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ハウダニット

「さて、みなさん。お忙しい中、集まっていただきありがとうございます」


 芝居がかった風にパスクールはお辞儀した。

 場所はへイヴハウスの中庭。

 さすがに既にミスリンの遺体はなかったがそれ以外の状況は事件のままがほぼ保存されていた。ミスリンが倒れた時にできた地面の穴が遺体のあった場所を示していた。

 その中庭にはパスクール、ニャミン、ブンナゲッタの3人。そして、オークのピッガー、狼男のウルバーン、ドワーフのドワール、ノームのノムノン、人間のラブクラウドの5人がいた。


「さて、みなさんに集まっていただいたのはご存じ、ミスリンさん殺害の犯人についてご説明するためです。

まず、最初に宣言しますが、犯人はこの中にいます」


 パスクールの断言に、中庭の空気が一瞬音のないざわめきに包まれた感じがした。

 

「だ、だれなんですか!」


 ピッガーの上ずった声。パスクールはピッガーの方へ顔を向けるとゆっくりと答えた。


「犯人が誰か、の前に、犯人がどうやってミスリンさんを殺害したかについてご説明したいと思います。

これが今回の事件の最大の謎でした。

ミスリンさんを殺害、というか機能停止に陥らせるには額の呪文の最初の文字を消さなければなりません。しかし、ミスリンさんの体はミスリル銀と呼ばれる高硬度の金属でできています。

ゆえに鋼のつるぎで切りかかってもミスリンさんの体には傷をつけることすらできません。そんなミスリンさんの額から呪文を一瞬で削り取ることなど基本不可能です」

「でも、魔法ならできるんじゃないんですか?」

「これだから素人は! ミスリル銀に魔法なんぞ効かんわ」

 

 ピッガーの意見をノムノンが一蹴した。パスクールは頷き、それを肯定する。


「その通り、神秘金属に分類されるミスリル銀は耐魔法にも優れた金属です。

高位ハイクラスの爆裂魔法でも使わなければ削り取ることは不可能でしょう。しかし、そんなものを使えば、大音響が鳴り響き、この家は大騒ぎになっていたことでしょう。

みなさんは昨夜から朝にかけて全員、家にいたと証言されています。その間、そんな物音を聞いた、と言う人は一人もいませんでした」

「そうだな。聞いちゃいねぇ。で、どうやったんだ?」


 ウルバーンがめんどくさそうに言った。パスクールはウルバーンへ一歩近づいた


「埋めたんです」

「は?」


 虚を突かれたようにウルバーンが聞き返す。パスクールは中庭の土を拾い、それを手のひらでこねくり回した。


「ミスリンさんの呪文は彫り込むタイプでした。だから土、と言うか粘土のような物を使って呪文を彫り込んでいる部分を埋めたんですよ」

「埋めた? 土でか? 土で埋めたってーのか」

「その通り。土には金属粉をまぶして同じ色、光沢が出るように工夫していましたが、それを使ってミスリンさんの額の3文字の呪文の最初を埋め込んだんです。

丁度左官屋が壁の穴を漆喰で埋めて修復するようにね」


 パスクールは更に一歩、ウルバーンに近づいた。もう手を伸ばせば体に触れるほどの距離になっていた。


「さ、左官屋って、ま、まさか、俺を疑っているのか?

じょ、冗談じゃないぞ、俺はやっちゃいねぇ 。そ、それにあいつの額に手が届かねぇだろう。

あいつの身長がいくつだったと思っているんだ。俺の身長じゃ、背伸びしたって届かねぇよ」

「ウルバーンさんの身長は170セチンってところでしょうか。それに対してミスリンさんは230セチン」

「だ、だろう? 俺じゃ手が届かねぇ。届かなきゃ、土で埋めるなんて芸当できねぇだろう」


 引きつった笑い顔を見せながら、ウルバーンは熱弁をふるった。が、そこへ叫ぶ声があった。


「できるニャ!」


 ニャミンだった。

 中庭にいた全員の視線がニャミンへと注がれた。ニャミンは、ふんと鼻で息を吐くと言葉を続けた。


「狼男に変身すれば、そいつは大きくなるニャ。身長だって190セチンにはなるニャ。そしたら、呪文に手が届くのニャ!」


2023/04/09 初稿


解決編 フーダニットは4月10日 14時投稿予定です

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