3.5. 眠りの傍ら、当事者たちは
『――<来訪者>は、もう寝たか?』
『疲れてたみたい。背中越しだけど、ぐっすり眠ってるのはわかる』
『当然だな。
むしろ、よくここまで生きてられたもんだ。
おまけに、こいつを拾ったあの場所は、どうやっても<ゲート>から歩いてたどり着ける距離じゃなかった。野垂れ死んでもおかしくないのに、"疲れた"だけだと?』
『それが、アイリスがここに来るときに貰った<ギフト>なのかもしれない。
もしくは、元々そういう体質の種族なのかも』
『死んでいれば、放っといてもやれたんだがな。
……まったく、<軍>の連中も、面倒な情報を寄越しやがる』
『ずいぶん、冷たいんだね』
『もう、飽きたからだ。
<来訪者>の連中も、そいつらをわざわざ帰りがてらに拾ってやるのも。
――この世界を知って、それから辿る"末路"を見るのも、な』
『でも、生きてるヒトはいるよ?
知って、理解して、それでも生きてくれるヒトは、いる』
『少なくともこいつはまだ、"真実"を知らない』
『でも、受け止めることはできる。
素直そうだし……騙されやすい、とも言えるけど、慣れればどうとでもなると思うし』
『生きてる間に、多少なりとも危機感が育ってくれれば、の話だがな』
『……イヤ、だった?』
『いいや。
<軍>の連中の頼みを必ず聞かなきゃいけないわけじゃないが、当面の資金には余裕があるし、差し迫ってやらなくちゃいけない用事もない……それに』
『それに?』
『お前は、助けたかったんだろう?』
『……うん』
『なら、そうすればいい。
好悪を除けば俺に反対する理由は無くて、お前は助けたいと思った。
だったら、俺はそれに付き合うだけだ』
『……ありがと』
『まあ、俺の気が向く限りは、だがな』
『知ってる。それでも、ありがとうって、思うの』
『とりあえず、帰ろう。
今日中に<都市>入りして、今夜は屋根の下で寝たい。
話はそれからだ』
『……うん』