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絶対的安全

作者: リポヒロ

事故、特に労災に関する表現が含まれますので、苦手な方は強い覚悟を決めるかあるいは、ブラウザバックをしてください。

二〇XX年。労働現場での労災件数増加を問題視した政府は、工業機械へのセーフティ機能搭載を義務化した。この工業安全法の施行により、労働現場での無事故は当たり前のものとなり、労災という言葉とともに人々の頭からは安全意識そのものが忘れ去られようとしていた。


国内のあらゆる労働現場と同様に連続無事故年数が二桁の大台に乗ろうとしていたある工場で、その凄惨な事故は起きた。初歩的なチェックのし忘れで大型工業機械が暴走、これに非常事態対応の著しい遅れが重なり、工場に出勤していたおよそ百人にも及ぶ従業員が一人残らず帰らぬ者となったのだ。

その日を境に、国内の危険が伴う労働現場では年に数回、小規模な事故が多発するようになった。

噂によると、人々の安全意識を定期的に想起させる為の、大手機械メーカーによる意図的動作不良が計画実行されているらしい。

実際、あの凄惨な事故から数十年もの間、国内での労働現場における死亡事故はゼロ件を記録し続けていた……。


しかし、人間は慣れる生き物である。

計画的事故と噂された小規模な事故にも慣れてしまった人々は、遠い過去の凄惨な事故と同じように、初歩的なヒューマンエラーによって大規模な死亡事故を起こしてしまった。小規模な事故にさえ慣れてしまった人々の安全意識の低下は、一度目の悲劇が起きた数十年前のそれとは比にならなかった。暴走する重機を前に顔色一つ変えない作業員。勢いを増す猛火の中へ平然と歩みを進める事務員。結果、死者数はたった数時間で四桁にのぼった。


数十年前の、始まりの事故を覚えているものがいったい何人生きているだろうか。あの事故を彷彿とさせるように、事故の翌日から労働現場における少人数の死亡事故が定期的に起こり続けた。この一連の事故が、もし計画的なものであったのならば、その計画は功を奏したのであろう。労働現場におけるヒューマンエラーの件数は一桁に留まった。しかし、事故件数が累積されるたび、一度の事故における死者数は徐々に増えていった。


そして、定期的な事故による死者数が万単位になって数年が経った今日、人口約十万人となった日本において、地下深くのコアからエネルギーを得る「内核発電所」が稼働される予定だ。

この計画が発表された当初は、地殻をいじることで大規模な地震を引き起こすんじゃないか、という非難の声が多く上がったが、理論上そのような事故は起こりえないと専門家が繰り返し説明するうちにいつの間にか受け入れられていた。

前回、二か月前の労働現場における大規模な事故の死者数は九万二千三十五人だった。

恐らく、今日を境に日本の労働現場におけるヒューマンエラーは、二度と起こらなくなるのだろう。


ああ、発電所稼働のカウントダウンが始まった。

友人と「労災怖いねぇ」って話をしていたら見えた未来です。

気付かれたと思いますが、私は星新一が好きです。

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