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11話「第二都市攻防戦」


周囲は驚愕を隠しきれない。それは目の前のたった一人の少年の力が強大すぎるためだ。

一人の少女、「エルダ」もそのうちの一人だ。

彼女の心は乱れる。震える。目の前の一人の少年の力の膨大さに。


「……あなたが、権限者……エルデ……アナストラル……」


「そうだとも。腰のいい剣をお持ちのお姉さん。僕はこの世界を無に帰すんだ。」


エルダは動かない、動けない。

その少年の瞳は闇に包まれている。そして強者が弱者、虎がシマウマを狩るような目で周囲を見つめる。


「ふざ……けるなよ!我々衛兵が止めてみせる!権限者なんかにまた、私と同じ思いはさせない!」


「あんなに吹き飛ばされたのに立ち上がるかレイピアのお姉さん。そんなに言うならかかってきなよ。周りの君たちも、ぼーっと立ってるだけじゃーーーーーーーー命はないよ」


ーーーほんの一瞬だった。手を横に振ると、A区の衛兵のほとんどが切り刻まれた。

隠しきれないほどの悲鳴、言葉にならない声が響く。


この作戦自体はA、B、C区の三つの部隊で権限者を包囲、上から魔法部隊が攻撃することで完全に殲滅する作戦だった。

しかし、この一瞬で総勢百名ほどのこの作戦の衛兵のうち、十五名ほどが亡くなった。


「……ちっ、お前ら!かかれ!」


本部からのゲンの声と共に、B、C区の衛兵のうち、動ける者が走り出す。


「そう来なくっちゃ。『無』の領域解放!!ジェネレートオブナッシングネス!!」


周囲の空気が荒れ始める。そして、包囲を抜けるかのような衝撃波が全ての部隊に伝わった。ある者は吹き飛ばされる。しかし、特異種の衛兵は足をとめない。


「ーーーははっ!」


猫種の瞬速の殴りを止めると、腹を蹴り、投げ飛ばす。投げ飛ばす寸前に鞭、犬種の衛兵が飛ばしてくる鞭を『無の壁』、謎の空間を手に作り弾き飛ばす。


「……いいじゃないか!」


猛攻は止まらない。獣種が斧で殺そうとするところにつかさず片手を添える。空間を生成。右腕で腹を殴る。

しかしそれだけでは獣種は倒れない。それを見たアルは足を上げる。上げた右足と共に左足は大きく飛び上がり、右足は相手の顔へと飛んでいき、直撃する。


獣種は大きくひとつのビルに飛んでいき、倒れた。


その後もアルは止まらない。来る者全てに対応し、何事もないように払っていく。


「わた……しは……どうすれば……っ 」



エルダには見えていた。彼の動きが。彼の隙が。彼の能力が。しかし体は動かない。動こうとしない。目の前で死すらする仲間に対して助けの手を伸ばせない。


震える手足、止まらぬ汗に思考は完全に停止を余儀なくされる。


しかし先に傷をつけられたナルミは体を動かし始めた。


「……っ!このレイピアが折れぬ限り!私は折れたりしない!」


傷ついて悲鳴をあげる手足を無理やり動かし、立ち上がる。


「……私の……一撃を与えてみせる……!私が今できる全力で……仕留める!」


他の特異種や衛兵と戦うアルに向けてレイピアを構え始める。

かつて両親をこの世から亡くした権能者へ、己の一撃をこめる。



(母さんはいつだって、お空の向こうで、あなたの信じる剣を支えるわ。いつだって、呼んでいいのよ)


