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第04話 再びダンジョンへ

「獅堂。来たか」


 ダンジョンゲートを囲う施設は大きく、ダンジョンオーバーに対する監視や入退場するモーラーの管理のためIDOの職員が常駐している。石動教官はその中の休憩所、灰皿の前で煙草を吸いながら待っていた。


「ここではなんだ。場所を変えるぞ」


「はい」


 教官は煙草を灰皿に押し付け、足早に歩き始める。向かった先はつい一時間前に入ったダンジョンゲートだ。


「入場を頼む。C級モーラー、石動勇人と、E級モーラーの獅堂辰巳。二名パーティだ」


「畏まりました。はい、確かに。どうぞ」


 IDOの職員にIDO発行のIDカードを見せる。そこには顔写真と名前、入ることのできるダンジョンの等級が記されている。石動教官は対応してくれた職員に頭を下げ、ゲートをくぐった。俺もそのあとに続く。


「装備しろ」


「はい」


 チュートリアルダンジョンは他のダンジョンと違い、入場するとチュートリアルルーム。通称支度部屋と呼ばれる安全地帯に飛ばされる。そこには支給品ボックスがあり、初期装備と言われるチュートリアルシリーズを借りることができる。


「装備しました」


 俺は先ほどと同じ右手に逆手で短剣を、左手にハンドガンを装備する。


「よし、獅堂。今からお前のレベルを上げるぞ」


「はい」


 ひとまず教官は俺のステータスには何も触れず、レベル上げをすると言った。例えば初期ステータスはこんなでも成長率は何倍もあったり、あるいはバグだとしたらレベルを上げれば直る。そう考えてのことかも知れない。


「獅堂。気を抜くなよ。ケガや死ぬことはないが、そのステータスだ。イレギュラーなことが起こる可能性もある」


「はい」


 そして教官は一つ頷くと支度部屋の転送門の上に立つ。数秒後教官と俺はチュートリアルダンジョンの一階に立っていた。ダンジョンの内観は色々あるみたいだが、チュートリアルダンジョンはいわゆるダンジョンの定番、岩肌の洞窟様である。


「俺はカバーだ。念のため、獅堂お前は遠距離からスライムを狙え」


「はい」


 言われた通り左手の銃を構える。ステータスとは生身の身体に対し、その数値分加算されるため、最低ステータスだからと言って亀のように遅くなったり、急に銃の扱いが下手にはなったりしない。訓練で何百、何千、何万と繰り返してきたリロード、エイム、ショットを行う。


「ぴぎゃ」


 スライムの粘膜を突き破り、核にヒットする。しかし──。


「まだだ。倒れるまで撃ち続けろ」


「はいっ」


 距離を保ちつつ、何度も撃つ。スライムは移動速度も遅く、攻撃方法である酸性の粘液飛ばしの射程距離も短い。特殊スキル【アイテムボックス(仮)】にストックしていたノーマルバレットを取り出し、マガジン換装。弾を再装填し、撃つ。


「ぎゅぴぴぁ」


 粘液の粘調性が失われ、溶けるように消えていったスライム。レベル2まではたった一匹のスライムを倒せば上がる。だが、


「どうだ、獅堂レベルは上がったか?」


「……待って下さい」


 システムアナウンス、通称天の声によるレベルアップの告知はない。俺は慌ててスキルボードのログ画面を確認する。


「……経験値を取得できなかったようです」


「原因は」


「はい、どうやらパーティを組むと経験値を取得できない、と。教官、こういう例は他にもあったんでしょうか?」


 中々に理不尽だ。最低ステータスであるにも関わらず、パーティプレイを許してもらえない。今俺がスライムに使った弾の数は三十発程。全てヒットしたにも関わらずそれだけかかった。例えば陽太なら槍の先で一度つついただけで消滅させられるだろう。


「聞いたことがないな。それについてはまた後で考えるとしよう。ひとまず俺はゲートを出てパーティを解除する。獅堂、お前なら一人でも大丈夫そうだな。ここでレベル3まで上げて帰ってこい」


