被害者ミスリン
「うーん、うーん……」
ニャミンは腕を組んでずいぶんと長い時間うんうんと唸っていたがやがて、「さっぱり思いつかないニャ。パスクール様ァ、ニャンとかしてくださいニャン。ゴロゴロゴロ」と、喉を鳴らしながらパスクールに体をすり寄せてきた。
「マルナゲッタがここにいたよ!
まったく仕方ない。
取りあえず、定石どおり、まずは事件発見の状況から調べていくか。
ブンナゲッタ君、被害者はいつ、誰に発見されたか説明できるかい?」
「はい、勿論です。
ミスリンさんが発見されたのは今朝の7時頃です。第一発見者は、この家の住人の1人であるピッガーさんです」
「ちょっと待ったァ!
この家の住人って、この家に住んでるのはミスリンさんだけじゃないのか?!」
「は……はい。先ほども言いかけたのですが、このヘイヴハウスは六角形の建物を6分割して6つのワンルーム構造になっているのです。ですから家にはミスリンさんの他に後5人住んでいます。この中庭はこの家の住人たちの共用スペースなのです」
「共用スペース? ってことはミスリンさん以外にもその5人は自由にここに出入りできるのかい?」
「そうです。ほら、庭の各壁にドアが一つずつあるでしょう? あそこから出入りできますよ」
ブンナゲッタに言われてパスクールは改めて庭を見回して見る。すると、円だとばかり思っていた庭は大きな六角形であることが分かった。そして、その六角形の各辺にあたる壁の真ん中に確かにドアが一つずつあるのも見てとれた。
「密室殺人ニャ!!」
「いや、人の話は聞いていたか?
あそこのドアから自由に出入りできるって言ってるだろう。
とは言え逆の言い方をするなら、ここの住人以外はこの庭へ入るのは難しいと言える。
つまりちょっとした閉鎖空間ってところか」
「クローズドサークルニャ!」
「それ、語尾と繋がって読みにくいな。
それで、話の続きを聞かせてくれないか。
第一発見者のピッガーさんはどうやってミスリンさんを発見したんだい?」
「朝の日課の花壇の手入れをしようと中庭に行ったらミスリンさんが倒れているのを発見したそうです」
花壇? と、問うパスクールにブンナゲッタは中庭の一画を指差した。丁度3人が入ってきたドアの直ぐ近くに綺麗な花が咲いている花壇があった。その花壇の直ぐ横にもドアがあった。
「ふむ。あのドアはそのピッガーさんの部屋の出入口ってことか。つまり、ミスリンさんとピッガーさんはお隣同士なのだね」
そう言いながらパスクールは花壇へと近づく。
「おっ、てんとう虫だニャ。
ニャはニャハ、ニャハ、ニャハハ」
ニャミンは花壇でてんとう虫を見つけると嬉しそうにちょっかいを出し始めた。捜査のことをすっかり忘れて遊び呆けるニャミンを尻目にパスクールは静かに花壇の観察を続けた。
「おやっ? ここだけレンガが新しいね」
花壇はレンガを並べて他の地面と区分けされていたが、パスクールの指差したところのレンガの幾つかが他のものと比べて真新しく見えた。
「はぁ、そうですね。壊れでもしたんですかね」
「まあ、後で本人に聞いてみよう。
なるほど、つまり、朝の7時には既にミスリンさんは殺されていたと言うことだ。では、いつまで生きていたのか、と言うとどうなんだろう?」
「えっ、とですね……
昨日のミスリンさんの足取りは、夕方の6時頃に役所を退所されてますね」
「役所で働いているの?!」
「はい。町の清掃、つまりゴミ拾いを担当していました」
「ゴミ拾い! 破壊不能、向かうところ敵なしのミスリルゴーレムが町のゴミ拾いとは、宝の持ち腐れ過ぎるにもほどがあるぞ!!」
「ブブーニャ!!
それ、ゴッタニン共和国の差別禁止条項第2項『ゴッタニン国民は、就業の種別による如何なる差別的、批判的発言を受けない』に抵触するのニャ!