「ーーーーーお母さん。お願い、力を貸して……」


母親の言葉。それは彼女に力を与える。己にできる最大の力で、かつて自分の親を葬った『権限者』という存在を穿つ矛を立てる。

剣先は光る。そしてその場から瞬速で動く。目で追えるかわからぬ速度。


「ーーーー」


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


ニヤリと笑い、猫種をまたもや蹴り飛ばす。そして次はだれか。誰が自分を倒そうとするのかを。振り向く。


「…………?」


傷をつけていたはずのレイピアの少女。その姿はない。

どこかと振り向こうとしたその瞬間に光が彼を包む。


「ーーー!?」

「私の……一撃!マイグライド!!」


その一撃は彼の体を下から上へ浮かせる。突き上げたナルミはレイピアを一歩上へ飛ばす。突き上げたレイピアから出る光はアルを完全にビルの屋上と同じ高さへ飛ばした。


「ーーーぼくちたちの出番だね!魔法部隊!全てをあの男の子に命中だぁぁぁ!!」


犬種の魔法使い、クロエは空中へと体が浮いたアルへと手のひらを向ける。


その指示と同時にビルの屋上へ隠れていた無数の魔法使いが顔を出し、魔法を唱えた。

火、水、風、雷などの様々な属性の魔法がアルの体を直撃する。


アルの体は吹き飛ばされ、ある7階ほどのビルの屋上に衝撃波と共に吹き飛んだ。


煙が立つ。姿が完全に見える者はいない。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


地上。ナルミの元へエルダは走っていた。

倒れかけたナルミの体を、倒れかけた寸前で支える。


「先輩!大丈夫ですか!ごめんなさい私!全然……動けなくて……ほんとにごめんなさい……」


「そう落ち込むな……可愛い後輩の顔が台無しだろ……?」


涙をうかべるエルダ。そしてゆっくりと、涙を拭って歩き始めた。





少しづつ、歩いて帰るつもりだった。

しかしそんな安心した時間が訪れる直前、屋上付近の衛兵がざわつき始める。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜






「ーーーふっ、ふははは!!」


立ち上がる影、手を広げた白服の少年は傷1つ残さず帰ってくる。


「見せてくれたじゃないか。なら、僕も少しは見せなきゃね」


またもや空気が乱れ始める。空気だけではない。空間、時空、この景色、この世界が変わるような乱れが生じる。


「まずいっ!逃げた方がいいァ!屋上ァ!はやくっ!!」


本部からのネアの叫び声は屋上の部隊へと声は届くが、遅い。


「『無』の権限……ワールドオブゼータっ!」


その言葉と共に、手を大きく広げる。

再び構え始める魔法部隊だが、その一瞬。青い光がほとんどのビルの屋上へと放たれた。


次の瞬間、ビルの屋上へ衝撃波が走り、魔法部隊のほとんどが地上へ投げ出される。

風魔法が使える者は何とか着地だが、風魔法の影響を受けなかった者は悲惨な姿へと変わった。

投げ出されない者は即死、またはクロエのように防御陣を展開した者は生き残った。



エルダは見上げ、目の前に広がる光景に目を疑う。彼という超越者の前には足が震える。


「そんな……あれだけ打たれて……傷がつかない……」


「……っ。私では……力不足かっ……エルダ……」


傷が深いナルミはエルダに言葉を投げかける。ナルミ自身も意識が飛びそうな自分を起こし、伝えるべき言葉をかける。


「先輩……!しっかり!とりあえず避難を……!」


「エルダっ!お前に頼んだ……!お前の力なら!私の何十倍も力の出せるお前なら!やつを……止められるかもしれない!」


「先輩っ、でも私には自信が無いんです……動かないんです!力の使い方すら忘れてしまいそうになるくらい私は!震える手足は先輩の元へしか動けないんです!」


「甘ったれるな……エルダっ!逃げるな……逃げても、現実は変わったりしない……っ、震える手足を持ちあげろ……お前が……やるべきことをしろ……約束を……任せたぞ……」


片手の親指を立てグッドと伝えると、預けていた腕を離し、倒れ込んでしまう。


「ーーっ!先輩っ!!!」


駆け寄ろうとするがその前に、ビルの上から見下ろす少年が口を動かす。


「僕は宣言しよう……この世界に宣戦布告し、全てを無にする。そして君たち無様な人間共に制裁を!無欲である証明を!英雄という名の恥を!全てを終わらせようではないか!」