「分かりました」


 そう言うと、教官はくるりと背を向け、転送門から一人帰還してしまう。


「やりますか、ね」


 レベル2まではスライム一匹、レベル3までは更にそこから三匹。俺はダンジョンをのろのろと這いずっているスライムを見つけては弾を撃ち、ノーマルバレットを百発以上消費して、ようやくレベル3に上がった。


「……帰るか」


 レベルが3に上がりました。という告知アナウンスが頭の中に聞こえ、ステータスボードを確認したところで俺は転送門に乗り、チュートリアルダンジョンを後にする。


「……問題はなかったか?」


「問題はありませんでした」


 ゲートから出たところで教官は待っており、短いやり取りをしながら足早に歩き、空いている待機部屋へと入っていく。


「さて、ステータスを見せてみろ」


「はい」



<名前> 獅堂 辰巳

<Lv> 3

<ステータス> 

HP:10 

MP:10 

STR:1 

VIT:1 

DEX:1 

AGI:1 

INT:1 

MND:1 

LUK:1


<装備>

右手:なし 

左手:なし 

頭:なし 

上半身:なし 

下半身:なし 

靴:なし 

アクセサリー:なし


<ジョブスキル>

<アクティブスキル>

<パッシブスキル>

<特殊スキル> 【レベル転生★】【アイテムボックス(仮)】

<スキルポイント> 0

<称号> なし


「悪夢のようだな」


「はい……」


 レベルが2上がったところで俺のステータスは何一つ変わっていなかった。


「スキルポイントも0のままか。成長率は全ステータスがF~良くてDか」


 各ステータスの成長率はレベルが上がっても上がらないステータスがF、レベル10毎に1程度上がるのがE、レベル3毎に1上がるのがD。もし俺のステータスの成長率がオールDであったらレベル4に上がった時に全てのパラメーターが1ずつ上がるかも知れない。


「オールDってことは……」


 ないだろう。その可能性が低いことは自分自身一番良く分かっていた。


「そうだろうな。さて、獅堂、どうする(・・・・)?」


 教官はそんな俺に対し、悲観的でも同情的でもない声でそう尋ねたのだ。俺がこのままこの道を諦めるか、あがくか。


「もう少しだけあがいてみます。この状況でみんなと足並みを揃えるのは到底無理ですからソロで」


 パーティを組むと経験値が入らない。他者からは視認されないスキル。魔王からソロで攻略するように強要されているみたいだ。なら俺はそれに従い、それに打ち克つ。


「そうか。寂しくなるな。獅堂、俺はお前の個人の身体能力、戦闘センスなどもそうだが、特に状況把握能力やカバーリングの上手さを評価していた。三枝とお前を中心にしたエースパーティはB級以上に成長する可能性があると期待していた」


 俺は少しだけ驚く。教官は多少飴をくれることはあれども、厳しい鞭の中のほんの気休め程度の飴だ。こんなにも穏やかに褒めてもらえるとすごくむずがゆい。


「ありがとうございます……」


「まぁ、こんなこと言っても気休めにもならないだろうが、今の世界ランキングトップ10。レベル10万越えのA級モーラー(バケモノ)たちは皆、ソロ(・・)だ。ドン底からの逆転劇は痛快だろうな」


 教官はそう言って小さく笑った。気休めではない。教官の言葉からは俺をバカにしているような響きは一切感じ取れなかった。


「ありがとうございます……。教官、今までお世話になりました。短い間でしたが、教官の下で学べたことは俺の財産です」


 俺はできる限りの感謝と尊敬の念をこめて言葉にし、深く深く頭を下げた。


「学校とIDカードの手続きは俺がしておく。お前は明日からフリーのダンジョンモーラーだ。となれば、俺とお前は同じ世界で生きてく仲間なわけだな。遠慮せず困ったことがあったら連絡しろ。少し早いが、獅堂、卒業おめでとう」


 こうして俺は僅か三ヶ月で学校を去ることとなり、ドン底からのソロ攻略が始まるのであった。

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