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そのゴーレムは破壊できない

「ゴーレム……殺されたのはゴーレムなのか?」


 パスクールは少し驚くとゴーレムと言われた塊に駆け寄ろうした。その時、『フニャン』と情けない声が背後から聞こえてきた。

 振り返るとニャミンが見事に地面に転がっていた。


「おい、なにを遊んでるんだ?」

「こ、転んだニャ」

「転んだ……って、君はネコ獣人だろ。なにやってるんだ」

「ネ、ネコ獣人だって転ぶ時は転ぶニャ。

穴ぼこがあったのニャ! それに足を取られたのニャ。誰だって転ぶニャ」

「穴ぼこだって?」

 

 確かに地面に穴が空いていた。穴は一つではなかった。穴は中庭に入ったドアの直ぐ近くにもあった。そこから2歩ほど離れたところにニャミンがはまった穴があり、そこからまた2、3歩離れたところにもあった。そこらは更に……で、結局庭の真ん中まで点々と存在するようだった。


「ふむ。モグラでもいるのかね」


 ニャミンを助けて起こし、頬についた土くれを払ってやりながらパスクールは小さく呟くいた。

 


「ニャニャニャ、でかいニャ」


 ニャミンが感嘆の声を上げた。

 

「2メルトを優に越えているな」

「記録によると身長は230セチンです」


 パスクールの独り言にブンナゲッタは律儀に答えてくれた。

 ゴーレムは地面に両ひざをつき尻をつきだすようにして倒れていた。頭が半分ほど地面にめり込んでいた。


「なんていうのか。見た感じ、両ひざをついてそのまま地面に倒れこんだようだな」


 ゴーレムの頭のアタリを覗き込みながらパスクールの言葉。余程激しく頭を地面に叩きつけたのか、頭を中心に大きな穴が空いてしまっていた。その穴にゴーレムは頭を突っ込んでいるように見えた。


「ニャ、ニャ。ゴーレムって死ぬもんニャのニャ?」

「ゴーレムは本来は魔法で動く生命体だから、『死ぬ』ではなく『機能停止』と表現すべきなのだが、たとえ体をバラバラにしても行動不能にはなるかもしれないが機能停止にはならない。

ゴーレムを機能停止させるには額に書かれた呪文の文字を消さないと駄目だ」

「呪文ニャ?」

「そう。ゴーレムの額に古代魔法文字で『א()מ()ת()』と書かれている。古代魔法語で『真理』という意味なんだが、その最初の文字『א』を削り取ることで初めて機能停止させられるのだ。

ちなみに『א()מ()ת()』、すなわち『真理』の最初の文字が消えると『מ()ת()』、魔法語で『死』になる」


 パスクールは地面に文字を書きながら説明をした。


「ニャるほど、それで機能停止になるのニャ。良くできたお話しニャン。

そしたらこのゴーレムもそうなのかニャ?」

「う~ん、おそらくそうなんだろうけど、このゴーレム……ミスリル銀でできていないかい?」

「さすがパスクール様。ご明察です。

ミスリンさんはミスリル(シルバー)製のゴーレムです」


 ブンナゲッタの言葉にパスクールは絶句して空を見上げた。


「なんでこんな片田舎にミスリルゴーレムなんかがいるかね」

「ニャンだな? それって凄いのかニャ?」

「ミスリル銀はオリハルコン、アダマントと並ぶ神秘金属だよ。三つの中では一番下位になるけど硬い金属だよ。普通の鋼のつるぎで斬りかかっても傷すらつけられない。おまけに神秘金属だから魔法もほとんど効かない。敵に回したら手に負えない相手なのだよ。

だからミスリルゴーレムなんてのは、トップクラスの冒険者パーティーのメンバーでぶいぶい言わせてるってのが普通で、そんなのが言っちゃ悪いがこんな片田舎に居るってのほとんどあり得ないんだ」

「そうなんです。実はミスリンさんも昔は名だたる冒険者パーティーのメンバーだったのですが、とあるダンジョンでパーティーが全滅して一人だけ生き残ったらしいのです。そこで人生……というかゴーレム生? に嫌気をさしてここに流れついたらしいのです」

「わ~、悲しい話しニャ」

「ま、その話はおいおい聞くとしてまずは死因をはっきりさせよう。

このままだと額が見えないので、取りあえずひっくり返して仰向けにしよう」


 3人で力を合わせてなんとかミスリルゴーレムをひっくり返すと、さっそくミスリンの額を調べる。


「ほんとニャ。 

『מ』と『ת』の文字しかないニャ」


 パスクールが予言した通り、ミスリンの額には『מת』の文字しか彫りこまれていなかった。


「ふ~む。やはり『א』の文字が削り取られているね。

呪文は彫りこむタイプか……これは厄介だな」

「そうニャのかニャ? なにが厄介なのニャ?」

「呪文を彫りこむタイプなのがだよ。

一口に呪文を書くと言っても色々なタイプがあるんだよ。

インクとかで文字通り書いてあるものもあれば、おふだに書いたヤツを貼るのとかね。

実はそういうタイプを予想していたのだが、これはがっつり彫りこんでいる。となると文字を消すにはボディから削り取らないといけないわけだが、しかし、だとすると破壊困難なミスリン銀製のボディからどうやって削り取ったのだろう……」


 しばらくパスクールはゴーレムの額を睨みつけたまま考え込んでいたが結論はでなかった。


「これもおいおい考えるとして、取りあえず、ミスリンさんはゴーレムを殺す正式なやり来たで機能停止にさせられた、ってことははっきりしたね。

さて、ニャミン。それでこれからどうするの?」

「ニャニャ? ニャンでワタシに聞くニャ?」

「なんでって、僕は単なる立ち会いで、この事件を解決するのは君なんだろ。

がんばれ名探偵!」


 パスクールは満面の笑みを浮かべ言った。一方、言われたニャミンの瞳がみるみる飛び出るほどまん丸に大きく広がった。


「ニャ、ニャンですと~~~ 


………………


…………


…… だ、ニャン」

 

 

2023/04/09 初稿

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