発言を撤回するニャ!!」
「ええっ? 今のは一般的な単なる感想であって別にゴミ拾いというのをバカにした訳では……
ああ、いや。今のは失言でした。
ゴミ拾いは社会に大切な職業です。謝罪して発言を撤回いたします。
で、だ。退所してからはどうなのだろうか?」
「おそらくはそのまま家、つまり、ここへ直行だと思います。役所からこの家までは歩いて30分ほどです。ミスリンさんはまるで機械のような正確さで毎朝8時には役所に来てずっと仕事をしてきっかり6時に役所を出て、そのまま家に帰ってどこにも出かけないという毎日を送っていました」
「食事とかどうしてるニャ」
「このぐらいのサイズのゴーレムだと自前の魔力炉を持っていて半永久的に動くんだ。だから、飯は必要ない」
「ニャニャニャンとニャ!
でも、でもニャン、家に帰ったきりじっとしてるニャンてことはないニャン。そんなのニャンの楽しみもニャくてつまらニャいニャン」
「いや、多分、家に帰ったきりじっとしてたんだろうな。あの部屋を見たろう。まるで空っぽの倉庫のようだったけど、ちょっと部屋の真ん中が窪んでいた。きっとあそこがミスリンさんの定位置だったんだと思う。あの位置に直立不動のまま、朝が来るのを待ち、朝がきたら役所へ行ってから村のゴミ拾いをして、6時半頃に帰宅して……そんな毎日を繰り返していたのだろう」
「そんニャのつまんニャいニャァー!!」
「いや、怒ったってしょうがないだろう。
ゴーレムってのは大抵そんなもんなんだよ。
自意識っていうのが希薄なんだ。大抵作られた目的以外にはあまり頓着しないというか興味がないって言うのかね。
多分、このミスリンさんはダンジョン探索用に作られたゴーレムでお宝を回収することと仲間を護ることを目的に作られたんだと思う。
それでパーティーが全滅したとなると、彼の唯一の目的はお宝の回収だけだったんじゃないのかな」
「良くお分かりですね。全くその通りなんです。
宝物探索スキルをゴミ拾いに転用しているらしく道端に落ちているピンやネジ1本も見逃さない見事な仕事っぷりでみんな大助かりでした」
ブンナゲッタはそう言うと遠くの空をみるような遠い目をする。彼なりに故人を忍んでいるのであろう。と、ふっと彼の表情に笑みが浮かぶ。
「まあ、あんまりにも感度が良すぎて失敗したというか大騒ぎになったことがありましたよ。
村の外れに何年も空き家になっている家があったんですが、ミスリンさんがゴミ拾いの途中でその家の庭に入り込んで、穴を掘りはじめたんですよ。
2メルトほども掘ったかなぁ、一抱えぐらいの素焼きの壺が出てきたんですよ。で、開けたら壺一杯の金貨が詰まっていたから大騒ぎです。
どうやら、その家に住んでいた爺さんが貯めていた隠し財産だったようですね。お爺さん一生懸命貯めたのはいいけど使う前に死んじまって、哀れお宝はずっと地面の中に埋もれていた、ってことなんですわ。その後爺さんの遠縁だとか、親戚筋だって連中がわらわら現れて大変でした。あははは」
ブンナゲッタは思いだし笑いを始めた。が、パスクールはクスリともせず冷たく見つめるだけだった。ブンナゲッタの笑い声次第に小さくなり止んだ。後には気まずい沈黙が訪れる。
「ふむ。大変参考になる話だったが、取りあえずそれは置くとして、今分かっていることをまとめると。
ミスリンさんは昨日の夕方6時までは生きていたと言うことだね。それから、いつここに戻ってきたかは分からないが6時半には戻っていた可能性が高い。
そして、この中庭には外側の6つの部屋のどれかを通らなければ進入することはできない。
さて、君が来た時、ミスリンさんの部屋のドアの鍵はどうなっていたかね?」
「しまっていました。この建物のドアの鍵は魔法で自動で掛かるようになっていて、部屋主か、部屋主の許可がなければ開けれないようになっているのです」
「ほほう、それはまたこ洒落た作りになっているな。結構、結構。ならばそろそろ、ここの住人、ミスリンさんの怪しき隣人たちの話を聞きに行こうじゃないか」
2023/04/09 初稿




