だーーーー


立ち去っていくのは、常人ではない大きさの男。汗をかきながら、手に血で染ったナイフを持ち、逃げて、逃げて、逃げていく。


ーーーなぜ、彼女は死んでいるのか。何があったのか。わからない。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


目の前の少年は少女と2人で夕暮れが近づく中、帰宅途中のようだ。


少女は暗い顔のまま、歩く速さを速くしていこうとするが、途中で止まる。


「ーーーーーー」


何かを少年が言うと、笑顔が溢れはじめる。苦しみなど無くなったような、太陽のような笑顔が生まれる。


「……あなたって、不思議な人なのね。ありがとう!」


ーーーなにが、彼女を救ったのだろう。なぜ、こんなボロボロの少年と話しているのだろう。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


ーーー様々な記憶を見た。なぜか倒れている少女、帰り道の少女、お昼を共に過ごす少女、掃除をする少女。


ボロボロの少年を、包み込む少女。


笑っていた、泣いていた。彼女はなぜ、自分にこのような記憶を写し、何を見せたかったのだろう。


自分は今、校門の前で突然話しかけられた少年を眺めていた。


「ね、君。私の友達になってくれない?」


肩を叩いてから、ボロボロの少年に話しかける少女。

慌てる少年はすぐさま逃げてしまった。


「はぁ……これはかなり難しそうだね。」



ーーーあぁ。せっかく彼女が話しかけてくれているのに、もっと話せばいいのに。止めないとーーー


「ーーー無唯斗くん?」


「ーーーーー!」


少年を追いかけようと手を伸ばそうとした時、目の前の少女は目を見開きながらこちらを見つめていた。


「……僕が、見えるのか」


「見えるのかって……難しいけど!てか何その傷!?え!?さっきの人は間違えたのかな……?いや私は無唯斗くんに違いない!って人に話しかけたんだから違くない!」


考える素振りをしながら、チラチラとこちらを見てくる少女。


ーーーーーそうか、これが神無月 無唯斗が見た景色なのか。


「……無唯斗くん。あなたが信じる道を進んで」


突然こちらに笑いかけ、話しかける少女。突然すぎる言葉に、反応はできない。

彼女は、何かを理解したかのように。

何かを止めないために。




ーーーーそうか、彼女が、『有村 望』なんだね。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


「ーーーっ!げほっ、くっ、」

「思い出したか、エルデアナストラル」


突然光に包まれたと思えば、ビルの屋上へと返された。

アルは足をついて、頭を押えていたらしい。


長いようで、短い記憶を見ていた。写し出された彼女が本物かはわからない。だが、無唯斗という少年が何を彼女に感じていたのかを、少し理解した気がした。


睨む、目の前の男を。


「死んでいた。死んだ!僕が人類に罪を与えようとしたのは!彼女が死んだからだ!それがどうした……」


叫ぶ。感じた思いを叫んだ。しゃがみながらも、苦しい声で叫んだ。


「1つ、素晴らしい情報を与えよう。




ーーーー彼女は生きている」


「ーーーーー!?」


目を丸くした。

彼女は傷だらけになった。血まみれになった。苦しい声を出していた。

ーーーあれだけの事があって、生きているわけが無い。


「ふざけるな!お前が見せた記憶は!僕の記憶は!彼女が亡くなる場所、時間をはっきり記憶していた!僕に見せた!」


「ならば、信じてもらえるよう説明しよう。彼女の魂は今、


ーーー彼女は『ゼロポイント』にいる。」


「ゼロ……ポイント……」


彼の物語が、始まろうとしていた。


長文ご覧頂きありがとうございます!よろしければブックマーク、評価、感想の方よろしくお願いします!



かなり沼ってる感満載ですが、ここら辺は説明パートなので読んでおくとこの後の物語が理解できます!

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