甲子園で優勝したら付き合って下さい!
「甲子園で優勝したら付き合って下さい!!」
野球部二年、田島孝介はユニフォームのまま同じクラスの宮崎むつきに告白をした。
「……田島君、ハードル高すぎない? 大丈夫?」
宮崎は、もしかしたら冷やかしなのかもしれない。と、確認の意味を込めて問いかけた。
しかし、田島の目は本気だった。
「大丈夫! 必ず優勝します!」
田島はそう言い残し、部活へと戻っていった。
「──ゲームセット!!」
バットが空を切り、バッターがその場に崩れる。
勝利まであとわずか、宮崎の応援も虚しく、
1-2で田島の夏は終わった。
「……宮崎さん」
気まずい空気の中、田島は宮崎の家を訪れた。
「予選一回戦……ダメだった。ゴメン」
「ううん」
宮崎家の玄関先、田島は深く頭を下げた。
宮崎はそんな田島に優しく声をかけた。
「田島くん。一生懸命……応援したじゃない」
「……」
そう。田島はスタメンにも選ばれず、代打代走何一つ呼ばれていない。詰まるところ、終始ベンチを温めていたのだ。
「来年! 来年こそ優勝するから!!」
「……流石に優勝はちょっと」
宮崎が少し難しい顔をした。
「なら出場! 甲子園出場!!」
「……出れそう?」
「……」
田島は返事に困らざるを得なかった。
「私、田島くんなら良いかなって……思って……るんだけどなぁ」
「!? なら出場! 予選出場で!!」
「ふふ、スタメン入り頑張ってね♪」
「おう!」
田島は燃えた。
合宿を企画し、顧問へ持ち込んだ。
メンバーも燃えた。
マネージャーとお泊まりが出来るからだ。
顧問は泣いた。
これ程までに生徒達がやる気になってくれた事に。
「──続いてのニュースです。
市内の県立高校野球部の合宿先で集団食中毒が発生致しました。
合宿先の施設で提供された弁当を食べた野球部員含め生徒14人が激しい腹痛を訴え、直ちに緊急搬送となりました。保健所の立ち入り調査では大腸菌0-157が検出され、詳しい調査が進められています」
「……み、宮崎さん……ごめん」
「ううん。田島くんは何も悪くないよ」
すっかりやつれきった田島の手を、宮崎が優しく包み込んだ。
「監督が、引退試合として有名高校との野試合を組んでくれたから……その……出れたら」
「うん、うん……」
宮崎はそっと微笑み、何度も頷いた。
甲子園も終わり、秋に有名高校との野試合が組まれた。受験勉強の最中の息抜きとして、既に引退をしていた三年部員達は喜んだ。
「──お終いに天気です。非常に勢力の強い台風35号は、明日にも日本へ上陸し、東へ進んで行くでしょう。各地で暴風雨や落雷に注意が必要です」
台風による影響で新幹線は全線運転を見合わせ、野試合はお流れとなった。とても野球をやる雰囲気にもなれず、受験勉強が本格化した元部員達は、野球どころではなくなった。
「宮崎さん……あの」
「んーん。何も言わないで」
田島の部屋、宮崎がそっと田島の頭を撫でた。
「けど……やっぱり野球で示さないと」
「別にいいのに」
「そうだ。バッティングセンターで打てたら、ね!?」
「……もう」
田島は燃えた。既に就職先が決まっていた田島は、時間だけはたっぷりとあった。これから宮崎とデート三昧だと思えば、やる気はいくらでも湧いて出たのだ。
宮崎と近くのアミューズメント施設へ赴き、バッティングコーナーへと向かう。が、その日は商店街の草野球チームが貸し切っていて使えなかった。
「……野球の神様に嫌われた?」
「田島くん。ここまで来ると何だかあれだね」
「流石に他のバッティングセンターとかは遠いし」
田島はまだ仮免許だった。酷く落ち込む田島。
宮崎はそんな田島を見て、ボウリングを指さした。
「ね、あれにしない?」
「まあ、いいか!」
野球を諦めボウリングを始めた二人。
「──おっしゃーっ!」
「田島くんファイト!」
好きな宮崎の応援付き。否応が無しにも気合いが入る。
「田島くん、ボウリングは得意?」
「んー、三回目かな」
「私も」
「ストライクを取ったら付き合って下さい!」
田島は12ポンドを格好良く持ち上げ、宮崎へ思いを告げた。
宮崎はそんな田島を見て胸をときめかせた。
「はい♪」
田島67、宮崎89。
田島はスペアすら取れなかった。
「ね、ね。次アレやらない!?」
「うん!」
さして落ち込む訳でもなく、二人はダーツコーナーへと向かう。心なしか気分は晴れやかだった。
「真ん中刺さったら付き合って下さい!」
「はい♪」
「あのぬいぐるみ取れたら付き合って下さい!」
「うん♪」
「エアホッケー勝てたら付き合って下さい!」
「喜んで♪」
「自販機で当たりが出たら──」
「うんうん♪」
もう付き合ってるだろ、これ。