10話「第二都市防衛作戦会議」
部屋から見える景色は、この部屋唯一の良いところと言っても過言では無い。むしろここしかないくらいだ。
街の光は常に彼に届き、彼自身の心の癒しにもなる。この都市のどこよりも輝く第二都市の中心。衛兵の本部やもちろん政府の都庁。ショップなんかは中心に行けばなんだって揃うくらいだ。中心に住めば、困ることなど早々ない。
ーーーー血の惨劇が、生まれなければの話だが。
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私ーーーーエルダは、対『無』の権限者討伐作戦任務の隊員に選ばれた衛兵の1人。
この衛兵の中でも上から2番目の『二級兵』な私は、二級バッチがついた白い騎士服、3つののボタンに青いネクタイを装着!チャームポイントはオレンジ色の髪!腰につけるは我が天下の宝刀!『人守の剣 グライト』です!すごいんですよこの剣からは火が出てさらにのこの剣先端にはーーーーー
「よくぞ皆集まった。これより、対『無』の権限者討伐作戦αの需要事項会議を開始する!」
おっと、いつまでも一人で喋っているわけにはいかないらしいですね…。
ただ今第2都市衛兵所本部にて作戦会議が始まろうとしているんです。みんな6列くらいに並んで、ビシッと前の隊長を見ています。中には特異種はもちろん、人間の衛兵もたくさんいます。
ここ、第2都市衛兵所本部は、この第2都市の中で特に栄えている中央都市の更に中心にあります。ここから各地へ衛兵が出動しているんです。
「こほん。権限者は街中に潜んでいる。それは調査班が確認済みだ。そこで、都市のビルの屋上、街の隅々の路地から奇襲を仕掛けて奴の権能発動前に奴を仕留める」
今作戦をペラペラっと話している黒い長い髭が生えていて、金色の特殊な服を着ているご年輩のおじさ……チョーカー隊長です!かっこいいお髭を付けていてしかもかなりお強い味方!
「ビルの屋上は2班、地上は3班に別れる。各班のサブリーダー、ビルの2班はクロエ1人で頼む」
「了解したっす。任せといてください」
犬種のクロエ先輩。あの人の魔術は凄すぎます。黒色と、折り目や境目についてる金色の服。あれもかっこよくて素敵!それに比べて私の服は白色の戦闘服。騎士みたいな制服でダサいです。
「地上のサブリーダーはエルダとナルミ、本部から戦闘経験のあるゲンとネアも指揮をとる」
私の2つ上で、私が新人の頃お世話になったナルミ先輩!先輩はかっこいい緑の騎士服を着ています。濃い青色の髪にメガネをつけていて、腰には鋭いレイピアが装備されてます!特質者の1人で、目は鋭くていつも怖そうですが、中身はきちんと優しいです!
そしてもう1人はそうーーーー
「そう!この私ーーーーってえぇ!?なんで私がぁ!もうすぐ誕生日なんですから許してくださいよ〜!」
「仕方ないだろ、特別任務なんだ。……了解しました!忠実に任務遂行に全力を注ぎます!」
「うぅ〜了解しましたぁ〜」
なんでなんですか!しかも誕生日まであと2日なのにこれは涙目になってもいいでしょー!駄々こねますよ!ぶー!
「なお、目標の権限者は16歳の少年である、神無月無唯斗だ。」
目の前の大きい画面に映されてるのは黒髪のただの高校生じゃないですか!こんな幼そうな子が大量虐殺をした張本人には見えないんですけどっ!
「最初に言っておくが、見た目に惑わされるな。相手は大量虐殺事件の張本人であり、この世を変える力を持っている。また、少年は白髪に変わっており、目元に傷も増えている」
ほんとなのかなー?周りの人達からも「嘘だろ」とか「いやいやさすがにないっしょ」みたいな声ばっかですよ!
「この第2都市の1級兵は他の権限者との戦闘のため不在だ。2級兵すら数少ないが、何としてでも止めに行かなくてはならない」
隊長の声はガチっす!ってことはほんとにあの子が権限者なんですよきっと!あの子の力はビックなんですよね!それに伴い、私の任務の重大さもビックに……!私にできるわけないのに隊長が勝手に……
「己の命を優先的に考えろ。今揃えられる最大限の人数でかかる。相手は魔界戦争を引き起こした権限者だ。皆よ怒れ、力を示せ、期待に応えーーー
ーーーー衛兵の務めを果たせ」
ーーーあの人やっぱかっこいい!!
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私は今、長い作戦会議が終わって都市へ出るための廊下を歩いています。もちろん横にはナルミ先輩が歩いていてとてもかっこいいです。
私も剣の位置調整などして、もうすぐ本格的に作戦開始なところです。
「……エルダ、不安なのもわかるが今回を超えれば楽しいこともある。頑張ろう」
「でも、相手はあの権限者ですよ先輩!私にできませんよそんな指揮なんてー!ぶー!」
私には重すぎる責任です...
それなのに、先輩の目線は常に前を向いてます。まるで、本当の戦う理由があるみたいな...
「……私はな、親を魔界戦争で亡くしてるんだ。権限者に殺された。私は今その権限者と戦い、討伐できるというチャンスに直面している。今回だけはお前にも全力を出して欲しい」
暗い顔を少し出してましたが、すぐ隠してかっこいい先輩が見えました。私自身も以前から少し聞いていましたが、先輩の両親は魔界戦争で亡くなっちゃったらしいんです。敵討ち!的なやつだったら私も協力したいのは山々なんですけど...
