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エピローグ 冒険者になろう

同名タイトルについて


 タイトルを見て気付いたの方も居られると思いますが、この作品のサブタイトルの付け方が、ある方の作品のサブタイトルの付け方と酷似しています。更に言えば、この小説の元のタイトルは「冒険者になろう」といいます。


 結論から言って、サブタイトルの酷似は知った上で行っております。


 ある程度書溜めして投稿しようと思ったところで、すでに同名タイトルがあると知りました。本当になろう系を調べなかったのが仇となってしまいました。


 かなり悩みましたが、今回の作品では「なろう作品を全く知らないままでなろう系を書く」という企画的なものとなっていることもあるので、メインタイトルを変え、サブタイトルをそのままとして投稿させていただくことにしました。


よろしくお願いします。

 葉巻を燻らせ、書類に眼を通す──問題なし。


 いつも通りに手続きを終え、いつも通りに金を報酬分の金を取り、いつも通りの台詞。


「……そら、きっちり20バルエだ」


 カウンターに10バルエ硬貨を2枚置いて、いつものギルドメンバーに寄越す。


「ありがとよスティーブ。……はぁーあ」


 友人の微笑みが中年相応の疲れた顔に代わり、気だるそうに肩を回した。


「必殺槍投げのバーンズも潮時か?」


「いやぁ。おれぁまだまだ現役だぜ? ちょーっと凝っただけだ。うちのに揉んでもらえりゃすぐよ」


「そうかよ。じゃあなバーンズ。奥さんと、娘さんにもよろしく言っといてくれ」


「あぁ、分かったよ」


 いつも通りの挨拶をして、バーンズはいつも通りに帰っていく。


 火のついた葉巻を咥え、温度をあげすぎないようゆっくりと吸い込み、吐く。


 ……今日の受付はこれで最後か。受付の待機列にも周囲にも人はいない。夕方から依頼を受けるようなヤツは──大きなギルドなら何時でも居るだろうが──小ギルドのウチには居ない。


