パスクールのひらめき
「さて、これでヘイヴハウスの住人の尋問は終わりました。
パスクールさんは彼らの中に犯人がいると思いますか?」
外に出るとブンナゲッタが聞いてきた。
「大体目途はたってるよ。彼らの中に犯人がいるのは間違いないね」
「なんと! それは誰なのですか?」
「いや、だから、めどだってさ。
そもそも最大の謎が解けてない」
「最大の謎……最大の謎とはなんでしょうか?」
「どうやってミスリンさんを機能停止に追い込んだ、かだよ。どうやって額の呪文を削り取ったのか、それがどうしてもわからない。 ミスリル銀を削るってのは並大抵ではできないことなんだ。
現場を見る限り争った跡はないし、住人たちは物音を聞いてもいない。
物音もたてずに一瞬で呪文を消す方法が思いつかないんだよね」
「しかし、犯人さえわかれば、方法は犯人を問い詰めればいいのではないでしょうか?」
ブンナゲッタの提案にパスクールは腕を組んで難しそうな顔つきになった。
「ま、そういう方法もあるんだろうけどね。犯人に答えを教えてもらうのもなんか悔しいだろう?」
「はぁ、そんなものでしょうか?」
そんなものだよ、と言いつつ、パスクールはポケットからハンカチを取り出すと、ニャミンを手招きした。
「ニャんだニャ?」
首を傾げて近づいてきたニャミンの鼻に手に持ったハンカチを押しつけた。途端に悲鳴を上げるとニャミンはバックステップでパスクールから飛びのいた。
「ニャ、ニャにをするニャ……って、臭いな。さっきの狼の臭いニャ! なんてことするニャ、孕んだらどうするニャ!」
「え? そんなことで孕むの?」
「だから例えニャ!! 年頃の雌にする事じゃニャいと言ってるニャア!!」
ニャミンは堪忍袋の緒が切れたと言わんばかりにパスクールの襟元をつかむとぐいぐいと揺すって抗議する。本当に嫌だったらしく、涙目になっていた。
「ああ、ごめん、ごめん。最後にちょっと確かめたかったから。
そんなに嫌だったか? この埋め合わせはするよ。 ごめん。本当にごめん。謝る……」
と、パスクールの表情がみるみる強張っていった。そして、ニャミンに揺さぶられるまま、小さくつぶやいた。
「埋め合わせ……うむ。埋めるか。なるほど。逆転の発想だな」
パスクールは、まとわりつくニャミンを引きはがすとブンナゲッタの方へ顔を向けた。
「もう一度ミスリンさんの遺体を確認しよう。僕の推理が正しければ、これですべての謎が解けたことになるよ」
2023/04/09 初稿
解決編は4月10日 12時から投稿開始予定です