「……それでもぉ!できることとできないことありますし!指揮なんてやったことないのにいきなりこんな権限者!だなんてー!それに私はいざという時に動けなくなっちゃうんですよ!先輩も知ってるでしょー!」
「それでも、前を向いて戦って欲しい。私ができる最大のお願いだ。私より強いお前にしか頼めないんだよ」
「……わかりました、やれるだけやってみます……」
「ありがとう。お互い死なないよう頑張ろう」
私の頭に手を少し添えた後、先に歩いていく先輩の背中はすごく頼もしいです!
あんな頼まれ方したら誰だって「はいやります」って言いますよね!ずるいです先輩は!
でも言ったからには全力で!できる限りやらないと怒られます...自信が無い私にはかなりの難問...
「顔を上げろ。もうすぐで都市だ。衛兵としての任務を開始するぞエルダ」
今歩く通路の先ーーーーそこは夜なのに明るく、太陽のような都市です。中央都市の本部の前に出てこれる秘密通路の階段をあがった先、きらめく都市が見えます。
「…………ぁ」
その光景は何より凄いです!高いビル、時に低いビルすら窓からの光が出ていて、人が歩く歩道には様々な出店がならんでいます!
広いこの道路のような歩道は、この都市の最大のいい所です。またショッピングしたいなー!誕プレどこで買ってもらおうかな?あっちかな!こっちかな!どうしようかーーーー
「さっさと行くぞ!見とれてる場合か!」
「痛い痛い!離してください先輩!わかりました集中します!」
耳を摘まれました!痛すぎです!これには涙不可避!むり!
こんな綺麗なところにほんとに権限者なんているのでしょうか。
この通路の他にももう既にビルの屋上に待機する衛兵がたくさんいます。地上にももう既にちらほらと。私も行きますかね!
「さて、私は左側のB区のーーーーおっと、」
って危ない、人に当たりそうになりました!これは避けないとーーー
「ーーーーーー!!」
ーーー今、私の横を通り過ぎた少年ってもしかして、
白い服に……白い髪……あれって……。
「どうしたエルダ。さっさと命令を出すぞ」
「先輩、今通り過ぎた人、けんげーーー」
そういえば私ってなんでこんなに動いてなかったんだろう。今でも思います。この瞬間、この時に既に止まっていたんです。
時間が、ここを歩く衛兵が、先輩が、私が、全てが、もう遅かったんです。
「ーーーあの、通り過ぎたってもしかして僕のことですか」
目の前の少年は、私たちの声なんて届くわけないのに話しかけてきました。
見るだけなら何の変哲もないコスプレ少年。目の傷は目立ちますが、それ以外は普通の高校生です。
見るだけなら。
「ーーーー私たちの会話を聞いていたのか。すまない、うちの後輩なんだ。迷惑をかけたな。ここに避難命令が出ているだろう。君も早めに避難した方がいい」
優しい先輩は何も警戒していないかのように、少年を避難させようとしています。先輩がそう言うなら、私も大丈夫.........
「……そうですか。それでは失礼しました」
なんもないように歩いていってしまいました。こわかったー、これはもし目の前に来たら大変なことになっちゃうよー。しかもあの人、ちょっとおかしい気がするんです。あの人の周りだけ空気が違う気がするんです!
「ーー先輩。あの人は、権限者です。あの人を捕えないと、早くしないと!」
「待て、わかっているが私たち2人では戦力不足だ。ここは見逃すしかない。もう既に包囲は完成している。あとは作戦通りに、獣の1番のバカ火力があいつを突き刺す」
獣?特異種の人達ですか!あの人たちは極端に色んな性能があると聞いていましたが、ここで出てくる獣種ってーーーー
「ーーーーよぉ!お前さんを叩きたかったんじゃ!」
目の前を見ると、獣種の衛兵の1人がどでかい斧を少年に振り下ろそうとしてます。少年は見上げるだけで、急な攻撃に回避なんてできません!
あれじゃ、ほんとに一撃でーーー
「……あのさ、急に斧を振りかざそうとするなんて衛兵としてどうとか思わないのかな。僕に恨みがあるなら聞くけどさ!」
目の前に広がる光景に、驚きが隠せません!
ーーーあれって、見えない壁?素手で斧を止めました...衛兵の全力の一撃を……片手で……
全員驚きが隠せません!みんなです!多少のひるみくらいはしてくれると思ってましたが、まさかこんなに……
「てめぇ!高校にたまたま行っていたうちの娘をよくも傷つけやがったな!絶対に許さねぇ!」
「感情的になるのはいいんだけど、目の前の光景が見えてないわけ?君では僕には勝てない」
獣種の衛兵の方は全力で殺しにかかってますが、全然うごきません!これが権限者......
「ーーーーなら、私の剣で一突きしても問題は無かろう」
え、嘘でしょ。
隣にいた先輩はもう既に動いていて、腰のレイピアを少年に目掛けて突き刺そうとしてます。素早い攻撃に反応できる人はなかなかいません!先輩の攻撃が刺さってくれれば……!
「……数がいるなら、そう来なくっちゃ」
なんということでしょう!少年は斧を止める右手を捻らせて巨大な獣種の体を転ばせました。そしてその後、捕らえていたレイピアの一撃を体を捻らせて、先輩に蹴りを入れることで回避しました!
「……!先輩!」
ビルの壁に吹き飛ばされた先輩。その壁にヒビが入るほど強い衝撃でした。先輩が倒れているのが影からわかります!
「自己紹介が遅れてすまない。僕は『無』の権限者……エルデ・アナストラル。アルと呼んでくれたまえ」
ほこりを払うように手を払いながら周囲を見る少年ーーーアルという権限者は、私の前に突然現れ、私の人生を『無』に変えようとしました。
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