 背後から足音が響く。裏口から入ってきたのは“成果物回収人のカリヤ”だった。


「もう、またそんなに吸ってるんですか? 身体に悪いですよ?」


「うるせぇよ」


 彼女は上着も着ずに業務服だけで、随分と薄着だ。もう暖かくなってきたとはいえ、寒くはないのだろうか。


「いつもお疲れ様ですスティーブさん。依頼物の回収に来ました」


「あぁ、分かってる。持っていってくれ」


「……今日も、少ないですね」


 回収人は、何か切なそうに言った。


「知っての通り、このノベナロ町は過疎化しているからな。その方がお前さんは楽でいいだろう」


「えぇ。往復の荷物が軽いですから。お陰さまでここは"当たり"ギルドですよ。ふふっ」


 依頼物が入った大袋を軽々と台車に移しながらカリヤが笑う。


「何なら、夜は来なくてもいいぞ」


「え? いえいえ、さすがにそれはマズイですって」


「何が不味いもんかよ。もう何回か来てるから分かるだろうが、夜の成果物はいつもゼロ。夕方から依頼に出るヤツはいねぇってこった」


 カリヤは頬に手を当てて考え込む。すぐに答えが出たらしく、苦笑いのように、曖昧に微笑んだ。


「うぅん。でもまぁ、万が一があっちゃっても困りますし、いちおう夜も来ますね」


「真面目なこったな」


「ふふん。これでも役人ですので。では、私はもう行きますね」

「あぁ、お疲れさん」


「はい、お疲れ様です。吸いすぎには気を付けてくださいね?」


「うるせぇよ」


 大袋を載せた台車を押して、カリヤは裏口から出ていった。


 ……万が一、ねぇ。よっぽど急に金に困りでもしなきゃ来ねぇだろ。


 そういやバーンズのヤツが賭けに負けて、取り返す元手作りとか言って来たことが一度だけあったな。


 が、それっきりだ。


「──すみません」


「あ?」


 思いもよらない来客に、受付らしからぬ声を出してしまった。


 見上げてみれば、ボロボロの、上着とも呼べない大布を羽織った、これまたボロボロの男。見た目だけで臭ってきそうな放浪者がいた。


「依頼を受けたいんですが……」


「……お前、よそ者だな」


「分かりますか」


「こんなに汚ぇヤツはそう居ねぇからな。そら、帰った帰った」


 椅子の背もたれに身体を預けながら手で払う仕草をする。よそ者の放浪者など、ロクでもない厄介事を持ち込んでくるに決まっている。


 だがコイツは微動だにせず、それどころか食い下がってきた。


「依頼を受ける権利はあるはずです。お願いします」


「ギルド手帳も身分証も、何なら戸籍もねぇんだろう。手続きできねぇよ」


「えぇ。確かにありません。でも"特例"はあるでしょう」


「あぁん?」


 随分と久しぶりに聞く単語に、また受付らしからぬ声が出てしまった。


「“冒険者特例”です。特定の住所を持たない者にギルドの責任者判断で、無条件でギルド手帳を発行できるんでしたよね?」


「……あ、あぁ。そういやそんなのあったな……」


 コイツは何者なんだ? その特例を知っている者はごく少数だ。どこのギルドでもまともに説明されない。


 なんたって、そもそも使うヤツがいないのだ。


 ギルドメンバーは昔の名残で冒険者とも呼ばれるが、このご時世に冒険などする変わり者はそういない。つまるところ、地に足つけて特定のギルドにいた方が生活も金銭も安定する。


 当の俺とてギルドマスターとなり冒険者特例が存在することを知ったっきり、思い出すこともなかった。


「ですから、まずは責任者をお願いします」


「俺だ」


 聞いた男が、少し驚いたように眼を開いた。


「ウチみたいな小ギルドにご大層な組織構造なんざねぇ。俺がギルドマスターで受付だ。文句あるか?」


「……いえ。勿論ないです。では、お願いします」


「……お願いしますつったってよ、わざわざこんなに寂れたノベナロ町まで来て、ギルドメンバーになろうってのはな。お前、浮浪者か、仕事もしねぇでおけらになったロクでなしだろ?」


「そう、ですか……」


「だがまぁ、ちょっと面白そうだ」


 まだ何も書かれていない古いギルド手帳を取り出し、受付のカウンターの跳ね上げ扉を持ち上げ、顎で入れと促す。


「裏へ来い。まずは手続きの時間だ」


──────────


「──さて、どの依頼にする」


 受付カウンターに戻り、依頼表を男に差し出す。男は自分のものとなったギルド手帳を嬉々として眺めている。


「おい」


「──おっと、すいません」


「変なヤツだな。そら、依頼表だ……と言っても、もう安い依頼しか残っちゃいねぇがな」


 まともな感性のヤツじゃ見向きもしないような、割りに合わない依頼が5個だけ残っていた。


「十分です。えーっと……そうですね。では全部を──」


「それはできねぇよ」


「……? ハウスルールですか?」


 男がきょとんと、アホ面を俺に向けている。


「……なんだお前、あの特例を知ってた癖にそっちを知らねぇのかよ? こりゃいい。うはは!」


 思わず大笑いしてしまう。男は訳もわからないといった目で俺を見た。


「そっち、とは?」


「最近、依頼をありったけ受けて野垂れ死にする馬鹿が増えたって話だ。だから国がいっぺんに大量の依頼を受けられねぇようにしたんだよ」


「へぇ……具体的には、一度にいくつまでの依頼なら受けられるんです?」


「3つ。かつ報酬額が合計で50バルエ以下だ。……ウチには関係ねぇ話だが、1つの依頼だけなら50以上でもいい」


「なるほど……ふーむ」


 男は鼻で声混じりに息を吐き、依頼表を見つめる。


「では、これとこれ──あとこれを」


「……安いもんをケツから3つ? 合計で10にも届かねぇじゃねえか。ふざけてんのか」


「もちろん、ふざけてませんよ。お願いします」


 ギルド手帳をカウンターに置いて、差し出してきた。その目は真剣そのものだ。


「……分かった分かった。この3つでいいんだな?」


 依頼受諾書を取り出し、依頼用件とそれぞれの報酬額、ギルド手帳番号を書き写していく。最後にペンと依頼受諾書を男に差し出す。


「そら、ここに署名しな」


「えぇ──はい。これで良いですか?」


「あぁ、手続きは終わりだ」


「ありがとうございます。では行ってきますね」


 男は依頼受諾書をしまい、ギルド手帳を持って眺めながら出口へ向かった。


 ……手帳の表にデカデカと押された"冒険者"スタンプをじっと眺めてやがったな。想像を絶する変人だ。


 参ったな、引退を考えてたってのに辞めるに辞められなくなっちまった。退屈な日常にこんな面白い奴が来ちまったらしょうがねえよな。




 ……それにしても、ボー・ケンシャは流石に偽名だよなぁ…………。

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