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そこは贅を尽くした、荘厳に輝ける空間だった。
アルテウル王国、王都。
その中心部に位置するこの白金の城こそが、かつて神がこの地に降り立った奇跡の証にして、人間達の希望の象徴。
遥か昔に魔王との戦いに出向く英雄を鼓舞し、大勢の戦士達を生み出し、そして忌まわしき亜人共に奪われてなお奪還された奇跡の城だった。
その謁見の天井は高く、壁や柱は鏡のように磨かれた曇り一つない石でできている。
所々に飾ってある調度品もそれ一つで豪邸が買えるような値段が最低限とされた、選び抜かれたものばかりだった。
赤い絨毯が敷かれた道のその最奥。そこにある王座に腰かける男こそが、この国を治めるアルテウル王家の末裔にして神の仔、現国王『ルードルフ・フォン・アルテウル』である。
謁見の間には彼の近衛兵が控え、その正面で傅く男が二人。
どちらも既に老年の域に差し掛かり、豪華な貴族服を纏っているその様相からかなり高い地位にあることが見て取れる。
「して、魔王再誕はどうなったのだ?」
ルードルフがそう尋ねる。言葉こそそう言っているものの、彼の視線は二人を見ておらず、指をしきりに動かしては退屈さを強調していた。
「魔王再誕は無事に、英雄達の力により解決されました。アルテウルの民達への被害は最小限に抑えられています」
「ほっほっほ、それはいい知らせだ。流石は、余の英雄だ」
能天気に笑うルードルフ。既に年齢は四十を超えているはずなのに、その表情からはその間の年月によって積み重ねられるべき経験が抜け落ちているようにも見えた。
「はい。それも全ては英雄達の力を惜しみなく貸し出した、ルードルフ様のご威光あればこそでございます」
「そうであろう、そうであろう。いい知らせが聞けて余は満足である。そなた達もご苦労であったな」
「いえ。我等『五賢人』。全てアルテウル王家、そして神の仔たるルードルフ様のために尽力するのがその役目です」
そう答えたのは、厳めしい顔をした老年の男性だった。それを聞きながら、隣で傅き続けている男であるハミルトンの表情は読めない。
「それで」
「はっ」
「もういいかの? 今日は息子達と中庭で遊ぶ約束をしておるのだ。それに先日呼び寄せた楽団も待たせておる。お主たちが急な知らせというから、無理に予定を変更したのだが」
ルードルフにとって、彼等の報告など何の価値もないものだった。
例えどれだけの民衆が傷ついても、ルードルフには関係ない。多くの都市に護られたこの王都にまで外敵が侵入してくることはあり得ないし、何よりも彼を護るために英雄がいる。
英雄とは、アルテウル王家――神の仔に仕える最強の戦士。今はその力を民草達のために貸してやっているに過ぎないのだから。
「い、いえもう一つ」
ルードルフが眉を顰める。彼は明らかに、この時間を無駄なものと考えていた。
「なんであるか?」
「魔王戦役、魔王再誕と続いたことにより、多少の治安の悪化が見受けられます。そしてそれらの矛先は、亜人達に向かっていると」
「なんで余が亜人如きのことを考えてやらねばならん? 奴等は神の威光に屈した敗者であろう。余の恩情で、この大地をふませてやっているに過ぎんというのに」
「まこと、仰る通りでございます。ですが亜人共とて、単純な労働力としては役に立ちましょう。何よりこの地を汚し、更には人間に牙を剥いた奴等を飼いならしてこそ、王家の威光もより大きな輝きを得るというものです」
「ふむ?」
「提案なのですが、王家から誰かお一人、野盗の討伐にご出馬をご検討ください。さすれば亜人共は寛大なアルテウルの御心に触れ、服従を誓うでしょう」
「亜人の服従か……確かに息子が亜人のペットを欲しがっていたことだし、悪くはないかも知れんの。……しかし、誰を派遣するか」
天井を仰ぎ、ルードルフが思案する。
「長男のユルゲンは大事な跡継ぎだから駄目……次男はユルゲンの補佐であるし……三男は……可愛い長女の仲良しなので万が一があっては困る」
しばらくぶつぶつと言ってから、ルードルフは決定を口にする。
「ふむ、そうであるな。やはり五男。カーティスが適任だ。奴は多少生意気で可愛げがないし、下の兄弟はともかく兄達からはあまり好かれてないからな。余も、奴のことはあまり好いていない」
とてもではないが家族に対しての言葉とは思えないが、ルードルフが一切の疑問を覚えることはない。
彼にとって五賢人から教えられた、大事な跡継ぎの息子だけが重要であり、それ以外は愛玩動物にも等しい。自分に懐かなければ価値はない。神の仔であるアルテウル王家は、彼等によって政治的な駆け引きなど必要としなくても存続していくのだから。
「では、カーティス様にそのお役目を全うして頂きましょう」
「うむ。思えば奴とももう一年以上顔を合わせていないか。適当に任せる」
今度こそ本当に面倒になったのだろう。ルードルフは次の言葉を待たずに、謁見の間から退室していく。最早彼は、この後に遊ぶことしか考えていない。
五賢人と呼ばれた二人の老人は、彼が去っていくまでお互いに顔を上げることなく、その場に佇んでいた。




