四.五話 膠着
受付さんと騎士さんがにらみ合ってどれだけが経ったか。
親切屋さんと奴隷ちゃんはただ困惑してお互いを見ていた。
「……あー、オレは帰ります。この子の親を探しに──」
「逃げんじゃねえ、親切屋。これは漢の戦いだ。見届けろ」
奴隷ちゃんを連れて逃げようとした親切屋だったが、あっさりと受付さんに捕まってしまった。
「ハッ、ずいぶんと殺気だっておられることだミスター・スティーブ。レディの前で恥ずかしくはないのですか?」
「そう言うわりには、眉間にシワがよってやがるな。殺気立ってるのはどっちだか」
「ほう」
「へえ」
何かの合図のように声を出して、また火花を散らし始めた。
親切屋さんが奴隷ちゃんに上着を渡し、休むように促すと、彼女は上着を抱き抱えて嬉々とソファに向かった。
そしてまたしばらく。奴隷ちゃんの寝息が聞こえてくるころ、今度は回収人さんがやってきた。
「…………え? な……何ですか、この状況……」
「あぁカリヤさん。二人が何か──オレには見えない何かで戦っているそうです」
「……へー……そうなんですか。ボーさんは何をしてるんですか?」
「オレは審判らしいです」
回収人さんはぱちくりとまばたきをし、しかしじっとしててもまるで動かない状況に呆れ、ため息を出して自分の仕事に戻った。
だが、すぐに何かに気付いたらしく、跳ねるように親切屋さんを見た。
「あっボーさん! 大移動、大丈夫でしたか?」
「大丈夫でした。ご心配ありがとうございます」
「あぁ、親切屋が少女を救ったんだぜ」
「えっ!」
回収人さんが目を見開いた。
「す、凄いじゃないですかぁ!」
「で、こいつは出番を取られてご立腹と──なぁ?」
受付さんは騎士さんに皮肉めいた表情を飛ばした。騎士さんも両眉を寄せた笑みで応戦する。
「まさか。彼の功績は素晴らしいものです。ですから我らが騎士団に誘ったのですが……このギルドは“働き甲斐”があると譲らない方が居られましてね」
「へぇ?」
「ほう?」
また二人とも見つめあった。この凄まじい殺気にハエすらも平伏する。
「……えー……その話に興味あります? カリヤさん」
回収人さんは、親切屋さんが助けを求めているとすぐに気付き、できるだけ明るい声で返事をした。
「──! もちろんです! せ、せっかくなのでゆっくり聞かせて欲しいですねー……なんて……」
「分かりました。折角なので座って話しましょう」
親切屋が離れた位置のソファに目配せをすると、回収人さんが小さく「やった」と呟いて、嬉々として受付を通り抜けた。
「あっ、おいコラ。サボってんじゃねえ」
受付さんは咎めるが、決してその目線を動かそうとしない。それを回収人さんはイタズラっぽく笑い飛ばした。
「サボってませんもーん。葉巻休憩と一緒ですよっ。行きましょ、ボーさんっ」
親切屋の横に付いて、回収人さんは行ってしまった。
そしてまた、殺気にまみれただけの膠着が始まる。
しばらく後。回収人さんは成果物を持って本部に向かい、親切屋さんはその勢いで少女と親探しに行った。
それでもまだ、誇りをかけた戦いは続いている。
……。
…………。
………………。
エントランスの隙間風の音すら聞こえそうな静寂に、一人の足音が響いた。
────バーンズおじさんだ。
「よぉスティーブ! 悪ぃな。大移動始まっちまったから、ついでにボンクラ騎士どもの様子を見てたらこんな時間に──」
バーンズおじさんはその場の異常事態に気付き、ビクりと歩く足を止めた。二人を何度も見比べて、呆れきった悲鳴をあげる。
「お、おめぇらまたやってんのかよ!?」