夜の街、光るビルが立ち並ぶ中、七階建てのほどの建物の上にいる少年は世界の脅威へと変貌していた。

夜景は残酷なものになっていた。窓が割れ、電気だけがついているビルがほとんどである。


多数の人間が、立つ少年を睨みつけている。それと同時に、怯えている。殺したい。が、殺せない。


「……僕に対してその目はなに?酷いなぁ。僕は制裁を与えているんだ。君たち人間がいかに愚かか。そして無様かを!なのに僕を侵害するその目付きはなんだ!」


同時に手を勢い良く振り下ろす。世界に亀裂が走る。


「下がれ!よけろぉぉぉぉ!!!」


誰かわからない男が叫んだ。その瞬間、少年の真下から正面のビルまで、大地が大きく割れ始めた。数人が、亀裂の下に落ちて行ってしまう。




エルダは驚愕し、震える手足に力を入れた。ナルミが伝えた言葉をもう一度心に聞き入れる。心臓に手を当てた後、上にいる少年を睨む。


「……ふざけるなよ……『無』の権限……エルデ・アナストラル……っ」


あの少年が、人々が努力し乗り越えてきた人生をいとも簡単に無に返し、一人の先輩の思いを何事も無かったかのようにねじ伏せる。


「……っ!ふざけるなぁぁぁぁぁぁああアアアア!!!」


エルダは叫んだ。生まれて初めての声量で。彼女は震える手足をもう一度力で上書きさせる。




「なに?ぼくに文句が?さっきから、動かないお姉さんじゃないか。睨むだけでなにもしないなんて、レイピアのお姉さんみたいになりたい?弱くて倒れるだけのその足元のゴミのように」


この広場の真ん中に立つ少女を嘲笑い、全力を出したナルミを傷つける。


「ゴミなんか……じゃない……」


「……?聞こえないんだけど、はっきり喋ってよ。わからないからさぁ」


「ーーーっ!先輩は!ゴミでも罪人でもない!努力して!どんな壁も越えようとした!あなたのような高い壁でも!そしてそれはっ...今あなたが殺してきたたくさんの衛兵にも共通してる!」


今ある感情を伝える。足元のナルミだけではない。自分が身近で見てきた衛兵も、一人の人間なのだ、命なのだ。しかしそれは目の前でいとも簡単に無くされた。


「だから……私はっ……」


「私は、どうするんだ?僕という力を前に怖いんだろ。なら何もせず見てればいい。怯えろ、震えていろ」


心臓の鼓動は早い。

今まで第2都市にはこのような驚異的な力を持つ犯罪者はいなかった。

だからこそ、今の自分を震え立たせる。越えろ、乗り越えろと、自分自身に言い聞かせる。


「ーーー私は!怖くて動けない今の自分を!もう一度立たせて見せる!できなくてもいいから!私が使うべきと思う時に使う!そして私はーーーーー







ーーーーあなたを!絶対にこの手で仕留める!」


腰に付けた剣を抜いていく。剣先まで出たその剣は、赤と金が混ざっており、ブロードソードのように剣が横に太く、そしてグリップには赤い龍の模様が刻まれている。


「クローズド、オン」


剣先から炎が纏われる。それはグリップへと流れ、彼女自身へ。

彼女を中心として、炎の円ができる。

周りの衛兵は、その熱さに次第に離れていく。


「……なに……っ!?」

「はぁぁぁああ!!!」


エルダは一瞬で飛び上がった。彼女は地上から勢い良く飛び上がると、アルへ向けて剣先を伸ばす。体を伸ばし、剣を持つ手を前へ。

驚異的な跳躍は彼の元へすぐに届く。


「無の権限!空白の壁!」


アルはすかさず左腕を剣へと合わせるが、片腕だけでは払えない。右腕を左の手首へ重ね、力を込める。


ぶつかった点から熱波や衝撃波が出てくる。エルダの剣から広がる炎はアルすら飲み込もうとする。それはまるで龍のように広がっていった。


(止まるな私。進め。先輩との約束を思い出せ。怯えたままの自分を卒業させろ!)


「絶対に!超えるんだァァァァァァ!!!」

「僕の力を!舐めるなぁぁぁぁぁぁ!!!」


叫ぶ。互いは止まらない。進み続ける。

力は限界を越えようとする。周りへの炎は広がり、無の空間も止まることは無い。


「ーーーーっ!」


この時彼女の思考によぎった。過去の自分が、過大評価された衛兵だということを。

努力を潰した、才能の塊なのだということを。


ぶつかる二つの力は止まらない。


長文ご覧頂きありがとうございます!よろしければブックマーク、評価、感想の方よろしくお願いします!


最後に1つ。アルを嫌わないでね。お願いします。

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